“車載製品” のICに求められる “画像処理” は、「高度化・複雑化」の傾向にあると実感している方は多いのではないでしょうか。
車載に搭載されるカメラ・ディスプレイはますます増える傾向にあり、フルHDから4Kというように“高解像度化のトレンド” も加速しています。
「このままでは、SoCCPUといった従来のICではOEMの要求に対応できないケースが出てくるかもしれない」
車載製品をあつかうメーカーのお客様から、このような声をお聞きする機会も増えています。
そこでマクニカでは、“FPGAの導入” も検討材料として持つことをおすすめしています。
従来のICでは対応できないケースでも、FPGAなら対応できる可能性が十分にあるからです。

今回の記事では、「画像処理に関連する車載製品のトレンドと課題」、それらに対して「FPGAがどう有効なのか」を解説します。
FPGAの有効性を理解したうえで、検討材料として持つかをご判断ください。

画像処理のトレンドにおける従来ICの課題とFPGAの有効性

まずは、車載製品のなかでも “画像処理” と大きく関係する、「カメラ」と「ディスプレイ」についてご紹介します。

カメラにおける画像処理のトレンドとFPGAの有効性

トレンド1:カメラ台数の増加

車載に搭載される “カメラの数” が、年々、増えていることは既に実感されているのではないでしょうか。

ドライブレコーダー、バックモニター、電子ミラーなどの車外を映す車載製品のほか、後部座席の子どもの様子を見られるベビーモニターといった
車内を映す車載製品も普及が進んでいます。このようなカメラ台数の増加により、求められる “画像処理” は、大きく次の二つに分けられます。

セレクト:複数のカメラから送られてくる画像データを選定し、適切なディスプレイに、適切なタイミングで送る画像処理のこと。
マージ:複数のカメラからの映像信号を一つの画像データに加工し、適切なディスプレイに送る画像処理のこと。

カメラの数だけ「セレクト化」「マージ化」を判断・実行する処理が求められます。

このような膨大な並列処理は、“ICに大きな負荷”をかけるため、

  ・画像処理に、今までの何倍も“時間”がかかる
  ・高レイテンシーにより“タイムラグ”が発生する
  ・“消費電力”が高くなる

といった点が “課題” となるのではないでしょうか。それに加え、カメラの数だけ"インターフェースの数"も必要です。
いずれは、従来のICでは対応しきれなくなる可能性が高いと考えます。 

一方、“FPGA”ならハードウェア処理であるため、従来のICに比べ「多数の並列処理に高速で対応」できます。
レイテンシー、消費電力を低く抑えた状態で、多数のカメラからの画像処理をおこなえる可能性があります。
また、回路データを “後からでも書き換え可能” ですので、インターフェースの数・種類も必要に合わせて “柔軟に設定変更” が可能です。

"解決策" としては、性能の高いSoCの導入が思い浮かぶのではないでしょうか。
もちろん、それでも解決はできますが、必要以上に高スペックなSoCを使わざるを得なくなることも考えられます。
その場合、“コストや消費電力”がムダに高くなることが課題となります。

一方、“FPGA”の特長の一つであるハードウェア処理による高速処理なら、高スペックなSoCを使うより “低コスト・低電力で 
“タイムラグを無くせる” 可能性が十分にあります。
また、回路データを書き換えれば、高画像度化によりインターフェースの種類が変わっても柔軟に対応できます。

トレンド2:カメラの高解像度化

カメラに限らずディスプレイにも当てはまりますが、フルHDから4Kといったように、“高解像度化が求められている”トレンドも実感されているでしょう。

高解像度化が進むほど、あつかうデータサイズが大きくなり、求められるデータ帯域は上がります。

従来のICでは対応しきれず、カメラ台数の増加における課題と同じく、画像を映し出すまでに“許容されないタイムラグ”が発生する可能性があります。

時速100㎞で走る車は、たった 1秒 でも 28m も進みます。“安全性に関わる”電子ミラーなどの車載製品においては、たとえ 0.1秒 の遅延でも許されません。

“解決策”としては、性能の高いSoCの導入が思い浮かぶのではないでしょうか。もちろん、それでも解決はできますが、必要以上に高スペックなSoC
使わざるを得なくなることも考えられます。その場合、“コストや消費電力”がムダに高くなることが課題となります。

一方、FPGAの特長の一つである“ハードウェア処理による高速処理”なら、高スペックなSoCを使うより“低コスト・低電力”で“タイムラグを無くせる”可能性が
十分にあります。また、回路データを書き換えれば、高画像度化によりインターフェースの種類が変わっても柔軟に対応できます。

