OEMの要求を実現するにはSoCやCPUといった従来のICでは難しくなってきた
車載製品をあつかうメーカーのお客様から、このような声を聞くようになりました。
近年、車載製品の電子化が進むにつれ、ECU統合化の流れが加速し、要求される技術は複雑になる一方です。
また、市場の変化はますます早くなっていますので、複雑な要求にスピード感を持って対応していく必要があります。
このような状況から、マクニカでは従来のICでの対応が難しくなる傾向は、今後さらに強まっていくと予想しています。
実際、早急に対策を立てるべきだと感じ、すでにマクニカにご相談いただいているお客様もいらっしゃいます。
マクニカとしては、トレンドを踏まえて“FPGA導入”も検討材料の一つとして持つことをおすすめしています。
今回の記事では、FPGAの導入によるメリットの大きい車載製品において、今後のトレンドと考えられる課題を紹介します。
FPGAの可能性を理解したうえで、検討材料の一つにしていただければと思います。
目次
FPGAとは
まずは、改めて「FPGAとは、どのような半導体か?」を簡単に説明します。
FPGA とは「Field Programmable Gate Array」の略称であり「後からでも書き換え可能なロジックデバイス」のことを指します。
FPGAは回路データを書き換えることができるので、さまざまな仕様変更に柔軟に対応できるのが一番の特長です。
そのため、OEMから要求される機能や仕様に対しても柔軟にこたえられます。

汎用ICを都度選定しなくても、FPGA 1 Chipで様々な機能を実現可能
FPGAが車載製品で使われているイメージはないかもしれませんが、
液晶パネル、オーディオ、カメラ、サーバーや基地局をはじめとした通信機器などではすでに普及しています。
カーナビやカーオーディオによる車内環境のエンターテインメント化、コネクテッドカーの普及が進む車載製品においても、
これらの技術は無関係ではありません。
実際、車載製品においてもFPGAの採用は加速しています。
遅かれ早かれ、導入検討を迫られる時期は来るのではないでしょうか。
FPGAの導入でメリットの大きい車載製品とトレンド
次からは、実際にFPGAの導入でメリットの大きい車載製品を今後のトレンドとともに紹介します。
1.高度な画像処理が求められる車載製品
まず挙げられるのが、“画像処理”を求められる車載製品です。
高度な画像処理を求められる車載製品は増えており、トレンドの代表としてはメータークラスターパネルや電子ミラーが挙げられます。
ご存じの通り、メータークラスターパネルは運転に必要なメーターを映し出す液晶ディスプレイです。
針メーターからメータークラスターパネルに変わっているのが世界的なトレンドであり、すでにほとんどの車で使われています。
また、電子ミラーはサイドミラーの代わりにカメラを設置し、運転席のディスプレイに後方の映像を映し出す機器です。
従来のミラーと比べて悪天候時も見やすく、死角も少なくなることから、今後普及していくと予想されています。
これら二つに共通して“課題”となるのが、「運転席からいかにディスプレイを見やすく調整するか」という点です。
実現のためには、“高度な画像処理を数多く”行う必要があります。
例えば、天候の変化や時間帯に合わせてディスプレイの明るさを自動変更し、常に見やすくするといった技術は欠かせません。
また、ディスプレイのサイズはもちろん、湾曲があればそれに合わせて画像を調整する必要もあります。
これら高度な画像処理はSoCやCPUといった従来の半導体でも対応できますが、
特定の画像処理に特化しているため、仕様に対して柔軟に対応することはできません。
一方、“FPGA”であれば、「必要に応じて最適な規模の画像処理を実装」できます。
ソフトウェアではなくハードウェアベースなので、「複数の高度な画像処理も並列かつ高速に行う」ことも可能です。
前述のトレンドを実現するにあたってメリットが出る場面は多いと考えます。
FPGA |
CPU, SoC |
|
処理方法 | ハードウェア処理 (電気回路情報) |
ソフトウェア処理 (パソコンで読み取れる情報) |
処理の特徴 | ・並列処理・応答時間が一定・物理層に近い | ・順次処理・ライブラリが多数用意・アプリケーション層に近い |
向いている機能 | ・処理を最適化し省電力化 | ・ソフト処理全般 |
