“車載製品” の設計・開発において、OEMからの要求を従来の SoC や CPU といった IC で実現するのは、難しくなっていると感じている方は少なくないと思います。

車載製品市場のトレンドから見ても、その傾向は強まっていくと考えており、マクニカでは “FPGA” も検討材料の一つとして持つことをおすすめしています。
以前ご紹介した、以下の記事では “車載製品におけるトレンド” と、“それに伴う課題” 、“FPGAの有効性” について解説しました。


上記記事の内容に加えて、“画像関連の車載製品” で注目すべきトレンドの一つに 「ローカルディミング技術」 があります。

大型の液晶テレビでの普及が進んでいますので、言葉自体は聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。車載製品でローカルディミングを実現するにあたっても、
“FPGA” の採用によりメリットの出るケースが数多く考えられます。

今回の記事では、これから車載製品において普及が進むと予想される「ローカルディミング」について、実現するにあたっての “従来ICにおける課題” と “FPGAのメリット”
ご紹介します。今後、求められるであろう「ローカルディミングの実現」も考慮したうえで、“FPGA導入” も検討材料の一つとして持つべきなのか、ご判断ください。

 

ローカルディミングとは

まずは、「ローカルディミングがどのようなものか」を簡単に説明します。

ローカルディミングとは、液晶パネルの裏に設置されたLEDバックライトの明るさを、複数のエリア単位(ディミングゾーン)で制御する技術を指します。

クラスターメーターのディスプレイとバックライトLED基板のイメージ

通常、バックライトは画面全体に対して一律に制御されるため、完全にバックライトを切ることはできません。画像内の黒色の部分もバックライトは光っていますので、
どうしても少し白っぽくなります。一方、ローカルディミングだとバックライトの発光量をディミングゾーンごとに変えられるため、画像内の明るい部分は発光量を強く、黒色の部分は
バックライトを切って完全な黒を表現するといったことができます。

これにより、“画像における明暗のメリハリ” をハッキリと再現でき、“よりクリアでキレイな画像” を映し出せるのが特長です。

ローカルディミングが求められる車載製品とは

次からは、ローカルディミングが求められる代表的な車載製品について紹介します。

安全性が求められるメータークラスターパネル

“安全性” の観点から、メータークラスターパネルへの採用はもっとも求められると考えます。

 “車室内” は外の天気、時間帯、トンネルの通過などの影響から、“周りの明るさが急激に変化する” 環境にあります。そのため、周りの状況に関係なく、ディスプレイ上の “重要な情報を見えやすくする” ための工夫が欠かせません。

ローカルディミングを採用すれば、一般的なディスプレイに比べて “画像や数字・文字などの輪郭をクリアに” 映し出せます。メータークラスターパネルの画像を運転者から “常に見えやすく” し、安全性を確保するための有効な手段の一つとなるでしょう。

 同じように、「安全性に関わる情報をより見えやすくというニーズ」 から、運転において必要な情報を映し出す、 “液晶ディスプレイ型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)”  への採用も求められていくと考えます。

高画質化が進む車載ディスプレイ

前部座席の中央にあるCID(センターインフォテイメントディスプレイ)、後部座席のRSE(リアシートモニター) といった“車載ディスプレイの高解像度化” が進んでいることはご存じでしょう。 "4K" のリアシートモニターで、ブルーレイの映画を車室内で楽しむといったことも珍しくなくなってきています。テレビのようにキレイな画像へのニーズが高まっていることから、
ローカルディミングへのニーズも高まると考えます。

先ほど説明した通り、車室内はテレビを設置する家庭内に比べて周りの明るさが頻繁に変わります。明暗のメリハリでクリアな画像を映し出す、“ローカルディミングのメリット”がより活きる環境といえるでしょう。

ローカルディミングの実現における従来ICの課題

“ローカルディミング” を実現するにあたり、まずはSoC といった従来のICを検討されるのではないでしょうか。確かに、ローカルディミング専用のICも市場に普及しつつありますが、実は、従来のICでは対応が難しいケースもあります。“従来のICにおいて、課題となりやすいもの” を以下に3つまとめました。

