はじめに
前回の記事では、IEC 60747-17における絶縁性能評価や、VIORM、VIOWMなどの主要パラメータを紹介しました。
本記事では、絶縁システムに生じる劣化メカニズムを整理したうえで、絶縁バリアの経年劣化を評価するTDDB(Time-Dependent-Dielectric-Breakdown)について
解説します。
IEC 60747-17における絶縁寿命評価
IEC 60747-17では、アイソレーターの長期信頼性に影響する要因として、
・表面トラッキング
・モールド樹脂・パッケージ材料の劣化
・絶縁バリアの劣化
を考慮しています。
表面トラッキングについては沿面距離やCTI、モールド樹脂・パッケージ材料については温度や湿度に対する信頼性評価が行われます。
一方で、絶縁システムの長期信頼性を考えるうえで特に重要となるのが、絶縁バリアそのものの経年劣化です。
絶縁バリアの故障は、大きく分けると
・製造工程や材料に起因する初期欠陥による故障
・長期間の電圧ストレスによって進行する絶縁材料本来の経年劣化
に分類することができます。
IEC 60747-17では、耐電圧試験によって絶縁バリアの異常を確認し、部分放電試験によってモールド樹脂や絶縁材料中のボイドなど、
長期信頼性に影響する初期欠陥を持つ製品を選別します。その上で、TDDB(Time-Dependent-Dielectric-Breakdown)による長期的な絶縁バリアの劣化評価も行います。
本記事では、適切な初期品質管理を経た後も時間とともに進行する絶縁材料本来の経年劣化に着目し、TDDBの評価方法について解説します。
TDDBによる絶縁バリアの寿命評価
絶縁体は電気を通さない材料ですが、永久に絶縁性能を維持できるわけではありません。絶縁膜へ電界が長期間印加されると、膜内部に微細な欠陥が生成・蓄積します。
この現象を説明する考え方の一つが、パーコレーションモデルです。
初期状態では、それぞれの欠陥は孤立しています。しかし、電圧ストレスが継続して欠陥密度が増加すると、欠陥同士が徐々につながり始めます。最終的に欠陥のネットワークが絶縁膜を貫通すると導電経路が形成され、絶縁抵抗の低下やリーク電流の増加を経て、絶縁破壊に至ります。
以下はパーコレーションモデルの概念図です。
パーコレーションモデルの概念図
TDDB評価では、完成したアイソレーターICの絶縁バリアへ一定の電圧ストレスを印加し、絶縁抵抗が規定値を下回るまでの時間をTTF(Time To Failure)として測定します。TDDBでは、基礎絶縁は絶縁抵抗が2 MΩ未満、強化絶縁は4 MΩ未満となった時点を絶縁破壊の判定基準としています。
この評価は絶縁膜そのものではなく、完成したデバイスに対して実施されます。そのため、実際の絶縁構造や電界分布を反映した寿命評価となります。
TDDBから寿命を予測する
実際の使用条件で絶縁寿命を直接確認しようとすると、非常に長い試験期間が必要になります。
そこでTDDB評価では、複数の電圧ストレス条件でTTFデータを取得し、各電圧における故障時間の分布を統計的に解析します。その結果から寿命曲線を作成し、
実使用電圧領域における寿命を外挿します。
以下は印加電圧と予測寿命の関係を示した例です。
TDDB評価における寿命曲線と絶縁寿命予測
寿命曲線からは、印加電圧が高くなるほど絶縁破壊までの時間が短くなる傾向を確認できます。
IEC 60747-17では、次の寿命および故障率条件を基準としてVREFを算出します。
・基礎絶縁:1000 ppm、24年
・強化絶縁:1 ppm、30年
算出したVREFに所定の電圧マージンを適用し、VIORMが決定されます。TDDBでは、VREFの算出後に1.2倍の電圧マージンを適用してVIORMを決定する流れが
示されています。
VIORMやVIOWMは、単なる耐圧試験値ではなく、TDDBによる寿命予測をもとに規定される絶縁性能パラメーターです。
実アプリケーションにおける絶縁寿命の考え方
高周波スイッチングは絶縁寿命に影響するのか
絶縁型ゲートドライバーなどでは、高周波スイッチングや高dv/dt環境が絶縁寿命へ与える影響についてお問い合わせをいただくことがあります。
一般的に絶縁寿命を支配する主要因は、電界ストレスによる欠陥の生成・成長や、それに起因する部分放電であると考えられています。加えて、SiO₂絶縁膜については
周波数依存性が比較的小さいことが報告されており、単純にスイッチング周波数が高いことだけをもって絶縁寿命が大きく低下するとは考えられていません。
そのためIEC 60747-17では、部分放電試験によって長期信頼性に影響する初期欠陥を持つ製品を選別するとともに、TDDBによって長期的な絶縁劣化を評価しています。
絶縁破壊に至るまで信号伝送を維持できるのか
パーコレーションモデルで考えると、欠陥密度が臨界点に達して絶縁膜を貫通する導電経路が形成されることで絶縁破壊に至ります。そのため、欠陥が蓄積している途中段階では絶縁バリアとしての機能を維持しており、通常どおり信号伝送を行うことが一般的です。
少なくともTDDB評価そのものは、通信品質の緩やかな低下を寿命判定に用いるものではなく、絶縁抵抗が規定値を下回るまでの時間を評価対象としています。
おわりに
IEC 60747-17では、表面トラッキング、モールド樹脂・パッケージ材料の劣化、絶縁バリアの劣化といった複数の要因を考慮して絶縁信頼性を評価します。
その中で、絶縁バリアの経年劣化を評価する手法がTDDBです。TDDBでは、絶縁膜内部における欠陥の生成と蓄積を評価し、絶縁破壊までの時間を統計的に予測します。
本記事ではアイソレーターを対象に説明しましたが、絶縁寿命という考え方はフォトカプラをはじめとする他の絶縁素子にも共通するものです。
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