安全な設計をするためにはデジタルアイソレータが必要
産業機器や医療機器など、高電圧を取り扱うアプリケーションだけなく、様々なアプリケーションで絶縁を求められるケースは少なくなく、特に高電圧と低電圧の回路を切り離し、この間で信号をやり取りするとともに、感電や不要ノイズの挿入などを防止するためにも電気的に絶縁(同相電圧を阻止するバリア)されたアイソレータ製品が必要になってきます。
本記事では、一般的な3つの絶縁方式の中でも、キャパシティブ絶縁について解説します。
一般的な絶縁方式
まずは、一般的な絶縁方式について簡単に触れます。従来、最も広く使用されてきた電気的な絶縁方法としては、フォトカプラによる信号絶縁でしたが、近年は半導体ベンダー各社が、新型の絶縁素子をリリースしてきました。以下、簡単に各方式を説明します。
オプティカル(光結合)絶縁
発光素子と受光素子が1パッケージにモールドされ、フォトカプラに入力された電圧信号は、これらの内部素子により光信号に変換され、絶縁を確保しながら、発光側から受光側に信号を渡すことができます。3つの方式の中で最も古く、簡単に使えますが、一般的には低速で、かつ消費電力が大きいという特性を持っており、他の方式に比べて経年劣化が早いと言われています。
インダクティブ(磁気結合、誘導性)絶縁
1次側2次側に半導体プロセスで作られたコイルを用い、この絶縁されたコイル間で信号を受け渡す方式です。
※同じ磁気結合でも、GMR(磁気抵抗)を使う方式もあります。
この方式の特長としては、フォトカプラよりも寿命は長いものの、消費電流がデータ速度とともに増加し、磁気絶縁は電磁干渉を受けやすいと言われています。また、フォトカプラと違って、この方式ではアナログ信号には対応していません。ただし、アナログ信号も扱える絶縁アンプもあります。
キャパシティブ(容量性)絶縁
容量性絶縁は、SiO2 Capacitorを用い、入力側と出力側の(2重)絶縁を実現しており、磁気性絶縁と同様に、この絶縁されたコンデンサ間でAC信号を受け渡しする方式です。この絶縁方式では、フォトカプラよりも寿命は長く、データ速度を高速に維持して消費電流を低く抑えられる上、磁気ノイズの影響を受けにくい特長があります。
また、この方式もインダクティブ絶縁と同様にアナログ信号には対応していませんが、アナログ信号も扱える絶縁アンプもあります。
SiO2は破壊しきい値(耐電圧)が非常に高い
フォトカプラが絶縁用に使用するモールド化合物の~50V/umに比べ、SiO2は破壊しきい値(耐電圧)が~800V/umと、はるかに高くなっています。これにより、一時的な過電圧やサージ電圧、あるいは数年にわたり連続して印可される電圧にも対応することができます。
この高い破壊しきい値を持てる理由は以下の3点です。
直列コンデンサ構成による強化された絶縁
高電圧に対する強化絶縁として、各チャネルは両方のダイで絶縁型コンデンサを使用しており、これらは直列に接続されています。
アイソレータによる高電圧ストレス
絶縁されたコンデンサの厚さは21um以上(SiO2)
各コンデンサはおよそ10.5umの厚さを超えるSiO2コンデンサで形成されており、直列に組み合わされた絶縁型コンデンサの厚みは21umを上回ります。
ガルバニックバリアにより、優れたEM耐性と優れた絶縁バリア寿命を実現
直列に接続されたコンデンサ構造により、高い絶縁機能を実現でき、12.8kV以上のサージ電圧定格、8kVのピーク過渡過電圧、1.5Vrmsの動作電圧に対応します。
フォトカプラよりもキャパシティブ絶縁が優れている点
ここで、具体的にフォトカプラに対する優位点をいくつか挙げます。
キャパシティブ絶縁のデジタル・アイソレータを利用するメリット
- 経年劣化が小さく寿命が長い
- 絶縁破壊電界値が高い
- コモンモード過渡電圧(CMTI)が高い
- 伝播遅延時間が短いため、(立ち上がり時と立下り時の遅延時間がほぼ同じ
- 動作温度範囲が広い
- 絶縁部の構造が2チップ構成なので、破壊しても入出力がショートする可能性が低い
キャパシティブ絶縁(TI社製品)と、フォトカプラの比較
キャパシティブ絶縁(TI ISO78xx) | フォトカプラ | |
方 式 | Capacitor | Opt |
絶対定格(UL, 20% margin) | 5.7k Vrms | 5 kVrms |
強化絶縁(10kV surge) | ✓(12.8kV) | ✓ |
絶縁動作電圧 (Bipolar AC,25yr) |
1500Vrms | 870Vrms |
耐電圧 | 800V/um | 50V/um |
コモンモード過渡電圧(CMTI) | 100kV/us | > 25kV/us |
耐トラッキング性(CTI) | > 600V | > 175V |
遅延時間 | 16ns | 100ns |
動作温度範囲 | -55 to 125℃ | -40 to 85℃/105℃ |
絶縁部の構造が2チップ構成だと、高電力の事象が発生した後でもキャパシタ1つで絶縁の維持が期待できる
先述の"6"において、2チップ構成をメリットとして挙げましたが、異常な事象下ではアイソレータの一方に、グランドを基準とした高電圧、高電流が印加されることがあります。これは例えば、出力ピンが低インピーダンスの際に回路が短絡してしまうことや、高電圧のバスラインに繋がるピンが短絡して電気的破壊を生じさせることもあります。これらは、高電圧と高電流が同時に存在する大電力の事象です。
これらの事象が起こる際、電気的オーバーストレスや内部熱によって絶縁障壁の質を低下させてしまうことがあります。
フォトカプラの場合
片側のサイドに大電力の事象が発生すると、検出ダイに熱やEOSを引き起こします。この損傷は絶縁性能の低下をもたらし、その後どの程度の絶縁耐量が残っているか定量化することは困難です。
直列に接続されたキャパシティブ絶縁の場合
高電圧/高電力の事象が片方のサイドに発生すると、ダイにも損傷を与えますが、間に含まれるモールド化合物により、もう片方のダイ及びキャパシタに損傷が拡大することがなく、本来の絶縁性能の約半分は維持することができます。
これは、例えば、本来のアイソレータが強化絶縁であった場合、高電力の事象が発生した後でもキャパシタ1つで絶縁が期待できるということになり、少なくとも “基礎絶縁”は維持されることが期待できます。(下図参照)
EOSダメージは高電力を受けたダイのみに留まっている(ISO7841)
EOSダメージは高電力を受けたドライバーダイのみに留まっている(ISO5851)
Texas Instruments社のデジタル・アイソレータ
TI社のデジタル・アイソレータ代表製品は以下の2種類があります。
- ISO7842( 4ch Robust Reinforced ISO)
- ISO7821( 2ch Robust Reinforced ISO)
詳細情報をお求めの方は、下記のページをご覧いただくか、ぜひ弊社までお問い合わせください。
Texas Instruments ISO78xxデジタルアイソレータ(Macnica-Mouserページ)
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