回路の簡素化や高精度化に貢献する最新の逐次比較型A/Dコンバーターとは

高精度のA/Dコンバーターは計測器、自動テスト装置 (ATE) やファクトリー・オートメーション (FA) などの産業用機器および医療用機器といった幅広いアプリケーションで使用されます。

これまで高精度のA/Dコンバーターを選定する場合、高分解能が必要な場合はA/Dコンバーターはシグマデルタ型 (Sigma-Delta)、速度が求められる場合は逐次比較型 (SAR=Successive-approximation Register) という選択が一般的でした。

しかし、アナログ・デバイセズの逐次比較型A/Dコンバーターは進歩を続け、今やシグマデルタ型に匹敵する20bit以上の分解能を実現した製品が提供されています。 また、高精度だけでなく周辺部品を減らす便利な機能や、周辺部品を取込んだSiP(システム・イン・パッケージ)のモジュール型製品も用意されています。

ここでは、アナログ・デバイセズの回路の簡素化や高精度化を実現する最新の逐次比較型A/Dコンバーターについて、3つの製品シリーズをピックアップしご紹介します。
 ・20bit以上の分解能かつ回路の簡素化に役立つ機能を備えたAD4000シリーズ
 ・20bit以上の分解能かつ高い積分日直線性を備えたLTC2378シリーズ
 ・高精度回路の開発コストと実装面積を最小化するモジュール型のADAQシリーズ

20bit以上の分解能を実現したAD4000シリーズとLTC2378シリーズ

アナログ・デバイセズには20bit以上の分解能を持つ逐次比較型A/Dコンバーターに2つのラインナップがあります。

AD4000シリーズは使いやすさにこだわった機能を多数備えており回路の簡素化に貢献します。また、LTC2378シリーズは高い積分非直線性 (INL) で高精度が必要とされる回路に最適です。

AD4000シリーズ・LTC2378シリーズの一覧
AD4000シリーズ・LTC2378シリーズの一覧

シグナル・チェーンを簡素化するAD4000シリーズ

アナログ・デバイセズの技術を集結させて開発されたAD4000シリーズは、高精度データ・アクイジションのシステムレベルの技術課題を解決するための便利な機能を備えています。これにより、設計者は高いチャンネル密度を実現しながらシグナル・チェーンを簡素化し消費電力を低減することができます。

AD4000シリーズの機能一覧
AD4000シリーズの機能一覧

■ 外付け保護ダイオードを不要にする内部過電圧クランプ機能

ADCドライバー・レールがリファレンス電圧よりも高く、グラウンドよりも低いアプリケーションでは、出力がADCの入力電圧を超える場合があります。AD4000の内部過電圧クランプ回路は、過剰な電流がREFピンに流れないようにし、過電圧によるリファレンス電圧の乱れを防ぐとともにリファレンス・ソースを保護する機能を備えています。クランプがDC過電圧からADコンバーター入力を保護するので、測定誤差を引き起こす恐れのある外付けの保護ダイオードが不要になります。これは特にリファレンスが複数のADコンバーターで共有されている場合に重要です。

■ ADCドライバー回路を不要にする高インピーダンスモード

高インピーダンスモードは、A/Dコンバーターの変換時における非直線性入力電流による電圧ステップを削減するため、低消費電力または狭い帯域幅の信号源を使用してA/Dコンバーターの入力を直接駆動している場合のシステム性能が高くなります。高インピーダンス・モードと長いアクイジション・フェーズを組み合わせると、高精度アンプまたはシグナル・コンディショニング段で直接AD4000シリーズを駆動できるので、マイナス入力信号の周波数が低い場合 (<10kHz) は、逐次比較型A/Dコンバーターに基づく設計で通常使用される専用高速ADCドライバー段が不要になり、入力RCフィルターのカットオフ周波数を従来型のA/Dコンバーターよりも低く設定できます。これは、上流のシグナル・チェーン部品からの広帯域ノイズの除去に役立ちます。また、RCフィルターに大きいR値を設定できるので、DCタイプの信号に使用できる低消費電力、帯域幅高精度アンプの選択肢の幅が広がります。

高インピーダンス・モードのドライブ補助機能
高インピーダンス・モードのドライブ補助機能

■ 電源電圧を簡素化する入力スパン圧縮機能

電力条件が厳しいアプリケーションでは、システム設計者がADCドライバーの負電源レールをグラウンドに接続し、リファレンス電圧に近い正電源レールの電圧を使用する場合があります。入力スパン圧縮機能は、A/Dコンバーターの伝達関数を変更して、A/Dコンバーターの入力電圧範囲の上限と下限(-FSおよび+FS)を10%削減しながら、使用できるすべての2N出力コードへのアクセスを維持します。例えば、標準的なリファレンス電圧の4.096Vでスパン圧縮を有効にした場合、フルスケール入力範囲は0.41V~3.69Vに設定されるので、5V単電源から駆動アンプとリファレンス・ソースに給電するための十分なヘッドルームが提供されます。

■ セトリング時間を短縮するターボモード

ターボモードを使用すると、A/Dコンバーターの変換が終わる前に、前回の変換結果をクロック出力し始めることができます。また、AD4000シリーズの特長である高速変換時間によって、アクイジション・ウィンドウが長くなるので、ADCドライバーにかかるセトリング時間の負荷が軽減されます。短い変換時間とターボ・モードの組み合わせによって、低いSPIクロック・レートでの読み出しが可能になり、絶縁ソリューションなどのインターフェース要件が緩和されます。これにより、デジタル・アイソレーターの遅延要件、ローエンド・プロセッサーまたはFPGAや、シリアル・クロック・レートの比較的低い低消費電力マイクロコントローラーなど、プロセッサーの選択肢の幅が広がります。

