絶縁タイプの高電圧系ゲードドライバーを知りつくそう! ~種類・保護機能・使い方~

目次

1. 高電圧系ゲートドライバーって何?
2. どんな製品?どんな保護機能があるの?
3. NCV57000シリーズを使いこなそう!!
4. 磁気方式Galvanic Isolatedタイプ使用時のレイアウトで注意するポイントは?

1. 高電圧系ゲートドライバーって何?

高電圧系ゲートドライバーは、大きく2グループの製品群にわかれます。

Junction Isolatedタイプ
Galvanic Isolatedタイプ

それでは、それぞれのタイプについて、どういったものなのか概要を説明します。

Junction Isolatedタイプとは

P型半導体”と“N型半導体”、いわゆるPN Junctionの逆耐圧を利用して、高圧に対応した耐圧を確保し、一例としては、High Sideの島の電位をGND基準で600V以上持ち上げられるような構成を取っているゲートドライバーです。断面構造のイメージを図1に示します。

おわかりのように、物理的にはPNが接合していますので、言い換えたら“直接的な導電パスが存在する“ことになり、一般的には“非絶縁タイプ”と呼ばれることが多いように感じます。

図1:断面構造のイメージ

Galvanic Isolatedタイプとは

Junction Isolatedタイプとは対照的に、物理的に絶縁されているタイプ、言い換えたら“直接的な導電パスが存在しない“ゲートドライバーです。
絶縁方法としては、大きく下記の3つの方式があります。

図2:絶縁方法

オンセミ製のGalvanic Isolatedタイプ絶縁ゲートドライバーは、カプラー方式とインダクティブ方式の製品がありますが、現在注力製品としては後者のインダクティブ方式の製品です。続々と新製品をリリースしていて、パワー半導体とセットで最適なゲートドライバーも検討できるようにラインナップを拡充しています。

本内容については、あわせて下記リンクより、デジタルアイソレーターの記事も参考にしてください。

他社製と何が違うの!?オンセミ社製デジタルアイソレーターの特長とは何?


次章にて、Flagship製品である、NCD(V)57000/NCD(V)57001の紹介をします。

2. どんな製品?どんな保護機能があるの?

製品について

NCD(V)57000シリーズは、ガルバニック絶縁ゲートドライバー製品のFlag Shipモデルとして、NCD(V)570002019年に初めてリリースされました。IGBTSiCMOSを駆動させるメイン機能に加え、様々な保護機能が搭載されています。

その後、機能を様々な用途ごとに最適化した製品や更に機能の取捨選択した製品開発など、ラインナップを拡充しています。ラインナップが多いと、どれを使えばよいのか選択に悩んでしまいそうですが、お客様の様々な用途に合わせて最適部品を選択できるようにとのオンセミの開発思想が反映されていると思います。選択に悩んだ際は、いつでもお問い合わせください。

それでは、NCD(V)57000シリーズの特性及び機能マトリクス表を紹介します。なお、NCD(V)570001chタイプ(シングル品)ですが、ブリッジ構成の2ch出力品などもラインナップにあります。本記事の下方にメーカーHPへのリンクが掲載されていますので、そちらからご確認ください。

製品名の上段は民生品、下段は車載品です。

表1:特性及び機能マトリクス表

保護機能について

NCD(V)57000シリーズには、一般的に求められる保護機能のほとんどの機能が盛り込まれていると言えると思います。
下記表にて簡単に説明します

保護機能

目的(メリット)

内容

出力端子(sink/source)のセパレート

sinkピンとSourceピンにそれぞれゲート抵抗を挿入することが可能で、スイッチングスピードの調整やノイズ対策に対する設計自由度の向上が図れる。

外部パワーデバイスを駆動する出力端子が、sinkピンとsourceピンにわかれている。

DESAT機能

負荷短絡などによる過大な電流から外部パワーデバイスを保護し、故障対策を目的とする。

外部パワーデバイスのエミッター-コレクター間(あるいは、ソース‐ドレイン間)を電圧モニターし、外部パワーデバイスがオンしているにもかかわらずエミッター-コレクター間(あるいは、ソース‐ドレイン間)電圧が一定以上になると異常(外部でショートしている)と判断し外部パワーデバイスをオフさせる機能。

ソフトターンオフ機能

DESAT 保護が作動したときの電源デバイスへのストレスを軽減し、故障対策を目的とする。

DESAT保護が作動した際、シンク電流能力の低いMOSFETを使って、パワーデバイスのゲート信号をゆっくりLowに引っ張ることで、ゆっくりとオフする。すなわちターンオフのdi/dt, dv/dtを低くする。

