はじめに
自動車の電動化や高度化が進む中で、車載ECUに求められる電源設計は年々複雑化しています。ADASや電動パワートレイン、車載ネットワークの発展により、ECU内部では複数の電圧レールを安定して供給・管理することが不可欠になっています。
こうした複雑な電源管理を効率的かつ確実に実現するのが、 PMIC(Power Management IC) です。
PMICは、電源変換や電圧監視、ウォッチドッグなどの機能を1チップに集約し、ECUの電源システム全体を統合的に管理する役割を担います。
近年では、車載ECUの高性能化や機能安全要求の高まりを背景に、PMICは単なる電源ICではなく、“ECUの信頼性と安全性を支える重要なデバイス”として、その重要性がさらに増しています。
本記事では、以下のポイントについて解説します。
- PMICとは何か
- PMICの主な機能
- 車載ECUにPMICが必要な理由
- PMICを採用するメリット
- インフィニオン社の車載PMICソリューション
PMICとは?
PMIC(Power Management IC)とは、電子システムに必要な電源を生成・監視・制御するための半導体です。
複数の電源機能を1チップに集約することで、システム全体の電源管理を効率化します。一般的なPMICには、DC/DCコンバーターやLDO(リニアレギュレーター)による電源生成機能に加え、電圧監視、ウォッチドッグによるリセット制御、SPIインターフェースなどが統合されています。 これにより、MCUやSoCなどの周辺回路に対して、安定した電源供給と安全な動作管理を行うことが可能です。
特に車載ECUでは、限られたスペースの中で高い信頼性と機能安全を確保する必要があるため、PMICは電源設計の中核デバイスとして重要な役割を担います。
PMICの主な機能
PMICは電源生成だけでなく、システム監視機能も統合した電源管理ICです。代表的な機能には以下があります。
| DC/DCコンバーター |
DC/DCコンバーターは、入力電圧を効率的に別の電圧へ変換する電源回路です。車載ECUでは例えば、12V → 5V、5V → 3.3V、3.3V → 1.2Vといった電圧変換が必要になりますが、DC/DCコンバータは、スイッチング方式を採用することで変換効率が高く、大電流用途にも適している点が特長です。 |
| LDO (リニアレギュレーター) |
LDOは、ノイズが少なく回路がシンプルなため、センサー電源やアナログ回路など、低ノイズが求められる用途に適しています。また、外部基準電圧に追従するセンサーやオフボード負荷に最適な”Tracker(トラッカー)”もPMICに取り込まれています。 |
| 電圧監視 |
PMICには電源電圧の異常を検知する機能が搭載されています。例えば、電圧低下、過電圧、電源異常などを検知し、マイコンへ通知 |
| ウォッチドッグ |
ウォッチドッグはマイコンの正常動作を監視する機能です。マイコンがソフトウェアエラーなどで停止した場合、マイコンリセット、セーフティ動作を実行することができます。 |
| 電源シーケンス制御 |
車載ECUでは電源の起動順序(Power Sequence)が重要です。PMICは電源投入の順序を制御することで、ECUの安定した起動を実現します。 |
なお、PMICですべての電源をまかなえない場合や、より柔軟な電源構成が求められるケースもあります。インフィニオン社では、PMICに加え単体のLDO(OPTIREG™ Linear)やDC/DCコンバータ(OPTIREG™ Switcher)など、車載向け電源デバイスを幅広くラインナップしています。
用途に応じたディスクリート構成の検討についても、是非あわせてご確認ください。
PMICを採用するメリット
PMICは電源の生成や管理を1チップに統合されていることが主な特徴ですが、実際にPMICを採用することでECU設計にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
| ECU設計の簡素化 |
PMICは複数の電源機能を統合しているため、部品点数削減、基板面積削減、設計工数削減を実現可能 |
| ECUの信頼性向上 |
PMICの電圧監視機能やウォッチドッグ機能により、電圧異常検知、マイコン監視、エラー検知が可能 |
| 機能安全設計への対応 |
車載ECUではISO 26262に基づく機能安全設計が重要だが、PMICは、電圧監視、*ウィンドウウォッチドッグ、エラー監視などの機能により安全設計をサポート |
補足:ウィンドウウォッチドッグとは?
