瞬停・停電対策用にスーパーキャパシターの導入が決まったものの、「どのように制御すればよいかわからない」、「スーパーキャパシターを採用するにあたり、どのような点に気をつければよいか知りたい」とお困りの設計者も多いのではないでしょうか。
スーパーキャパシターを効率的に利用するためには、いくつかの注意点があります。ここでは、スーパーキャパシターの制御にともなう代表的な課題と、スーパーキャパシターを最大限に活用できるバックアップコントローラー「LTC3350」を紹介します。
スーパーキャパシターの用途と課題
スーパーキャパシターは、工場やデータセンターにおける瞬停・停電対策として、バックアップ用の電力供給に使われます。バッテリーよりも充電が速く、大きなエネルギーを一気に放出できる利点がある一方、エネルギー密度の低さから長時間の供給には不向きです。バックアップ電源として、数秒から数十秒間の電力供給に適しています。
主な保持素子との比較表
|
電解コンデンサー |
スーパーキャパシター (電気二重層コンデンサー) |
高分子コンデンサー (ポリマーコンデンサー) |
バッテリー |
充電方法 |
電圧 |
電圧 |
電圧 |
電圧/電流 |
放/充電速度 |
psec to msec |
msec to sec |
msec to sec |
1 to 10 hrs |
エネルギー密度 (Wh/kg) |
0.01 to 0.05 |
1 to 5 |
0.01 to 0.05 |
8 to 600 |
電力密度 (W/kg) |
> 5000 |
> 4000 |
> 5000 |
100 to 3000 |
電圧 (V) |
6 to 800 |
2.3 to 2.75 |
2.5 to 63 |
1.2 to 4.2 |
寿命 |
> 100k cycles |
> 100k cycles |
No cycle limit? |
150 to 1500 cycles |
動作温度範囲 (℃) |
-20 to 100 |
-40 to 85 |
-55 to 85 |
-20 to 65 |
ESR(等価直列抵抗) |
Low |
Low |
Ultra Low |
High |
項目は各素子の一般的な指標を記載しています
スーパーキャパシターの制御の課題
スーパーキャパシターの制御には、どのような課題があるのでしょうか。代表的なものは以下の3点です。
■バックアップ時間の延長
重要なデータの損失を防ぐために、十分なバックアップ時間を確保する必要があります。
■スーパーキャパシターの寿命の延長
使用条件によって寿命が変わるため、適切な制御と管理が重要です。
■充電時間の短縮
バックアップ電源をいつでも利用できるように、充電時間の短縮が求められます。
こうした課題を解決し、スーパーキャパシターを最大限に活用するために役立つのが、アナログ・デバイセズ社のバックアップコントローラー「LTC3350」です。その機能や特長を紹介します。
スーパーキャパシター向けバックアップコントローラー「LTC3350」
LTC3350は、1~4個までのスーパーキャパシターを直列に接続し、効率的な電源供給を実現できるバックアップコントローラーです。アナログ・デバイセズ独自の昇圧モードを搭載し、限られた電力を最大限に活用してバックアップ時間を延長します。
LTC3350の動作の特長
LTC3350の具体的な動作は次のとおりです。
<充電時>
降圧コンバーターを経由して、スーパーキャパシターに充電をおこないます。
<放電時>
電源が遮断されると、スーパーキャパシターから電力を供給します。このとき、以下の2系統があります。
(a) Vcap>Voutのとき、FETをオン
スーパーキャパシターの電圧(Vcap)が出力電圧(Vout)を上回っている間は、電力がそのまま供給されます。
(b) Vcap<Voutのとき、昇圧して供給
スーパーキャパシターの電圧(Vcap)が出力電圧(Vout)を下回ると、自動的に昇圧モードに切り替わり、必要な電圧を維持します。
一般的なバックアップコントローラーは、(a) の回路のみを持ちます。電圧を変えずに供給するため、スーパーキャパシターの電圧低下にともなって、供給先のデバイスが求める電圧を維持できなくなり、電力供給が停止します。
一方、LTC3350は、電圧が低下すると自動的に昇圧モード(回路 (b) )に切り替わり、必要な電圧を維持します。これにより、バックアップ時間の延長が可能です。充電した電力を最大限に活用できます。
放電時(昇圧コンバーター)
(a) Vcap > Voutの時、FETをON
(b) Vcap < Vout の時、昇圧する
LTC3350の放電時のメリットは、高電圧同期整流コンバーターなので
・高効率(バックアップ時間が長い)
・小型(コンバーターが一つですむ)
LTC3350における3つの機能とメリットとは
LTC3350が持つ、3つの重要な機能を紹介します。
<LTC3350の3つの機能>
・電圧バランサー機能
・シャント・レギュレーター機能
・モニタリング機能
電圧バランサー機能
電圧バランサー機能は、複数のスーパーキャパシター間で生じる充電のばらつきを調整する機能です。接続されたスーパーキャパシターの電圧差が10mVを超えると、抵抗性バランサーによって放電をおこない、充電状態を調整します。
バッテリー管理システムでは一般的ですが、スーパーキャパシター向けコントローラーではあまり見られない機能です。4個のスーパーキャパシターを直列に接続できるコントローラー自体が珍しく、LTC3350の特長の1つとなっています。
いずれかのSCAPの電圧差が10mVを超えると、10mV以内になるまで抵抗性バランサーにより放電する(10mA)
なぜ、正確な電圧調整が必要なのか?