アクティブ・ミラークランプ機能

(クランプMOS内蔵)

誤オン対策

外部パワーデバイスをオフさせた際、寄生容量の影響でゲート信号がカップリングで持ち上がり外部パワーデバイスが誤オンするリスクがります。この対策としてゲート-ソース間にクランプ用MOSを配置しゲート電位の持ち上がりを抑制する機能。

マイナスバイアス対応

スイッチングロス軽減

誤オン対策

外部パワーデバイスの駆動電圧にマイナス電位(負電位)を与えられるように、負電圧対応の入力電源端子を有する。

フォルト出力機能

DESAT保護機能の状態を外部に伝達する。

DESAT保護機能が異常を検出するとデジタル的なフォルト信号を出力する機能

過熱保護機能

ジャンクションの過大な温度情報からパワーデバイスを保護する。

 

UVLO機能

入力電源の低電圧からICを保護する。

1次側電源VCC1及び2次側電源VCC2の電源電圧が設定電圧以下になると内部のイネーブル信号がLowになり、内部回路が停止する。

レディー端子機能

UVLO及び過熱保護の状態を外部に伝達する。

ULVO機能及び過熱保護機能が異常状態を示しているとき、RDYピンに出力しLowを出力する。一方、正常状態なときは、RDYピンはオープンになる。

リセット端子機能

再起動の準備

フォルト機能のリセットまたはクリアー

表2:保護機能一覧

3. NCV57000シリーズを使いこなそう!!

NCD(V)57000シリーズを使用する際に、注意する点などについて、いくつか下記に記載します。

本項目の内容については、オンセミ社のアプリケーションノート(AND9949-D.PDF)を参照しています。

・入力(IN+,IN-)と出力(OUTH,OUTL)の論理関係
1次側の入力電源
2次側の入力電源
・損失および熱に関して

以下、詳細を説明します。

入力(IN+,IN-)と出力(OUTH,OUTL)の論理関係

下記表3と図3,4,5はオンセミ社のアプリケーションノート(AND9949-D.PDF)を抜粋したものです。

表3:INPUT AND OUTPUT SIGNAL LOGIC
図3:Input Logic Signal Block Diagram
図4:RC Filter Network for Input Signals

一般的には、入力(IN+,IN-)はマイコンから信号をもらいますが、信号品質を向上させるためにRCフィルター回路を挿入することができます。
RCの値は、駆動周波数やDutyなどシステム要件によって異なります。また、入力信号(マイコンの出力)は、標準の CMOS またはプッシュプル駆動回路が推奨され、オープンドレイン構成は避けた方がよいでしょう。
PBCレイアウトでは、RCをできるだけゲートドライバー側に近づけ配線を短くする必要があります。

図5:Signal Enable Control by Inverting Input (IN−)


また、IN+のみを駆動用端子として使用し、IN-端子をEN信号用の端子として使用することも可能です。
もちろん、IN-のみを駆動用に使用することも可能です。ただし後者は入出力の論理が逆になります。

1次側の入力電源

図6:De−coupling Capacitors for Input Supply Bias (VDD1)

直列抵抗とデカップリング コンデンサーは、VDD1 GND1 の間に配置する必要があります。
コンデンサーは、高周波ノイズを除去して入力バイアス電圧を維持するために、可能な限り、ゲートドライバーICに近づけて配置する必要があります。
一般的にコンデンサーは、低ESL及び低ESR のチップ コンデンサー (MLCC: 積層セラミックチップコンデンサー) を推奨します。

2次側の入力電源

図7:De−coupling Capacitors for Output Supply Bias (VDD2 and VEE2)

出力端子は高い電流能力をそなえていますので、IC内部の出力MOSがオンする際、非常に高いピーク電流が発生します。ゆえに、PCBレイアウトはとても注意が必要になります。
VDD2-GND2の間及び, VEE2-GND2の間にデカップリング コンデンサーを配置する必要があります。これらコンデンサーは、PCBの配線を含む寄生インダクタンス成分によるオーバーシュート電圧とアンダーシュート電圧を防ぐために、可能な限り、ゲートドライバーに近づけて配置する必要があります。

