近年、スマートフォンや電動自転車などの普及により、バッテリーはこれまで以上に幅広く使用されるようになりました。これらのアプリケーションで主に使用されるのが、繰り返し充電できるリチウムイオンバッテリー(Li-ionバッテリー)です。
Li-ionバッテリーは大きなエネルギーをもっているため、バッテリーが危険な状態にならないように過充電や過電流、過放電を防ぐ安全保護回路を組込んでおくことが必要です。
また、充電する際もバッテリーを安全に利用したり、製品寿命を延ばすためにバッテリーの状態(電圧、電流、温度)を適切に管理、制御する必要があります。

本記事では、Li-ionバッテリーの概要、残量予測とバッテリーの管理、制御方法について解説します。

Li-ionバッテリーの概要

Li-ionバッテリーの概要は以下になります。

セル構成

 図1. 3.6Vセルを使ったバッテリーパックの例
図1. 3.6Vセルを使ったバッテリーパックの例

乾電池で直列/並列があるようにLi-ionバッテリーでも同様にセルの束ね方は複数あります(セル構成)。
XsYpのように表し、それぞれの意味は以下のようになります。
X = 電池の直列数 ”X”×セル単体の電圧がバッテリーパック電圧
Y = 電池の並列数 ”Y”×セル単体の容量がバッテリーパックの容量
s = シリアル(直列)
p = パラレル(並列)

図1の3.6Vセルを使ったバッテリーパックの例では、直列に2セル、並列に3セル接続されているので、2s3p(2直3パラ)と表され、バッテリーパック電圧は7.2Vとなります。

バッテリーのタイプ

図2. バッテリーのタイプ
図2. バッテリーのタイプ

図2のようにさまざまな形状のバッテリーがあり、用途や使用される製品の形状によって使いわけられています。

Li-ionバッテリーの特性

図3. Li-ionバッテリーの特性
図3. Li-ionバッテリーの特性

バッテリーの容量と電圧は、公称/定格の2種類があります。

公称容量:バッテリーの製造者が指定する設計上の中心容量
定格容量:電気用品安全法に則ったバッテリー容量
公称電圧:バッテリーの製造者が規定するバッテリー使用上の目安となる電圧
定格電圧:安全に使用するための最大電圧

※現在は国際規格で定格容量に表示方法が統一されています。

充放電レート

充放電する速さを表す方法としてCレートがあります。
1Cは、ある容量のバッテリーを定電流で放電して、1時間で放電終了となる電流値を指します。
例として1Ahの容量のバッテリーでは、1Cは1Aを表します。

充放電特性

Li-ionバッテリーは放電電流、周囲温度、充放電回数により特性が異なります。

放電電流による違い

図4では3種類の放電電流が記載されていますが、放電電流が大きいほどバッテリー電圧の落ち込みが大きいことがわかります。

図4. 放電電流によるバッテリー容量の違い
図4. 放電電流によるバッテリー容量の違い

周囲温度による違い

図5から周囲温度が低いほどバッテリー電圧の落ち込みが大きいことがわかります。

 図5. 周囲温度によるバッテリー容量の違い
図5. 周囲温度によるバッテリー容量の違い

バッテリーの充放電回数による違い

図6ではバッテリーが充放電を繰り返すとバッテリー容量がどのように変化するかを表しています。
サイクル数が増えるほどバッテリー容量が減少していることがわかります。

 図6. バッテリーの充放電回数によるバッテリー容量の違い
図6. バッテリーの充放電回数によるバッテリー容量の違い

バッテリーは通常図7の左のように表しますが、実際には右のように抵抗が直列に接続されているような特性になります。
そして、この抵抗値は常に一定ではありません。バッテリーごとに異なりますし、残量、劣化具合によっても異なります。

 図7. バッテリーの充放電回数によるバッテリー容量の違い
図7. バッテリーの充放電回数によるバッテリー容量の違い

上記のように、バッテリーの抵抗値はさまざまな条件によって変化します。バッテリー残量はその一つとなり、バッテリー残量を管理することはバッテリー電圧を維持するために非常に重要です。次項ではバッテリー残量を予測する方法について解説します。

