伝送規格をご紹介している本シリーズでは、これまで100Gと400Gの光トランシーバーモジュールの規格について深堀りしてきました。
第1弾:光トランシーバーモジュールの伝送規格 ~100G編~
第2弾:光トランシーバーモジュールの伝送規格 ~400G編~
生成AI技術を活用したチャットボットや画像生成アプリケーションなどの出現により、データセンターではこれまで以上に膨大な通信トラフィックへの対応が求められています。今回は、AI時代の通信規格として注目されている800G対応の光トランシーバーモジュールの規格(フォームファクター)と光伝送規格について深堀りしてみたいと思います。
800G光トランシーバーモジュールのフォームファクター
現在、800Gの光トランシーバーモジュールのフォームファクターとしては、QSFP-DDとOSFPの2種類があります。
QSFP-DDとOSFPの電気レーン数は、400Gと800Gで同じく8レーンです。一方、1レーンあたりの電気信号の伝送速度が100Gとなります。
フォームファクター |
1レーンあたりの速度とレーン数(電気側) |
QSFP-DD |
100G×8レーン |
OSFP |
表1. 800Gに対応したフォームファクター
800Gの光トランシーバーモジュールのフォームファクターにおいては、OSFPに優位性があると考えられております。この優位性の理由としては、400Gの記事でもご紹介した放熱や内部回路の実装における点が挙げられます。
800Gの光伝送規格
以下の表2は、800Gの光伝送規格をまとめたものです。
通信距離 |
多芯光ファイバー (MPOコネクター) |
2芯光ファイバー (LCコネクター) |
|
Multi-mode Fiber |
100m |
800GBASE-SR8 (IEEE P802.3df) ※1 |
- |
Single-mode Fiber |
500m |
800GBASE-DR8 (IEEE P802.3df) ※1 2x400G DR4 (IEEE P802.3bs, 400GBASE-DR4) |
- |
2km |
800GBASE-DR8+ (IEEE P802.3df) ※1 |
2x400G FR4 (IEEE P802.3cu, 400GBASE-FR4) |
|
10km |
- |
800G LR (OIF 800LR) ※2 |
|
120km |
- |
800G ZR (OIF 800ZR, amplified) ※2 |
表2. 800G光伝送規格
※1. 2024年3月時点でIEEE P802.3dfにより規格化されると予想される光伝送規
※2. 2024年3月時点でOIFにより規格化が進められている光伝送規格
表の分類について説明します。まず上から2行目はMulti-mode Fiberを使用する規格です。3~6行目はSingle-mode Fiberを使用する規格です。 なお3~6行目は、最大伝送距離によって分類しています。また表の左から3列目は多芯光ファイバーを使用する規格です。4列目は2芯光ファイバーを使用する規格です。
上記の規格は、以下のような団体によって標準化されています。
・米国電気電子学会のIEEE802.3 Ethernet Working Group
・光ネットワーク機器や関連するコンポーネントベンダーなどが参加している光ネットワーク技術を推進する団体(OIF)
伝送距離でみる4つの代表規格
800G光トランシーバーモジュールの代表的な光の伝送規格として、(1)短距離用のSR8、中距離用の(2)800GBASE-DR8、(3)2x400G DR4、(4)2x400G FR4が挙げられます。
(1)短距離用の800GBASE-SR8
SR8の8は、光信号が8レーンであることを示します。つまり、光信号は100G×8レーンの構成です。伝送距離が100m以内の短距離接続にはこの800GBASE-SR8(図1)が使用されると考えます。

図1. 800GBASE-SR8ブロック図
中距離用の(2)800GBASE-DR8/800GBASE-DR8+、(3)2x400G DR4、(4)2x400G FR4
続いて、最大伝送距離が500mと2kmの中距離用の光伝送規格を紹介します。
(2) 800GBASE-DR8/800GBASE-DR8+
まず、最大伝送距離が500mの「800GBASE-DR8」、2kmの「800GBASE-DR8+」という光伝送規格を紹介します。
DR8/DR8+の8も光信号が8レーンであることを示し、100G×8レーンの構成になります。最大伝送距離の違いにより、使用するファイバー種類がSR8と異なります。しかし、内部構成は800GBASE-SR8と同様と考えられます。光コネクターについて補足すると、800GBASE-SR8/DR8/800GBASE-DR8+では、光コネクターにMPO-16コネクターを使用します。MPO-16コネクターは図2のように送信8レーン、受信8レーンの構成になっています。

