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疑似共振制御ICの最新技術! その1

はじめに

数多くあるACDCスイッチング電源の中で、フライバック電源は、数Wから100W程度までの出力レンジをカバーできる汎用的な電源として広く使われています。

そのフライバック電源にも様々な駆動方式があります。一次側の制御ICが一定周期で、スイッチング素子をオンさせる周波数固定方式(ここでは、負荷に応じて周波数を可変にするものも含む。)と、ドレイン電圧のリンギング波形の谷部(Valley)を検出して、そのタイミングでスイッチング素子をオンさせる疑似共振制御方式(Quasi-resonant, QR)があります。疑似共振制御方式は効率改善とEMIノイズを効果的に抑制する駆動方式として知られています。オンセミの疑似共振制御ICは、市場で多くの実績を重ね、その機能は、年々アップデートされています。

本記事では、オンセミの疑似共振制御ICであるNCP1342に備えられた最先端の技術を紹介します。


<目次>
1. 疑似共振制御では、どうやってスイッチング周波数がきまるの?
2. 疑似共振制御のメリット、デメリット
3. NCP1342の最新機能紹介
    1) HV起動回路
    2) X2 capacitor discharge
    3) Brownout protection
    4) Valley検出
    5) Valley Timeout

1. 疑似共振制御では、どうやってスイッチング周波数がきまるの?

周波数固定制御のICでは、IC内部に固定周波数の信号を生成する発振回路を備えています。この発振回路の信号によって、スイッチング素子のターンオンが決まります。そして、二次側出力電圧に応じて生成されるFB信号(通常はカプラ電流による信号)によってターンオフのタイミングが決まります。

では、疑似共振制御ではどのようにターンオン、ターンオフが決まるのでしょうか?疑似共振制御では、ターンオンは制御ICに内蔵の発振回路が決めるのではなく、スイッチング素子のドレイン電圧波形に応じて決まります。

図1: Flyback電源のQR動作波形

図1は、疑似共振制御の各部波形を示しています。
上から順に、青色が一次側AUX電圧、緑色が一次側のスイッチング素子(MOSFET)のドレイン電流、赤色が二次側のダイオード電流、水色が一次側ゲートドライブ信号を示しています。一次側MOSFETがオンしている間にドレイン電流が図のように増加し、FB信号が設定するレベルに達すると、MOSFETはターンオフします。ターンオフの制御は周波数固定制御の場合と同じで、FB信号によってそのタイミングが決まります。

一次側MOSFETがターンオフした後に、二次側ダイオード電流が流れ始めます。二次側ダイオード電流が流れ終わるそのタイミング(Demagnetizatoinと呼びます。)から、MOSFETのドレイン電圧VDSは、低下し始め、図のようなLC共振波形を作りながら低下し始めます。図は補助巻き線電圧VAUXを示していますが、ドレイン電圧はVAUXの巻き数比倍した波形となります。このドレイン電圧のLC共振波形は、図1のように減衰するリンギング波形になります。

疑似共振制御は、このリンギング波形の谷部(Valley)で、次のターンオンを実行させます。したがって、ターンオンのタイミングは、制御ICに内蔵の発振回路が決定するのではなく、フライバック電源の動作波形によって決まります。具体的にはトランスのL値、巻き数比、入力電圧、出力電圧、出力電流が主に関わります。

2. 疑似共振制御のメリット、デメリット

疑似共振制御は、フライバック電源の効率改善とEMIノイズ抑制を実現する非常に有効な方法です。

疑似共振制御のメリットは、スイッチング素子のターンオン時に、ドレイン電圧が低下しているため、ターンオン損失が小さくなります。CCM動作とは異なり、ドレイン電流がゼロアンペアからスタートすることもターンオン損失の低減に寄与しています。この特長がスイッチング損失低減と同時にEMIノイズ抑制にも寄与しています。