積分非直線性 (INL) 性能が高いLTC2378シリーズ

LTC2378シリーズは、直線性が厳密に確保されることが重要な要件である場合に高いパフォーマンスを発揮します。

同じ20bitのA/Dコンバーターでも、LTC2378-20は-40~85℃で最大INL:±2ppm、AD4020は-40~125℃で最大INL:±3.1ppm(0~70℃で最大INL:±2ppm)と、LT2378シリーズのほうが高い積分非直線性となっています。

※両グラフは、それぞれ測定条件が異なるため、詳細は各製品のデータシートをご確認ください。

LTC2378-20のINL特性(出典:LTC2378-20 データシートより抜粋)
LTC2378-20のINL特性(出典:LTC2378-20 データシートより抜粋)
AD4020のINL特性(出典:AD4020 データシートより抜粋)
AD4020のINL特性(出典:AD4020 データシートより抜粋)

最適なA/Dコンバーターの選定をお手伝いします

上記のように積分非直線性 (INL) はLTC2378-20のほうが優れていますが、AD4020のスループットは1.8MSPSとLTC2378-20の1MSPSよりも速いため、高いSINAD性能でナイキスト周波数までの高周波数信号を捕捉することができます。そのため、デシメーション/オーバーサンプリングを使用した小信号レベルの測定や、マルチプレクスが可能になり、アンチエイリアシング・フィルターの問題が軽減されます。

また、AD4020は変換時間が短くアクイジション・ウィンドウが長いので、低いSPIクロック・レートを使用できます。これはLTC2378-20と比べてほぼ2倍(312nsに対して625ns)になります。これにより、ADCドライバー回路へのセトリング負荷が大幅に軽減されるので、ADCドライバーの選択肢が広がり、低消費電力、狭帯域幅の高精度アンプやデジタル・ホストを使用できます。さらに、必要なセトリング時間に関係なく、該当する帯域幅に基づいてRCフィルターのカットオフ周波数を設定できるので、選択したアンプの性能を最大限発揮しながら、より柔軟にRCフィルターを選択できるようになります。

このように高精度なA/Dコンバーターの選択には多くの検討要素があるため、部品選定でお悩みの際はお気軽にお問い合わせボタンからご相談ください。弊社の技術スペシャリストが、お客様の仕様に合う最適な部品をご提案します。

アナログ技術継承の課題に応えるADAQシリーズ

 

ADAQシリーズは、既存のシグナルチェーンに対して実装面積を最小化しプロトタイプ完成までの時間を短縮する、SiP(システム・イン・パッケージ)ソリューションです。アナログ・デバイセズの特許技術「µModule®」と「iPassives®」という2つの技術により、共通のシグナルブロックおよび重要な受動部品を1つのデバイス上に内蔵しています。

ADAQシリーズを採用することで、これまで熟練のアナログ回路設計者がおこなっていた部品の選択~最適化~レイアウトの作業を、設計者からデバイス自体に移行させることによって、開発サイクルを簡略化することができます。これはアナログ・デバイセズによる、アナログ回路の簡素化や高精度化を実現するもう一つのアプローチであり、人口減少社会におけるアナログ回路設計者の減少やアナログ技術継承の課題に応えるソリューションでもあります。

iPassives®技術によってADAQシリーズに内蔵されている受動部品

回路のアンバランスに対処し、寄生成分を減らしてゲイン整合を実現する助けとなるほか、デバイスとしてのドリフト性能を最適化・担保することができます。また、ディスクリート受動部品と比較したとき、性能上のみならず、サイズ上の利点もあり、温度依存の誤差源を最小限に抑えて、システムレベルの校正にかかる負担を軽減します。

■ ADCドライバー・ADC間の単極RCフィルター

セトリング時間と入力信号帯域幅に関して、最大限のパフォーマンスを発揮します。

■ 電圧リファレンス・ノードおよび、電源用に必要なすべてのデカップリング・コンデンサー

部品表 (BOM) の構成品数の削減に貢献します。

■ ユニティー・ゲインに設定されたリファレンス・バッファー

リファレンス・ソースは、SARコンデンサー・アレイの動的負荷ではなく、高インピーダンス・ノードを駆動することになるので、多くの逐次比較型A/Dコンバーターよりも、はるかに低消費電力のリファレンス・ソースを実装することができます。これにより、狙ったアナログ入力範囲に合わせてリファレンス・バッファーの入力電圧を柔軟に選択することができます。

■ リファレンスおよび電源に必要なすべてのデカップリング・セラミック・コンデンサー

これらのコンデンサーは、高い周波数でグラウンドへの低インピーダンス経路を提供することで、過渡電流に対応します。そのため、外付けのデカップリング・コンデンサーは不要で、これらのコンデンサーがなくても性能への影響やEMI上の問題が生じることはありません。

iPassive®技術で、重要な受動部品をワンチップに
iPassive®技術で、重要な受動部品をワンチップに

アプリケーション例

►計測器(卓上型および携帯型)

超音波非破壊試験器

動的信号解析

アナログ入力モジュール

排出ガス・アナライザー

 

►ATE

-DUT用電源

-信号源計測ユニット

-ピン・カード・デジタイザー

 

►ヘルスケア

-超音波(連続波ドップラー・パス)

-臨床モニタリング

-デジタルX線

-内視鏡検査

 

►工業オートメーション

-マシン・オートメーション

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