図2. MPO-16コネクターの図
※QSFP-DD MSAより参照
続いて、同じ多芯光ファイバーを用いる中距離用の光伝送規格として、2x400G DR4と2x400G FR4があります。800Gの光信号規格には、既存の400Gの光伝送規格を2組用いる考え方の規格があり、それが2x400G DR4と2x400G FR4です。
(3) 2x400G DR4
2x400G DR4は400Gの光伝送規格である400GBASE-DR4を2組用いて、最大伝送距離が500mの800Gの光伝送規格です。以下が2x400G DR4のブロック図になります。

図3. 2x400G DR4のブロック図
繰り返しになりますが、電気信号は送信・受信はそれぞれ8レーンあります。この8レーンある電気信号のうち、送信の4レーンと受信の4レーンを用いて、1組にまとめます。1組にまとめたものが図中のオレンジ色の点線で囲われた箇所になります。このオレンジ色の点線で囲われた箇所は400GBASE-DR4と同じ構成になります。同様に考えることで、緑色の点線で囲われた箇所も400GBASE-DR4と同じ構成になります。
このように最大伝送距離が500mである400Gの光伝送規格400GBASE-DR4を、2組用いた規格が2x400G DR4です。2x400G DR4では、光コネクターにDual MPO-12コネクターを使用します。Dual MPO-12コネクターは図4のように、2組のMPO-12コネクターの構成になっています。

図4. Dual MPO-12コネクター図
※QSFP-DD MSAより参照
以下の図5のように光伝送規格が400GBASE-DR4の光トランシーバーモジュールを2つ用いることで、ブレイクアウトすることも可能です。

図5. 2x400G DR4と400GBASE-DR4のブレイクアウト例
(4) 2x400G FR4
2x400G FR4は400Gの光伝送規格である400GBASE-FR4を2組用いて、最大伝送距離が2kmの800Gの光伝送規格です。以下が2x400G FR4のブロック図になります。

図6. 2x400G FR4のブロック図
2x400G DR4と同様に考えると、図中のオレンジ色の点線で囲われた箇所と緑色の点線で囲われた箇所が400GBASE-FR4と同じ構成になります。
このように最大伝送距離が2kmである400Gの光伝送規格400GBASE-FR4を2組用いた規格が2x400G FR4です。2x400G FR4では、光コネクターにDual LCコネクターを使用します。Dual LCコネクターは図7のように、2組のLCコネクターの構成になっています。

図7. Dual LCコネクター図
※QSFP-DD MSAより参照
長距離の800G LR・800G ZRも
最大伝送距離が10km、120kmといった長距離用の光伝送規格もあります。これらはOIFにより規格化を進めている段階ですが、最大伝送距離が光アンプなしで10kmの光伝送規格が800G LR、光アンプありで120kmの800G ZRとなる模様です。
800G伝送の新しい光トランシーバーモジュール:Linear-drive Pluggable Optics
800Gには、Linear Drive Optics = LPOという新しいコンセプトの製品が検討されています。具体的には、信号処理やクロックの再生をおこなっていたDSPやCDRを省いて、直接電気信号と光信号を変換する、というものです。
最大のメリットは消費電力の低減です。一方で信号品質の面では不利となり、長い伝送距離を実現するのは難しくなるものと思われます。
800G光トランシーバーモジュールの伝送規格について解説しました
本記事では現在確認されている、または今後規格化が予想される800Gの光伝送規格をまとめて紹介しました。
800LR・800ZRの他にも、IEEE P802.3 djにより規格化を進めている光伝送規格もあります。その規格によると、光信号1レーンあたりの伝送速度は200Gbpsとなります。1レーンあたりの伝送速度200Gbpsの光信号により、200Gx4レーンの構成の800Gの光伝送規格や更に高速な1.6Tbpsの光伝送規格の制定も視野に入っているようです。また、これらについても情報が入り次第ご紹介します。
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