はじめに
最近ではオーバーヘッド型のヘッドフォンだけでなく、左右独立型ヘッドセットでもANC対応機種が増えています。ANC機能は周囲の騒音(ノイズ)などを掻き消してくれるので、飛行機内での睡眠時やカフェでの勉強時など様々なケースで役に立つ機能です。そんなANC機能の概要について触れていきます。
ANCとは
Active Noise Canceling の略称です。
一般的にノイズキャンセリング機能として認知されているのは、アクティブ系のノイズキャンセリングで、ユーザーの耳に届く不要な背景/周囲雑音(バックグラウンドノイズ/アンビエントノイズ)を積極的に打ち消す(減衰させる)機能です。
マイクを通してバックグランドノイズをキャプチャーして、アンチノイズ(バックグランドノイズの逆位相)を生成します。アンチノイズはヘッドセットのスピーカーを通して再生されます。これによって、アンチノイズとバックグラウンドノイズは、ユーザーの耳に届く前に互いに打ち消し合います。
結果、不要なノイズは掻き消され、ユーザーの耳には入ってこないという仕組みです。

ANCの特性
ANCは音波の特性上、音響スペクトル(音圧や音の強さなどを周波数の関数として示す)の低周波部分で最も効果を発揮します。フィット感(機械的な)と音響特性によっては、高周波数のノイズを打ち消すこともできます。
冒頭にアクティブ系のノイズキャンセリングが一般的であるとしましたが、他にも騒音を耳に届かせないようにブロックするパッシブノイズキャンセリング、遮音性を高めることでノイズを耳に届かせないようにブロックするパッシブノイズアイソレーションと呼ばれるパッシブ系の方式も存在します。
パッシブノイズアイソレーションとANC技術は、ユーザーに快適なリスニング環境を提供するための相互補完的な技術であり、ANCは低周波音波の発生に必要なスピーカーやレシーバーなどの電気機械部品の効果に大きく依存します。
ANCシステムの性能はANC技術だけでなく、ハードウェアの設計にも依存します。
方式と特性
下記のような方式が存在しており、それぞれ構成や特性が異なります。
・Feed Forward ANC (FF ANC)
・Feed Backward ANC (FB ANC)
・Hybrid ANC

Feed Forward ANC (FF ANC)
フィードフォワードモードでは、ANC はノイズがスピーカーやレシーバーなどの駆動装置に到達する前に基準ノイズを取り込みます。そして、ノイズの逆位相(アンチノイズ)を計算し、スピーカーを通してアンチノイズを再生します。
Feed Backward ANC (FB ANC)
フィードバック(FB)モードでは、ANCは外耳道(※)とスピーカー間(静音域内)に残るノイズをキャプチャーするマイクを搭載しており、このノイズをフィードバックアルゴリズムで処理して、適切なアンチノイズを生成します。
ノイズマイクはスピーカー経路に送られてくる音楽信号や音声信号も拾うため、FB ANCではFF ANCよりも複雑な処理が必要です。この場合、FBフィルターパスは、処理の前にマイクから残留音楽信号や音声信号を除去するように調整されます(エコーキャンセラーに似ています)。この構成はフィードバックの性質があるため、慎重なチューニングと適切な音響設計が行われていないと性能が不安定になる可能性があります。
フィードバックANCは一般的に低周波ノイズ(500Hz以下)の低減に効果的で、フィードフォワードANCに比べて指向性のある性能変動が少ないです。
※外耳道:
耳の穴から鼓膜まで続く、一方が閉鎖された管状の器官で、音波を中耳(ちゅうじ)に伝える部分です。
外耳道はラッパの管のように音を増幅させる効果があり、音波は鼓膜を振動させます。この鼓膜の振動が中耳に伝わります。
Hybrid ANC
ハイブリッドANCは、FFとFBのそれぞれの利点を維持するために、FF PathとFB Pathを同時に使用しています。
ハイブリッドANCでは、アクチュエーター(スピーカーまたはレシーバー)より前段の基準ノイズと、外耳道とスピーカー間(静音域内)の残りのノイズをキャプチャーするために、チャンネルごとにノイズ(FFマイク)とエラーマイク(FBマイク)を必要とします。
ノイズマイクからの信号はFFパスで処理され、エラーマイクからの信号はFBパスで処理されます。
まとめ
これまでに紹介したように、ANC機能は複数存在しており、それぞれ方式・構成・特性などが異なります。また、実現するにはハード設計やレイアウト、チューニング作業など重要な項目・工程が複数あり、開発には多くの時間も要するため、実装を計画する際に注意する必要があります。
最後に、本記事で紹介しましたANC機能はQualcomm®社製 Bluetooth製品 QC514x Series や QCC304x Series 、又は QCC3056 で実現することが可能です。
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