現在は、ほとんどのデバイスはCMOSですが、高速のCMOSが現れる前は、ほとんどのデバイスはTTLでした。
その当時、CMOSはありましたが、例えば、メタル・ゲートのCMOS4000シリーズのように、非常に低速のため、低電力の要求が強い場合のみ使用されていました。

図1にTTL(7400)の出力の静特性を示します。
Low側(Pull Down)と、High側(Pull Up)とが非対称で、駆動能力という概念も現在とは異なっていました。
Low側は、ある電流までは出力抵抗が小さく、High側は、ほぼ100Ω程度です。
したがって、現在のCMOSで多用されている、ダンピング抵抗を挿入することは無意味でしたし、その概念もありませんでした。

図1. TTLの静特性
図1. TTLの静特性

図2は、現在のCMOSの静特性とBergeron解析結果を示します。
LowとHighとがほぼ対称で、いずれも直線とみなせます。
24mAドライバに22Ωのダンピング抵抗を挿入して、ほぼきれいな応答を示しています。

図2. CMOSの静特性とBergeron図表
図2. CMOSの静特性とBergeron図表

図3は、Z0=50Ωの場合のTTLのBergeron解析で、図4はその時間応答です。
横軸は、線路の片道の伝搬遅延τで正規化しています。
LowからHighの立ち上がりは、2.3V付近に最初の段が付き、その後ゆっくりと最終値に近づきます。HighからLowは、負のオーバシュートが存在しますが、一度で立ち下がります。

図3. Z0=50ΩのBergeron図表
図3. Z0=50ΩのBergeron図表
図4. Z0=50Ωのときの時間応答
図4. Z0=50Ωのときの時間応答

図5と図6は、同じくZ0=80Ωの場合です。
立ち上がりにやや段が付きますが、50Ωよりも良好です。

図5. Z0=80ΩのBergeron図表
図5. Z0=80ΩのBergeron図表
図6. Z0=80Ωのときの時間応答
図6. Z0=80Ωのときの時間応答

図7と図8は、同じくZ0=100Ωの場合です。
ようやく、一度で立ち上がるようになりました。

図7. Z0=100ΩのBergeron図表
図7. Z0=100ΩのBergeron図表
図8. Z0=100Ωのときの時間応答
図8. Z0=100Ωのときの時間応答

図9と図10は、同じくZ0=120Ωの場合です。
Z0=120Ωのボードは、作りにくいということと、図10に示すように、立ち上がりの最初の振幅が、Z0≦100Ωの場合の最終値よりも高くなり、High側の出力回路のエミッタホロアの特性により、定常値に落ち着くのに時間を要します。図10のLow→Highの最後の振幅と、High→Lowの最初の振幅とに差があることが分かります。

図9. Z0=120ΩのBergeron図表
図9. Z0=120ΩのBergeron図表
図10. Z0=120Ωのときの時間応答
図10. Z0=120Ωのときの時間応答

図11に、図10の立ち上がり波形を、135τまで解析した結果を示します。最初に3.7V付近まで立ち上がり、その後は、上述のエミッタホロアのベース-エミッタの逆バイアスによって、高インピーダンスとなり、じわじわと最終値の3.5Vに漸近します。

出力特性は、データシートからプロットして得たもので、実際の回路のデータとは少し異なるかもしれませんが、TTLのときにはこのような厄介な現象も考える必要がありました。定常値まで到達する前に、立ち下がると、Lowレベルがそれだけ持ち上がります。TTLは、特にLow側のマージンが少なかったので、気をつける必要がありました。

図11. Z0=120Ωのときの立ち上がり波形
図11. Z0=120Ωのときの立ち上がり波形

図12に、参考のために、TTLの回路図を示します。なぜ図11のような現象が生じるのか考えてください。

図12. TTLの回路図
図12. TTLの回路図

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