バッテリー残量予測の方法

バッテリー残量予測の方法について説明します。判断方法は主に電圧からと電流からの2種類あります。

電圧から判断する方法

 図8. バッテリーを水が入った容器を例にした図
図8. バッテリーを水が入った容器を例にした図

まずは水が入った容器をバッテリーの例にして考えます。落ち着いた水位を監視することで、グラスにどの程度水が入っているか判断可能となります。

 図9. バッテリーを水が入った容器を例にした図
図9. バッテリーを水が入った容器を例にした図

これをバッテリーに置き換えると、充放電のない安定した電池電圧を測定することで、電池にどの程度容量が残っているか判断可能となります。
一般にバッテリー電圧は図9のようにバッテリー容量が変化しても、電圧の変化が小さい状態があり、細かな容量値の判断が難しい場合があります。

また、バッテリー容量の残量が少なくなると電圧が急激に落ちるため、容量が急激に減ったように見えることがあります。

 図10. バッテリー電圧とバッテリー容量の関係
図10. バッテリー電圧とバッテリー容量の関係

電圧測定の方法は、電池電圧の測定のみで非常にシンプルです。しかし、精度があまりよくないことがわかります。

電流から判断する方法

図8. バッテリーを水が入った容器を例にした図
図8. バッテリーを水が入った容器を例にした図

こちらも同様に水が入った容器をバッテリーの例にして考えます。
水の流入量・流出量からグラスにどの程度水が入っているか判断可能となります。

図9. バッテリーを水が入った容器を例にした図
図9. バッテリーを水が入った容器を例にした図

これをバッテリーに置き換えると、充放電電流を積算(クーロンカウンター)することで、バッテリーにどの程度容量が残っているか判断可能となります。
ただし、スタート時にバッテリーにどの程度の容量があるかについては判断できません。

ここでスタート時のバッテリー容量について図11で考えてみます。
バッテリーの理想的な電圧を赤線で示します。先ほど述べたバッテリーの内部抵抗があるため、実際の電圧は青線のようになります。理想的なバッテリー電圧よりもドロップすることでEnd of Discharge Voltage(EDV)に早く到達するため、実際に使える容量(FCC)は、バッテリー本来の容量(Qmax)よりも少なくなります。上記のような想定容量との誤差が生じないように、実際に使える容量(FCC)を正確に把握することが重要となります。

 図11. スタート時のバッテリー容量を示す図
図11. スタート時のバッテリー容量を示す図

実際に使える容量(FCC)を把握する方法

一旦、バッテリーの満充電検出した後、FCCの値を読み取り、使用時に放電量を積算します。その後完全放電時に、使用時に積算した放電量からFCCの値を更新します。そうすることで、バッテリーの状態を学習でき、バッテリーの劣化にも対応することができます

 図12. 実際に使える容量(FCC)を示す図
図12. 実際に使える容量(FCC)を示す図

ただし、FCCの更新タイミングはバッテリーの完全放電のタイミングでは遅いため、ある電圧(図12ではEDV1)に到達すると残り10%のように固定の閾値を設けるなどの工夫が必要になります。

電流積算測定の方法では、事前に電流を測定し積算する必要があり、自己放電やスタンバイ電流など微小電流の影響を受けます。しかし、容量学習できれば、セルの劣化にも対応可能で、電圧測定の方法より高精度に測定することができます。

まとめ

本記事ではLi-ionバッテリーの概要、および残量予測の方法について解説しました。

Li-ionバッテリーの容量を正確に把握することが重要とお伝えしましたが、電池残量管理IC(FGIC)を活用することによって簡単に実現することができます。以下の記事では実際にFGIC製品の動作確認結果を公開していますので、合わせてご覧ください。


また、ルネサス社ではさまざまなアプリケーションに対応するため、FGICのラインナップを豊富に取り揃えています。以下の製品ページで紹介していますので、是非参考にしてください。

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