ウェアラブル機器の設計では、加速度センサーの選定が、製品のバッテリー寿命やサイズに直結します。一方、データシートには多くの項目が並ぶため、「どのスペックが製品のどこに影響するのかわからない」とお悩みの設計者もいるのではないでしょうか。また、より低消費電力で、より小型のウェアラブル機器を実現するために、加速度センサーの見直しをお考えの方も多いでしょう。
今回は、ウェアラブル機器のために生まれた加速度センサー、アナログ・デバイセズ社の「ADXL366」を紹介します。ウェアラブル機器の加速度センサーをどのように選ぶべきか知りたい方は、ぜひお読みください。
ADXL366製品概要
アナログ・デバイセズは30年以上にわたり、加速度センサーを提供してきました。かつては車載エアバッグなど、大きな衝撃を検知する用途が主なターゲットでしたが、近年ではウェアラブル機器やIoTなど、人の「動き」を検出する用途での採用が増えています。
こうしたバッテリー駆動のアプリケーションにおいて、加速度センサーに求められるのは、小型・低消費電力だけではありません。加速度センサーによって、システム全体の効率をいかに高められるかが、重要な要素となります。
今回紹介する「ADXL366」は、業界トップクラスの超低消費電力により、バッテリー寿命の大幅な延長を可能にします。さらに、システム全体を省電力化できる内蔵FIFOやモーションアクティベートスイッチ機能を搭載。ステップカウンターや温度センサーなど、豊富な機能をハードウェアに内蔵しており、設計の簡素化に貢献します。また、SPI/I2C両対応のインターフェースなど、柔軟な設計を可能にする機能も充実しています。これらの特長により、システムレベルで大きな導入メリットを提供します。
ADXL366
3軸、±2g/±4g/±8g デジタル出力MEMS加速度センサー
・電源電圧範囲
-1.1V~3.6V、1セル電池動作可能
-高PSRRの内部電源レギュレーション
・超低消費電力
-0.96µA(100Hz ODR、50Hz BW、2.0V供給時)
-ウェイクアップ・モード消費電流191nA
-スタンバイ・モード消費電流47nA
・高分解能:0.25mg/LSB
・システムレベルの省電力化のための内蔵機能
-歩数カウンター
-シングルタップ/ダブルタップ検出機能
-閾値設定可能なモーション検出
-自律割り込み機能
-プロセッサーの負荷を最小限にする512内蔵FIFO
-モーション起動スイッチを可能にするウェイク状態出力
・温度センサー内蔵
・SPIおよびI2Cデジタルインターフェース
・2.2mm×2.3mm×0.87mm、12ピンLGAパッケージ
以下に、ADXL366の特長を3つの視点から紹介します。
バッテリー寿命延長に必ず貢献する、超低消費電力設計
ウェアラブル機器の加速度センサーを選定する際、まず確認したいのが、消費電力に関するスペックです。ADXL366の消費電流は、以下のように極限まで抑えられています。これは他社の加速度センサーと比較してもトップクラスの性能です。
- 測定モード:0.96μA (100Hz ODR)
- ウェイクアップモード:191nA
- スタンバイモード:47nA
超低消費電力のADXL366を使うことで、24時間稼働するウェアラブル機器やIoT機器でも、バッテリー交換頻度を劇的に低減できます。
電源1.1Vから駆動できる、業界唯一の加速度センサー
ADXL366は、電源電圧1.1Vからの動作に対応しています。これは加速度センサーとしてはきわめて稀な仕様で、2026年1月現在、市場で唯一の製品です。
一般的な加速度センサーの電源電圧は1.6V以上が多く、アナログ・デバイセズのベストセラー製品「ADXL362」(2012年リリース)も最小電源電圧は1.6Vでした。そのため、例えば1.5Vの単セルバッテリーでは駆動が困難でしたが、ADXL366では可能になりました。
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ADXL366 |
ADXL362/ADXL363 |
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パッケージサイズ |
2.2×2.3×0.87 mm |
3.2×3.0×1.06 mm |
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分解能 |
14-bit |
12-bit |
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測定レンジ |
±2g, ±4g, ±8g |
±2g, ±4g, ±8g |
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消費電流(100Hz) |
0.96µA |
1.8µA |
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ウェイクアップ時電流 |
191nA |
270nA |
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スタンバイ時電流 |
47nA |
10nA |
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電源電圧範囲 |
1.1V~3.6V |
1.6V~3.5V |
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温度範囲 |
-40~+85℃ |
-40~+85℃ |
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ノイズ密度(超低消費電力モード) |
345µg/√Hz |
550µg/√Hz |
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インターフェース |
SPI, I²C, ADC入力 |
SPI, ADC入力(ADXL363) |
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FIFO |
512ワード |
512ワード |
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内蔵機能 |
温度センサー, タップ, セルフテスト, 歩数計 |
温度センサー, セルフテスト |
ADXL366は、1.1Vから動作し、センサー自体の消費電力も低いことから、これまでにないレベルでバッテリー寿命の延長が可能になります。