疑似共振制御のデメリットは、基本的にDCMでの動作になるため、CCM動作となる周波数固定方式と同じ負荷条件で比べると、スイッチング素子に流れる電流ピークが大きくなることです。すなわち、その分だけスイッチング素子の電流定格が大きいものが必要になります。同時に、出力電圧リップル、出力電流リップルが大きくなるという点もデメリットです。

3. NCP1342の最新機能紹介

1) HV起動回路

NCP1342は700V耐圧のHV端子を備えています。HV端子を入力の高電圧ラインに接続することで起動時の回路電流が供給されます。このような高耐圧のHV端子を備えていない製品の場合、例えば30V耐圧のVCC端子と入力の高電圧ラインを接続することになりますが、VCC端子は耐圧が低いので、起動抵抗を直列に挿入することでVCC端子に過電圧が発生しないようにします。したがって、起動抵抗には常に電流を流し続ける必要があり、これが損失となり、軽負荷時、無負荷時には無視できない影響を及ぼします。

NCP1342HV端子内部に備えられた高耐圧のスイッチ素子(例えばJFET)は、起動時以外ではオフさせるので、無駄な損失がなく、待機電力に厳しい規制があるアダプターなどのアプリケーションでは必須の機能になります。ただし、一般的には、700V耐圧のデバイスを内蔵するために特殊な工程が追加されることと、700Vのデバイス自身のチップに占めるサイズが大きいためにHV端子を備えたコントローラーの方が、製品単価は高くなります。

図2:Typical application circuit

2) X2 capacitor discharge

図3:AC入力取り外し時の動作波形

電気用品安全法J60335-1において、「機器を電源から切り離して1秒経過後にプラグのピン相互間の電圧が34Vを超えてはならない。」ということが定められています。これは、機器の入力端子間に、人が誤って触れることで感電する恐れがあるためです。通常は、入力電解コンデンサに並列に放電用抵抗を備えることで対策します。しかしながら、この放電用抵抗は常時無駄な電力を消費することになるため、特に待機電力を重視するアプリケーションでは、放電用抵抗に代わる対策が要望されてきました。そこで開発されたのがX2 capacitor discharge機能です。

この機能のために、図2に示すようにHV端子をダイオードと抵抗を介してAC入力に接続します。AC入力電圧のSlope(時間変化)がネガティブもしくは、一定の値以下になると内蔵のタイマーが動作し始め、その状態が100ms以上継続されるとAC電源が機器から切り離されたと判断し、HV端子からGNDへ入力電解コンデンサの放電が実行されます。なお、放電にあたっては、継続して長時間放電するとNCP1342のチップ温度が上昇する恐れがあるため、一定時間の放電の後、休憩時間を挟んで、放電を再開する間欠的な放電動作となります。なお、出力が小さな電源では、放電用抵抗で生じるロスが許容できる程度である場合があります。その場合には、X2 capacitor discharge機能は不要ですし、この機能のために必要となる二個のダイオードと抵抗はコストアップ要因でしかありません。

NCP1342は、機能の異なる多くのオプションが用意されています。その中で、X2 Discharge Disabledのオプションを選択した場合、これらの2個のダイオードは不要で、HV端子を整流平滑後のBulkに接続して利用できます。

3) Brownout protection

図4:ブラウンアウト動作時の波形

ブラウンアウトプロテクションは、元々は、ブラウン管テレビにおいて電源をOFFした後にも画面や、表示灯がちかちかと動作することを抑制するために導入された機能と言われています。NCP1342では、HV端子の入力電圧をモニターします。図2のようにHV端子はダイオードを介してAC入力に接続します。HV端子電圧は図4のような全波整流波形となります。HV端子電圧が減少してVBO(stop)を下回る度に、内部のブラウンアウトタイマー回路が動作します。

次に、HV端子電圧が再度増加してVBO(start)に達すると、このブラウンアウトタイマー回路がリセットされます。HV端子電圧が、VBO(start)に達することなく、低いレベルで保持されると、ブラウンアウトタイマー回路が動作し続け、その時間が、54ms以上になるとブラウンアウト状態であると判定され、スイッチング動作が停止されます。

