機械を動かすモーターは、ロボット、3Dプリンター、顕微鏡など、さまざまなアプリケーションに使われています。緻密なモーター制御によってアプリケーションの性能が高まりますが、「社内にノウハウがない」、「開発期間が限られている」といった理由で、「細かい設計に時間をかけずに、滑らかなモーター制御を手早く組み込みたい」と切実なニーズをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

モーター

今回は、その期待に応える「ADI Trinamic™シリーズ」を紹介します。ノウハウがなくても使える高機能なモーター制御に興味がある方、センサーレス負荷検知機能や省エネ機能を使ってアプリケーションの付加価値を高めたい方は、ぜひお読みください。

ADI Trinamic™シリーズとは?

ADI Trinamic™シリーズ(以下、Trinamic™シリーズ)は、2021年にアナログ・デバイセズ社に統合された、ドイツのTrinamic社によるモーション制御ICのラインナップです。

 

ADI Trinamic™の概要

驚きの静音性を実現する「StealthChop™」、脱調をセンサーレスで感知する「StallGuard™」など、高機能な独自アルゴリズムがハードワイヤードアーキテクチャーで標準搭載されており、精緻かつ柔軟なモーション制御を効率的に開発できます。

 

静音性、正確性、省電力性を求めるアプリケーションに最適です。例えば、以下のようなアプリケーションに活用できます。

  • 滑らかな動きの搬送機
  • 静音性が必要な顕微鏡・検眼機・監視カメラ
  • バッテリー駆動の小型機器
  • 負荷の検出が必要なロボットアーム


Trinamic™の特徴

ハードワイヤード・アーキテクチャーで、高精度制御アルゴリズムを標準搭載

オンザフライで、パラメーターの変更がその場でできる

省電力/静音性/ダウンタイム軽減などの 精緻な制御アルゴリズム

プラグ&プレイでの効率的な開発を可能にする

 

従来のソリューションとTrinamic™シリーズの違い

Trinamic™シリーズは、従来の一般的なソリューションと何が異なるのでしょうか。下の図は、そのイメージを表しています。

従来のドライバーとADI Trinamic™の比較イメージ図

従来のモータードライバーは、モーターの制御アルゴリズムを開発し、MCUに書き込む手間がかかります。また、パワー段の作り込みが必要で、小型化や放熱性の課題も発生します。

 

Trinamic™シリーズは、ハードウェアに精緻な制御アルゴリズムを組み込んでおり、オンザフライでレジスタ設定を変更するだけで、高機能なモーターを実現できます。複雑な演算処理を書き込む必要がないため、複数チャンネルの同時動作も簡単に開発可能です。

 

また、Trinamic™シリーズにはパワー段を内蔵したラインナップもあります。小型化が容易で、オン抵抗が低く発熱を抑えられます。そのため、ハードウェアの設計工数も大幅に削減できます。

 

以下の比較表は、Trinamic™シリーズと従来のソリューションの違いをまとめたものです。

ADI Trinamic™

従来のソリューション

製品

モーション制御IC

対象モーター

ステッピングモーターとBLDC

制御アルゴリズム 高精度のアルゴリズムをハードワイヤードで標準搭載 ソフトウェア
モーション制御のパラメーター レジスタ設定 ソフトウェア
パラメーター設定の変更 オンザフライで変更可 ソフトウェア変更が必要
保有するアルゴリズム 省電力/静音性/ダウンタイム軽減などの精緻な制御アルゴリズム -
評価環境 TMCL-IDE(ダウンロードフリー)
プラグアンドプレイで直観的なGUI。リアルタイムで確認しながらのモーションシステム開発
評価ボードを使いこなすのに時間がかかるかもしれない
製品ラインナップ IC/ボードモジュール/モーター(完成品) -

Trinamic™シリーズを活用することで、開発工数を大幅に削減しながら、高度なモーション制御を実現できます。

 

ダウンロードフリーの統合開発環境「TMCL-IDE」は直感的な操作性で、実際の動作を確認しながらパラメーターを変更できます。一般的な評価ボードよりもはるかに使いやすく、最短30分程度でモーターを動かすことが可能です。システム全体をスピーディーに設計できます。

 

製品ラインナップはICからモジュールまで幅広く、用途に合わせて選択していただけます。

Trinamic™シリーズによるモーション制御

具体的に、どのような動きが実現できるのでしょうか。下の動画は、Trinamic™シリーズによるモーション制御のイメージです。

上段では、モーターが滑らかに加速し、衝撃緩和と高速搬送を実現しています。搬送物の繊細な取り扱いが求められるアプリケーションでは、こうした滑らかな動きを実現することが重要になります。しかし、一般的なモーション制御ICでは、CPU側で演算をおこなうなど制御が複雑化します。

これに対して、下段は一定の速度まで単純に加速・減速する場合です。この場合、開発の難易度は抑えられますが、搬送物に衝撃が伝わる可能性が高くなり、こぼれ・転倒など搬送状況へ影響を与えてしまいます。

 

Trinamic™シリーズでは、「速度変化を多段階で実行する」「動きを滑らかに補完する」といった制御アルゴリズムがコマンドセットとして用意されているため、複雑な動きを簡単に実現できます。

滑らかな動作を可能にする4つの独自アルゴリズム

Trinamic™シリーズの滑らかな動作を可能にしているのが、4つの独自アルゴリズムです。

  • モーター駆動電流を最適化する「SpreadCycle™」
  • 電圧を制御し、駆動音やノイズを低減する「StealthChop™」
  • BEMF(逆起電力)を計測し、モーター負荷を検知する「StallGuard™」
  • モーター負荷に応じた電流制御により、消費電力を低減する「CoolStep™」

