産業用Ethernet「10BASE-T1L」に最適なPHYとは?

工場ネットワークの強化が迫られる中、産業用Ethernetの新規格「10BASE-T1L」への注目が高まっています。

10BASE-T1Lという名前は知っているが、特徴を改めて確認したい」「4-20mAやフィールドバスとの比較を知りたい」「10BASE-T1Lでのシステム構築に必要なPHYの情報が欲しい」という方も多いのではないでしょうか?

ここでは、これから工場ネットワークを刷新したい技術者の方に向けて、「10BASE-T1L」の概要、従来方式との比較、「10BASE-T1L」専用PHYのラインナップを紹介します。

~止まらない工場ネットワークの進化~ 産業用Ethernetの新規格「10BASE-T1L」

インダストリー4.0の時代を迎え、製造DXやスマートファクトリー化が推進される中、これまで工場で使われてきた4-20AHART通信やフィールドバス通信には「データ量の増加に対応できない」「リアルタイムなデータ伝送ができない」といった課題が発生しています。

 

またIoT化にともなって通信距離が長くなり、多くの工場で配線の複雑化が避けられなくなっています。「これ以上配線を複雑化したくない」「ケーブルコストを抑えたい」という観点からも、通信のEthernet化が求められています。

 

こうした中、登場したのが、産業用Ethernet PHYの新規格「10BASE-T1L」です。2019117日に「IEEE 802.3cg」として承認されました。

その主な仕様は、「10BASE-T1L」という名前に表現されています。

1対のツイストペアケーブルで、1kmまでの長距離通信を実現できるのが特長です。

伝送速度は10Mbpsで、全二重通信、ポイント・ツー・ポイント接続に対応しています。ケーブル経由での電力供給も可能です。

 

また、本質安全防爆構造に対応しており、可燃性ガスや粉塵による火災や爆発の防止が求められる生産エリアのアプリケーションにも利用できます。

標準的な産業用Ethernet PHY規格との違いは、下表のとおりです。

PHY主要機能 10/100/1000 10BASE-T1L
ケーブル 2ペアまたは4ペアEthernet 単一ペアEthernet
距離 100mまで 1kmまで
防爆 非対応 対応
伝送速度 10Mbps,100Mbps,Gbps 10Mbps
コネクター RJ45 小型2ピンコネクター
電源供給 PoEで対応 PoDLで対応

<比較:標準PHYと10BASE-T1L>

 

10BASE-T1Lを使って、末端のデバイスから制御装置まで、Ethernetだけでシンプルに接続し、コネクターやケーブルの軽量化、ケーブルのコストダウンを実現できます。

「10BASE-T1L」と「4-20mA HART」「フィールドバス」の違い

それでは、従来の4-20mA HART通信やフィールドバス通信と比べると、10BASE-T1Lにはどのような特長があるのでしょうか。

それをまとめたのが次の表です。

比較項目 4-20mA HART フィールドバス 10BASE-T1L
ネットワーク帯域幅 1.2kbps 31.25kbps 10Mbps
上位層Ethernetとの接続 ゲートウェイが必要 ゲートウェイが必要 ゲートウェイ不要
電源供給 40mW未満 限定的

防爆:500mW

非防爆:60W

(ケーブルに依存)

技術者の数 減少傾向 減少傾向 若手にも習得者が多いEthernet技術

<比較:「4-20mA HART」「フィールドバス」「10BASE-T1L」>

特長(1) データ増加に対応する、10Mbpsの帯域幅

4-20mA HART通信やフィールドバス通信と比較して、10BASE-T1Lのネットワーク帯域幅は圧倒的に広いのが特長です。遠隔地にあるセンサーやアクチュエーターから直接データを取得し、リアルタイムに連携できます。

特長(2) ゲートウェイ不要、1 kmの長距離通信

これまで末端のデバイスから上位Ethernet層へのデータ連携には、多くの場合、中間でデータを集約するゲートウェイが必要でした。10BASE-T1Lは、1 kmの長距離通信に対応し、ポイント・ツー・ポイントで接続できるため、ゲートウェイ不要でシームレスに接続できます。

特長(3) ケーブル経由の電源供給量が大幅アップ

10BASE-T1Lは、防爆向けでは500mW、非防爆では60Wまで、ケーブル経由の電源供給が可能です。シンプルな配線で、センサー、アクチュエーターへの電源供給量が大幅に増加します。

