電源や増幅回路などは、多くの場合、負帰還増幅回路で構成されています。負帰還(negative feedback)とは、出力の一部を入力に逆相で戻すことをいいます。帰還がうまくいかないときに、応答が不安定になり、最悪の場合、発振することがあります。

負帰還回路の安定の程度を考えることを、安定判別といいます。

このために必要な知識は、
(1)位相の遅れ回路と進み回路
(2)オペアンプの基本特性
(3)帰還回路の利得(ゲイン)と位相との関係
(4)一巡伝達関数
(5)安定判別
(6)位相補償
です。

以下にそれぞれについて、3回に分けて述べます。

遅れ回路と進み回路

回路は、抵抗、キャパシタ、インダクタの受動部品とICやトランジスタなどの能動部品の組み合わせで構成されます。
このうち、多くは、抵抗とキャパシタとの組み合わせです。

図1. 遅れ回路と進み回路

図1は、抵抗とキャパシタの最も簡単な組み合わせ回路で、(a)は、積分回路または遅れ回路といい、(b)は、微分回路または進み回路といいます。これらは、抵抗とキャパシタ1組で構成されており、1次遅れ回路とか1次進み回路といいます。

 

積分や微分という名称は、同図に示すように、この回路に矩形波を加えたときの動作が、積分や微分に近い応答をすることから、このように言われています。ここで、遅れ回路と進み回路について考えます。

遅れ回路と進み回路の伝達関数

図2は、それぞれの伝達関数V2/V1を式で表したものです。
いずれも、分母のsの次数が1次なので、1次といいます。

図2. 伝達関数

図3(a)は、R=400Ω、C=400pFのときの、1次遅れ回路の絶対値をデシベル(dB)で表したものです。角周波数ω0=1/CRのときの振幅は、-3dBとなります。

この1次遅れ回路は、ω0以上の周波数において、直線でロールオフ(roll-off)します。この傾きは、-6dB/octまたは、-20dB/decです。octは、音楽のオクターブに起因し、周波数が2倍になると、-6dB(脚注1)、すなわち半分になることを意味します。decは、1桁(decade)を意味し、周波数が1桁変わると、特性は10倍(1/10)変化することを意味します。

図3(b)は、同じく1次遅れ回路の位相を示したものです。ω=ω0で-45°となります。

図3(a). 1次遅れ回路の振幅特性
図3(b). 1次遅れ回路の位相特性

図4(a)、(b)は、同じく1次進み回路の振幅と位相です。

図4(a). 1次進み回路の振幅特性
図4(b). 1次進み回路の位相特性

遅れ回路と進み回路の時間応答

図5は、1次遅れ回路に1MHz(ω0)の正弦波を加えたときの時間応答です。入力波形に対して、0.125μs遅れています。1MHzの周期は1μsなので、1/8、すなわち360°/8=45°遅れることになります。図3(b)を参照ください。この遅れは、周波数によって変わります。

図5. 1次遅れ回路の時間応答 (1MHz)

図6は、1次進み回路に1MHzの正弦波を加えた波形です。この場合は、0.125μsの進みとなるので、図4(b)のように、45°進むことになります。

1次遅れ回路の遅れは、最大で90°、もう一つ遅れ回路が追加されると2次の遅れ回路となり、最大で180°の遅れとなります。180°の遅れは、正弦波で考えると波形が反転することになります。これは後述しますが、帰還回路で重要なことです。

 

図6. 1次進み回路の時間応答 (1MHz)

負帰還回路

図7は、負帰還回路の原理図です。
この回路は、利得A0の増幅回路と、出力のβ倍(β<1)の帰還回路により構成されます。符号を変えて帰還するので、負帰還回路といいます。