ディスプレイにおける画像処理のトレンドとFPGAの有効性

トレンド1:ディスプレイの画面分割

一つのディスプレイに複数の画像を映し出す、“画面分割機能”へのニーズも高まっていくと予想しています。

 例えば、RSE(リアシートモニター)へ「ブルーレイの映像」と「地デジの映像」を二つ同時に写せる、といった機能を搭載した車載が多く見られるようになりました。

また、車載の左右・前後に取り付けた“カメラの画像を分割表示”できる、CID(センターインフォテイメントディスプレイ)やワイド型の電子ルームミラーも普及しつつあります。

 画面分割において課題となるのが、分岐した映像信号を並列にあつかわなければならない点です。
また、分岐した映像信号をそれぞれディスプレイにつなぎますので、インターフェースの数もその分必要になります。

これまでご紹介したトレンドと同じように、従来のICでは「並列処理」と「インターフェース」がネックとなり、対応が難しいケースが出てくるのではないでしょうか。

 一方、“FPGA” ならその特長を活かすことで対応できる可能性があります。

コックピット全体のディスプレイ化

フロントガラスの両脇にある柱(Aピラー)に車室外の映像を映し出すシステムが注目されていることはご存じでしょう。

運転席からの死角をなくすためのシステムであり、車体外のカメラからの情報をAピラーに映し出すことで、あたかもAピラーの先が透けて見えているかのような
映像をつくり出します。
「いずれは、運転席の周辺すべてがディスプレイに覆われるようになるのではないか」と予想しており、このようなトレンドを“コックピット全体のディスプレイ化” と呼んでいます。

コックピット全体のディスプレイ化を実現するには、コックピットの形に合わせた今までにない大型ディスプレイや特殊形状ディスプレイを採用する必要があります。
例えば、Aピラーをディスプレイ化するには、Aピラーと同じ形状の非常に縦に長い、少し湾曲したディスプレイが必要です。

大型・特殊形状ディスプレイを採用するには、“それらに合わせた画像処理” が必要です。

Aピラーの形をしたディスプレイなら、カメラからの画像をトリミングして縦長な画像をつくったり、ディスプレイの湾曲に合わせて画像を歪ませたりといった処理が求められます。

さまざまな画像処理を並列しておこなう必要があるため、“従来のICでは対応が難しい”ケースが出てくると考えます。
また、今までにない形状のディスプレイですので、そもそも従来のICでは対応できないといったケースも予想されます。

一方、“FPGA” ではさまざまな画像処理を並列しておこなうことができ、さらに“ディスプレイ仕様に合わせて”柔軟に回路を書き換えられるため、
こういった“特異な技術トレンド”に対しても対応可能となります。

画像処理全般のトレンドにおけるFPGAの有効性

最後に、「カメラ」「ディスプレイ」に関係なく、“画像処理全般”における共通のトレンドについての主なものを2つ紹介します。

トレンド1:HDR(ハイダイナミックレンジ)に代表される見やすさへのニーズ

“安全性”にかかわるということもあり、“ディスプレイの表示を見やすくする” ための “画像処理” はさまざまと求められています。 

そのなかでもニーズが高いのが、HDR(ハイダイナミックレンジ)です。

“ハイダイナミックレンジ”とは、二つ以上のカメラで明るさの違う画像を取り込み、それぞれの見やすい部分を組み合わせて表示する技術のことです。
トンネルの出入口など、周りの明るさが急激に変わる場面でも見やすい画像をつくり出せます。

ハイダイナミックレンジの実現には、複数の画像を組み合わせるブレンド処理、ホワイトバランス補正など、さまざまな画像処理が求められます。

また、カメラやディスプレイによっては、それらに合わせ “魚眼カメラの画像の歪みを補正”する魚眼補正、“画像を切り取る”クリッピング、
“解像度を下げる”ダウンスケーリングといった画像処理も必要です。

ハイダイナミックレンジに限ったことではありませんが、“ディスプレイを見やすくするための画像処理”は、対応するカメラ・ディスプレイに合わせた画像処理と同時に
求められるということです。下記のような、さまざまな画像処理を組み合わせることで、求める機能は実現できます。

 

主な画像処理10

 ・ ホワイトバランス補正:色味を補正する処理

 ・ カラースペースコンバーター(CSC):カラーベースをRGBからYCrCbといったように、別のカラーベースへ変更する処理

 ・ ノイズリダクション:画像内のノイズを減らす処理

 ・ ブレンド処理:複数の画像を組み合わせる処理

 ・ クリッピング:画像を切り取る処理

 ・ 歪み補正:湾曲ディスプレイへの投影時の歪みを補正する処理

 ・  魚眼補正:魚眼カメラの画像の歪みを補正する処理

 ・  アップスケーリング:解像度を上げる処理

 ・  ダウンスケーリング:解像度を下げる処理

 ・ フレームレートコンバーター:フレームレートを調整する処理

 