課題1.ディスプレイとLEDドライバー・LED特性を考慮した調整期間・費用の増大

ローカルディミングは、映像を表示するディスプレイとバックライトLED基板に搭載されているLEDドライバーとLEDの特性を考慮して調整が必要となってきます。これらの調整は、ローカルディミングICの設定可能なパラメータをローカルディミングICベンダーに調整依頼を行い、再度実機での評価を実施する、このフローを繰り返すことで理想的な動作に近づけていきます。

この調整を怠ると、ローカルディミングを採用したことによってハレーションが目立ってしまい、逆効果となってしまったり、表示される映像に違和感を発生する要因にもつながってしまいます。

尚、こういった調整はユーザーが簡単に行える内容ではなく、基本的にはICベンダーに依頼する必要がある為、調整するたびに費用と期間が必要となってきます。

その為、ローカルディミングでは機能実現できるスペックだけではなく、関連する部品の特性をカバーできるようなローカルディミングICの「調整力」が大変重要なポイントとなり、それらを「簡単・スピーディ」に行えなければ追加の調整工数、期間が必要になってしまい、機能実現どころではなくなってしまうケースもございます。

課題2.「バックライト制御」と「映像信号制御」の並列処理への対応

また、“ローカルディミング” を実現するには、“LEDバックライトの制御”に加えてディスプレイに映し出す “映像信号を並列で処理” する必要もあります。

LEDバックライトの制御にはディミングゾーンの数だけ複数の処理が求められますし、映像信号に対してはディスプレイに合わせたトリミングや色調の調整といった複数の画像処理が求められます。 このような “膨大な数の並列処理” は、従来の単一処理のみをあつかうICでは対応できません。
従来のICで対応するとなると、それぞれの処理ごとに専用のICを用意するといったように、ICの数を増やして対応するか、高スペックのデバイスを選定する必要があります。
また、処理量の増加に伴い、「レイテンシーの増加やタイムラグも課題」になると考えます。

課題3.今までにない大型・特殊ディスプレイへの対応

車載ディスプレイが、年々、大型化していることは実感されているでしょう。小さな画面ではローカルディミングの採用により画像をクリアにしても目立たず、せっかくのメリットがあまり活かせません。一方、大きな画面ではクリアな画像がハッキリ際立つため、よりローカルディミングのメリットを活かせます。

そのため、“大型化が進むほど” ローカルディミングへのニーズも高まると考えています。

“大型化の例” としては、助手席部分まで伸びたディスプレイや、そのディスプレイ上で円形のアナログメーターを再現するなどが考えられます。

ディスプレイが大きくなればなるほど、エリアごとにバックライトを調整できるというメリットが活きます。

“ローカルディミング” は、一つのディスプレイ内の光量をエリアごとに調整するだけではなく、助手席側、運転席側、センターディスプレイ、それぞれのディスプレイの明暗調整も可能となります。しかしながら、そもそも従来のICでは規格外の大型ディスプレイを想定しておらず、“インターフェースの種類やディスプレイの解像度に対応していない” ことが多いです。
“従来のIC” では一般的に出回っているディスプレイサイズ内でしか、ローカルディミングを実現できない可能性が高いでしょう。

ローカルディミングの実現におけるFPGAのメリット

このように、“ローカルディミング” の実現を“従来のIC” ベースにおこなおうとすると、“さまざまな課題” にぶつかると考えられます。

一方、“FPGA” なら課題をクリアにできる可能性が十分にあります。次からは、課題を解決するにあたりポイントとなる、“FPGAのメリット3つ” をご紹介します。

FPGAのメリット1.「簡単・スピーディ」かつ、圧倒的な「調整力」

FPGAでは、映像を表示するディスプレイ、背面LED基板に搭載されているLEDドライバーとLEDの特性を考慮し、様々な角度から調整することが可能です。

ハレーションの増大や、レイテンシーの増加、表示される映像の違和感など、ローカルディミング機能を実装した段階で発生しうる問題は様々ですが、FPGAは専用チップの様に調整できる範囲が限定されているわけではないので、現象課題に対して柔軟に対応することが可能です。

さらに、これらの調整を行う際、ベンダーに依頼する必要はなく、お客様自身で卓上で行うことができます。FPGA設計ツールがインストールされたPCと実機評価環境があれば、現象が発生した際に都度ベンダーへ依頼する手間はかかりません。