また、過大なピーク電流は、外部の負荷容量起因が主なので、出力MOSのゲート抵抗(外部抵抗)に依存します。
一般的なアプリケーションでは、ゲート抵抗値が 10Ω を超える場合、正 (VDD2) および負 (VEE2) バイアスごとに 10uF のコンデンサーが必要です。
ゲート抵抗が 10Ω より小さい場合、20uF のコンデンサーが推奨されます。
一般的にコンデンサーは、低ESL及び低ESR のチップ コンデンサー (MLCC: 積層セラミックチップコンデンサー) を推奨します。

損失および熱に関して

一般的なことですが、損失は熱に変換され自己発熱します。そこで、自己発熱分をΔTとし、ΔTを考慮しIC内部のシリコン(ジャンクション)温度がTj_maxを超えないように使用する必要があります。
Tjは、周囲温度TaとΔTによって下記関係式になります。

Tj[℃]=Ta[℃]+∆T[℃]

次に、ΔTについて考えてみましょう。ΔTは損失PallPKGの熱抵抗θjaによって求められます。

なお、少しだけ横道にそれる話をしますが、ここでは、熱抵抗をθjaとして考えることにします。熱抵抗は、θja以外にもθjcやψjtなどがあり、どの熱抵抗が実使用に近いのか疑問に思われるケースが多くあると認識しています。また各社各製品を見渡すと、全て記載していたり、いずれか一つしか記載がなかったりまちまちです。

本資料では、各種熱抵抗についての説明はテーマからそれるので割愛しますが、それぞれ定義が異なりますので、設計者はしっかりとこれら熱抵抗の種類について正しい認識を持っておくことが必要だと思います。

なぜなら、過剰マージンで高価な部品を選択したり、あるいは過小判断してマージンの少ない設計をしてしまい熱的な不具合に遭遇したりと様々な課題つながるからです。迷ったら、都度メーカー技術や各代理店技術にお問い合わせすることをお勧めします。

それでは本題に戻ります。

∆T=Pall[W]×θja[℃/W]

次は、Pallの損失を考えてみましょう。大きく3つの損失要素の合計と考えられます。

・入力バイアス回路部の損失:PD-IN

PD-IN=VDD1×IDD1

・出力バイアス回路部の損失:PD-OUT1

内部ロジック回路の動作電力であり、無負荷条件で測定します。なお、等価的には、内部回路のスイッチング損失と考えることができます。

  PD-OUT1=(VDD2×IDD2)no-load+(VEE2×IEE2)no-load

・出力駆動回路部の損失:PD-OUT2

ドライバーICの出力段MOSFETのオン抵抗と、外部パワーデバイスのゲート抵抗による損失の合計で構成されます。

参考までに、ドライバーICの出力段と外部パワーデバイスの電力経路イメージとして、下図8を参照ください。

図8:Power Delivery Path for Output Bias

損失と熱のまとめると下記計算式を使って最大接合部温度Tj_max 150°C の場合、周囲温度 (TA) での最大許容消費電力 (PD) を計算することができます。

Tj[℃]=Ta[℃]+Pall[W]×θja[℃/W]

図9は、特定のPCBレイアウト、層、および表面積に基づく NCV57000シリーズの電力ディレーティング曲線を示しています。

図9:Power Dissipation de−rating Curve of NCD(V) 5700x Series

その他、使用上のポイントになること

本記事に記載できなかった周辺部品の定数の決め方(計算式)など考慮するポイントが、オンセミ社のアプリケーションノートに記載されていますので、下記リンクより確認ください。

オンセミ社アプリケーションノート:AND9949-D.PDF

4. 磁気方式Galvanic Isolatedタイプ使用時のレイアウトで注意するポイントは?

磁気方式Galvanic Isolatedタイプのゲートドライバーを使用する際、一次側信号を二次側へきちんと伝達させるために、磁気経路を確保することが重要です。よって、基板レイアウトにおいて、下記注意点と合わせて図 10を参照ください。

・多層基板において、ゲートドライバーの直下には、GNDパターンや信号パターン、ビアなどを配置しないこと
・ゲートドライバーが配置してある箇所の裏面には、他のICを配置しないこと
・DCDCなどに使用しているインダクター部品の近くに、ゲートドライバーを配置しないこと

その他、レイアウトでの注意事項については、オンセミ社のアプリケーションノート(AND9949-D.PDF)にも記載がありますので、参照ください。

図10:推奨レイアウト

さいごに

今回紹介した製品については、下記オンセミ社のリンクも確認ください。
ゲートドライバー製品一覧ページ
NCV57000データシート

お問い合わせ

本記事にて紹介した製品に、ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

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