次に、HV端子電圧がVBO(start)以上に上昇し、その後、VCCVCC(on)に到達すると再起動します。

図5:起動時の各端子波形

図5に起動時の各端子の波形を示します。
起動時、HV端子電圧が上昇すると、HV端子から内部に起動電流が供給されます。この起動用電流は2段階になっており、VCCが低いレベルの間は、Istart10.5mA)というより小さな電流で、VCCVCC(inhibit)まで上昇すると、Istart22mA)になります。この機能により、例えば、VCC端子-GNDショートの異常時、起動電流が流れ続けることによる発熱などのリスクを低減させます。起動時は、HV端子電圧がVBO(start)を超え、かつVCCVCC(on)に到達してからスイッチング動作が開始されます。

NCP1342
では、AC入力電圧検出抵抗は不要な代わりに、Brownoutの検出レベルはIC内部で固定されています。オンセミではお客様の様々な要望に対応するために、2種類の検出レベルを用意しています。

4) Valley検出

Valley検出は補助巻き線に接続されたZCDピンでおこなわれます。ZCDピンの電圧がVZCD(trig)55mV)を下回ると、Valleyとして検出されます。

古い疑似共振制御ICであれば、MOSFETがオフして最初にできるValley1st Valley)でターンオンさせるのが一般的でしたが、軽負荷時には、MOSFETのオン時間が短くなるので、軽負荷になるほど周波数が上昇してしまい、その結果、スイッチングロスが大きくなり、効率が低下するという課題が発生します。最近の疑似共振制御ICでは、軽負荷時のスイッチングロスを低減させるため、負荷に応じて順に1st Valley, 2nd Valley, 3rd Valleyとターンオンのタイミングをシフトさせることで、周波数の上昇を抑える技術が一般的です。

図6:周波数と出力電力

NCP1342では、6th Valleyまで検出可能で、FB電圧に応じてValleyを選択します。
負荷レベルに応じてValleyを選択するので、出力電力と周波数の関係は図6のようにのこぎり波状の特性になります。図6において、従来の疑似共振制御ICでは、例えば、2122W程度に負荷がある場合、2nd Valleyと3rd Valleyの境界付近にあたるため、スイッチング周期毎に双方のValleyを行ったり来たりする現象が発生することがありました。このような動作は、可聴ノイズを引き起こします。

NCP1342では、このような動作を排除するValley lock out(VLO)回路が組み込まれています。一旦、Valleyが選択されると、出力電力が大きく変化するまでは、選択されたこのValleyにロックされたままになるので、安定した動作を維持し、可聴ノイズを抑制します。

5) Valley Timeout

ValleyはZCDピンの内蔵コンパレーターによって検出されますが、ドレイン電圧のリンギングが急激に減衰した場合、ZCDピンのコンパレーターはこれを検出できないケースが想定されます。このようなケースでは、コントローラーはValleyの検出を待ち続けるため、スイッチングが停止することになります。

NCP1342では、このようなケースに対処するため、Demagnetizationのタイミングからの最大タイムアウト時間を組み込んでいます。もし、Valleyが検出されなくても、最大タイムアウト時間が経過すると、強制的に次のターンオンが実行されます。
定常状態の最大タイムアウト時間は6usに設定されています。

一方、起動時は、出力電圧が立ち上がっておらず、MOSFETがオフ時のドレイン電圧が小さくなります。このため、Valleyの検出がより困難になり、最大タイムアウト時間によってスイッチングが実行されます。起動時に定常状態と同様の最大タイムアウト時間を設定すると、CCM動作になってしまうため、より長い最大タイムアウト時間(100us)が適用されます。この最大タイムアウト時間によるスイッチングを数回繰り返したのち、出力電圧が上昇してValleyが検出できるようになるとValleyでのターンオンによるQR動作となります。

最後に

NCP1342についての詳細は以下のサイトより確認できます。

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