ウィンドウウォッチドッグ(Window Watchdog)は、マイコンが正しいタイミングで動作しているかを監視する安全機能です。
通常のウォッチドッグは、マイコンが一定時間内に「生存信号(キック信号)」を送らない場合に異常と判断します。
しかしこの方式では、ソフトウェアが暴走して異常な頻度で信号を送る場合を検知できない可能性があります。
そこで車載システムでは、より厳密な監視を行う ウィンドウウォッチドッグ が使用されます。
ウィンドウウォッチドッグでは、マイコンが信号を送ることが許される時間の範囲(ウィンドウ)が決められています。
このウィンドウの、早すぎるタイミング、遅すぎるタイミングのどちらでも異常と判断されます。
これにより、ソフトウェアのフリーズ、ソフトウェア暴走、タイミング異常などを検知することができます。
車載ECUでは機能安全が重要であるため、多くの車載PMICやセーフティマイコンにウィンドウウォッチドッグが搭載されています。
インフィニオン社の車載PMICとは
インフィニオン社は車載用途向けに OPTIREG™ PMICシリーズ を提供しています。汎用的に使用できるGeneral Purpose PMICと、ADAS、トランスミッション、インバーターに特化したApplication Specific PMICのラインナップがございます。
具体的な製品の仕様、想定アプリケーション、詳細なブロックなどについて紹介をしておりますので、是非一度、製品紹介ページもご覧ください。
また、これらのPMICは、車載向け高信頼設計、機能安全対応、車載マイコンとの最適な連携といった特長を備えています。特に、インフィニオン社の車載マイコンのAURIX™シリーズと組み合わせることで、ECUの電源設計を効率的に実現できます。
車載PMICの主な適用アプリケーション
インフィニオン社の車載用PMICは、複数電源の効率的な生成とセーフティ機能の統合により、さまざまな車載ECUで採用されています。ここでは代表的なアプリケーションと、PMICを採用する理由について解説します。
| ADAS(先進運転支援システム) |
ADAS ECUでは、カメラやレーダーなどのセンサーに加え、高性能SoCやメモリが搭載されるため、 |
| EPS(電動パワーステアリング) |
EPSは車両の操舵を制御するため、安全性が極めて重要なシステムであり、電源異常やマイコンの誤動作が |
| BMS(バッテリーマネジメントシステム) |
BMSではバッテリー状態の監視と制御が重要であり、ECUの安定動作が不可欠です。 |
| インバーター(モータ制御システム) |
電動車両(EV/HEV)や電動アクチュエータでは、モータを駆動するインバーターECUが |
| ドメインコントローラ |
ドメインECUでは複数の機能を1つのECUに統合するため、必要な電源レール数が大幅に増加します。 |
このようにPMICは、各アプリケーションにおいて電源管理とセーフティ機能の両面からECU設計を支えています。
まとめ
本記事でも紹介しましたが、PMICは車載ECUにおける電源管理の中核を担う半導体です。複数の電源機能を1チップに統合することで、電源設計の効率化とシステムの信頼性向上を同時に実現します。特に近年の車載システムでは、ECUの高性能化、電源レールの増加、機能安全要求の高度化といった背景から、PMICの重要性はますます高まっています。
PMICを採用することで、部品点数削減と設計簡素化、電源監視やウォッチドッグによる安全性向上、マイコンとの連携による統合的な電源管理が可能となり、車載ECUの設計品質と開発効率の向上に大きく貢献します。
インフィニオン社のTLF35585シリーズをはじめとする車載PMICは、これらの要求に対応する高集積かつ高信頼な電源管理ソリューションとして、ADASやEPS、BMS、ドメインコントローラなど幅広いアプリケーションで活用されています。今後も車載電子化の進展に伴い、PMICはECU設計における不可欠なコンポーネントとして、その役割をさらに拡大していくと考えられます。
お問い合わせ / お見積もり
本記事に関してご質問、見積もりの希望がありましたら以下より問い合わせください。