AIやディープラーニングの急速な普及にともない、サーバーに搭載されるGPUやxPUの消費電力は増大の一途をたどっています。1000Aを超える電流と、1V以下の低電圧供給が求められるなか、従来の電源設計では「基板配線での電力損失」や「実装スペースの不足」が深刻な課題となっています。
そして、それらを解決する新たなアプローチとして注目を集めているのが、電源モジュールを負荷の直下に配置する「Vertical Power(垂直給電)」です。
今回は、アナログ・デバイセズが提唱するVertical Powerの概念と、それを実現する高密度μModule「LTM3360B」がもたらす技術的メリットを解説します。
アナログ・デバイセズが提唱する「Vertical Power」とは?
限界を突破する「直下配置」のアプローチ
従来の方式では、基板上でプロセッサーの横に電源回路を配置し、プリント配線を介して電力を供給します。しかし、給電ルートが長くなるほど配線抵抗 (R) の影響は無視できなくなります。
従来の配置
とくに1V以下の低電圧かつ1000Aを超える電流環境下では、配線抵抗による電力損失(I²R損失)が跳ね上がり、深刻な電圧降下や局所的な発熱を招いていました。さらに、ボード上の高密度化に伴い、電源回路を置くスペースそのものが圧迫される点も大きな課題となります。
こうしたボトルネックを構造から根本解決するのが、アナログ・デバイセズの提唱する「Vertical Power(垂直給電)」です。
Vertical Power(垂直給電)
Vertical Powerは、電源モジュールを基板裏面——すなわちプロセッサー(負荷)の真下に配置し、基板を貫通するビア (Via) を介して垂直かつ最短距離で電力を供給。配線パスをミリメートル単位まで短縮することで、寄生抵抗やインダクタンスを激減させ、電力損失と電圧降下を最小限に抑え込みます。
Vertical Powerを実現する高密度モジュール「LTM3360B」
このVertical Powerの実装を可能にするのが、アナログ・デバイセズの電源モジュール「LTM3360B」です。本製品は、FET・インダクター・コンデンサーなどの受動部品も6.55mm × 5.0mm × 3.31mmという指先サイズの超小型BGAパッケージに集積したμModuleです。
動作周波数を2.5MHzまで高めることで内蔵インダクターの大幅な小型化に成功しており、単体での最大出力は33A。従来品を大きく凌駕する、1mm²あたり1A以上という業界最高水準の出力電流密度を実現しました。
周辺部品をほとんど必要としない高密度設計により、プロセッサー直下の限られた基板裏面スペースへの実装を可能にし、次世代AIサーバーの電源アーキテクチャーを足元から支えます。
従来の高密度µModule製品と比較
LTM3360Bの基本特性
・入力電圧範囲:2.9V to 5.5V
・出力電圧範囲:0.3V to 1V
・連続出力電流:33A
・FET, インダクター, Cin/Coutを内蔵
・出力電圧DC 精度:±1%
・リモート差動出力センスpin
・8-bit DACによる内部基準電圧の制御 (4mV LSB step)
・固定クロック周波数:5MHz(Fsw:2.5MHz)
・SMBus互換の読み書きプロトコルを備えたI²C
・出力電流監視用のアナログIMONピン
・マルチフェーズ動作による並列接続が可能 ⇒ 1000A動作の実現
・パッケージ:160-lead BGA, 6.55mm*5mm*3.31mm
・動作ジャンクション温度範囲: –40℃ to 105℃
主なターゲットアプリケーション
データセンター・AIサーバー:xPU / ASIC / FPGAのコア電源
光モジュール:小型・高密度給電が求められる光通信モジュール
工業用および通信機器:
POL(Point of Load)分散型電源システム全般
大電流を支える、マルチフェーズ動作
AIサーバーに不可欠な「マルチフェーズ化」
AIプロセッサーやxPUの駆動には、1000Aを超える並外れた大電流が必要とされます。しかし、単一の電源回路(単相)でこれほどの大電流を供給しようとすると、電源素子への極端な熱集中(ホットスポット)が発生し、システム全体の信頼性低下や物理的な実装限界を招いてしまいます。
こうした課題を回避し、安全かつ効率的に大電流を供給するために不可欠となるのが、複数の電源回路を並列に駆動させる「マルチフェーズ(多相)動作」です。
最大12フェーズの並列動作で1000A超の供給を実現
「LTM3360B」は、最大12フェーズまでのマルチフェーズ並列動作に対応。1チップあたり最大33Aを出力できるLTM3360Bの並列駆動により、システムが求める数百A〜1000A超の大電流をスムーズに供給できます。
また、小型モジュールをプロセッサー周辺に分散配置することで、基板上の限られたスペースをムダなく活用できることも大きな特長です。