I/O | ・カスタマイズ可能・GPIO多い | ・特定のペリフェラルのみ・GPIO少ない |
2.高画質化が求められる車載製品
4Kや8Kといった高画質が求められる車載製品においても、“FPGAの導入”がメリットになるケースは十分考えられます。
例えば、リアモニターによりドライブ中に後部座席でテレビやDVD、YouTubeを視聴することが一般的になっているのはご存じでしょう。
時代の流れとともに4K、8Kというように高解像化が進んでおり、ディスプレイサイズも大きくなっているのがトレンドです。
このような傾向を「車載空間のエンターテインメント化」と捉えており、近年ますます加速しているように感じます。

ディスプレイの解像度・サイズが変われば、それに合わせて対応するICの変更が必要になります。
また、同一機能のモデル展開を求められれば、その都度、車種ごとにICの変更だけではなく基板開発・改版まで必要です。
近年の技術トレンドの速さも相まって、従来のICでは設計・開発スピードが追い付かなくなる可能性があります。
何より、頻繁に求められる基板開発・改版により、「長期で見たときの車載製品の開発費が徐々にかさんでいくこと」が大きな課題になるでしょう。
"FPGA"なら、ディスプレイの解像度・サイズが変わっても、「内部の回路データを書き換えることで柔軟に対応」できます。
基板開発・改版を行う追加工数を最小限に抑えられるため、トレンドに素早く対応可能です。
また、トータルで見たときの「設計開発費を抑えられる可能性」も十分あります。
3.モジュールの多台数化への対応
車載カメラ、ディスプレイ、マイクといったモジュールの多台数化も車載製品におけるトレンドです。
例えば、車載カメラの数が年々増えていることはご存じでしょう。
前述した電子ミラーにもカメラは必要ですし、ドライブレコーダー、バックモニターといったカメラが必要なモジュールも
近年はほとんどの車載に搭載されています。
また、衝突被害軽減ブレーキなどの高度安全運転支援システムを高性能化するために、
複数台のカメラをレーダーとして使うことがトレンドになっています。
車内に幼児が置き去りにされる事件も問題になっていますので、
「見守りシステム」や「置き去り検知」用のカメラの導入も進むのではないかと予想しています。
これらを踏まえても、今後ますますカメラの数は増えていくことでしょう。
ディスプレイにおいては、用途に合わせてさまざまなディスプレイが設置されるようになっています。
メータークラスター、電子ミラー、カーナビ、助手席用の操作パネル、後部座席のテレビなどが挙げられます。
また、車に取り付けられているセンサーも増えているので、エンジンの回転数、車の速度だけでなく、温度・湿度、人のいる・いないなど、
センサーの情報を車内にフィードバックするためにも多くのディスプレイが必要になっています。
マイクにおいては、高度安全運転支援システムにおけるセンサーとしての使用が多台数化の要因の一つです。
また、スマホなどでは当たり前になっている音声操作も注目されています。海外の高級車などでは導入されており、
今後は日本にも普及が広がると予想されます。
音声操作を実現するためには、運転席、助手席、後部座席と複数のマイクが必要ですので、マイクも多台数化していく傾向にあるでしょう。
モジュールの数が増えることによる一番の課題はインターフェースの数です。
SoCやCPUといった従来のICでは、今後、インターフェースの数が足りないケースが出てくると考えられます。
また、従来のICでは複数のモジュール処理に追いつけないといったケースもありえます。
さらに、モデルチェンジやOEMからの仕様変更により一つでもモジュールが変われば、ICの変更による基板開発・改版も必要になるかもしれません。
多台数化により考えられる課題は多く、工程・コストともに増える可能性も十分に考えられます。
"FPGA"なら柔軟性を活かして、「モジュールの数に合わせたインターフェースの変更」が可能です。
たとえモジュールが急遽変更になったとしても対応でき、ハードウェアベースなので多数のモジュール処理にも強くメリットを発揮しやすいです。
4.車載用ECUの統合への対応
自動車の電気制御化に伴い、自動車1台に搭載されるECUの数は膨大になっています。
軽量化、コスト削減といった観点から、ECUを統合化する流れがトレンドです。
ECUを統合するにあたり、「メインのICにおいてはインターフェースの数と種類が多く必要」になります。
