私はマクニカに新卒として入社し、現在は若手の半導体FAEとして活動しています。アナログ分野は入社後に本格的に学び始めたこともあり、ADコンバーターを提案する際に「データシート通りに使っているはずなのに、なぜか期待通りの精度が出ない」という場面に何度も遭遇しました。
その原因の一つとして後から理解したのが、アンチエイリアスフィルターの重要性 です。今回は、私自身が「なぜ必要なのか?」から理解していった内容を整理しながら紹介していきます。
エイリアシングとは何か?
アンチエイリアスフィルターを理解するためには、まず 「エイリアシング」という現象を知る必要があります。ADコンバーターは、連続したアナログ信号を一定周期でサンプリングすることでデジタル信号へ変換します。このとき、サンプリング周波数が十分でない場合、入力信号に含まれる高周波成分が、本来とは異なる低い周波数成分として観測されてしまうことがあります。これを「エイリアシング」といいます。
また、このとき重要になるのが ナイキストの定理 です。エイリアシングという現象は、このナイキストの定理から説明することができます。なお、ナイキストの定理については、第2回の記事でも触れているので、そちらも合わせてご確認をいただければと思います。
では、ナイキストの定理について、ここで軽くおさらいをしておきましょう。
入力信号に含まれる最大周波数を
とすると、サンプリング周波数 fsは、
を満たす必要があります。このとき、サンプリング周波数の1/2をfnとすると、
と表すことができ、このときをナイキスト周波数と呼びます。
ナイキスト周波数を超える成分が入力に含まれていると、それらはサンプリング後に低周波成分として折り返されます。この折り返し成分は、デジタル処理では本来の信号と区別がつかなくなるため、後段のデジタルフィルターで除去することができません。
そのため、エイリアシング対策はADコンバーターで変換する前、すなわちアナログ領域でおこなう必要があります。
アンチエイリアスフィルターの考え方
ADコンバーターのエイリアシングを防ぐために用いられるのが「アンチエイリアスフィルター」です。アンチエイリアスフィルターは、ADコンバーターの前段に配置されるローパスフィルター (LPF) で、ナイキスト周波数を超える高周波成分を事前に減衰させる役割を持っています。
ここでまず理解しておきたいのは、現実のフィルターでは、ある周波数を境に信号を完全に遮断できるわけではなく、カットオフ周波数を超えた領域で周波数が高くなるにつれて徐々に減衰していくような特性を持ちます。
そのため、アンチエイリアスフィルター設計では「ナイキスト周波数以上をすべてカットする」ではなく、「ナイキスト周波数に到達するまでに、どの程度の減衰を確保するか」というような考え方が重要になります。
実務的な目安としては、ナイキスト周波数付近において、 –40 dB 程度の減衰を確保し、より高精度が要求される場合には それ以上の減衰を目標とすることが、一つの判断基準といえるでしょう。
設計手順としては、まず測定対象となる信号の最大周波数
を把握し、ADコンバーターのサンプリング周波数 からナイキスト周波数
を求めます。その上で、次の関係を満たすようにカットオフ周波数 を設定していきます。
また、例としてRC で構成される 1次ローパスフィルターを考えると、カットオフ周波数は次の式で表されます。
オーバーサンプリングによるフィルター設計の緩和
アンチエイリアスフィルター設計を考える際には、オーバーサンプリングとの関係も重要なポイントになります。
1次のLPFでは、カットオフ周波数を超えた領域での減衰は、–20 dB/dec(周波数が10倍になるごとに20 dB減衰)という特性を持ち、1次LPFのみで大きな減衰量を確保しようとすると、カットオフ周波数をナイキスト周波数よりかなり低く設定する必要があることが分かります。そのため実際は、フィルターの高次化やオーバーサンプリングと組み合わせて設計することが一般的になります。なお、オーバーサンプリングについては、第2回の記事で詳しく解説しています。
サンプリング周波数fsを高く設定すると、ナイキスト周波数fnも高くなります。これは、信号帯域とナイキスト周波数の間に、より広い余裕(遷移帯域)を確保できることを意味します。この余裕が大きくなることで、アンチエイリアスフィルターに求められる減衰特性は緩やかになり、結果として低次のフィルター構成でもエイリアシングを十分に抑制しやすくなります。
したがって、実際に設計をおこなう際は、「高次のアナログフィルターで無理に削る」のか、「オーバーサンプリングで余裕を作る」のか、というトレードオフを考えることになります。オーバーサンプリングは、アンチエイリアスフィルターに求められる急峻さを緩和し、設計余裕を確保しやすくする有効な手段の一つと言えます。
まとめ
アンチエイリアスフィルターは、エイリアシングというデジタル処理では除去できない誤差成分を防ぐために、ADコンバーター前段で重要な役割を果たします。
設計にあたっては、信号帯域、サンプリング周波数、ナイキスト周波数の関係を整理し、カットオフ周波数と必要な減衰量を考えたうえで設計をすることが重要です。
さらに、オーバーサンプリングを組み合わせて考えることで、アンチエイリアスフィルター設計の自由度も高めることができます。
がんばれタネペンズ~若手アナログFAEのサポート日誌~ 記事一覧
・第4回 アンチエイリアスフィルターって何?
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