※2022/5/25 更新 記事内の情報をアップデートいたしました。
タッチセンサー搭載機器が一般的になる時代へ
静電容量センサーを利用したタッチセンシングの技術はますます一般的になっており、家電製品だけでなく、セキュリティ機器や産業機器にも搭載されています。本記事では、静電容量のタッチセンシングの弱点を克服する技術「CapTIvate」について解説し、記事の最後には静電容量センサーを利用したタッチセンシングボタンの導入手順書がダウンロードいただけますので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。
ではまず既存の機械式ボタンから、静電容量のタッチセンサーに置き換えるメリットと弱点を見ていきます。
静電容量のタッチセンサーを採用するメリット
- 摩耗による劣化の考慮が不要
- デザインの自由度が高い
- スイッチだけでなく、スライダやホイールといった利用も可能
このようにメリットも多々ありますが、以下のような弱点もあるため、どのようなアプリケーションにも採用できるというわけではありませんでした。
静電容量のタッチセンシングが持つ弱点
- 外来ノイズや静電気放電(ESD)などの影響を受けやすい
- 水や油などが付着すると誤作動が起こるため、厳しい環境条件の下での利用が難しい
- 消費電力が大きくなってしまう
今回は、このような弱点を克服するTexas Instruments社(以降TI社)のマイコンに搭載された技術について紹介します。
CapTIvate™ テクノロジーの特長とは
CapTIvateテクノロジーは、MSP430マイコンシリーズの一部の製品に内蔵された、静電容量をデジタル値に変換するペリフェラルです。容量の変化に対して高い感度を持つため、CapTIvateテクノロジーは金属オーバーレイもサポートし、その場合は容量の変化から金属オーバーレイのたわみを測定します。
CapTIvateテクノロジーを搭載したマイコンの特長は以下の通りです。
- IEC61000-x 認証取得済みでより高いノイズ耐性を提供
- 3Dジェスチャーや手袋を装着しても使用可能
- 必要な時だけCPUが動作するため超低消費電力を実現
- プログラムを書かずにGUIを使った静電容量性センサーの製作や構成、調整が可能
それぞれの特長について解説していきます。
1. IEC61000-x 認証取得済みでより高いノイズ耐性を提供
CapTIvateテクノロジーを搭載したマイコンは、IEC 61000-4-6 RF イミュニティー適合認証取得済ソリューションを提供する静電容量性タッチ・マイコンです。
周波数ホッピングやゼロクロス方式をハードウェアで提供、堅牢な検出機能を実現しています。
また、ソフトウェアの面ではオーバーサンプリング、デバウンス、ACノイズのフィルターで誤検知を最小限に抑えます。さらに、EMC標準規格に準拠した包括的なリファレンス・デザインを提供しています。
2つの静電容量方式に対応
CapTIvateテクノロジーは、自己容量、相互容量どちらの静電容量方式にも対応しています。
高感度で導入が容易な自己容量方式
単一のセンサー電極が持つ電界に指などの人体(GND)が近付く ことにより、疑似的にコンデンサーが形成され、センサー電極自身の容量が増加します。自己容量方式ではこの容量の増加を検知し、タッチされたかどうかを判別します。自己容量方式は、電極の構造が単純で感度が良いことからタッチパネルの導入が容易と言われていますが、一方で、指のタッチのかわりに電極に水滴が付着した場合も容量増加が生じるため、水滴の付着時に指のタッチによる容量増加との識別が困難であるという課題が知られています。
水滴の付着と指のタッチを区別できる相互容量方式
相互容量方式では2つの電極間の電磁界の状態変化によってタッチを検出しています。
センサー部の表面に水滴が付着した場合は電極間容量が増えますが、ここに指が近づいた場合は電磁界の一部が指で遮られ、電極間の容量は減少します。このような仕組みで、水滴の付着と指のタッチを区別することが可能となっています。

2. 手袋を装着しても使用可能
なぜ手袋をするとタッチを検出できないのか
一般的に、静電容量でのタッチ検出は、センサー電極の静電容量の変化でタッチを検出していますので、手袋を装着することで導電性が低下するとタッチを検出しにくくなることが知られています。
手袋をした状態でもタッチを検出させるには?
