シングルペアイーサネット 10BASE-T1S は他のイーサネットとココが違う! IEEE 802.3cg 10BASE-T1Sとは?

はじめに

10BASE-T1SはIEEE 802.3cg-2019で規格化されたシングルツイストペアケーブルを使ってイーサネット通信をおこなう方式の一種です。

IEEE 802.3cg-2019では10BASE-T1Sの他に10BASE-T1Lという方式も規格化されていますが、この記事では短距離通信規格として定められている10BASE-T1Sの特長と応用範囲について紹介します。

10BASE-T1Sの特長

110BASE-T1Sとその他のイーサネット通信の主なPHY仕様をまとめます。

ここで10BASE-T1Sマルチドロップ接続”PLCA”に対応していることが特長といえます。

 

10BASE-T1S

(Link Segment)

10BASE-T1S

(Mixing Segment)

10BASE-T1L

10BASE-T

100BASE-TX

1000BASE-T

IEEE規格

802.3cg-2019

802.3cg-2019

802.3cg-2019

802.3i-1990

802.3u-1995

802.3ab-1999

最大データ転送速度

10 Mb/s

10 Mb/s

10 Mb/s

10 Mb/s

100 Mb/s

1 Gb/s

接続方式

1対1

マルチドロップ

1対1

1対1

1対1

1対1

通信方式

全二重通信 or 半二重通信

半二重通信

全二重通信

全二重通信 or 半二重通信

全二重通信 or 半二重通信

全二重通信 or 半二重通信

符号化

DME

DME

PAM3

マンチェスター符号

MLT-3

PAM5

PLCA (物理層衝突回避)

×

×

×

×

×

ワイヤー電力供給

PoDL

×

PoDL

PoE

PoE

PoE

通信距離

15m

25m

(8ノード)

1km

100m

100m

100m

表1:10BASE-T1Sとその他のイーサネット通信の主なPHY仕様

マルチドロップ接続とは

従来のイーサネット通信では11Point-to-Point接続(1)でした。10BASE-T1Sでは、Point-to-Point接続となるLink Segment1対の信号バス線上に複数のデバイスを接続可能なマルチドロップ接続(2)となるMixing Segmentに対応しています。表1に示す通り、PoDLMixing SegmentについてはIEEE802.3cg-2019では規定されていません。

10BASE-T1Sでは少なくとも最大8ノードの接続と25mの伝送距離をサポートしています。

Point-to-Point接続
図1: Point-to-Point接続
マルチドロップ接続
図2: マルチドロップ接続

PLCA (物理層衝突回避)

IEEE802.3cg-2019ではサブレイヤーとしてPLCA RSが追加されました。このPLCA RSは半二重マルチドロップモードで動作する10BASE-T1S PHYで動作するように規定されています。また、PLCAは管理インターフェースによって動的に有効か無効にできます。

PLCA機能は管理デバイスによって接続される各デバイスに固有のノードIDを設定し、そのIDに基づいて混合セグメント上のPHYの送信機会を順番に付与します。

PHYの送信機会はラウンドロビン方式で決定されます。ID=0のノードはバス上でBEACON信号を出力します。このBEACON信号が新しい送信機会のサイクル開始の合図となり、その他のデバイスはBEACON信号を受信することで自身の送信機会を待ちます。ID=0のノードが故障してもネットワークはPLCAを使用しない従来のCSMA/CDネットワークと同じパフォーマンスレベルで動作します。

PHYがパケットを送信する前に送信機会の間にCOMMIT信号を送信することができ、COMMIT要求によって他のノードのタイマー(TO_TIMER)を停止し、パケットを待つように信号を送ることができます。

このように送信機会を決定することにより同じバス上で回線の衝突が発生しないようにしています。

 PLCAデータフロー
図3: PLCAデータフロー

10BASE-T1Sの応用範囲

産業用ネットワークでは上位レイヤーでは100BASE-TX1000BASE-T、またはそれより高速なイーサネット通信を使って構成されているが、アクチュエーターやセンサーなどのフィールドデバイスではHARTRS-232RS-485CANFlexRay、その他さまざまな通信インターフェースを使って構成されています。

産業用ネットワークイメージ
図4: 産業用ネットワークイメージ



10BASE-T1SはOSI参照モデルにおける物理層(PHYレイヤー)に関する規格で、MACより上位のレイヤーは従来のイーサネットのものが使えます。そのため、プロトコル変換が不要になり、フィールドデバイスからファクトリーバックプレーンまでの通信をシームレスにおこなうことができます。

以下に10BASE-T1Sを産業用ネットワークに適用した場合に想定される利点を紹介します。

インキャビネット配線に適用した場合

  • 産業用キャビネットは、大量の電線を使用し、一般的に低い帯域幅で動作しています。
  • 10BASE-T1Sイーサネットは、配線の数と量を劇的に減らしながら、帯域幅を拡大します。
  • 10BASE-T1Sのシンプルな配線方式は、電線の設置にかかる時間とコストを大幅に削減することができます。

バックプレーンに適用した場合

  • 10BASE-T1Sイーサネットのマルチドロップ化により、バックプレーンレイアウトと配電が大幅に簡素化されます。
  • 10BASE-T1Sは高いデータレートと低レイテンシーを維持します。

フィールドセンサーに適用した場合

  • 10BASE-T1Sイーサネットは、センサーの小規模なネットワーク(スマート街灯など)を扱うのに最適です。
  • 10BASE-T1Sは、データ通信とデータ回線による電力の両方を管理することができます。

システム内通信に適用した場合

  • 10BASE-T1Sイーサネットは、PCB(サーバーマザーボードなど)に見られるI2C、SPI、その他の独自オンボードバスのほとんどを置き換えることができます。
  • ソフトウェアとメンテナンスの労力を大幅に削減します。

10BASE-T1Sの実装

ICサプライヤーは10BASE-T1S用ドライバーをリリースしています。

リリースされている10BASE-T1SドライバーにはPHY単体製品とPHY+MAC統合製品が存在しています。

PHY単体製品を使って10BASE-T1Sを実装する場合は、イーサネットのMAC機能に対応したCPUと組み合わせて使用します。この場合、10BASE-T1SドライバーとCPU間はMII(メディアインディペンデントインターフェース)で通信がおこなわれるため18本の信号線が必要となってきます。

10BASE-T1S PHY + MAC搭載CPU接続構成例
図5: 10BASE-T1S PHY + MAC搭載CPU接続構成例



PHY+MAC統合製品を使って10BASE-T1Sを実装する場合はSPI通信でCPU/MCUと通信が可能です。この場合、CPU/MCU側でイーサネットのMAC機能に対応している必要はなくなり、10BASE-T1SドライバーとCPU/MCU間の通信は5本の信号線で接続可能です。

オンセミ社の10BASE-T1Sコントローラー NCN26010 PHYMACが統合されたコントローラー製品です。

10BASE-T1S PHY/MAC + CPU/MCU接続構成例
図6:10BASE-T1S PHY/MAC + CPU/MCU接続構成例

まとめ

工場のファクトリーオートメーションでは、フィールドデバイスと基幹システムとのシームレスな接続が重要ななか、広く普及したイーサネットテクノロジーを活用できる10BASE-T1Sは注目されているインターフェースの一つです。

オンセミ社の10BASE-T1Sコントローラーはエンハンスド・ノイズ・イミュニティ・モードを有効にすることでノイズ耐性を強化しており、25mのシングルペアイーサネットネットワークで40ノード接続の実績があります。

NCN26010についての製品概要や特長などについては、以下のリンク先の製品紹介を参照ください。

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