上記のような“一般的な画像処理” については、画像処理用ICにて大半が対応できるケースが多いですが、“解像度やインターフェースの組み合わせ” までを加味すると、
“仕様に合致するICが市場にない” ケースも存在します。

そのような場合、不必要な画像処理も多く含まれる高スペックのICで対応することが考えられますが、その分、“コストや消費電力” が高くなることが課題となります。

一方、“FPGA”なら、仕様に合わせて回路を書き換えられますので、“必要な画像処理”のみに絞れます。従来のICよりも使用方法によっては、“コスト、消費電力”を
抑えながら、“付加価値”を向上させることも可能です。

トレンド2:市場に合わせた頻繁なモデルチェンジ

近年、自動車における“市場ニーズの変化” はますます速くなり、多様化していく傾向にあります。
それに伴い、“車のモデルチェンジ” も頻繁になっており、この傾向は強まっていくと考えています。

モデルごとに採用されるカメラ・ディスプレイ、システムや技術は異なるでしょうから、それに合わせて “必要な画像処理も変える必要” があります。

モデルチェンジが頻繁になるほど、相応しい画像処理ができるICをその都度探していたのでは、スピードに追い付けなくなる可能性があります。
何より、ICを変えることで “基板開発・改変” も頻繁に求められ、“工数とコスト” が膨大になることが課題となるでしょう。

一方、“FPGA”ならモデルチェンジにより求められる画像処理が変わっても、回路を書き換えることで対応できます。
“今までと同じFPGAを流用できるため、基板改版の必要性を最小限に抑えることが可能です。

従来のICより工数やコストをかけず、素早く“モデルチェンジに対応できます。これまでお話ししてきた通り、“FPGA”を採用することで、従来のICでの課題を
解決できる可能性は十分にあると考えます。
今後の画像処理のトレンドを実現するためにも、ぜひ、FPGA導入を検討材料としてお持ちください。

FPGA導入のフロー

今回の記事で、“FPGA”に興味を持たれた方のなかには、FPGAの設計開発をハードルと感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで、マクニカではハードルを最小限にするため、FPGAの導入を下記の [1]~[5] のステップでサポートしています。

 

[1] 実現したい機能・既存システムの課題をテキストや図でマクニカに送付

[2] FPGAで実現する具体的な構成案をマクニカから掲示

[3] FPGAの長所を活かしたメリットの追加提案

[4] FPGAの型番確定および概算価格の掲示

[5] FPGA設計開発費用・期間の掲示

 

お客様でご用意いただくのは、[1] のテキスト・図のみです。パワーポイント1枚の簡単なものでかまいません。

工数を最小限に抑えながら、FPGAの設計開発を進めることができます。また、FPGA納入後のアフターサポートもご用意していますのでご安心ください。

車載製品におすすめのFPGAを紹介している記事もありますので、合わせてご参考にしてください。


================================================================

「FPGAの導入は本当に現実的なのか?」現状のFPGAについて性能などを紹介している記事もありますので、合わせてご参考にしてください。

・ニーズが高まるFPGA 導入ハードルに対する現状を解説

================================================================

まとめ

今回の記事では、「画像処理に関連する車載製品のトレンドと課題」、それらに対して「FPGAがどう有効か」を紹介しました。

「カメラ」「ディスプレイ」「画像処理全般」の3つから、具体的な下記6つのトレンドをあげて解説しています。

・カメラ台数の増加

・カメラの高解像度化

・ディスプレイの画面分割

・コックピット全体のディスプレイ化

HDR(ハイダイナミックレンジ)に代表される見やすさへのニーズ

・市場に合わせた頻繁なモデルチェンジ

これらのトレンドを従来のICで実現しようとすると、主に「並列処理が苦手」「インターフェースの数と種類が固定」を原因とした“課題が発生”すると考えます。
一方、“FPGA”はハードウェアデバイスであるため、「並列処理が得意」です。従来のICに比べて “多数の並列処理に高速” で対応できます。
また、回路データを後からでも書き換えられるため、「インターフェースの数と種類を設定変更可能」という柔軟性も持ち合わせています。

この二つの特長から、従来のICでの課題を“FPGA”で解決できる可能性は十分にあります。
今後の“画像処理のトレンドを実現するためにも、ぜひ、“FPGA導入” をご検討材料としてお持ちください。

本記事に関してご質問がありましたら、以下よりお問い合わせください。