したがって、FPGAであれば、圧倒的な「調整力」を生かしながら「簡単・スピーディー」にクオリティの追求とディテール部分の仕上げを行うことができます。

近年、国内外の車載関連のお客様がローカルディミング用のICとしてFPGAを検討し始めている理由は、まさにここにあると言えます。

FPGAのメリット2.並列処理に強く「バックライト」「映像信号」を同時に制御可能

FPGA” のもう一つのメリットが、ハードウェアベースであるため並列処理が得意であり、なおかつ、処理速度が速いという点です。膨大な「LEDの制御」と「映像信号の制御」の
並列処理を低レイテンシーでタイムラグなく実現できる可能性は十分にあります。

例えば、過去には「お客様からのご要望」に合わせ・・・、

   ・MIPIで入力された映像信号をOpen-LDIに変換させてFPGAから出力

   ・それと同時に、FPGA内部でローカルディミング制御ロジックよりLEDを制御

   ・さらには、Open-LDIで出力する前段で画像処理なども加える

・・・といった、「並列処理を実現」させたこともあります。

FPGAのメリット3.高い柔軟性によりコストを抑えてモデルチェンジに対応可能

“FPGA” の一番のメリットは、回路データを後から書き換えられる点だと説明しました。

そのため、今までにない大型・特殊ディスプレイでのローカルディミングを求められたとしても、回路データを書き換えることで同じFPGAを流用するといったことも可能となります。

ディスプレイに限らず、さまざまな仕様に柔軟に対応できるため、「モデルチェンジによる仕様変更」 において特にメリットを発揮できます。
モデルによりローカルディミングの採用の有無や、ディミングゾーンの数が異なる、といった場合でも、同じFPGAで対応ができるのです。

このようなFPGAの柔軟性を活かしてプラットフォーム基板をつくれば、複数のモデルに同一基板を流用できる可能性が高まります。

モデルごとに相応しいICを検討し、新しいICに合わせて基板開発・改版をおこなう必要がなくなるため、工数とコストを大幅に削減できます。

ローカルディミングの導入において、FPGAが有効になるケースはご理解いただけたのではないでしょうか。
既に、ローカルディミングを採用した液晶テレビでは、FPGAが多く使われていることからも、車載製品におけるFPGAの必要性も高まっていくでしょう。

ぜひ、車載製品をあつかうメーカーでも、“FPGA” を検討材料の一つとしてお持ちいただければと思います。

FPGAの導入サポート・コンサルティングサービス

ローカルディミングを実現するICの候補の一つとして、FPGAのメリットを理解頂いた場合であっても、

「FPGAを導入するイメージがわかない」

「FPGAを設計経験が無い」

といった声が大変多くございます。

 

そういった方々向けに、マクニカのFAEがFPGAの仕様策定からFPGA導入に向けたサポート・コンサルティングサービスを実施しています。

 

まずは、実現したいことをPPT一枚又は、簡単な文面でご連絡ください。

皆さまの開発仕様実現に向け、可能な限りご支援させて頂きます。

詳細は下記URL先のページをご確認ください。

まとめ

今回の記事では、「ローカルディミング」技術を実現するにあたっての  “従来ICにおける課題” と、対応する “FPGAのメリット” について紹介しました。

“従来のIC” でローカルディミングを実現しようと思うと、次の3つへの対応が難しく “課題” となると考えます。
  課題1.ディスプレイとLED-Driver・LED特性を考慮した調整期間・費用の増大

  課題2.「バックライト制御」と「映像信号制御」の並列処理への対応

  課題3. 今までにない大型・特殊ディスプレイへの対応


一方、“FPGA” なら下記3つのメリットから、従来のICでの課題を解決できる可能性があると、ご紹介しました。

  FPGAのメリット1.「簡単・スピーディ」かつ、圧倒的な「調整力」

  FPGAのメリット2. 並列処理に強く「バックライト」「映像信号」を同時に制御可能

  FPGAのメリット3. 高い柔軟性によりコストを抑えてモデルチェンジに対応可能


このように、“FPGA” はローカルディミングの導入において多くのメリットがあります。
ぜひ、車載製品におけるローカルディミングの普及を見据え、“FPGA導入” を検討材料の一つとしてお持ちいただければと思います。

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FPGAの導入は本当に現実的なのか。現状のFPGAについて性能などを紹介している記事もありますので、合わせてご参考にしてください。

 ニーズが高まるFPGA 導入ハードルに対する現状を解説

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