前回の記事で検出原理を説明した際、オシロスコープで観測した波形をご覧頂きました。水位が変化すると共振周波数が変化するので、周波数が変化しているようすを説明しましたが、もう一つ、共振振幅に差があることに気付かれた方も多いと思います。実は、この共振振幅をICの推奨範囲内に収めるために最適化という作業が必要になります。
このため今回の記事では、共振振幅の最適化についての説明と、試行錯誤の結果から得られた具体的な最適化方法を紹介します。

第1回 水位センサの試作方法
第2回 検出原理を解説
第3回 最適化するには?
第4回 最適化した水位センサ

最適化のポイント

共振振幅の最適化するために、4つのポイントを説明します。

1. 共振振幅、推奨範囲の確認

FDC2214の場合、センサの共振振幅に対する推奨範囲は1.2Vpp~1.8Vppです。実験で、この範囲を逸脱させたところ容量変換時の線形性に影響を与えることがわかりました。このため、共振振幅を推奨範囲内に収める必要があります。

※レジスタの設定を行う前に共振振幅の数値を調べる必要があるので、同様の作業をされる方は事前に共振振幅を確認しておいてください。

2. LC共振回路の定数

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FDC2214EVMには18uHのコイルと33pFのコンデンサが実装されていますが、水位計測のようなアプリケーションに対してLC共振回路の定数を決定するための明確な手順はデータシートに記載されていません。

そこで、試行錯誤により水位が0cmから最大水位に変化した際のトータルのセンサ容量の変化量が基板に実装するコンデンサの5%程度になるように選定しました。

例えば、トータルのセンサ容量の変化量が100pFだった場合、2000pFのコンデンサを基板に実装します。コイルに関してはセンサ・ドライブ電流の設定によりセンサの共振振幅が推奨範囲に収まるような定数を選定します。

3. センサ・ドライブ電流の設定

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センサ・ドライブ電流の設定により共振振幅を変更することが出来ます。この共振振幅はLC共振回路のコイルとコンデンサの定数にも依存します。

また、このセンサ・ドライブ電流は水位変化に応じて設定値を変更してしまうと、容量変換時の線形性に影響を与えます。そのため、水位に関係なく、常に固定値で使用する必要があります。

4. 入力デグリッチ・フィルタの設定

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入力デグリッチ・フィルタによりEMIやセンサの共振周波数以上のリンギングを抑制することが出来ます。この設定はセンサの共振周波数に依存し、センサの共振周波数以上に設定する必要があります。

そのため、最適な設定としてはセンサの共振周波数を超える最低の周波数を選択することを推奨しています。例えば、センサの共振周波数が2MHzの場合には入力グリッチ・フィルタとしては3.3MHzが最適値になります。

最適化方法

センサの共振振幅を推奨範囲内に収めるためにLC共振回路の定数とセンサ・ドライブ電流の設定を見直す必要があります。LC共振回路の定数は基板上の定数を変更し、センサ・ドライブ電流の設定はGUI上でレジスタを変更し調整します。

ハードウェア上の最適化

FDC2214EVMの基板上には、18uHのコイルと33pFのコンデンサが実装されており、前回、水位が0cmから19cmに変化した際、センサ部の容量変化は87pFであったことが確認できています。この容量の変化によって共振振幅が大幅に減衰しないように十分大きなコンデンサをFDC2214EVMへ適応します。

具体的には33pFのコンデンサ(C7、C10、C15、C17)を3300pFに置き換えます。同様にコイル(L1、L2、L3、L4)も18uHから68uHに置き換えます。今回はCH0しか使用しておりませんが、FDC2214は4チャネルに対応しているため、すべてのチャネルに対してLC共振回路の定数を変更しています。

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コンデンサ、コイルの変更箇所

GUIを使った最適化

FDC2214EVMの基板上のコイル、コンデンサを変更した後、GUIを使って設定値を最適化します。
GUIで行う設定は以下の3つです。

  1. LC共振回路の定数変更
  2. シングルチャネルの設定
  3. センス・ドライブ電流の設定値を最適化

1. LC共振回路の定数変更

まず、GUI上でMENUからConfigurationを選択し、LC共振回路の定数を変更します。ParallelInductanceの欄の18uHを68uHへ、Parallel Capacitanceの欄の33pFを3300pFへそれぞれ変更します。

上記の変更を適応すると、センサの共振周波数が0.31MHzになるため、これに合わせて入力グリッチ・フィルタの設定を最適値に変更します。

入力グリッチ・フィルタのデフォルト設定は3.3MHzですので、センサの共振周波数を超える最低設定値となる1MHzを選択します。

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2. シングルチャネルの設定

今回の水位計測は1チャネルしか使用しないので、シングルチャネルで計測するように設定を変更します。そこで、Channel Sequencing ModeのRepeat single channel measurementを選択します。これによりCH0のみが選択されます。

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3. センス・ドライブ電流の設定値を最適化

最後にセンス・ドライブ電流の設定値を最適化します。DetectIdrive Initのボタンをクリックすると、最適な電流値がコールバックされます。そのコールバックされた値をCodeの欄に入力します。また、実際に最適な共振振幅が得られているかどうかをオシロスコープで確認します。但し、オシロスコープでモニタした場合にはプローブの容量値の影響も含まれています。

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以上で水位センサを最適化する作業は終了です。

次回、第4回 最適化した水位センサ では最適化前後の比較結果とIoT/M2M展に水位計測展示機を作るにあたり、見えてきた課題を説明します。


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※本掲載記事は当時の製品ステータスを元に執筆されております。製品をご検討の際は、最新の情報をメーカー若しくは代理店へご確認の上進めて頂けますようお願い申し上げます。

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