電源の小型化や設計効率化が求められる中、チャージポンプICへの期待が高まっています。「チャージポンプICとは?」「他の電源ICと比較して、どんな優位性や制限があるの?」と、情報を探している方も多いのではないでしょうか。
あるいは「以前チャージポンプICを検討したが、求める電圧・電流に合わなかったため、選択肢から外してしまった」という方もいるかもしれません。
ここでは、近年、大幅に選択肢が広がっているチャージポンプICについて、基本的な特長、メリット、選択時の注意点などをわかりやすく説明します。また、アナログ・デバイセズ社の“高電圧”チャージポンプICのラインナップについて、その魅力と、適用できるアプリケーション例を紹介します。
チャージポンプICとは?
チャージポンプICとは、インダクターを使用しないDC/DCコンバーターの一種です。電荷を遷移させて、コンデンサーに充電された電圧を重畳させることによって、電圧を出力する方式をとっています。
LDOレギュレーターやスイッチングレギュレーターと比べて、どのような特長があるのでしょうか。それをまとめたのが下の表です。
LDOレギュレーター (三端子レギュレーター) |
チャージポンプ (別名:スイッチド・キャパシター・ボルテージコンバーター) |
スイッチングレギュレーター (インダクタ―を使用) |
|
設計の複雑さ |
◎ |
〇 |
△ |
コスト |
◎ |
〇 |
△ |
ノイズ |
◎ |
〇 |
△ |
効率 |
△ |
〇 |
◎ |
熱の考慮 |
△ |
〇 |
◎ |
出力電流 |
〇 |
〇 |
◎ |
特長 |
昇圧・反転ができない | 入力電圧/出力電流範囲が小さい(従来は) | レイアウトの考慮が必要 |
インダクターが不要な点は、LDOレギュレーターと同様です。大きな違いとしては、LDOレギュレーターは電圧を昇圧・反転する機能を持ちませんが、チャージポンプICは昇圧や反転に対応できます。
一方で、従来のチャージポンプICは入力電圧範囲や出力電流範囲が限られていました。そのため、これまでは「電圧・電流の仕様が合わず、設計に手間がかかるスイッチングレギュレーターを選択せざるをえない」という声も多くありました。
チャージポンプICのメリット
改めて、チャージポンプICのメリットをまとめてみましょう。代表的なメリットとして挙げられるのが、次の3点です。
・シンプルな回路構成で、部品点数を削減できる
チャージポンプICに必要な周辺部品は、基本的な回路では電力をチャージするコンデンサーと、入出力のコンデンサーだけです。インダクターが不要なため、シンプルな回路構成を実現し、部品点数を削減できます。
・負荷にかかわらず、高い効率が得られる
チャージポンプICはPFM制御のため、どのような負荷時にも一定の高効率を発揮できます。これに対して、スイッチングレギュレーターはPWM制御のため、特に低負荷時の効率が低下します。
・磁束が発生せず、出力ノイズが小さい
インダクターを使用しないことから、磁束が発生せず、出力ノイズを抑制できます。
下に、2つの回路図を示します。同じ入出力条件の昇降圧回路を、チャージポンプICとスイッチングレギュレーター、それぞれで構成する例です。左側がチャージポンプIC、右側がスイッチングレギュレーターの例となっています。
一見してわかるように、同じような入出力電圧を想定して回路を構成した場合、チャージポンプICはインダクターがなく、周辺部品も少ないため、回路が圧倒的にシンプルです。スイッチングレギュレーターに比べて、格段に楽に設計できます。
デメリットと制限 ~選択する際の注意点~
一方、チャージポンプICには、どのようなデメリットや制限があるのでしょうか。一般的に、次のような点が挙げられます。
・これまでは電圧・電流の大きいケースに不向きだった
コンデンサーにエネルギーを蓄えて動作させるため、これまでは比較的小さい電圧・電流にしか対応できませんでした。
・リップル電圧が大きい
インダクターを使用しないため、スイッチングレギュレーターと比べて、出力時のリップル電圧が大きくなります。
これらの特性から、チャージポンプICは、小電力で小型を要求される、消費電力とノイズに敏感なアプリケーションを中心に採用されてきました。
<例>
-LED電源
-LCD用高圧電源
-携帯電話
-リモコン
-小型IoT機器
こうした中、近年アナログ・デバイセズから登場しているのが、従来よりも大きな電圧・電流に対応できる、高電圧チャージポンプICです。高電圧チャージポンプICであれば、利用可能なアプリケーションが大幅に広がります。
登場!高電圧チャージポンプIC
ここからは、アナログ・デバイセズの高電圧チャージポンプIC「LTC32xxシリーズ」を紹介しましょう。
