Bluetoothオーディオの品質向上に貢献するQualcomm® aptX™

はじめに

イヤホンジャックを廃止したスマートフォンが増えてきており、Bluetoothを使ったオーディオリスニングがより一般的なものになってきました。実際に通勤などでBluetoothイヤホンを使っている方も多いのではないでしょうか。

 

Bluetoothのオーディオ転送で使われるコーデックも進歩しており、高音質コーデックも登場しています。Qualcomm社ではBluetoothオーディオ用の高音質コーデックとしてQualcomm® aptX™を用意しています。

Bluetoothコーデックとは

Bluetoothの最大スループット(1秒間に送信できる最大データ量)は、理想的な環境化(Wi-Fiなどの無線と干渉しない環境化)で1Mbps(毎秒1Mbit = 毎秒125kbyte)と言われています。CD音源をそのまま転送する場合に必要となるスループットは、44.1kHz × 16bit × 2channel = 1411200bps(≒ 1.411Mbps > 1Mbps)となるため、そのままではBluetoothの送信能力では転送できません。

 

そこで、Bluetoothではオーディオを安定して転送するために音声データの圧縮を行っており、そちらの音声圧縮技術でコーデックが利用されています。ひと昔前、容量が少ないオーディオプレイヤーにMP3で圧縮して音楽を持ち運んでいたのと同じ原理となります(Bluetoothでは使われていませんが、MP3もコーデックの1つです)。

Bluetoothコーデックの原理

従来のBluetoothコーデック(SBC)の特徴

Bluetoothオーディオ転送用プロファイルであるA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)の標準コーデックで、なおかつ対応必須のコーデックであるSBC(SubBand Codec)が従来から使われていますが、こちらのコーデックはBitpool値(SBCの音質パラメーターの1つ)の影響を大きく受けるコーデックとなっています。

 

古い製品や十分な送信能力を持っていない製品ではビットレート(1秒間の送信データ量)を下げるために低いBitpool値が使われているため、そのような製品と接続した場合、高いBitpool値に対応している比較的新しいイヤホンやヘッドホンを使っていたとしても低いBitpool値が使われてしまうため、音質が下がってしまうといった特徴があります。Bitpool値は一般的には見えない値(専門の機材を使わないと確認できない値)のため、こちらもユーザーを惑わす一因となっています。

 

また、AACやMP3にエンコードする際に行われている聴覚心理モデルによるマスキング処理(圧縮時に非可聴域を間引く処理)がSBCのエンコードでも行われているため、AACやMP3の音源をBluetoothで送信した場合、2重にマスキング処理が行われることになり、原音に比べて違和感を感じる音になってしまうといった特徴もあります。

2重圧縮(2重マスキング)による音声劣化のイメージ

Qualcomm® aptX™とSBCの違い

Qualcomm® aptX™は独自のコーデック方式を採用しており、SBCのように聴覚心理モデルによるマスキング処理(非可聴域を間引く方式)を使っていないのが大きな違いとなります。Qualcomm® aptX™では聴覚心理モデルを使わない独自の固定圧縮アルゴリズムを使用することで、原音に忠実なフラットな周波数特性を実現しており、そちらの技術によって高音質を担保しています。

また、SBCはフレーム単位のコーデック(ある程度の時間分の音をまとめて1フレームとしてエンコードするコーデック)で、1フレーム分を受信し終わるまでデコードできないため比較的遅延が大きいのに対し、Qualcomm® aptX™はサンプル単位のコーデック(1秒間にサンプリング周波数回行われる音の標本化の単位でエンコードが行われるコーデック)で、サンプルデータを受信した時点ですぐにデコードできるため遅延が少なくて済むといった違いもあります。

 

エンコード単位の違いによる影響のイメージ

性能比較表

 

コーデック

聴覚心理モデルによる

マスキング

周波数応答特性

Encode/Decodeの単位

遅延

SBC

行う

(非可聴域を間引く)

高域で急激な信号減衰あり

(聞こえにくい高音を減衰)

フレーム単位 比較的大きい
Qualcomm® aptX™

行わない

(非可聴域を間引かない) 

原音をほぼ忠実に再現

(高音までフラット)

サンプル単位 比較的小さい

Qualcomm® aptX™ Familyの特徴

Qualcomm® aptX™では、Qualcomm® aptX™ / Qualcomm® aptX™ Low Latency / Qualcomm® aptX™ HD / Qualcomm® aptX™ Adaptive といった幅広いラインナップを用意しています。以下に、それぞれの特徴についてまとめます。

