概要
SiCはシリコンに勝る多くの利点があり、業界での採用が急速に拡大しています。SiCの持つ高耐圧かつ高速スイッチングの特長は、高電圧、大電力アプリケーションの高効率化、小型化を可能にします。
一方、シリコンからSiCにアップグレードする際の一般的な課題の1つは、非常に速いスイッチングスピードによって引き起こされるノイズとEMIです。正しい性能がでているかどうかを確認するためには、正しく評価することが大切です。
マクニカでは、SiCの性能を正しく評価するためのダブルパルステストボードを開発し、販売しています。本記事では、このボードを利用してSiCを正しく測定する方法について紹介します。
実験で評価すべき代表特性
DC特性はデータシートから読み解けるケースがほとんどです。一方AC特性は代表特性がデータシートに載っているものの、アプリケーションの条件と異なるケースがほとんどのため、実際に測定する必要があります。
特に必要があるのは、ターンオン時のスイッチング損失EON、ターンオフ時のスイッチング損失EOFF、ボディーダイオードのリカバリー特性から求まるQRRとなります。いずれも時間積分が必要なパラメーターになりますので、どれだけ高速にかつ綺麗にスイッチングさせるかがポイントになります。EON、EOFFはそのままスイッチング損失に直結しますし、回生電流が流れるPFC回路などの場合にはボディーダイオードのQRR特性が影響してきます。

ダブルパルステスト
デバイスのAC特性の試験にはダブルパルステストを実施するのが一般的です。ハーフブリッジ回路に誘導性負荷を接続し、パルスを複数回印加することによって、誘導性負荷に流れる電流値をコントロールし、任意の電圧、電流時のスイッチング特性を観測します。
マクニカでは、パワーデバイスメーカー各社が標準的にリリースしているTO-247の3ピンもしくは4ピンのデバイスを共通のボードで評価できるように、汎用性の高いダブルパルステストボードをリリースしています。
マクニカのダブルパルステストボードの概要
■特長
・最大 1700V、150Aのダブルパルステストに対応
・TO-247-4L , TO-247-3Lに対応したスルーホールを準備
・+12V単一電源で動作
・調整可能なゲート駆動用絶縁電源を搭載
(~25V/ツェナーダイオードの選択による)
・ゲート駆動のゼロバイアスまたは負バイアスをジャンパーで設定可能
・ミラー・クランプ 内蔵のドライバーICを採用
・VDS、VGSのプロービングに光絶縁プローブ用のコネクター、プローブコンタクトを搭載
・電流センサーにCT、コアキシャル型シャント抵抗、ロゴスキーコイルを使用可能
図2の波形は、マクニカのダブルパルステストボードで評価した実際の波形です。最初に測定するデバイスをターンオンさせると、バス電圧からインダクター経由で電流が流れ、パルス幅に比例して増加します。所望の電流値になった時に、ターンオフさせるとVDS、IDS波形とからEOFFを測定できます。その後、即座にターンオンすれば、同様にEONとQRRを測定することが可能です。

評価におけるプローブや環境の違い
電圧測定には、パッシブプローブ、差動プローブ、光アイソレーションプローブなどを用いることができます。パッシブプローブは高い周波数帯域のものがありますが、ローサイドしか測定することができません。差動プローブを使えば、ハイサイドを測定することが可能ですが、CMRRの関係で、正しい波形を観測することができません。
また、リードが長くなる傾向になりアンテナになってしまいます。光アイソレーションプローブは絶縁されているので、ハイサイドも測定できます。また、CMRR特性が極めて高いので、最も正しい測定ができます。測定ループも小さくすることができ、ノイズの影響を低減できます。

LowSideの観測だけであれば、十分に帯域のあるパッシブプローブをMMCXコネクターで接続することで、十分綺麗な波形を観測することができます。
図4は、VGSをGNDスプリング経由とMMCXコネクター経由で測定し、光アイソレーションプローブの波形と比較しています。GNDスプリングでは余計なリンギングが観測されているのに対して、MMCXコネクターでは、光アイソレーションプローブと同等の波形を観測できています。プロービングの仕方も重要であることがわかります。
なお、MMCXコネクターや端子台、フィルムコンデンサーなどは、Würth Elektronik GmbH & Co. KG製の製品を使用しています。

