はじめに
周囲温度とジャンクション温度は同じ?
ジャンクション温度と周囲温度は、全くの別物です。温度特性を周囲温度の事だと思っていると、おかしな話になってきます。

- 周囲温度(Ambient Temperature/TA)
通常は静止状態の周囲の空気温度を指します。(「デバイス周辺の局所周囲空気の温度」という言い方をする事もあります。)
- ケース温度(Case Temperature/TC)
デバイス表面のパッケージ温度を指します。
- ジャンクション温度(Junction Temperature/TJ)
デバイスのパッケージ内のダイ表面の温度を指します。デバイスの推奨動作条件に基づいて規定された接合温度で、コマーシャルやインダストリアル、オートモーティブなどがあります。- コマーシャル用温度範囲(Commercial):0~85℃
- インダストリアル用温度範囲(Industrial):-40~100℃
- オートモーティブ用温度範囲(Automotive):-40~125℃
ジャンクション温度を計算するのに必要な熱抵抗とは?
次に押さえておくべきキーワードは、「熱抵抗」です。
デバイスが動作すると、ダイ上で発熱した熱がケース(パッケージ)を通じて周囲に伝搬します。しかし、この熱は完全には伝わりきれずに、一部がデバイス内に籠ります。そうすると、ケースの温度が上昇します。
この熱の伝わり難さを数字で表したものが「熱抵抗」で、値が小さいほど熱の伝わりが良く、内部に熱が籠らずに、内部温度はあまり上昇しません。

デバイスには、次の 3種類の熱抵抗が存在します。単位は、℃/W です。(θ:ギリシャ文字小文字のシータ)
- θJC:ダイからケースへ伝わる時の熱抵抗
- θCA:ケースからデバイス周囲へ伝わる時の熱抵抗
- θJA:ダイからデバイス周囲へ伝わる時の熱抵抗
この 3つの熱抵抗の関係式は、以下の通りです。
θJA = θJC + θCA
熱抵抗の情報を入手する
デバイス・メーカからは通常、θJA と θJC の数値が提供され、これらはデバイスのドキュメントなどに記載されています。インテル® FPGA の熱抵抗の情報は、ここから入手できます。
Packaging Specifications and Dimensions(インテル® FPGA のパッケージの仕様と寸法)
手順1. ターゲットの FPGA を選択

手順2. Thermal をクリック

手順3. デバイスとパッケージから、熱抵抗の数値を確認

ジャンクション温度を計算するのに必要な温度差とは?
次に、温度差の話に移ります。熱抵抗を介して熱が伝わる時に発生する温度差は、消費電力に依存します。関係式は、以下の通りです。
温度差[℃]= 熱抵抗[℃/W]× 消費電力[W]
ここで消費電力が出てきました。実機確認前であれば、消費電力は見積もり値を使用できます。インテル® FPGA の消費電力見積もりツールである PowerPlay Early Power Estimator (EPE) では、FPGA のリソース情報から消費電力の見積もりができるのはもちろんのこと、ジャンクション温度や許容できる周囲温度も算出されます。この算出には、ここで述べた内容も含まれています。
温度差の例題
簡単な例題で、理解を深めましょう。
θJA が 50 ℃/W、消費電力が 600 mW のデバイスのダイ表面とデバイス周囲との温度差 ΔTJA は、
ΔTJA = 50 × 0.6 = 30 ℃
となり、この時の周囲温度が 25 ℃ であったなら、ジャンクション温度 TJ は、
TJ = TA + ΔTJA = 25 + 30 = 55[℃]
となります。わかりましたか?

さいごに
周囲温度とジャンクション温度との関係について、イメージできましたか?
デバイスの熱について苦手意識を持っていた人も多かったと思いますが、そんなに難しくないことがわかったと思います。
なお、FPGA の消費電力についての記事と、FPGA 消費電力の見積もり方法についての記事も公開中ですので、ぜひご覧ください。