こんにちは、太郎です。
前回は PLL の分周 / 逓倍の原理をを中心に説明しました。
PLL の分周 / 逓倍の原理を利用すれば、クロック信号にスペクトラム拡散をかけることが出来ます。
スペクトラム拡散は何に使われる?
クロックにおけるスペクトラム拡散は、クロック信号によって生じる EMI 雑音を除去するための手段です。
EMI ( Electromagnetic Interference ) は、デバイスやシステムが外部にもたらす電磁妨害のことです。
某レコード会社とは関係ありません。(笑)
クロック信号によって配線に流れる電流が変化するため、どうしても EMI を放出してしまいます。
この EMI は FCC ( Federal Communications Commission : 連邦通信委員会 ) によって規定されています。
EMI 対策として、ファラデーシールドの実装も挙げられますが、デバイスのパッケージサイズが大きくなってしまいます。
クロック信号にスペクトラム拡散をかけることで、ファラデーシールドの実装をせずに、EMI を削減することができます。
スペクトラム拡散で、どうやって EMI を削減するか?
スペクトラム拡散は、クロックの周波数を意図的に変調することで、EMI を削減します。
スペクトラム拡散をしない場合は、一つの周波数に全エネルギーが集中しているような状態です。
スペクトラム拡散をすることによって使用する周波数帯域を広げ、エネルギーを拡散させます。
スペクトラム拡散の原理
ようやくここで PLL の登場です。
前項にてスペクトラム拡散は周波数を意図的に変調すると説明しましたが、この変調に PLL が使用されるのです!
スペクトラム拡散は、PLL の FB 分周器の分周率を変えることで実現します。
スペクトラム拡散にはセンタースプレッド / ダウンスプレッドの 2種類の方式があります。
センタースプレッドは拡散する周波数を広域 / 低域に拡散します。
一方、ダウンスプレッドは低域側のみに周波数を拡散します。
これらは後段デバイスの保証周波数によって使い分けられます。
スペクトラム拡散使用時の注意点
放出する EMI を低減させる、ありがたいスペクトラム拡散ですが、注意点があります。
スペクトラム拡散クロックをシステムで使用する際には、クロックジェネレータを統一することです。
スペクトラム拡散の原理のクロック波形を見て疑問に思われた方もいると思いますが、スペクトラム拡散したクロック信号にはタイミングジッターが発生しています。
スペクトラム拡散は、意図的にタイミングジッターを起こす技術ともいえます。
常に周波数を変化させるため、システム全体で同期をとるためには、クロックジェネレータを統一しなければなりません。
もう一つ、注意しなければならない点があります。
それは、スペクトラム拡散クロックをバッファによって拡散する場合は、PLL のループ帯域幅を広域に設定しなくてはなりません。
PLL のループ帯域幅とスペクトラム拡散のビミョーな関係については次回書かせて頂きます。