熱の分散とリップル低減で信頼性を向上
マルチフェーズ動作の真価は、単に電流値を増やすことだけではありません。各フェーズのスイッチングタイミングを一定の位相差でずらして動作させることで、以下のようなメリットも得られます。
発熱の分散
大電流供給時に問題となる集中発熱を避け、基板全体へバランスよく熱を分散・放熱できます。
出力リップル電圧の低減
位相をずらすことで互いの電流波形の山と谷が打ち消し合い、出力のノイズ(リップル成分)が大幅に低減します。
外付けコンデンサーの削減
リップルが抑えられるため、出力側に配置する大型コンデンサーの数量を最小限に抑えられ、基板面積とコストの削減に貢献します。
設備を止めない、I²C・テレメトリーによる電源の「見える化」
リアルタイム監視が実現する、データセンターの「止めない電源」
24時間365日の連続稼働が前提となるAIサーバーやデータセンターにおいて、電源トラブルによる突然のシステム停止(ダウンタイム)は、極めて重大な損失をもたらします。そのため、電源の状態を常に把握し、異常の兆候を事前に察知する「電源の見える化」が強く求められています。
「LTM3360B」は、I²C / SMBus互換の2線式シリアル・インターフェースを搭載しており、高度なテレメトリー(遠隔計測・監視)機能を提供します。
システムの健全性をデジタルで一括管理
内蔵された高精度ADCにより、各電源モジュールの動作ステータスをリアルタイムにデジタルデータとして集計・出力が可能です。監視できる主なパラメーターは以下の通りです。
入力・出力電圧、出力電流のリアルタイム計測
各フェーズの負荷状況や供給電力を正確に把握。
モジュール内部温度の監視
熱暴走のリスクを事前に検知し、冷却ファンの制御や負荷の最適化へフィードバック。
アラート・障害ログの記録
過電流・過電圧・過熱などの異常検知時に速やかな保護動作を実行。
予防保全による安定稼働への貢献
I²CおよびSMBusテレメトリー機能による「見える化」は、システムの異常検知や早期原因究明を可能にし、トラブルを未然に防ぐ予防保全を実現。高密度なAIサーバー環境において、システムの高い信頼性と安定稼働を強力にバックアップします。
GUI(LTpowerPlay)も完備されています。
xPUの瞬時負荷変動に追従する、高速過渡応答
激しい負荷変動が引き起こす電圧スパイクのリスク
AIの学習や推論処理をおこなうxPUは、処理の開始と終了にともない、電流要求が瞬時に数十A~数百A規模で激変します。この急激な電流変化に対して電源の応答が遅れると、出力電圧が大幅に跳ね上がる「オーバーシュート」や、急激に落ち込む「アンダーシュート」が発生します。
許容電圧範囲の狭い先端プロセッサーにおいて、これらの電圧スパイクは誤動作やIC自体の物理的破損に直結するため、きわめて高水準な「過渡応答性能」が求められます。
高いループ帯域幅による優れた応答性能
「LTM3360B」は、2.5MHzの高周波動作に加え、高いループ帯域幅(200kHz〜300kHzのクロスオーバー周波数)を実現する制御ループ設計を採用しています。これにより、優れた高速過渡応答性能を発揮。急激な負荷変動が発生した瞬間でも出力電圧の変動を最小限に抑え、プロセッサーが要求する厳しい電圧許容幅を維持します。
このような急激な負荷変動も、しっかり追従します。
出力コンデンサーの削減で基板面積とコストを最適化
一般的に、過渡応答性能を高めるためには、出力側に多くの平滑コンデンサーを実装して電圧変動を補正する必要があります。
しかし、LTM3360Bは2.5MHzの高周波動作と優れた応答速度を備えているため、必要な出力コンデンサーの数量や容量を最小限に抑えることができます。これにより、プロセッサー周辺の省スペース化はもちろん、部品コストの削減にも大きく貢献します。
まとめ
今回は、アナログ・デバイセズが提唱する「Vertical Power」コンセプトと、それを実現する高密度μModule「LTM3360B」をご紹介しました。
「LTM3360B」は、1mm²あたり1A以上という高い電力密度に加え、マルチフェーズ駆動による1000A超への対応、I²C/SMBusテレメトリーによるリアルタイム監視、優れた過渡応答性能を兼ね備えた製品です。
こうした強みにより、AIサーバーやデータセンターのxPUコア電源をはじめ、光学モジュールや各種産業・通信機器のPOL電源まで、高密度・大電流が求められる現場の課題を強力に解決します。
また、手軽に動作検証がおこなえる評価ボードに加え、専用のGUIソフトウェア (LTpowerPlay) も提供されています。制御用のソフトウェアを個別に組み込む手間をかけることなく、PC上から直感的に各種設定やリアルタイム監視を行えるため、評価・設計検討の工数を大幅に削減可能です。
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