次世代パワー半導体SiCの活用がもたらすカーボンニュートラルへのメリットとは?

序文

昨今、ビジネスの現場でもカーボンニュートラルやSDGsなどの単語が一般的に使われるようになっています。
マクニカが取り組んでいる半導体事業もカーボンニュートラルと密接にかかわる分野です。
本記事では、SiCGaNといったワイドバンドギャップ(WBG)半導体がなぜグリーンといわれているのか。そして、カーボンニュートラルの実現に向けて注目されている理由を紹介します。

以下、詳細を解説します。

カーボンニュートラルの実現にむけて

なぜワイドバンドギャップ(WBG)半導体が注目されているのか

大電力における効率アップ

SiC 導入の課題と対策

カーボンニュートラルの実現にむけて

そもそも、カーボンニュートラルとは何でしょうか。
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする」ことを意味します。

世界の潮流として、各国政府がカーボンニュートラルを実現して持続可能な社会を目指しています。
なぜ実現しようとしているのかは、地球温暖化の問題が背景にあります。地球温暖化の原因は諸説ありますが、一因として温室効果ガスの排出量が増えていることがあげられます。
温室効果ガスのひとつが二酸化炭素CO2です。CO2が増えることで地球温暖化がすすみ、対策としてカーボンニュートラルの必要性が高まっています。

日本政府も2050年までにカーボンニュートラルを実現しようとしています。そのための施策も経済産業省がまとめており、その施策の中に半導体もあります。半導体には種類が多数ありますが、そのなかでグリーンな半導体であるワイドバンドギャップ(WBG)半導体が注目されています。

なぜワイドバンドギャップ(WBG)半導体が注目されているのか

それは従来の半導体素材であるシリコンではできなかった機能 高耐圧低オン抵抗高速スイッチングの両立が、SiCGaNで実現できるからです。
半導体デバイスの一種であるMOSFETにしぼって、実例を紹介します。
MOSFETは電気回路でオンオフするスイッチとしての役割を担います。

MOSFET
にはオン抵抗という電気的特性があり、オン抵抗はチップ面積が大きくなるほど低くなります。
ここでは、単位面積当たりのオン抵抗で議論します。単位面積当たりのオン抵抗と耐圧はトレードオフの関係にあります。縦型のMOSFETでは、ソースとドレインはチップの表と裏にあり、耐圧を高めるためにはチップの厚みを厚くする必要があります。
このため、高耐圧のデバイスほど、単位面積当たりのオン抵抗は大きくなります。

図1は、シリコンと他の素材との比較資料です。
横軸が耐圧、縦軸は単位面積あたりの理論的なオン抵抗値を示します。

図1:引用元TND6239/D
(注)参考文献:以下の文献を参照しています。
Comparative Study of Optimally Designed DC-DC Converters with SiC and Si Power Devices

同じ耐圧で比較するとシリコンよりもSiCGaNのほうが理論的な単位面積当たりのオン抵抗が小さいことが分かります。低オン抵抗になるとMOSFETの損失が減り、損失電力の削減につながります。(低オン抵抗)

高耐圧が実現できるのは、シリコンよりもSiCGaNのほうがバンドギャップエネルギーが大きいためです。(高耐圧)
バンドギャップエネルギーが大きいと、より薄いチップの厚みで高耐圧を実現できるので、より低いオン抵抗を実現できます(チップの厚みが薄くなるとオン抵抗も低くなります)。バンドギャップエネルギーが大きい素材のことワイドバンドギャップ(WBG)と呼びます。以下にシリコン、SiCGaNのそれぞれの素材の特性を記載します。

シリコン SiC GaN 単位
バンドギャップエネルギー 1.1 3.3 3.4 eV
ブレークダウン電界 0.3 2.1 2.1 MV/cm
電子飽和速度 10 22 25 *10^6cm/s
熱伝導率 1.5 5 1.3 W/cmK

引用元TND6239/D


表の中で、電子飽和速度とは、基本的には物質内で電子を運ぶ電流の平均速度です。一般的に、この数字が大きいほどスイッチング速度が速く、オン抵抗が低くなります。
スイッチング速度が速くなると、MOSFETのターンオン、ターンオフ時に発生するスイッチング損失が低減するので、より高周波数で駆動しても電力損失を抑えることができるようになります。周波数が大きくなると周辺部品のインダクターやコンデンサーは、定数の小さいものを選ぶことができるようになりサイズも小型化できます。(高速スイッチング)
また、MOSFETの電力損失が小さければ、放熱用のヒートシンクも小型化できるので、最終製品を小さくすることにつながります。