・CDクオリティの高音質オーディオコーデック

・録音スタジオや放送局などのプロ音響分野で揉まれた技術

・音声品質の劣化や遅延の問題を発生させることのないBluetooth音声伝送に適した独自のアルゴリズムを採用

・メジャーなOS(Windows10, macOS, Android)で送信機能をサポート

・リップシンクが気にならない低遅延なオーディオコーデック

・映像との差40msec以下を達成

・aptXをベースに低遅延向けのパケット転送・エラー補正処理を実装

・音質はQualcomm® aptX™と同等

・ハイレゾ音源に対応する24bit Bluetoothオーディオコーデック

・SNR 129dB(ハイレゾ相当の低ノイズ)を実現

・独自のパケットエラー補正アルゴリズムを採用

・プロ音響分野で実績のある24bitアルゴリズムをBluetoothに採用

・高音質、低遅延、堅牢性(音途切れの強さ)を兼ね揃えたコーデック

・RF環境の変化に合わせて自動的にビットレートを調整し音飛びを抑制

・ビットエラー耐性が、厳しいRF環境でのオーディオ品質維持を支援

・ユースケースに合わせて動的に低遅延モードに移行

仕様比較表

 

コーデック

ビット深度

および音質

ビットレート

低遅延対応

THD+N @1kHz

(小さい程歪みが小さい)

SNR @1kHz

(大きい程雑音が小さい)

Qualcomm® aptX™

16bit

CD音質相当

352kbps @44.1kHz

384kbps @48kHz

× -85dB 93dB
Qualcomm® aptX™ Low Latency

16bit

CD音質相当

352kbps @44.1kHz

384kbps @48kHz

-85dB 93dB
Qualcomm® aptX™ HD

24bit

ハイレゾ相当

529kbps @44.1kHz

576kbps @48kHz

× -90dB 129dB
Qualcomm® aptX™ Adaptive

24bit

ハイレゾ相当

276kbps - 420kbps

(可変ビットレート)

-90dB @276kbps

-100dB @420kbps

130dB @276kbps

135dB @420kbps

Qualcomm® aptX™対応 主要ラインナップ

Model No

Target APP

TWSイヤホン向け

対応コーデック

ヘッドホン、スピーカー向け

対応コーデック

QCC3040

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (*)

QCC3044

Bluetoothヘッドセット

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ HD

Qualcomm® aptX™ Adaptive (*)

QCC3046

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (*)

QCC3050

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

QCC3056

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

QCC3071

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (***)

LC3 (LE Audio)

QCC3072

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

LC3 (LE Audio)

QCC5125

Bluetoothヘッドホン

Bluetoothスピーカー

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Low Latency

Qualcomm® aptX™ HD

Qualcomm® aptX™ Adaptive (*)

QCC5141

TWSイヤホン

Bluetoothヘッドホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ HD

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

QCC5144

TWSイヤホン

Bluetoothヘッドホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ HD

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

QCC5151

TWSイヤホン

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (**)

QCC5171

TWSイヤホン

Bluetoothヘッドセット

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm® aptX™ Adaptive (***)

LC3 (LE Audio)

SBC, AAC

Qualcomm® aptX™

Qualcomm aptX Adaptive (**)

LC3 (LE Audio)

(*) 48kHz/24bit 転送のみサポート
(**) 48kHz/24bit 転送に加え、96kHz/24bit 転送もサポート、 Qualcomm® Snapdragon Sound™ にも対応可能
(***) 48kHz/24bit 転送に加え、96kHz/24bit 転送もサポート、Qualcomm® Snapdragon Sound™ 対応することで更に Lossless 転送もサポート

Product and Trademark Attribution

  • The Bluetooth® word mark and logos are registered trademarks owned by Bluetooth SIG, Inc. and any use of such marks by Macnica, Inc. is under license. Other trademarks and trade names are those of their respective owners.
  • Snapdragon Sound is a product of Qualcomm Technologies, Inc. and/or its subsidiaries.
  • Qualcomm aptX is a product of Qualcomm Technologies, Inc. and/or its subsidiaries.
  • QCC3040, QCC3044, QCC3046, QCC3050, QCC3056, QCC3071, QCC3072, QCC5125, QCC5141, QCC5144, QCC5151 and QCC5171 are products of Qualcomm Technologies, Inc.  and/or its subsidiaries.
  • Qualcomm, Snapdragon and Snapdragon Sound are trademarks of Qualcomm Incorporated, registered in the United States and other countries.
  • aptX is a trademark of Qualcomm Technologies International, Ltd., registered in the United States and other countries.

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