AV over IP の新たなオープン規格 IPMXとは?
Alliance for IP Media Solutions (AIMS) が中心となり提唱しているIPMX (Internet Protocol Media Experience) は、標準的なIPネットワーク上で4K60p等の高品質な映像や音声ならびに制御信号を伝送するAV over IPのためのオープンな新規格となります。これまでProAV(Professional Audio-Visual)業界では複数のAV over IPソリューションが乱立しており、その多くはオープン規格に基づいたものではありません。それに対し、IPMXはAIMS、AMWA、VSF、SMPTEらの協力によりオープンな規格として標準化が進められています。既に放送業界で普及しているSMPTE ST 2110規格群および関連するAMWA NMOS規格をベースとし、HDCPコンテンツ保護や特殊なオーディオに必要な拡張オーディオチャンネルマッピングなどProAVワークフローをサポートする機能追加ニーズに対応しています。
ProAV市場の概況
今日、屋内外のいたるところにモニターが設置され、様々な情報が提供されています。
例えば:
・街中や商業施設内のデジタル広告
・駅、空港、シネマなどにおける時刻表、運行情報、混雑情報などを示すモニター
・大型の講義室における大スクリーンや補助モニター
・イベント会場やスタジアムの大型ビジョン
・工場や大型船舶の制御室
ところでこれらの映像や音声はどのような手段で送っているのでしょうか?
家庭でメディアプレイヤーとテレビを繋ぐにはHDMIケーブルがよく使われていますが、一般的に販売されているケーブルは長させいぜい5mくらい。また、同じ映像の同時配信、映像源の切り替え、あるいは複数のHDMI映像を1つの機器に合成するといったことを行うには専用の装置が必要となります。
前述の利用シーンのような、主に家庭用ではない業務用オーディオ・ビジュアルのことをProAVと呼んでいます。
ProAVに必要とされる長距離伝送や複数配信といった課題に対応し、前述のようなシーンで使われることを想定した映像と音声の伝送方式(インタフェース)が各社から提案され、様々な製品が発表されていますが、その中で新たなオープン規格として擁立された規格がIPMXとなります。
IPMXではProAVでの課題を解決するためにネットワークの仕組みを利用して映像や音声を伝送します(こうした仕組みをIP伝送と呼びます)が、高価な光ファイバーなどではなく、安価で広く普及しているカテゴリー5クラスの銅線ネットワークをターゲットにしていることもこの規格の大きな魅力となっています。
<アプリケーション例>
オープン規格であるということ
ProAV向けのインタフェース規格に対応した製品が既に各社から発表されていると申し上げました。
では、なぜ今新しいインタフェースなのでしょうか?
この新しいインタフェース、IPMXの最大の特徴は「オープン規格である」ということです。
これまでのProAV向けインタフェースは特定の会社や団体からLSIや対応製品が発売されていますが、規格は完全には公開されておりません。
これに対しIPMXはオープンな規格を目指して策定が進められています。オープン規格には以下のようなメリットが考えられます。
●多彩なプレイヤーが参画し、魅力ある製品群がリリースされる
カメラが得意なメーカー、ディスプレイが得意なメーカー、テレビに接続するスマートモジュールが得意なメーカー等、多彩なメーカーが自社の強みを活かした製品をリリースし、IPMXのエコシステムが充実することが期待されます。
●異メーカー間の互換性が担保されることで、代替品の選択肢が増える
採用したメーカーの製品が販売終了した、入手性が悪くなった、といったことがあった際も代替品の選択肢が広がります。大規模なシステムを構築する際にも選択肢が多いことは優位に働くでしょう。
●競争が働くことにより、価格やライセンス条件等がリーズナブルに抑えられる
ある特定の会社が決めた規格の場合、使用する側としては価格や使用条件などの交渉が不利になりがちですが、オープン規格ではプレイヤーが増えることにより競争原理が働き、複数の選択肢からより良い条件のものを選ぶことができます。
IPMXは既に放送向けインタフェースとして確立されているオープン規格であるSMPTE ST 2110をベースにしています。従いまして同じネットワーク内で用途に応じてIPMXとST 2110の機材を相互運用することができます。一度構築したシステムに別な機材を追加することも容易ですし、同じシステムに異なる団体や施設が参加するといった業界全体でのコラボレーションやコンテンツ共有の加速も期待されます。
IP伝送であるということ
映像や音声を伝送するインタフェースといいますと、家庭用ではHDMI,パソコン向けならDP(Display Port),放送向けならSDIといったケーブルでの接続は容易に想像がつくかと思います。これら専用ケーブルを使用した映像伝送は接続関係が分かりやすいものの、前述しました長距離伝送や複数配信等といったProAVに必要とされる特長を満たすには取り回しやコストの面で課題があります。
課題解決の手段のひとつとして、イーサネットの仕組みを利用したAV伝送が近年登場しています。広義にはIP伝送、映像や音声をIP伝送するという意味ではAV over IPやMedia over IPなどと呼ばれています。
いくつものPro AV向けインタフェース規格でもIP伝送が採用されていますし、IPMXやその前身となったSMPTE ST 2110もIP伝送です。
イーサネットの仕組みを利用することにより、実質的に距離の制約から解放されますし、ネットワークスイッチを利用した複数配信や伝送先/伝送元の切り替え等も容易に行えます。また、映像・音声以外の制御データ等もやり取りしたいとなった場合、イーサネットの仕組みを活用することは容易です。専用の設備ではなく既存のインフラを使える余地があるというのもメリットになるでしょう。
イーサネットと一言で申しましてもその速度や伝送路にいろいろ種類があります。銅線を利用した10Mbpsの世界から、光ファイバーを利用した100Gbpsを超えるような世界まで。
せっかくイーサネットの仕組みを利用しているといっても、IP伝送の為に100Gbps対応の高額な機器や配線の敷設が必要となりますとそのメリットも薄れてしまいます。
一般的な需要での最大解像度である4k@60Hzの映像を伝送するのに必要とされる帯域は18Gbpsにも及びますが、IPMXでは圧縮方式にJPEG-XSを使用することにより、一般的に広く普及しているCAT5(カテゴリー5)と呼ばれる1Gbpsの銅線のインタフェースで4k@60Hzの映像を高クオリティ、低遅延で伝送することが可能です。
これにより、既存の設備やケーブルの流用で4k@60Hz対応のシステムを組むことが可能になります。あるいはより広帯域のネットワークを使用して複数の4k映像を伝送するといったことも可能になります。
<4K映像伝送ネットワークイメージ>
まとめ
Pro AV機器向けの唯一のオープンインタフェース規格であるIPMXのご紹介をさせていただきました。
今回のポイントとしては
●オープン規格であることにより、IPMXワールドの広がりが期待できる。
●前身となる放送向けのオープン規格SMPTE ST 2110との互換性を持った製品も期待できる。
●1Gbpsのネットワークが活用できることにより、安価にシステム構築ができる。
IPMX規格についての詳細はAIMSアライアンスをご参照ください。