こんにちは。

マクニカでインテル® FPGA 製品の技術サポートをしている インテル・F・ハナコ です。

 

 

今回は、Quartus® Prime のコンパイル・テクニック「インクリメンタル・コンパイル」について概要をお話しします。

(インクリメンタル・コンパイルをご存じない方は、まず 「FPGA デザインの一部だけを再コンパイルする方法」 を先にご覧ください。)

インクリメンタル・コンパイルのサポート環境

インクリメンタル・コンパイルが使用できる環境を以下に示します。

対応する
Quartus Prime
Quartus Prime Standard Edition
対応する
デバイス・ファミリ
Quartus Prime Standard Edition がサポートするデバイス・ファミリ
※ ただし MAX® V、MAX II を除く
※ Arria 10 の場合は、Quartus® Prime Pro Edition においてインクリメンタル最適化機能(Incremental Optimization)の活用を推奨

インクリメンタル・コンパイルが有効な適用例

インクリメンタル・コンパイルは、デザイン・フローのさまざまな場面で適用でき、デザインの生産性向上に役立ちます。例えば、

  • ソース・ファイル(特に大規模デザイン、大規模デバイス向け)変更時や最適化オプションを適用時のコンパイル時間を短縮
  • 他のロジックを追加する前に、既存デザインの結果を維持
  • ファンクション・ブロックごとに担当者が設計し、最終的にトップ・レベルで結合する
  • SignalTap® II ロジック・アナライザでのデバッグ時


このようなときに、大きなメリットが得られます。

トップダウン・アプローチ と ボトムアップ・アプローチ、あなたはどっち派?

ユーザーのデザイン構成、つまりプロジェクトの管理方法により、インクリメンタル・コンパイルのアプローチ方法(作業フロー)が異なります。

トップダウン・アプローチ方法

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トップダウン・アプローチ手法

上図は、トップダウンでアプローチするイメージを表しています。

一つのプロジェクト下でデザイン設計を進めながら、変更が必要になったパーティション(モジュール)だけを再コンパイルする手法です。

これにより、以下のメリットがあります。

  • 変更のないパーティションは再コンパイルされないので、コンパイル時間を短縮できる
  • 変更のないパーティションは最終回のコンパイル結果(論理合成結果あるいは配置配線結果)を引用するため、性能(パフォーマンス)を維持できる
  • コンパイル時間の短縮により、タイミングクロージャが必要なパーティションの改善に注力できる
  • Quartus Prime の操作フローが簡単!


そのため、インクリメンタル・コンパイル初心者向きの手法と言えます。

また、一つのプロジェクトの中で作業するため、ファイル管理もシンプルです。

ボトムアップ・アプローチ方法

もう一つは、ボトムアップからアプローチする方法です。

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ボトムアップ・アプローチ手法

デザイン設計の初期段階からモジュールごとに独立してコンパイル作業を進め、各モジュールが完成したら最上位プロジェクトにインポートしていく、まるでパズルを組み立てるような手法です。

この方法には、以下のメリットがあります。

    • パーティション(モジュール)ごとにプロジェクトを作成し、個々にコンパイル作業を進めることができるので、未完成のモジュールを待つ必要がない
      ⇒ 作業のパラレル化により効率 UP!

 

    • 完成した下位の各パーティションは、qxp フォーマット(バイナリ化されたネットリスト)に変換して最上位プロジェクトに統合するので、最上位プロジェクトにおけるデザイン・ファイル管理がシンプルになる
      ⇒ 例えば、自社開発のモジュール(例えばカスタム Intellectual property(IP)など)をパートナーに納品する際、qxp ファイルで提供できるので、下位パーティションの HDL ファイルを開示する必要がない

 

  • 性能を維持したままで下位の各パーティションを組み込むことができる


Quartus Prime の操作フローはやや複雑ですが、

複数のグループで同時に設計をしている場合や、完成した下位モジュールからコンパイル作業に入りたい(かつ各モジュールの性能も維持したい)場合などに適した手法です。

インクリメンタル・コンパイルの主な作業はこの2つ

トップダウン・アプローチもボトムアップ・アプローチも、主な作業はこの2つ!

  • デザインに対してパーティションを作成すること
  • 各パーティションのネットリスト・タイプを指定すること


これらをどのような手順でどのように作業するかは、各アプローチ方法により異なります。
ここでは、各アプローチ共通の操作に関してざっくりとご紹介します。


パーティションを作成する

ユーザー自ら、最上位階層のプロジェクトに対して “パーティション” という境界(間仕切り)を作ります。

インクリメンタル・コンパイルでは、このパーティション単位でコンパイル結果の情報(データベース)を生成します。

そのため、次回のコンパイル時に、前回のデータベースを更新(再コンパイル)するか、流用(保持)するかをパーティションごとに指定できるので、変更のあったパーティションだけを再コンパイルさせることができるのです。


1. パーティションをコントロールするための Design Partitions Window (Assignments メニュー)を表示させて、<< new >> をダブルクリックします。

 

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2. Create New Design Partition のウィンドウが立ち上がるので、下位モジュールを追加します。

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3. これでパーティションの登録完了です!(プロジェクトの最上位デザインは、常に “TOP” としてパーティションに登録されます。)

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プロジェクト内すべてのモジュールをパーティションに登録するかどうかは、ユーザーがどのようにプロジェクトのデザインを管理したいか、によります。

パーティションのネットリスト・タイプを指定する

作成したパーティションに対して、次回のコンパイル時に “前回のコンパイル結果のどの時点の情報” を適用するかを、Design Partitions Window の Netlist Type で指定します。
ネットリストの種類には、以下があります。

Netlist Type 概要
Source File ソース・ファイルを使用し、常にコンパイルが実行されます。
Post-Synthesis 前回のコンパイル(論理合成後)のネットリストを適用します。
Post-Fit 前回のコンパイル(配置配線後)のネットリストを適用します。
Empty ソースもネットリストも使用しません。パーティション間のポート接続のみ実行されます。


また、Post-Fit を指定した場合はさらに細かく配置配線状況のレベル(Fitter Preservation Level)を指定することが可能です。

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インクリメンタル・コンパイルの操作方法

各アプローチ方法に応じた操作手順は、下記インテル® FPGA オンライン・トレーニングをご覧ください。

コース名は Quartus II ですが、現在の Quartus Prime も同様の操作フローです。


Quartus II インクリメンタル・コンパイル入門
Quartus II インクリメンタル・コンパイルによるチームベースのデザイン・フロー

 


なお、インテル® FPGA オンライン・トレーニングの受講方法は、下記ページを参考にしてください。

インテル FPGA テクニカル・トレーニングを無料で受講しよう


メーカーのホームページにインクリメンタル・コンパイルに関する技術資料やトレーニングおよびデモをまとめたポータルページがありますので、こちらもご利用ください。(※ 最新情報は英語サイトをご活用ください。)


インクリメンタル・コンパイル・リソース・センター(日本語サイト)
インクリメンタル・コンパイル・リソース・センター(英語サイト)

オリジナル資料も現在作成中です!(近日公開予定)

最後に

いかがでしたか、インクリメンタル・コンパイル。
簡易的にコンパイル時間を短縮したいなら スマート・コンパイルラピッド・リコンパイル、計画的に詳細なコントロールをしたい & そのついでにコンパイル時間も短縮したいなら インクリメンタル・コンパイル ですね。

知っているのと知らないのでは、コンパイル時間に大きな差があります。うまく活用して、効率アップを図ってください。


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