Bergeron 解析

IBIS モデルを用いた反射の解析~その1でドライバの出力の静特性を求めました。これを用いて、反射の解析をします。このときに用いるのが Bergeron(バジェロン)解析です。Bergeron は、フランスのエンジニアの名前ですが、この方法はもともと、ダムの水撃作用(Water Hummer)の解析を行うために考案されました。分布定数回路の過渡解析だけでなく、水撃や音響解析にも用いられます。

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図1 Bergeron解析基本図

図1 は分布定数回路の過渡解析に用いる Bergeron 解析の基本図です。ドライバおよびレシーバの電圧-電流特性と線路の特性インピーダンスとを用意します。
同図 (a) がドライバの Pull-Down 特性、(b) が Pull-Up 特性です。(c) はレシーバの特性で、通常は CMOS なので開放ですが、終端抵抗や非線形のクランプ・ダイオードの場合でも解析できます。
IBIS には、Typ、Min および Max が記載されていますが、通常は過渡特性は Typ のみを用いることが多いようです。

具体例

図1 を用いて解析の手順を述べます。青と赤の線は、『IBIS モデルを用いた反射の解析~その1で求めた Pull-Down と Pull-Up の特性です。紫の右下がりの直線は、レシーバ端に接続された終端抵抗です。通常は開放なので横軸に一致しますが、説明のために抵抗値を 200 Ω、終端電圧を 1.5 V としています。電流の向きは、ドライバに流れ込む向きをプラスにとっています。したがって、ドライバが低い電圧レベルのときには電流はドライバに流れ込むので電流はプラス、高い電圧レベルのときにはマイナスになっていることが図からわかります。Pull-Down および Pull-Up の曲線と終端抵抗との交点がローおよびハイの初期値です。
図には、ローからハイに変化する際の解析方法を順を追って示します。

  1. ロー初期値から特性インピーダンスの右下がりの直線を引きます。縦軸が電流、横軸が電圧なので、-1/Z0 となります。
  2. Pull-Up の曲線との交点が、t = 0 における最初のレベルです。
  3. この点から特性インピーダンスの右上がりの直線を引きます。
  4. 終端抵抗との交点が t = τ(τ:ギリシャ文字小文字のタウ)におけるレシーバ側の電圧です。


以下同様に、交互に直線の傾きを正負に変更して、交点を求めます。
図の例では、t = 3τ でほぼ振幅は落ち着いています。

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図2 時間軸へのプロット

この Pull-Up との交点がドライバの振幅、終端抵抗との交点がレシーバの振幅になるので、時間軸にプロットしなおすと、図2 のようになります。ハイからローへの変化も同様にして求めることができます。

過渡特性

IBIS モデルを用いた反射の解析~その1も含めて、これまでは静特性とその用い方について述べました。IBIS には、過渡特性も記述されています。
1つは、表1 に示す Ramp 特性という形で、ある時間当たりの電圧を表します。

[Ramp]
|dV/dt_r
9.900e-001/2.939e-010
7.782e-001/3.682e-010
1.142e+000/2.496e-010
dV/dt_f
8.856e-001/3.829e-010
6.654e-001/4.490e-010
1.043e+000/3.405e-010
R_load = 50ohms

表1 Ramp データ

表の dV/dt_r は立ち上がりを、dV/dt_f は立ち下がりをそれぞれ示し、静特性と同様に Typ、Min、Max の順に記載します。
例えば、表1 の立ち上がりに記載された 9.900e-001/2.939e-010 は、0.2939 ns 当たり 0.99 V 変化することを意味しますが、この 0.99 V はフル振幅の 20 ~ 80 % の振幅を意味します。

もう 1つは、表2 に示す波形データです。

[Rising Waveform]
R_fixture = 50
V_fixture = 0
V_fixture_min = 0
V_fixture_max = 0
| time
V (typ)
V (min)
V (max)
|
0.0000e+000
0.0000e+000
0.0000e+000
0.0000e+000
8.3333e-011
0.0000e+000
0.0000e+000
0.0000e+000
1.6667e-010
7.1110e-007
2.8449e-009
2.5183e-006
2.5000e-010
2.8350e-006
2.4680e-006
1.6760e-006
(途中省略)
4.4167e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.5000e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.5833e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.6667e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.7500e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.8333e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
4.9167e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000
5.0000e-009
1.6500e+000
1.2970e+000
1.9030e+000

表2 波形データ

最初の列が時刻、次の 3つの列が電圧の標準(Typ)、最小(Min)、最大(Max)を表します。したがって、波形を折れ線で表現すると、フル振幅は 0.99 ÷ 0.6 = 1.65 V となります。
 
図3 は、Ramp と波形データとを同一のグラフに書き表したものです。波形データには遅延時間まで含んでいるので、図4 に示すように Ramp を波形データに重ねてみると、両者の関係がよくわかると思います。

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図3 Rampと波形データ
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図4 Rampと波形データの重ね書き

この Ramp 特性および波形データを Bergeron 解析した波形に適用してみましょう。

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図5 複数のステップ波形に分解

図5 は、図2 の遠端の波形を複数のステップ波形に分解したものです。同図の横軸はドライバからレシーバまでの線路の遅延時間 τ で記載しています。
ボードの遅延時間は 6.5 ns/m 程度ですから、配線長を 10 cm とすると、τ = 0.65 ns となります。

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図6 実際の配線長とRampを考慮した複数のステップ波形

図6 は、図5 の横軸の 1目盛を 0.65 ns にして、図5 の各ステップ波形を図3 の Ramp 波形に代えたものです。

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図7 複数のRamp波形から合成

図7 は、図6 の各 Ramp 波形を加えて合成したものです。図2 よりも実際の波形に近づくことがわかります。

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図8 複数の波形データから合成

図8 は、ステップ波形を波形データに置き換えたもので、実際の波形のように滑らかに波形が求められます。

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図9 反射のやや大きい例

図9 は、少しわかりやすくするために、反射の大きな例で Ramp 波形から合成したものと波形データから合成したものを重ねて示します。

これらの波形は、多くの波形解析ソフトで IBIS を用いて求めることができるので、実際に Bergeron 解析と Ramp 波形あるいは波形データの組み合わせで求めることはあまりないかもしれませんが、どのように IBIS が使われるかを理解していただくと、解析ソフトが単なるブラックボックスから少しは変身して見えると思います。是非、仕組みを理解してください。

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