例えば、センサー単体の消費電力を前提とした理論値では、小型の単セルバッテリーでも、数年から数百年規模の長期動作が見込めます。以下は、いずれも超低消費電力モード動作時の理論値です。
このように、補聴器などに使われる小さなボタン電池1つでも、数年単位の動作が可能です。バッテリー残量の減少にともなう電圧低下時にも、より長く動作を維持できます。
ウェアラブル機器において、電源電圧1.1V以上というスペックは大きな利点となります。センサーの消費電力だけに注目しがちですが、電源電圧範囲も重要な要素です。
システム全体の省電力化に貢献
バッテリー寿命は、センサーだけでなくシステム全体の消費電力に左右されます。ADXL366は以下の機能により、システム全体の省電力化に貢献します。
内蔵FIFO機能(512サンプル)
マイコンをスリープ状態にしたまま、最大512サンプル分の加速度データを内蔵FIFOに蓄積することが可能です。間欠的なデータ出力によって通信回数を大幅に減らし、マイコンの消費電力を抑制します。
モーションアクティベートスイッチ機能
モーション検出をトリガーとして、必要なときだけシステムを起動するモーションアクティベートスイッチ機能を搭載。ADXL366のスタンバイ電流は47nAと極めて低く、消費電力を最小限に抑えることができます。
この機能を活用し、他の機器をオンオフするためのモーション起動スイッチとしてADXL366を利用することも可能です。
わずか2.3mm角、超小型パッケージで自由なデザインを
次に注目したいのがパッケージサイズです。加速度センサーが小さければ小さいほど、ウェアラブル機器自体の小型化が可能となり、基板設計の自由度も高まります。
ADXL366は、2.2mm×2.3mm×0.87mmという超小型・薄型パッケージを採用しています。装着時の快適さが求められる補聴器やスマートウォッチなどの用途にも最適です。
従来品「ADXL362」とのサイズ比較
サイズ感を具体的に紹介しましょう。以下の図は、米国1セント硬貨の上に、2つの加速度センサーを置いたものです。
・左:ADXL362(従来品)
・右:ADXL366 ※写真は同一パッケージサイズの別製品を使用
ADXL362と比較して、ADXL366は、面積を約47%、高さを約20%削減しています。占有スペースが大幅に小さくなるため、基板設計の制約が減り、より小型・軽量なウェアラブル機器が実現可能です。
近年のウェアラブル機器市場では、装着感やデザイン性への要求も高まっています。加速度センサーの小型化は、ウェアラブル機器のデザインの自由度を高め、製品競争力の向上に直結します。
I2C対応により省配線が可能
ADXL366は、SPIとI2Cの両インターフェースに対応しています。従来品のADXL362は 4線式のSPIインターフェースのみの対応でしたが、ADXL366は2線式のI2Cインターフェースも選択可能です。
I2Cインターフェースを選択することで、マイコンとの接続配線を削減できます。パッケージサイズの小型化に加え、配線本数の削減によって、基板をさらに省スペース化できます。実装面積が限られているウェアラブル機器では、この点も大きな強みとなります。
従来品からの置き換えにもメリット
従来品のADXL362は、リリース当初から画期的な低消費電力で注目され、長年多くのユーザーに活用されてきました。ADXL366はその優れた特長を継承しながら、さらなる小型化と低消費電力を実現しています。現在ADXL362を採用している場合、ADXL366に置き換えることもおすすめです。
サイズやピン配置が異なるため、基板の再設計は必要ですが、バッテリー寿命の延長や基板スペースの削減など、大きなメリットを享受できます。製品の付加価値を高めるための選択肢として、ぜひご検討ください。
追加部品不要で多機能化できる
省電力で小型のウェアラブル機器を実現するためには、さまざまな機能をシンプルな構成で実装することが重要です。機能を追加するたびに部品点数やソフトウェア処理が増えてしまうと、設計が複雑になり、消費電力の増加やサイズアップの要因になります。
ADXL366には、さまざまな機能がハードウェアとしてあらかじめ内蔵されています。これらを活用することで、追加部品やソフトウェア処理を増やさずに、ウェアラブル機器を多機能化することが可能です。
ADXL366は、ADIの加速度センサーとしては初めて、ステップカウンターが搭載されています。これにより、歩数を算出するソフトウェア処理をマイコン側に作りこむことなく、歩数計機能を実装可能です。マイコンの演算負荷を抑えることができるため、システム全体の省電力化につながります。
タップ検出や温度センサーも、従来品ADXL362に引き続いて搭載されています。温度センサーを活用することで、温度特性に応じてデータを補正し、より安定した計測が可能です。外部アナログ入力にも対応。内部スイッチを切り替えることで、外部センサーで取得したアナログ値をA/D変換して後段のマイコンに出力できます。例えば、電源電圧をモニタリングして電圧低下を検知する機能などに活用できます。
ハードウェア側にさまざまな機能が実装されていることで、設計の簡素化が可能になり、部品点数や開発工数の削減、システム全体の省電力化を実現できます。
アプリケーション例
ADXL366は低消費電力かつ高精度なモーションセンシングが求められる分野に最適です。代表例として、人の動作などを検出するバッテリー駆動アプリケーションがあります。低消費電力の特性を活用し、モーション検出によるスイッチにも利用できます。
・ウェアラブル機器
スマートウォッチ、フィットネストラッカー、ヘルスケアデバイスなどで、歩数計やモーション検出に活用
・医療機器
患者モニタリング、リハビリ支援機器など、低消費電力と高精度が求められる用途に対応
・スポーツ・フィットネス機器
ステップカウンターやタップ検出機能を活用したユーザーインタラクションの実現
・IoTセンサー
環境モニタリング、スマートホーム機器、産業用センサーなどで、バッテリーの長寿命化に貢献
・モーションアクティベートスイッチ
動作検出による電源制御、スマートメータリング、ワイヤレスセンサーシステムなどで、省電力化に寄与
評価ボード
ADXL366の評価ボードをご用意しています。ADXL366の機能を手軽に確認し、スムーズに評価・開発することが可能です。ぜひお試しください。
今回は、ウェアラブル機器のために生まれた、ADIの加速度センサー「ADXL366」を紹介しました。
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