図7. 負帰還回路

入力電圧をVIN、出力電圧をVOUTとすると、増幅回路の入力には、VINと-β×VOUTとが加えられ、この和(符号が異なるので差)のA0倍がVOUTになります。
すなわち、
A0×(VIN-β×VOUT)=VOUT
この式からVOUTを求めると、
VOUT=A0/(1+A0β)×VIN
となります。
この回路の利得Gは、
G=VOUT/VIN=A0/(1+A0β)
となり、A0は、一般的に10の5乗以上の非常に大きな値で、βは有限な値なので、上式の分母の1は無視でき、
G≒1/β
となります。
βは、簡単には抵抗の分圧で実現できます。後述の実際の回路(図8)を参照ください。

 

増幅回路A0は、多くの場合オペアンプを用います。
帰還回路は、簡単な場合は、抵抗の組み合わせで、複雑な場合には、抵抗とキャパシタを組み合わせます。

ごく単純な、すなわち、オペアンプと抵抗を組み合わせて、数倍の増幅回路を構成する場合には、安定した回路が構成できますが、電源のように、容量負荷の場合には、きちんと安定判別をする必要があります。

 

負帰還回路の利点

負帰還回路の利点は、
(1)広い周波数帯域を得ることができる
(2)利得を安定に設定できる
(3)歪みやノイズを抑制できる
(4)出力インピーダンスを下げる
などです。

負帰還によって、利得は帰還を適用する前よりも小さくなりますが、上記利点のほうが圧倒的に有利であるために、広く用いられています。

負帰還に対して、正帰還(positive feedback)もあります。本論から脱線するので、文末に「余談1」として記します。

実際の回路

図8は、実際のオペアンプを用いた負帰還回路です。
オペアンプの出力抵抗R0は、数十Ωのオーダで、通常は、R0≪R1, R2なので、G=1/β=1+R1/R2となり、R1とR2との比を大きく選べば利得Gが大きくなります。

R1=0の場合、G=1で、入力電圧と出力電圧が等しくなります。この回路構成を、ボルテージフォロア(voltage foller)回路といいます。
ボルテージフォロアは、バッファ回路として用いられます。

R1=R2の場合、G=2となります。

図8. オペアンプを用いた負帰還回路

図9は、図8の回路の入力に矩形波を加えた場合の出力の応答波形です。図9(a)は、R1=0、すなわちG=1、図9(b)はG=2です。
G=1の場合、立ち上がり(下がり)時に、わずかなオーバーシュートが生じます。
電源に用いる場合にはこのオーバシュートがふさわしくないことがあります。

図9(a). 過渡応答 G=1
図9(b). 過渡応答 G=2

なぜこのような違いが出るのかは次回に述べます。

次回は、
オペアンプの基本特性
帰還ループの特性
負荷容量をつけたときの動作
安定化のための解決策

などについて述べます。

 

脚注1:

1/2をデシベルで表すと、20log(1/2)=-6.02dBですが、端数を丸めて、通常-6dBといいます。

1/10は、正確に-20dBです。

「余談1」

発振回路は、正帰還回路の典型的な例です。コンパレータやシュミット・トリガ回路は原理的には正帰還回路です。
現在は、あまり用いられていませんが、今から100年近く前に、少ない真空管で利得をかせぐために正帰還回路を適用した方式が、戦前戦後を通じてよく用いられました。筆者も、ラジオ少年の頃、この方式の再生式ラジオをよく組み立てました。
正帰還の量を発振する手前の微妙な位置で調整することにより、少ない部品で高い性能を得ることができましたが、軽い発振をしていたので、隣のラジオにまで、この発振の電波が伝わりました。
当時は、増幅のために真空管を使用していました。その後真空管はトランジスタにとって代わられました。ざっくりといえば、真空管とトランジスタは同じような機能を持っています。今では、汎用のトランジスタは10円以下です。当時の真空管は、記憶では数百円したと思います。貨幣価値を考えると、今の数千円ではないでしょうか。
したがって、真空管の使用本数を減らすことは、非常に重要でした。

さらに脱線しますが、この正帰還の量を発振領域まで増やし、発振を断続する方式の超再生回路が発明されました。昔のトランシーバーなどに使われましたが、現在でも、アマチュアのラジオエンジニアには人気があるようです。

 

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