既存のICでは対応が難しいケースが出てくるでしょう。
“FPGA”ならインターフェースの変更により対応できますので、メインのICとしての使用にも優れています。
また、“FPGA”はハードウェアベースなので、処理速度も既存のICよりも速く、統合化でのメリットを出しやすいです。
「車載用ECUの統合」に関しては、下記の記事で詳細を紹介しております。合わせてご参照ください。
5.「見守りシステム」に代表される新しい技術への対応
前の文でも少し触れましたが、近年の車内に幼児が置き去りにされる事件から、車内の「見守りシステム」が注目されています。
見守りシステムには、物体を検出するセンサーが使われていますが、これだけでは人か物かの判別はできません。
そのため、画像認識のAIを活用し、センサーが検知した物体が「人かどうかを判断」する必要があります。
このレベルのAI処理をしようと思うと、マイコンではスペックが足りず、GPUではオーバースペック過ぎるのでコストや電力がかかり過ぎるという問題があります。
一方、“FPGA”ならハード処理が得意であることから、「人かどうかの判断」を実現するAI処理も十分可能です。
スペック面で過不足がなく、GPUほど電力も消費しないため、コストや消費電力を抑えられます。
また、“FPGA”なら内部のハード処理のみで「見守りシステム」を完結させることもできます。
インターネットを通じて映像データをクラウドで処理する必要がないため、セキュリティ面でも不安がありません。
このように、「AIやセキュリティといった新しい技術」に対してもFPGAの導入がメリットになる可能性があります。
車載製品の開発で求められる半導体は、用途によってさまざまありますが、
今後のトレンドを考えると、FPGAは車載製品においてメリットは大きいと考えます。
今後もOEMの要求に素早く、的確にこたえるには、FPGAも検討材料の一つとして持っておくことが重要ではないでしょうか。
FPGA導入のフロー
FPGAに興味を持っていただけたとしても、FPGAの設計開発でハードルを感じるという方は多いのではないでしょうか。
さまざまな業務で忙しいなか、一からFPGAの知識をインプットし、実現可否を検討しながら、設計まで進めていくのは難しいと思います。
そこで、マクニカではハードルを最小限にするため、FPGAの導入を下記の①~⑤のステップでサポートしています。
① 実現したい機能・既存システムの課題をテキストや図でマクニカに送付
② FPGAで実現する具体的な構成案をマクニカから掲示
③ FPGAの長所を活かしたメリットの追加提案
④ FPGAの型番確定および概算価格の掲示
⑤ FPGA設計開発費用・期間の掲示
お客様でご用意いただくのは、「①のテキスト・図のみ」です。パワーポイント1枚の簡単なものでかまいません。
工数を最小限に抑えながらFPGAの設計開発を進めることができます。また、FPGA納入後のアフターサポートも用意していますのでご安心ください。
「車載製品におすすめのFPGA」をご紹介している記事もありますので、合わせてご参考にしてください。
まとめ
今回の記事では、『今後もOEMの要求に応えていくには、
"車載製品"においても“FPGAの導入を検討材料の一つ”として持つことがおすすめ』ということをご紹介しました。
特に下記においてはトレンドとそれに伴う課題から、導入のメリットが大きいと考えます。
・高度な画像処理が求められる車載製品
・高画質化が求められる車載製品
・モジュールの多台数化への対応
・車載用ECUの統合への対応
・「見守りシステム」に代表される新しい技術への対応
いずれもFPGAのさまざまな仕様変更に対応できる柔軟性と、ハードウェアベースによる複数処理と高速処理を活かすことでトレンドの実現が可能です。
従来のICでも対応できるケースもありますが、トレンドが加速すればするほど“FPGA導入”によるメリットは大きくなると考えます。
これからの時代、FPGAも検討材料の一つとして持つことが、車載製品をあつかうメーカーには求められているのではないでしょうか。
『FPGAの導入は本当に現実的なのか?』現状のFPGAについて性能などを紹介している記事もありますので、合わせてご参考にしてください。
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