電圧バランサー機能には、どのようなメリットがあるのでしょうか。複数のスーパーキャパシターを使用する場合、すべてが均等に充電されるのが理想的です。しかし実際は、充電状態にばらつきが生じます。
ばらつきを放置すると、一部のスーパーキャパシターは充電不足のままになるため、バックアップ時間が短くなります。バックアップ時間を延長するために、電圧調整が重要です。
キャパシターに貯まるエネルギーEは、以下の式になります。
E = ½ * C * V^2.
電圧が高いほうが貯蔵するエネルギーは大きいです。しかし,電圧を下げたほうがライフが伸びるといったメリットがあります。
一方、先に充電が終わったスーパーキャパシターは過充電となり、負荷によって寿命が短縮されます。また、スーパーキャパシターには、「定格電圧よりも低い電圧で使用すれば寿命を延ばすことができる」というライフタイム特性があります。
スーパーキャパシターの寿命を延長するためには、電圧を正確に制御することが重要です。
電圧を下げれば、ライフタイムを伸ばすことができます。
スーパーキャパシターのライフタイム特性
分圧抵抗を使う方法の課題
電圧調整のために分圧抵抗を使う方法も考えられます。しかし、以下のような課題があります。
<分圧抵抗による電圧調整の課題>
・分圧抵抗が大きいと、スーパーキャパシターの内部抵抗が支配的となり、電圧の均等化が難しい
・分圧抵抗が小さいと、放電時に無駄な電力消費が発生し、バックアップ時間が短くなる
電圧バランサー機能を使えば、こうした課題が発生することなく、電圧調整をスムーズに実現できます。
分圧抵抗を使うことで各SCAPの電圧をそろえる方法もあります。
しかし実質の抵抗成分は、以下のとおりです。
= R4 // R(variable)
・R4が大きいとR(variable) が支配的になり各電圧がそろわない
・R4が小さいと放電時の無駄な電力が大きくなる
シャント・レギュレーター機能
シャント・レギュレーター機能とは、充電が完了したスーパーキャパシターから、充電が不十分なスーパーキャパシターに対して、最大500mAのシャント電流を流せる機能です。
各キャパシターは完全に同じ容量ではない。そのため充電時には早く充電されるものと,遅く充電されるものがでてくる。
なぜ、シャント・レギュレーターが便利なのか?
シャント・レギュレーター機能は、どのような点が優れているのでしょうか。スーパーキャパシターの容量や充電速度には個体差があり、充電が完了するタイミングにばらつきが生じます。シャント・レギュレーター機能では、充電が早く完了したスーパーキャパシターで不要となった電流を、他のスーパーキャパシターに直接渡すことができます。
そのため、スーパーキャパシターの充電残量が異なっていても、過充電を防ぎながら、スピーディにバランスを調整することが可能です。これは、システム全体を効率的に充電することにもつながります。シャント電圧は183.5μV刻みで細かく設定できます。
シャント・レギュレーター機能は、バックアップ時間の最大化、スーパーキャパシターの寿命の延長、充電時間の短縮に貢献します。
充電前の残量が異なっていても、容量が異なっていても過電圧状態にすることなく早く充電することができる。
モニタリング機能
LTC3350は14Bit ADCを内蔵しており、スーパーキャパシターの電圧や電流を高精度でモニタリングできます。温度センサーも内蔵し、周辺回路の温度変化やシャント電流による温度上昇も、リアルタイムでモニタリング可能です。
また、モニタリングしたデータに基づいて、容量やESR(等価直列抵抗)の測定ができます。
・容量測定:「正確な放電電流」×「放電時間」から計算
・ESR測定:充電のオン/オフを繰り返し、その電圧の変化から計算
温度センサーも内蔵しており、シャント電流による温度上昇の監視も可能
これらのデータはLTC3350に蓄積され、必要に応じて利用できます。定期的なアラート通知も可能で、スーパーキャパシターの状態を手間なく把握できます。
なぜ、モニタリング機能が必要なのか?
なぜ、モニタリング機能が必要なのでしょうか。スーパーキャパシターは使用にともなって劣化し、容量の減少やESRの増大が進みます。これにより、バックアップ時間が短縮され、そのままでは当初設計したバックアップ時間を確保できなくなります。
下の図は、あるスーパーキャパシター製品における負荷寿命試験の実測データを示すグラフです。経年とともに容量が減少し、ESRが増大することがわかります。
スーパーキャパシターのライフタイム特性
スーパーキャパシターの状態把握は重要!
適切なバックアップ時間を維持するためには、スーパーキャパシターの状態を把握し、適切な時期に交換することが重要です。コントローラーにモニタリング機能がない場合、何らかの仕組みが別途必要となります。
LTC3350のモニタリング機能を活用することで、スーパーキャパシターの状態をリアルタイムに把握し、寿命を適切に管理することが可能です。
今回は、スーパーキャパシター向けバックアップコントローラー「LTC3350」を紹介しました。LTC3350を使えば、スーパーキャパシターを制御する際に課題となる「バックアップ時間の最大化」、「スーパーキャパシターの寿命管理」、「充電時間の短縮」を一挙に解決できます。
評価ボードをご用意していますので、ぜひ一度お試しください。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
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- データセンターにおける瞬停・停電対策
- 半導体製造装置や工場における瞬停・停電対策
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