手袋でも反応するためには、2枚の板間の静電容量の変化を検知することで実現しています。自己容量の静電容量式タッチ・システムでは、センサー・パッドが平行板コンデンサーの一方の側を形成し、ユーザーの指がもう一方の側となりますが、指の代わりに導電性のオーバーレイ素材を使用し、それを静電容量式タッチセンサーの上に浮かせて固定することで、測定対象コンデンサーのもう一方の板を形成します。
また、この仕組みは手袋だけでなく、厚いガラス/プラスチック/金属保護層の透過、湿気/汚れ/油の多い条件下での動作も可能です。
詳細は、下記のリンクの5ページ ”1.2 金属を通したタッチ・アプリケーションに利用するテクノロジー”を参照ください。
CapTIvate™テクノロジーを搭載したMSP430™マイコンによる、金属を通した静電容量式タッチ
3. 必要な時だけCPUが動作するため超低消費電力を実現
タッチセンサーに導体が触れる直前までCPUを停止できる
CapTIvateテクノロジー採用のマイコンでは、基本的なノイズフィルター処理を含め、タッチ検出を専門に処理する専用のハードウェアIP(CAPTIVATE-IP)を搭載しており、タッチセンサーに導体(手や指)が接近してくる直前までCPU停止を維持、タッチ検出後に処理が必要な期間だけCPUを動作させる仕組み(wake-on-touch)により、超低消費電力を実現しています。
詳しくはこちらで図解していますのでご覧ください。
CapTIvate wake-on-touchで超低消費電力

4. プログラムを書かずにGUIを使った静電容量式センサーの製作や構成、調整が可能
TIではCapTIvate デザイン・センター GUI というツールを提供しています。
このツールには、MSP430 CapTIvate マイコンを使用して静電容量式タッチパッドの設計の簡素化と迅速化を実現するためのツール、資料、サンプル・ソフトウェアが付属しています。
CapTIvate デザイン・センター GUI を利用してできること
静電容量式ボタン、スライダ、ホイール、近接センサーをワークスペースにドラッグ・アンド・ドロップし、GUI を使用してコードの生成、設計の構成、チューニングをリアルタイムで実行することができます。使用方法については以下のCapTIvate導入手順書をご覧ください。
こちらの導入手順書では、他にも下記内容を掲載しています。簡単なご登録でお読みいただけるので、ご興味をお持ちの方は是非ダウンロードいただきご活用ください。
・評価ツールについて
・開発キットについて
・開発環境の紹介
・インストール方法
・デモ(GUIの使い方、タッチ感度の調節 他)
CapTIvateテクノロジーを搭載したマイコン
今回ご紹介したCapTIvateテクノロジーを搭載したマイコンの一覧になります。CapTIvateテクノロジーを搭載したマイコンは、TI社の超低消費電力マイコンMSP430FRシリーズであり、不揮発性で高速書き込みが可能な次世代メモリーFRAMを搭載しています。
製品型番 | センシングブロック | 最大ボタン(自己容量 / 相互容量) 数 | パッケージ | パッケージサイズ |
MSP430FR2676 |
4 |
64 |
48-LQFP 40-VQFN 32-VQFN |
9 x 9 6 x 6 5 x 5 |
MSP430FR2675 |
4 |
64 |
48-LQFP 40-VQFN 32-VQFN |
9 x 9 6 x 6 5 x 5 |
MSP430FR2673 |
4 |
64 |
32-VQFN |
5 x 5 |
MSP430FR2672 |
4 |
64 |
32-VQFN |
5 x 5 |
MSP430FR2633 |
4 |
64 |
32-TSSOP 32-VQFN 24-DSBGA |
11 x 6.2 5 x 5 2.29 x 2.34 |
MSP430FR2533 |
4 |
16 |
32-TSSOP 32-VQFN |
11 x 6.2 5 x 5 |
MSP430FR2632 |
4 |
16 |
24-DSBGA 24-VQFN |
2.29 x 2.34 4 x 4 |
MSP430FR2532 |
4 |
8 |
24-VQFN |
4 x 4 |
MSP430FR2522 |
2 |
16 |
16-TSSOP 20-VQFN |
5 x 6.2 3.5 x 4.5 |
MSP430FR2512 |
1 |
4 |
16-TSSOP 20-VQFN |
5 x 6.2 3.5 x 4.5 |
製品や技術に関する問い合わせはこちら
いかがでしたでしょうか。今回は従来の静電容量タッチセンシングの弱点を解消する、TI社のCapTIvateテクノロジーについてご紹介しました。
本記事でご紹介したCapTIvateテクノロジーやTI社の製品に関する詳細な情報をお求めの方は、ぜひこちらからお問い合わせください。