 
順番に紹介していきましょう。

静音性に貢献する「SpreadCycle™」「StealthChop™」

モーターの静音性に貢献する技術が、電流を最適化する「SpreadCycle™」と電圧を最適化する「StealthChop™」です。

 

ステッピングモーターの効率化や安定化には、チョッピングやDecayの工夫による電流制御が不可欠です。これにより、モーターの振動が抑制され、静音性が向上します。Trinamic™シリーズは、この電流制御を自動的におこないます。下のイメージ図を見てみましょう。

モーターの電流負荷・Decayを比較
電流センスやDecayの工夫により、0A付近でもスムーズに動作

 
上段は、一般的なモータードライバーでの電流制御です。Fast DecaySlow Decayをおこなっていますが、電流の急変やターゲット電流からのズレが生じています(図・左上)。また、電流0A(アンペア)前後では制御が難しく、波形が平らになっています(図・右上)。

  

下段は、Trinamic™シリーズの自動制御のイメージです。SpreadCycle™で電流を最適化し、さらにStealthChop™で電圧も最適化することで、電流の急変やターゲット電流からのズレを最小限に抑えています(図・左下)。さらに、0A前後の波形も自動で補正し、静かな動きを実現します(図・右下)。

また、StealthChop™による電圧制御は、モーターの音やノイズを劇的に低減させます。StealthChop™によって、Trinamic™シリーズは、競合にはない卓越した静音性を実現しています。

StealthChop™を使用した場合のノイズ変化
電圧制御をさらに最適化する。StealthChop™を使う事で、更に静かな動作を実現

センサーレス負荷検知と省エネを実現する「StallGuard™」「CoolStep™」

次に、負荷検知と省エネに貢献する2つの技術を紹介します。モーターの状態を検知する「StallGuard™」と、エネルギー効率を向上させる「CoolStep™」です。

 

StallGuard™は、モーターに電流が流れていない区間のBEMFを計測し、モーターの状態を把握する技術です。脱調発生時の検知はもちろん、脱調に至るまでの予兆を捉えることができます。

 

また、StallGuard™で検知したモーター負荷に応じて電流を最適化する技術が「CoolStep™」です。これまで熱として消費されていた無効電流を低減し、省エネ性を向上できます。低負荷時には、最大で約70%もの電流を削減できます。

StallGuard™をセンサー代わりに活用

モーターの負荷を検知するStallGuard™は、センサーの代わりとして利用することも可能です。以下の例のように、さまざまなアプリケーションへの活用が検討できます。

<StallGuard™活用例>

  • ロボットアームが柔らかいものを持てるように、モーター負荷をフィードバックし、握力を調整する
  • 悪路面などにおいて、各タイヤにかかる負荷の差を検知し、トルク補正をおこなう
  • 他のセンサーなどを使わずに、機械の衝突を検知し、動作を停止する
  • モーターの回転やトルクの異常を検知し、機械の予知保全に活用する
野菜などの柔らかいものを掴むロボットアーム 野菜などの柔らかいものを掴むロボットアーム
悪路を走行するAMR 悪路を走行するAMR
機械の衝突を回避する衝撃センサーの代用 機械の衝突を回避する衝撃センサーの代用

高速回転時にわずかな接触で停止するような、高感度な制御も可能です。数値化された負荷量を周波数解析するなどして、幅広く応用できるため、注目度が高まっています。

Trinamic™シリーズ製品ラインナップ

最後に、Trinamic™シリーズのラインナップを紹介しましょう。ICからモジュールまで豊富なラインナップがあります。

Trinamic™シリーズのラインナップ分類

PAN Driver(エンコーダーあり/なし)

モーター、モータードライバー、モーションコントローラーをすべてまとめてモジュール化した製品です。エンコーダー内蔵の製品も提供されています。
ラインナップはこちら

 

・モーターモジュール

モータードライバーとモーションコントローラーを、1つのモジュールにまとめた製品です。4チャンネル、6チャンネルなど、複数チャンネルを出力できるラインナップも提供されています。
ラインナップはこちら

 

・ドライバーIC・コントローラーIC

モータードライバー機能または、モーションコントロール機能を備えたICです。
ラインナップはこちら

 

・モーター

モーターモジュールやICと組み合わせて使えるステッピングモーターです。

ラインナップはこちら

 

ボードモジュール ボードモジュール
ボードモジュール
PAN Driver PAN Driver
PAN Driver
ICタイプ ICタイプ
ICタイプ

BLDCモーター向けラインナップ

また、BLDCモーター向けのラインナップも用意されています。ベクトル制御のアルゴリズムがハードウェアに組み込まれており、ノウハウがない方でも、ベクトル制御を簡単に実現できます。

ラインナップはこちら


今回は、繊細なモーション制御を簡単に実現できる、アナログ・デバイセズのTrinamic™シリーズを紹介しました。評価ボードが提供されていますので、ご興味をお持ちの方は、ぜひお試しください。

 

ご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

商品の購入はこちら

メーカーサイト/その他関連リンクはこちら

お問い合わせ

本記事に関してご質問がありましたら、以下よりお問い合わせください。

アナログ・デバイセズ メーカー情報Topへ

アナログ・デバイセズ メーカー情報Topに戻りたい方は以下をクリックしてください。