本記事では、不揮発性と高速性を両立する次世代メモリー「MRAM」について解説します。
第1章「基礎編」では、MRAMの基本原理や特長、従来メモリーとの違い、用途についてわかりやすく紹介します。
第2章、第3章は下記リンクからご覧いただけます。
第2章「応用編」:磁場環境におけるMRAMの適用性について詳しく解説します。
第3章「検証データ編」:磁場環境におけるMRAMの適用性を評価するためにモーターおよびインダクターの磁束密度を実測し、その結果と影響を解説します。
MRAMとは何か ― 注目される次世代メモリー
MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory:磁気抵抗メモリー)は、電源を切ってもデータを保持できる不揮発性と、高速な読み書き性能をあわせ持つメモリーです。
従来のメモリー技術には、それぞれ明確な役割と制約がありました。
・SRAM:非常に高速だが揮発性のため、電源を切ると内容が失われます。プログラムの実行中に一時的に使うデータや作業用メモリーとして利用されます。
・フラッシュメモリー:電源を切ってもデータを保持できる一方、書き換えに時間がかかり、頻繁な更新には向きません。
このように、「高速だが消えるメモリー」と「消えることはないが遅いメモリー」の間には大きなギャップが存在していました。
MRAMは、そのギャップを埋める存在として登場し、“高速 ・ 不揮発 ・ 高耐久” を同時に満たす次世代メモリーとして注目されています。
近年では、組込み機器や産業用途、エッジAIなど、高速性と信頼性が求められる分野で採用が進みつつあります。
図 1:SRAM・MRAM・フラッシュメモリーの位置づけ
MRAMの基本原理 ― 磁気で記憶するメモリー
MRAMは、電荷ではなく磁気の性質を使ってデータを記憶します。
例えば、SRAMはフリップフロップ回路でデータを保持しますが、電源が途切れると内容が失われます。
一方、MRAMは磁化の向きで情報を記憶しており、電源を切ってもその状態は変わらないためデータを保持できます。
図 2:SRAMとMRAMの違い
MRAMセルの記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)は、2つの磁性層(固定層と自由層)とその間の薄いトンネル膜で構成されています。
自由層の磁化方向が変わることで素子の電気抵抗が変化し、この抵抗値の差を「0」と「1」として読み出す仕組みになっています。
図 3:MTJの抵抗変化の仕組み
MRAMの主な特長
MRAMの特長を整理すると、次のようなポイントが挙げられます。
・不揮発性と高速性の両立
以下のグラフは、ルネサスエレクトロニクス製のコードフラッシュ搭載マイクロコントローラー(MCU)と、最新のMRAM内蔵MCU 「RA8P1」を比較したものです。
MRAMはフラッシュに比べて書き換え動作が非常に高速で、メモリー書き換え時間を約98%削減できることがわかります。
これより、ファームウェア更新やログ書き込みなど、頻繁に書き換えが発生する処理のパフォーマンスが大きく向上します。
図 4:メモリー書き換え時間の比較
※この値は代表値であり、純粋な書き換え時間を示しています。前後の処理や制御などのオーバーヘッドは含まれていません。
・ 高い書き換え耐久性
MRAMは、磁性体の磁化反転そのものに回数の原理的な上限がないため、繰り返し書き込みを行う用途に適しています。
フラッシュメモリーは書き換え回数に制約があり、特にコードフラッシュでは数千〜数万回程度に限られます。一方、MRAMはコード領域・データ領域ともに高い耐久性を持ちます。
そのため、設定値の更新やログ記録など、頻繁なデータ更新が必要なシステムにも適したメモリーです。
図 5:書き換え回数の比較
・低消費電力
MRAMは、データ保持のための待機電力が不要で、低消費電力が求められる機器に適したメモリーです。
最新のMRAM内蔵MCU 「RA8P1」は、Renesasの測定結果において、従来製品に比べて動作時の消費電流が約47%削減されることが確認されています※。
※ルネサスエレクトロニクス製の従来製品との比較です。それぞれHigh-speed モードかつDC/DCモード動作時の代表値をもとに算出しています。(従来製品はシングルコア製品のため、RA8P1はCPU1動作中、CPU0ディープスリープ時の代表値を使用しています。)
図 6:消費電流の比較
MRAMの主な用途 ― どんな場面で使われているか
MRAMはすでに実用段階にあり、用途は徐々に広がっています。
・組込み・IoT機器
設定データ保存用途として、MRAMが採用されるケースが増えています。
バイト単位書き換え・高速アクセス・電源断時のデータ保持といったMRAMの特長が、ログ保存やフィールドアップデートに適しています。
・産業用途
MRAMは電荷ではなく磁化状態でデータを保持するため、高温で増加するリーク(電荷の漏れ)の影響を受けず、連続動作によって継続して高温状態となる産業用途でも高い信頼性を実現します。
産業用コントローラー、モーション制御機器、監視システムなどで採用が広がっています。
・ストレージ
書き換え耐久性能と電源断耐性を活かし、SSD内部のキャッシュや状態管理、ログ保存といった用途でMRAMの採用事例が増えています。頻繁かつ高速な書き込みが求められる用途において、MRAMの特長が活かされています。
・航空宇宙
航空宇宙分野では、強い放射線環境といった一般的なメモリーが影響を受けやすい条件が想定されますが、MRAMは比較的安定した動作を示します。
そのため、衛星の姿勢制御や制御コンピューターなどの用途で実績があります。書き換え回数が多くても劣化しにくい点が評価されています。
・医療機器
医療機器ではデータ保持性・高信頼性が重視され、バッテリーレスでデータを保持できるMRAMは親和性が高いメモリーです。
治療装置、分析装置などでも使用例が報告されています。
図 7:MRAMの主な用途
まとめ
MRAMは、不揮発性と高速性を両立することで、従来メモリーが抱えていた課題を解決する次世代メモリーとして注目されています。
その特性から、組込み機器や産業用途、ストレージなど、高い信頼性とパフォーマンスが求められる分野で活用が広がっています。
第2章「応用編」では、磁場環境におけるMRAMの適用性について詳しく解説します。併せてぜひご覧ください。