私はマクニカに新卒として入社し、まだまだ若手の半導体FAEとして現在活動をしております。
私は元々畑違いの分野からの入社ということもあり、アナログ分野の知識をキャッチアップするには苦労する部分が多々ありました。なかでもアナログ部品の1つであるADコンバーターを提案する際、お客様のアプリケーションに対して紹介するADコンバーターの精度をどのように考えれば良いのか苦労したことがありました。
今回は、第2弾ということでADコンバーターの精度を考える際に必要になる分解能向上テクニックの一つである「オーバーサンプリング」について紹介していきたいと思います。
ADコンバーターの分解能の考え方(おさらい)
今回の本題に入る前にまず、ADコンバーターの分解能の考え方について知る必要があります。私がお客様を担当し始めた当初、ADコンバーターの分解能についてはデータシートの見出しにある分解能の値がそのADコンバーターの精度を規定するものであると思い込んでいました。
しかし、実際にはADコンバーターはノイズを発生するため、有効になる分解能が下がることがあることを知りました。その際に必要になってくるのが有効分解能とノイズフリー分解能という考え方です。
有効分解能は、ADコンバーターのRMSノイズとADコンバーターのフルスケール入力電圧で下記の式のように表されます。
また、ノイズフリー分解能は、ADコンバーターのピークtoピークノイズとADコンバーターのフルスケール入力電圧で下記の式のように表されます。
詳細については、前回の記事でも紹介しています。
また、ADコンバーターの分解能を考えるうえで、ENOB (Effective Number Of Bits) という考え方もあります。このENOBは有効分解能とよく混同されてしまいがちですが、別のものであると覚えておく必要があります。有効分解能およびノイズフリー分解能は、基本的にDCにおけるADコンバーターのノイズ性能を測定しますが、ENOBは、ACにおけるADコンバーターのノイズも考慮されています。
一般的に測定方法としてはADコンバーターに対する正弦波入力のFFT解析が用いられ、IEEE®標準1057では、以下のように定義されています。
また、ENOBを考える際にSINAD (Signal to Noise and Distortion Ratio) という指標も必要になります。SINADは信号対ノイズ+歪比率と定義されており、以下のように表すことが可能です。
ENOBは、ノイズと歪みの両方を考慮に入れた分解能に相当するため、SINADを用いて一般的に以下のような関係式で表すこともできます。
私はこのADコンバーターの有効分解能やENOBの考え方を知ってから、データシートをよく読み製品選定をおこなうようになりましたが、実際に計算してみるとADコンバーターの分解能が思ったよりも低く製品選定に困ったことがありました。
そんな時に新たな私の学びとなったのが、先輩FAEの「オーバーサンプリングで分解能上がるよ」の一言でした。
私はこの先輩の一言を聞くまで、分解能を上げる手法があることを知りませんでした。今回は、先輩の一言を受けた後、私なりに学んだ分解能の改善方法「オーバーサンプリング」について紹介していきたいと思います。
ナイキストの定理について
ADコンバーターの分解能の改善方法に「オーバーサンプリング」という手法がありますが、その考え方を学ぶうえではナイキストの定理について知っておく必要があります。
ナイキストの定理では、ADコンバーターは入力信号に含まれる最大周波数の 2倍以上の周波でサンプリングをしなければ元の入力信号の情報が失われてしまうとされています。つまり、サンプリング周波数については入力信号の最大周波数の 2倍以上必要とされています。このとき、サンプリング周波数 fs の 1/2 の周波数を示す 1/2fs をナイキスト周波数と言います。もし、サンプリング周波数がこのナイキスト周波数の 2倍に満たない場合は、「エイリアシング」という現象が発生し、誤差の要因となります。
例えば、単一周波数 fa の正弦波信号をサンプリングする際、サンプリング周波数 fs が fa よりもわずかに高く 2fa よりも低い (fa<fs<2fa) 場合、ナイキスト周波数の 2倍を満たさないため、fs-fa というエイリアス(本来存在しない低い周波数の信号)が生じます。図1の例では、サンプリングが入力信号 fa およびエイリアス fs-fa いずれにも対応しており、サンプリング後のデータからは、元の信号周波数が fa、fs-fa のいずれかが区別できなくなります。
このようにADコンバーターのサンプリング周波数を考える上では、ナイキスト周波数の2倍を満たすようにする必要があります。
オーバーサンプリングについて
ADコンバーターの分解能を改善する方法の一つである「オーバーサンプリング」について紹介していきます。このオーバーサンプリングは、先程述べたナイキスト周波数 1/2fs よりもはるかに高い周波数でサンプリングをする手法です。一般的に 4倍の速度でオーバーサンプリングを実行することで、ADコンバーター の分解能が 1 ビット向上すると言われています。
例えば、オーバーサンプリング無しでN bit 分解能を持つADコンバーターを考えてみます。100Hzの単一周波数をもつ入力信号をナイキスト周波数の2倍でサンプリング (2×100Hz=200Hz) サンプリングすると、ADコンバーターに固有なENOBのデジタル出力を取得することが可能です。
一方でオーバーサンプリング比 k=4でオーバーサンプリングを実行すると、800Hzでサンプリングされます。この時オーバーサンプリングにより得られたデータは、量子化ノイズが広い周波数帯域に分散され、デジタルフィルターで不要な高周波成分を除去することによりSNRが向上します。
このとき、向上するSNRは、ADコンバーターの分解能Nを用いて以下の式から推定することができます。
ここで、k = fs / 2×fin、finは入力信号周波数となります。
この式を用いて、分解能を上げるためのオーバーサンプリング係数を求めることができます。SNRはSNR(dB) = 6.02 ×N + 1.76と表すことができるため、例えば16-bitの分解能を持つADコンバーターから1bitを向上させたい場合、17bitのADコンバーターのSNRは以下のように計算されます。
続いて、求められたSNRから先述の式を用いてオーバーサンプリング係数を算出します。
以上より、分解能を1bit向上させるためにはオーバーサンプリング係数を 4以上にする必要があることが分かります。
さまざまなオーバーサンプリング係数に対する分解能の向上は以下のようになります。(表1)
|
オーバーサンプリング係数 |
向上分解能 |
|
2 |
0.5 |
|
4 |
1 |
|
8 |
1.5 |
|
16 |
2 |
|
32 |
2.5 |
表1:オーバーサンプリング比に対する分解能の増加例
まとめ
以上のように、ADコンバーターの分解能を考える際には、アプリケーションの要求に応じて実際に有効になるビット数がどの程度になるかを考えておく必要があります。その分解能を決めるパラメーターとしてADコンバーターのサンプリングレートの設定に注意をする必要があります。オーバーサンプリングはこのADコンバーターの分解能を上げる手法のひとつであり、ADコンバーターで正確な変換値を得るためのデータ処理技術として有効です。
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