電流の測定もいくつかの方法があります。大電流、高いスルーレートの波形を観測するには正しい機材で測定する必要があります。表1はそれぞれの代表的な特長です。
Rogowski |
Coaxial |
CT |
|
測定器 例 |
TRCP0600 |
SDN-414-025 |
PEARSON 2877 |
帯域 |
30MHz |
1.2GHz |
200MHz |
使い勝手 |
簡単に使えるが帯域が狭い。実装する場所にもよるが、場所によっては、基板を改変する必要がある。 |
帯域が広いが、絶縁できないので、LowSideでしか測定できない。実装する際の場所を基板上で確保する必要がある。 |
最初から絶縁できる。大型になる傾向があり、基板への挿入が難しいが、基板上でトランスなどを形成すれば解決できる。 |
表1:電流測定の方法とそれぞれの特長
ロゴスキープローブは一般的なもので、リングで電流経路を挟むことにより簡単に電流を測定できるものです。使い勝手は簡単ですが、帯域があまりなく、SiCなどの高速デバイスの測定には適していない可能性があります。
コアキシャルシャント抵抗は帯域が広いですが、絶縁できないので、LowSideの測定しかできません。また、実装するための場所が基板上に必要です。
CTも、そのものを基板に差し込もうとすると非常に難しいですが、外部でトランスをつかって、電流をコピーして基板の外で電流を測定すれば、課題は解決できます。

スイッチングさせたときのVGSの正サージ、負サージ
スイッチング素子の評価では誤ON、破損の原因となるVGSの正サージ、負サージを評価することも重要です。正サージはハーフブリッジ構成の片側のFETを高速にスイッチングさせた時、オフしているFETのドレインソース間に非常に速いDV/DTが生じ、寄生容量CGDを通して流れる電流とゲート抵抗による電圧降下でVGSを持ち上げることで発生します。
Vthを超えるとデバイスが誤ONし、大電流が流れてデバイスが壊れる恐れがあります。負サージも同様に急峻なDV/DTおよびDI/DTによりCGSを負側に充電することで発生します。負サージがVGSの定格を超えればデバイスを壊す恐れがあります。

図6:VGSのサージの原因
図7は、A社の一般的なSiC MOSFETを使用してハイサイドスイッチングしながら、ローサイドの波形を観測しています。誤ONはしていませんが、デバイスのゲート閾値に迫るVGSの持ち上がり、および耐圧違反となる負サージが発生しています。

これらの問題を解決するにはいくつかの手法があります。CGSとCGDの比がVGSの揺れ方に影響するため、CGSを外部に追加すればVGSの変動が抑制できます。また、ゲートドライバーのミラークランプを使ってVGSの持ち上がりを抑えることもできます。また、誤ONする可能性を下げるために、ゲート電圧のLowレベルを負電圧にできるゲートドライバーもあります。負電圧のサージの抑制にはGNDまたは負電源へクランプダイオードを追加することもできます。
オンセミ社のSiCカスコード JFETはこの問題が起きにくい特長があります。他社製品と比較し、CRSSがはるかに小さいため、早いDVDTが印加されたとしてもVGSの変化を低く抑えることができます。また、負サージなどが発生したとしても、SiCカスコード JFETのゲート電圧の定格は他社のSiC MOSFETなどに比べてレンジが広いので、前述の対策をしなくても問題が発生しない可能性が高くなります。
図8では、SiCカスコード JFET 第4世代の750V 11mΩのデバイスを、A社のSiC MOSFETの波形の取得条件とそろえて測定しています。SiCカスコード JFETは、他社のSiC MOSFETと比べて早くスイッチングさせることができますが、先ほどのSiC MOSFETのVGSの変化と比べて、デバイスのVDS、IDSのスルーレートが各段に早いにも関わらず、VGSの変化量が低いことがわかります。

まとめ
正しい測定をするには、正しい測定環境が必要になります。FETのSPECは各社で条件が異なるため、正しい比較をするには統一された条件で正しい測定が必要です。オンセミ社のSiCカスコード JFETのメリットを測定により確認していただければ、ゲートドライブ回路の簡素化やシステム性能を上げられる可能性があります。
マクニカのダブルパルステストボードはSICの性能を正しく測定し、最適なデバイスを選定するのに有効な環境を提供します。
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