基板の応力が電気的特性に与える影響

電子部品は、外部から力が加わることにより特性が変動することがあります。電子機器の基板上には、色々な電子部品が搭載されています。通常、リフローなどを通すことで部品は半田付けされ基板上に実装されます。基板上に実装された部品は半田付けされているので、力が加わっていないかと言うとそんなことはありません。周囲温度が揺らぐことで、それぞれの部品に使われている材料の膨張係数が異なるため、ゆっくりと部品に応力が掛かる形になります。

本記事では、アナログ・デバイセズ社のアプリケーションノート (AN82) の内容を元に、電圧リファレンスの例を紹介します。

電圧リファレンスについて

A/Dコンバーターの電圧リファレンス

電圧リファレンスは、通常A/DコンバーターやD/Aコンバーターで使われます。A/Dコンバーターで考えると、入力された信号をデジタルに変換する際の基準になる電圧を決めているのが、電圧リファレンスの値になります。したがって、電圧リファレンスの精度がA/D変換の精度に大きく影響を与えることになるので、リファレンス電圧の精度はとても重要です。

 

図1は、A/DコンバーターLTC1286を使用した一般的な回路例です。外付けの電圧リファレンスとして、LT1634が使用されています。

図1:A/Dコンバーターの一般的な回路例
図1:A/Dコンバーターの一般的な回路例

レギュレーターの電圧リファレンス

A/Dコンバーター以外にも、電圧リファレンスを使って回路を構成している製品例を紹介します。図2は、降圧型のスイッチングレギュレーターLTM4658のブロックダイアグラムです。

 

内蔵のエラーアンプの赤丸部分に0.5Vとありますが、こちらが内部のリファレンス電圧になります。この電圧と出力電圧を比較することでレギュレーターの出力を安定化します。したがって、電源電圧の安定化にはリファレンス電圧の精度が重要になります。

 

これからお話しする内容のように、単体のリファレンス電圧製品ほど電源製品については外部からの応力に影響を受けることはありませんが、色々な回路でリファレンス電圧回路が使われていることをご理解いただけたと思います。

図2:LTM4658ブロックダイアグラム
図2:LTM4658ブロックダイアグラム

応力が電気特性に与える影響

応力について

応力とは、物体内部に生じる力の大きさを表すための物理量です。応力は、温度の変化や外部から力が加わった場合に発生します。温度が高くなると物質は膨張しますし、温度が下がると物質は縮小するものがほとんどだと思いますが、材料によりその膨張係数が異なるために、応力が発生します。

 

例として、100℃以下の温度で考えてみます。プラスチックやガラス系の材料は温度が高温の80℃に上昇すると膨張しますが、金属に関してはほとんど膨張しません。基板上に搭載している部品はプラスチック部と金属部があるため、膨張率の違いにより応力が発生し特性に影響を与えます。

 

温度の変化があると、基板とデバイスで使われている物質の膨張係数が異なることによる応力が発生する以外に、実装している基板自体が歪むことにより応力が発生します。次の実験では、基板の応力によるリファレンス電圧の変動を確認します。

基板応力の影響

基板応力の影響は、基板を曲げる力を加えながらリファレンスの出力電圧をモニターすることで観察できます。図3に示すように、7インチ×9インチの長方形基板の中央にデバイス (LT1460CS8-2.5) を取り付けます。ステップ ①から ④に示すように、基板を 1インチあたり 18ミルずつ基板をたわませます。

 

実験としては、約1/2インチx1/2インチの溝付き有/無の基板を用意して実施しています。

 

図3:応力によるリファレンス電圧の特性確認方法

図4は、屈曲を8サイクルにわたって測定したリファレンス電圧の結果です。出力電圧の変動測定は、±1カウントがピーク・ツー・ピークで4ppm (10μV) の測定器を使用しています。

 

上の測定結果は、溝無しの元々の回路基板になり、約60ppmのピーク・ツー・ピーク・シフトを示しています。下の測定結果は、溝有の回路基板になり、約4ppmに抑えられています。溝を基板に入れることで応力が低減しる出力電圧シフトが10倍改善されています。

図4:リファレンス電圧の測定結果

まとめ

基板の応力が、リファレンス製品の出力電圧に影響を与えることをご理解頂けたと思います。今回の記事の現象から、パッケージの違いや基板の大きさ、使用している温度条件などにより電気的特性が影響を受けることをご理解頂けるかと思います。

 

リファレンス製品のように、高精度出力が必要になっている回路や回路のリーク電流が影響する回路など微小な電圧・電流を議論する回路においては、応力が影響する場合がありますので参考にしてください。さらにに詳しく知りたい方は、アナログ・デバイセズ社のアプリケーションノート(AN82)を参照ください。

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