一般的なチャージポンプICの入力電圧は12V程度ですが、このLTC32xxシリーズは、最大55Vまでの入力電圧に対応しています。さらに、最大500mAの出力電流に対応している点も大きな魅力です。
従来なら電圧・電流不足であきらめていたケースでも、新たな選択肢としてチャージポンプICを加えることが可能になりました。実に画期的なラインナップだといえるでしょう。
以下のように、バリエーションに富んだ製品が提供されています。
Vinmin(V) | Vinmax(V) | Iout | Function | ||
LTC3255 | 4 | 48 | 50mA | 降圧 | |
LTC3256 | 5.5 | 38 | 350mA | 降圧+降圧LDO | |
✅ | LTC3260 | 4.5 | 32 | 100mA | 反転→独立した正負のLDO |
LTC3261 | 4.5 | 32 | 100mA | 反転 | |
✅ | LTC3245 | 2.7 | 38 | 250mA | 昇降圧 |
LTC3246 | 2.7 | 38 | 500mA | 昇降圧 | |
LTC3265 | 4.5 | 32 | 100mA | 昇圧&反転→独立した正負のLDO | |
✅ | LTC3290 | 4.5 | 55 | 50mA | 昇圧+固定オフセットによるトラッキングモード |
✅:車載対応品(AEC-Q100取得)
シリーズ全体に共通する魅力は、次のとおりです。
性能面で特筆すべきは、なんといっても広い入力電圧における動作です。もちろん、インダクターが不要というチャージポンプICならではのメリットが、小型化や部品削減に貢献します。車載対応のラインナップも提供されており、高い堅牢性の要求に応えられます。
LTC32xxシリーズ ラインナップ紹介
ここでは、豊富なラインナップから、4種類を厳選して紹介しましょう。
【LTC3256】ウォッチドッグタイマー付きデュアル出力降圧チャージポンプ
「LTC3256」は、システムの柔軟な設計が可能になるウォッチドッグタイマーが付いた、デュアル出力の降圧チャージポンプICです。最大38Vの入力電圧に対応し、出力電流は2系統合計で350mAまで可能となっています。
【LTC3260】低ノイズ2電源反転型チャージポンプ(車載対応)
車載対応の「LTC3260」は、1系統の入力電圧から、正負それぞれ独立した電圧を生成できるチャージポンプICです。各チャンネルから最大50mAの電流を出力でき、最大32Vという広い入力電圧に対応しています。
おすすめの用途として、オペアンプ向け±電源の生成が挙げられます。特に、低ノイズでオペアンプを動作させたい産業・計測機器では貢献度が高いでしょう。
【LTC3245/6】広入力電圧昇降圧チャージポンプ250mA/500mA(車載対応)
車載対応の「LTC3245/6」は、入力電圧範囲が2.7V~38Vと非常に広い、昇降圧型のチャージポンプです。高い変換効率、少ない無負荷時静止電流も、見逃せない特長となっています。
おすすめの用途として、基板スペースに制約があり、低消費電力が求められる車載・産業用アプリケーションが挙げられます。例えば、車載ECU/CANトランシーバーの電源にも最適です。
【LTC3290】高電圧昇圧チャージポンプ(車載対応)
最後に「LTC3290」をご紹介します。車載対応品で、本シリーズ最大の入力電圧55Vに耐えうる、昇圧型チャージポンプICです。
高電圧が求められるアプリケーションでは逆入力にも注意しておきたいところですが、このLTC3290は、-55Vまでの逆入力保護機能が備わっているため、非常に堅牢な電源設計をおこなうことができます。
高い効率が求められる、高電圧の昇圧電源生成に最適なICとなっており、車載・産業機械問わず、幅広い用途に活用できます。例えば、高電圧のハイサイドNch-FETドライバーなどでも使いやすい製品です。
主な特長
■広い入力電圧範囲:4.5V〜55V Vin/Vaux
■–55Vまでの逆入力保護機能
■高効率昇圧率を実現する分離入力電源
■出力電流(Iout):最大50mA
■Vin 静止電流:15µA
■Vaux 静止電流: 1µA
■セラミックコンデンサーによる安定動作
■設定可能なトラッキングモード
-出力電圧が入力電圧より固定の値だけ高い電圧で安定化が可能
LTC32xxシリーズから、4種類をピックアップして紹介しました。いずれも幅広い入力電圧をカバーし、大電流の出力にも柔軟に対応できます。
以前ならスイッチングレギュレーターでしか対応できなかったケースでも、今は高電圧チャージポンプICで対応することが可能になっています。ぜひ、この機会に高電圧チャージポンプICを選択肢に加えてみてください。
アプリケーション例
・自動車ECU内トランシーバー
・携帯型POS端末
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