DC/DCコンバーターの出力コンデンサー容量と出力電圧の安定性について

DC/DCコンバーターの回路設計において、マイコンやFPGAの仕様により負荷の応答性を向上する必要がある場合があると思います。そのような時に、もっとも手軽に負荷応答特性を改善する方法としては、出力コンデンサーの容量を大きくすることだと思います。

 

しかし、実際にボード設計に移行してみると出力コンデンサーの数を減らして実装面積を稼ぐ必要が出る場合があると思います。こんな時、「コンデンサーの数を減らしても問題ないでしょうか?」と、お客様から質問を頂くことがあります。

 

今回は、出力コンデンサーの数を減らしたときに問題が起こらないか検証してみます。

評価環境

今回は、アナログ・デバイセズ社の42V耐圧 同期整流型MOSFET内蔵 降圧DCDCである、LT8643Sの評価基板(DC2658A)を使って測定しました。

 

評価ボード設定

オリジナルの評価ボードの変更点は、位相補償回路を最適値に変更しました。

変更前:R4=8.45kΩ C5=0.33nF

変更後:R4=6.3kΩ C5=1.36nF


評価条件 : 入力電圧 12V 、 出力電圧5V、 負荷電流 3A 、 スイッチング周波数2MHz設定

図1:評価ボード回路図
図1:評価ボード回路図

測定環境

・安定化電源 KIKUSUI PAN35-20Eを使用。 評価ボードのVINーGND間に接続

・電子負荷 KIKUSUI PLZ164WSを使用。 VOUT-GND間に接続

・オシロスコープ Tektronix 6シリーズを使用。  出力コンデンサーC6の両端でリップルを観測
   - パワーレールプローブ TPR1000を使用。
   - アクセサリー 1.3m, SMA(Ma) - MMCX (Ma) , 50Ωケーブル
   - アクセサリー    MMCXコネクター(Wurth Elektoronik 66012002111503) 

出力コンデンサーの容量変化に対する検証

出力コンデンサーの容量を小さくした場合

評価ボードの初期状態では、位相余裕が最適ではないため補償回路を変更しました。

図1の回路図中のR4とC5を次の様に変更し、位相余裕を56° ⇒ 81.5°に改善しました。

変更前:R4=8.45kΩ C5=0.33nF ⇒ 変更後:R4=6.3kΩ C5=1.36nF

 

位相余裕を最適化した後、出力コンデンサー(C6)を123uF ⇒ 45uF ⇒ 23uFと変化させ出力電圧を確認した結果が、図2のリップル波形となります。

図2:リップル波形確認結果
図2:リップル波形確認結果

出力コンデンサーの容量変更の結果

出力コンデンサーを初期設定の123uFから45uFに変更したところ、リップル電圧が1.9mVから4mVに大きくなりました。リップル電圧が許容できるのであれば、出力コンデンサー容量を45uFまで小さくすることは可能と考えられます。

 

しかし、コンデンサー容量を23uFまで減らしたところ、出力リップルは30mVまで大きくなり出力電圧が不安定(発振気味)になってしまいました。

 

この結果から、出力コンデンサーを安易に小さくしてしまうと、出力電圧が不安定になってしまうことが分かります。

次に、出力コンデンサーが45uFの時の位相補償回路が最適な状態であるかを確認してみます。

出力コンデンサーに対する補償回路の最適化

出力コンデンサー163uF時の位相余裕と負荷応答性

出力コンデンサーが163uF時の位相余裕と負荷応答特性の測定結果が、図3となります。

 

位相余裕度は、74.1~82°、負荷応答特性を確認すると、電圧変動は±100mV(クロスオーバー周波数71.8KHz)でした。

図3:出力コンデンサー163uF時の位相余裕と負荷応答特性
図3:出力コンデンサー163uF時の位相余裕と負荷応答特性

出力コンデンサー45uF時の位相余裕と負荷応答性

出力コンデンサーが45uF時の位相余裕と負荷応答特性の測定結果が、図4となります。

 

位相余裕度は、51.2°~65.1°、負荷応答特性を確認すると、電圧変動は約±137mV(クロスオーバー周波数168.2KHz)でした。

 

位相余裕は、約20°小さくなりました。この結果から、出力コンデンサーの容量を変更することで位相余裕が変化することがご理解いただけると思います。

図4:出力コンデンサー45uF時の位相余裕と負荷応答特性
図4:出力コンデンサー45uF時の位相余裕と負荷応答特性

位相補償回路の最適化

出力コンデンサー45uF時の位相補償回路を最適化した結果が、図5になります。

 

図1の回路図中のR4とC5を次の様に変更し、位相余裕が53.9° ⇒ 77.3°に改善しました。

変更前:R4=6.3kΩ C5=1.36nF ⇒ 変更後:R4=1.0kΩ C5=3.3nF

 

ただし、クロスオーバー周波数が168.2KHz ⇒ 53.3KHzとなり負荷応答特性が遅くなり、電圧の変動が+221mV/-264mVと大きくなりました。

図5:出力コンデンサー45uF時の位相補償回路を最適化した結果
図5:出力コンデンサー45uF時の位相補償回路を最適化した結果

まとめ

出力コンデンサーの容量を変更することにより、位相余裕が変わることにより出力電圧が不安定になる可能性があるため、安易に出力コンデンサーを減らすことは避けるべきです。

 

出力コンデンサーを変更する場合は、位相補償回路が最適であるか確認することをお勧めします。

 

基板の実装面積の制約から出力コンデンサーの個数を減らすなどして容量が減った場合、位相余裕を取るために補償回路定数を変更すると、クロスオーバー周波数が低くなり負荷応答特性に影響を与える可能性があるので注意が必要です。

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