特長(4) 若手技術者も多いEthernet技術

国内では技術者の高齢化が進み、レガシーの通信規格を扱える技術者は減少傾向にあります。Ethernet技術は若手でも使い慣れている技術者が多く、ノウハウや技術継承に苦労することなく展開できます。

特長(5) ケーブル再利用で、コスト抑制

具体的なケーブルの指定がないため、挿入損失・リターン損失などのシンプルなスペックを満たせれば、既存のケーブルを再利用できる可能性があります。ケーブルコストの抑制と省配線化を実現できます。

 

 

10BASE-T1Lを活用することで、これからのインダストリー4.0に対応する、工場全体のシームレスなネットワーク環境を実現できるのです。

アナログ・デバイセズの「10BASE-T1L」専用PHYラインナップ

それでは、10BASE-T1Lを導入する場合、具体的にどのようなデバイスが必要となるのでしょうか。

ここでは、超低消費電力を強みとするアナログ・デバイセズの産業用10BASE-T1L PHYラインナップから、3つの製品を紹介します。

 

 

ラインナップ(1) わずか39mWの超低消費電力「ADIN1100」

産業用超低消費電力10BASE-T1L PHYADIN1100」は、1.0V pk-pk(両電源・単電源)、2.4V pk-pk(複数電源)の伝送モードに対応しています。

 

消費電力わずか39mW 1.0V pk-pk 両電源モードは、最大エネルギーが厳しく制限される防爆アプリケーションに適用可能です。2.4V pk-pk複数電源モードは、最大ケーブル長1km75mWの超低消費電力で実現できます。センサーやアクチュエーターの消費電力抑制に貢献します。

 

キャパシターでの接続もできるため、トランスが不要です。MIIRMIIRGMIIインターフェースでホストプロセッサーのMACと通信できます。

  

オートネゴシエーション機能により、1.7kmまでの伝送距離に対応。ネットワーク接続の範囲が広がります。(使用するケーブルには条件があります)

ラインナップ(2) 設計を楽にするSPIインターフェース「ADIN1110」

次に紹介するのが、MAC内蔵PHYADIN1110」です。ホストプロセッサーとSPIプロトコルで通信できるため、扱いやすく、プロセッサーの選択肢が大幅に広がります。現行ソリューションのアーキテクチャーやソフトウェアをそのまま再利用でき、設計工数を削減できます。

 

時刻同期のタイムスタンプも内蔵され、より高精度な制御が可能となっています。

ラインナップ(3) デイジーチェーン接続も容易な「ADIN2111」

2つのPHYポートを持つのが「ADI2111」です。1つのデバイスで、デイジーチェーン接続を容易かつ低コストに構成できます。MAC内蔵で、ホストプロセッサーとSPI通信が可能です。

  

例えば、建物の温度・湿度の計測デバイスなどを簡単に接続できるため、総合的なビル管理のネットワークなどにも適しています。

  

充実の診断機能で、ダウンタイムを短縮

ここまで、3種類のデバイスを紹介しました。いずれも診断機能が強化されているため、ネットワークトラブル時にも迅速に対応し、システムのダウンタイムを短縮できます。

  

リンク品質モニタリングでは、SNR測定やビットエラーレートの見積もりも可能で、ループバック、フレーム・ジェネレーター、フレーム・チェッカーをサポート。ケーブル診断機能 TDRTime Domain Reflectometry)を内蔵しており、故障の位置や種類を解析できます。

PHYと一緒に使える電気絶縁ソリューション

10BASE-T1Lで必要とされる電気的絶縁のソリューションとして、マクニカではウルトエレクトロニクス社の各種製品を取り扱っています。

 

IEC 62368-1規格に準拠しており、アナログ・デバイセズのPHYデバイスの周辺部品として、外部Ethernetコネクターまでの回路におけるトランス、コモンモードチョーク、ダイオード、コンデンサーなどに使用でき、小型化・軽量化・設計の簡易化に貢献します。ぜひ併せてご検討ください。

 

本記事でご紹介した各デバイスは、評価ボードが提供されています。基板が2枚提供されるため、マスターとスレーブとして使い、簡単にお試しいただけます。

ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

アプリケーション例

・工場ネットワーク

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