SiCが注目されているのは、その素材の特性から“高耐圧”“低オン抵抗”“高速スイッチング”の両立を実現できるためです。
実際の半導体製品でもその特長が顕著に表れており、今までシリコンのMOSFETIGBTでは実現できなかった特性も、SiC MOSFETで実現できます。

種別

耐圧

高速スイッチング

600V 1200V
シリコンMOSFET
IGBT
SiC MOSFET

※表はオンセミ社の製品ラインナップを示しています


シリコンMOSFETでは1200Vの耐圧の製品は市場でもあまり見られないのですが、SiCでは多数のラインナップがあります。
特に1200V以上の高耐圧が必要な分野でSiC MOSFETの活躍が期待されます。また、IGBTではスイッチング損失が大きくなるため現実的ではなかった100kHz以上の高周波スイッチングもSiC MOSFETでは対応可能です。

大電力における効率アップ

先ほど、低オン抵抗になると電力損失を下げられると解説しました。そのうえで電力損失を下げるとなぜカーボンニュートラルになるのでしょうか。
それは、電力損失を下げることで、必要な電力が減り、しいては必要な化石燃料が減ることにつながります。(※電力が火力発電の場合)
化石燃料がCO2の排出源になるため、化石燃料の使用量を減らせればCO2も減り、カーボンニュートラルの実現につながります。

ではどのような製品でワイドバンドギャップ(WBG)が検討されているのでしょうか。それは電力を多く使うモーター(インバーター)や電源関連のアプリケーションです。2SiCGaNが使われるアプリケーション例を図示しています。

図2:引用元TND6299/D

縦軸が扱う電力帯を示しており、横軸がスイッチング周波数を示します。周波数が1MHzを超えるとGaNを中心に、数kW以上の電力を扱う場合、SiCが検討の範囲になります。

GaNUSBの電源アダプターなどに多く使われています。スイッチング損失が低下したことで、従来品では実現できなかった小型アダプターで数十Wクラスの製品が市場に多く出回っています。
SiCは自動車の車輪を回すトラクションインバーターなどで使用されます。トラクションインバーターは100kW程度の大きな電力を扱います。

たとえば100kWの製品でシリコンIGBTからSiC MOSFETに変えることで、効率を1%改善できた(損失が1%減る)と仮定すると、いままで熱として無駄になっていた1kWの電力がなくなり、カーボンニュートラルへと貢献します。

経産省のデータでは、世界の電力需要の半分近くがモーターでした。大電力を扱うモーターはパワー半導体を使ったインバーター回路で駆動します。SiCを使い、インバーター回路の効率をあげることが、カーボンニュートラルにとって重要ということがわかります。

SiC 導入の課題と対策

こうなるとすべての製品でSiCを使えばいいのではないかと思いますが、SiC MOSFETを導入するうえで課題が2点あります。

・ゲート電圧(VGS)の設計変更が必要。シリコンVGS10V/0V SiC VGS18V/-3V

・価格がシリコンMOSFETと比べて高価

それぞれの課題に対して対策があります。

ゲート電圧の調整

従来ゲート電圧0VでシンクできていたシリコンMOSFETですが、SiC MOSFETでは -3V(マイナス3V)の電圧が必要になることがあります。
オンセミ社のSiC用ゲートドライバーNCP51705は、内部にマイナス電圧生成のチャージポンプ回路を内蔵しているため、簡単に -3Vの電圧が準備できます。

VEEset 端子の状態に応じて、0V-5V-3.4V-8Vからシンク電圧を選択できます。

価格について

単体だけでの比較でみるとシリコンMOSFETに比べ、SiC MOSFETの方が高価ですが、システム全体のコストで考えることが重要です。
SiC MOSFETに変えることで損失が下がり熱の発生を抑え、ヒートシンクなどの放熱システムを削減できる可能性があります。
SiCの高速スイッチング特性により周波数を上げることができ、周辺部品を小型化することが可能です。このため、部品や筐体のコストダウンが期待できます。

今後SiC自体のコストが下がっていく可能性が高く、経済規模のメリットも期待できます。オンセミ社では、SiCのインゴットメーカーであるGT Advanced Technology社を買収するなど、SiCビジネスに継続して積極的な投資を進めています。
関連記事:https://www.onsemi.jp/company/news-media/press-announcements/en/onsemi-completes-acquisition-of-gt-advanced-technologies

さいごに

オンセミ社では、SiC MOSFETSiC DiodeSiCモジュールを取り扱っています。

オンセミ製品ページ

マクニカ SiC MOSFETとは?シリコンの課題とSiCを使用するメリット、特長の紹介!
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