ルネサス 電池残量管理ICの動作確認をしてみた

はじめに

本記事では実際に電池残量管理IC(Fuel Gauge IC、FGIC)の動作確認した内容をご紹介します。
今回はFGICのスターターキットと、バッテリーの代わりに電圧源・負荷電源を用いて、疑似的に直列のバッテリーを構成し、ルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス社)のFGICでセルの電圧と充放電の動作を確認する様子をご確認いただきます。
これからFGICに初めて触るという方に、手順書として参考にして頂けますと幸いです。

関連ページは以下になりますので合わせてご確認下さい。
リチウムイオンバッテリー(Li-ionバッテリー)の残量予測方法の基礎知識
ルネサス 電池残量管理IC製品

動作環境の準備

動作環境の準備
図1. Starter Kit
引用元:https://www.renesas.com/jp/ja/products/power-power-management/battery-management/battery-fuel-gauge-ics/battery-fuel-gauge-ic-starter-kit-starter-kit-battery-fuel-gauge-ic#overview

今回はルネサス社のStarter KItを使用します。
このキットにはデバイスファイル、サンプルコード、モニタツール、USBドライバー、ドキュメント類が含まれています。

こちらのスターターキットに含まれている以下のボードを用いて動作確認をおこないます。

図2. Starter Kit内のボード
図2. Starter Kit内のボード

このボードには3~10セル対応ルネサス社 リチウムイオン・バッテリー用電池残量管理ICの「RAJ240100」が搭載されています。
RAJ240100は低消費電力が特長で、ルネサス社のRL78 CPUコアと、アナログ回路およびデジタル回路を1パッケージに内蔵しています。

【RAJ240100の主な機能】
 ・測定(電圧・電流・温度)
 ・残量推定
 ・保護(過電流・電圧・温度)保護

この製品の詳細は以下をご確認ください。
ルネサス 電池残量管理IC製品

今回の測定環境は以下になります。

図3. 測定環境
図3. 測定環境

(1) 直流電圧源(バッテリーの代わり)
(2) RAJ240100を搭載したボード(ボードは静電マットの上に置くことを推奨します。)
(3) USB-SMBus変換インターフェース
(4) PC
(5) 端子電圧を測定するハンディテスター

PCにはFGICをモニターするためのサンプルツールソフトウェアをインストールしておきます。
今回は1セルあたり4V、直列3セルで合計12Vを想定し、直流電圧源で12Vを印可し、抵抗ラダーボードを介して3分圧し12V、8V、4Vの3つの電圧をボードに入力します。

その後ハンディテスターで意図した電圧がボードに入力されているのを確認した後、ボードの電源ボタンを押して電源を入れます。

図4. ボード設定後の様子
図4. ボード設定後の様子

ボード、サンプルツールが正しく動作しているか確認も含めて、ボードに入力された各電圧値をサンプルツールで確認します。確認結果は以下となりました。

図5. ボードに入力された各電圧値をサンプルツールで確認する様子
図5. ボードに入力された各電圧値をサンプルツールで確認する様子

Cell1、2、3それぞれが4007mVと表示されています。実際に入力した電圧は12V、8V、4Vですが、それぞれのセルあたりの電圧値が表示されるため、上記のような表示となります。TotalCell電圧は12023mVでこちらも概ね合っていました。

 

キャリブレーションの方法

ここで意図した電圧を確認できない場合は、2点間キャリブレーションにより改善できる場合があります。

図6. 直流電圧源(上)と負荷電流源(下)
図6. 直流電圧源(上)と負荷電流源(下)

上記のように直流電圧源(上)と負荷電流源(下)を用意します。

図7. サンプルツールのキャリブレーション画面上
図7. サンプルツールのキャリブレーション画面上

上記のようにサンプルツールのキャリブレーション画面上で2点間(緑枠/青枠)の電圧(1セル/セル全体)、電流(負荷電流なし/あり)、そして温度を設定し、実際に指定温度下で指定した電圧/電流を入力しキャリブレーションをおこないます。
上記の例では以下のような手順になります。

① サンプルツール上で6か所の値を入力します。
   1点目電圧(1セル2,000mV、セル全体20,000mV)、2点目電圧(1セル4,000mV、セル全体40,000mV)、負荷電流500mA、温度0℃の値を入力します。
② Readyボタンをクリックします。
③ 直流電圧源の値を20Vに設定し、ボードに電圧を入力、緑枠内のボタンを2か所クリックします。
④ 0AとTemperatureのボタンをそれぞれクリックします。
⑤ 直流電圧源の値を40Vに設定し、ボードに電圧を入力、青枠内のボタンを2か所クリックします。
⑥ 負荷電流源を-500mAに設定しボード上の端子から電流を抜き、Dischargeのボタンをクリックします。
⑦ Finishをクリックします。

以上でキャリブレーションが完了します。

疑似充電/放電の動作確認

上記のキャリブレーションの手順の中で負荷電流源を使用しましたが、これを用いて疑似的にバッテリーの放電テストや、直流電圧源を2台使用して疑似的な充電テストをおこなえます。このとき直流電圧源はバイポーラ電源等の電流吸い込み可能なものを必ず使用します。通常の電流吸い込みできない安定化電源用いて充電しようとした場合、電圧が持ち上がってICMOSFET、評価機器がダメージを受ける可能性があります。

以下はFileFish(RAJ240100搭載)ボードを用いた充放電テストの例です。

FileFishボードについてはルネサス 電池残量管理IC製品をご参照ください。

放電テスト

直流電圧源(左)でボードに12Vを印加しながら、負荷電流源(右)で電流を抜きます。
サンプルツール上で”DISCHARGE”のステータスになることが確認できます。

図8. 放電テスト例
図8. 放電テスト例

直流電圧源(左)でボードに12Vを印可しながら、もう一台の直流電圧源(右)で電圧を印可します。
サンプルツール上で”CHARGE”のステータスになることが確認できます。

図9. 充電テスト例
図9. 充電テスト例

まとめ

今回はルネサス社FGICの評価ボードを用いて、セルの電圧確認、充放電の動作を簡単に確認してみました。
直流電圧源などの機材は必要となりますが、スターターキット使用することで比較的簡単にFGICの動作を確認できますのでご検討ください。

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