NVIDIA® Jetson™ シリーズは、GPUによる高度なAI処理性能を持つSOM (System-on-Module)です。小型で高いパワーパフォーマンスを持ち、画像・音声解析や自律動作などの高度なAI処理を必要とする先進的なエッジ AIアプリケーション開発に幅広く活用できます。
株式会社コンテックはJetsonシリーズの1つであるNVIDIA® Jetson Nano™ を用いて産業用エッジAIコンピューター「DX-U1100シリーズ」を開発しました。
開発の経緯や課題、Jetson Nanoを採用した理由などについて、株式会社コンテック グローバル営業本部 マーケティング部 マーケティンググループ プロダクトマネージャーの長野氏にお聞きしました。
今回取材させていただいたお客様
株式会社コンテック様
”現場に設置できる”AI推論環境の需要が高まる
近年、AI・IoT技術への関心が高まり、さまざまな研究開発が進められています。産業分野においても、エッジコンピューティングによるスマートファクトリー化、画像処理による検査ラインでの高速処理、自立動作を行う協働ロボットの導入といった、AI・IoT技術を用いた取り組みが多くなっています。今後、コンピューター処理能力のさらなる向上や、5Gによる通信の高速大容量化が進むことで、この傾向が加速していくことが予想されます。
長野氏
「エッジAIコンピューターを現場に導入しようと考えるお客様は増えています。その時、現場の環境において使用できるものや、他の機器、センサー類からの信号入力に対応した製品が必要になります。当社は、産業用PCを長年開発、提供してきました。そのノウハウを、新しいAIプラットフォームに投入して、産業現場で使っていただけるAI環境を提供することにしました。DX-U1100シリーズは、生産現場において製品の画像認識検査といったAIアプリケーションを実行するAI推論環境として最適な製品です。産業用PCのノウハウを生かした高信頼、長寿命設計になっており、周囲温度やノイズに対して高い耐環境性能も備えています。壁面やVESAマウントに対応したディスプレイの背面、DINレールへの取り付けなど、柔軟な設置性も持っています。また、PCI Express拡張スロットを搭載したモデルも用意され、コンテックの豊富なPCI拡張カードが利用可能です。これによりアナログ入力やシリアル通信といった機能拡張が可能となり、現場での実用に不可欠な機能を追加できます。」
実現したかったNVIDIA GPUプラットフォームの採用
産業現場での実用性の高いエッジAIコンピューターであるDX-U1100シリーズは、小型で高いAI処理性能を持つだけでなく、産業用としての十分な性能も備えています。このように産業現場が求める性能を実現するために、開発工程で様々な苦労があったといいます。
長野氏
「苦労したのは熱設計の部分です。やはりCPUとGPUの両方を搭載している製品なので、より一層の排熱への対応をしました。当社では、消耗部品であるファン使用はできるだけ避けるように、従来からファンレスの産業用コンピューターを提供しています。本製品も最初からファンレスで、ヒートシンクによる放熱の実現を目指して開発しました。また、狭い場所や、温度の高い場所、空調の無いような場所に設置されますので、耐環境性には配慮しています。」
このような苦労をしてでもJetson Nanoを使いたかった理由について、長野氏は次のように語ります。
長野氏
「私たち自身そうですが、お客様側からも見たときに、Jetson Nanoのトータルコストパフォーマンスの高さは何よりの魅力でした。当社では、FPGAを利用する技術も持っています。CPUとFPGAを搭載するAI製品の開発も可能でした。しかしその場合、AIに加えて、FPGAを利用する技術も必要ですし、お客様が生産現場のミッションに合わせてAIアプリケーションを開発いただく際にAIアプリケーションを作るベースとなる開発プラットフォームから作っていただく必要があり、容易ではないと考えました。Jetsonならば、NVIDIAから提供される開発者キットや開発プラットフォームを活用してお客様自身がAIアプリケーションを容易に開発できて、多くの技術的な情報も提供されている。そこで、NVIDIAのGPUプラットフォームを選択することにしました。」
NVIDIA® Jetson™ シリーズは、ハードウェアの開発者キットだけでなく画像解析アプリケーション開発やディープラーニング推論などを加速する開発環境SDKが充実しています。NVIDIA GPUの潜在能力をすべて引き出し、開発を支援するツールが整備されています。
長野氏
「Jetsonに関連する技術的な情報量の多さも魅力に感じていました。NVIDIA のパートナーエコシステムが充実しており、代理店からの情報発信をはじめ、多くの媒体から情報が提供されています。これがお客様のAIアプリケーション開発を促進すると考えました。私たちは汎用で使える産業用コンピューターを提供している立場にあります。現場で使える製品を供給するのが、長年にわたって産業用製品を提供してきた当社の使命だと考えました。」
産業用仕様だからこそ、どこにでも使えるAI推論環境へと進化
DX-U1100シリーズは、Jetson NanoによるAI性能に加え、耐ノイズ、耐衝撃、サージ耐性などの各種試験をクリアした堅牢性と信頼性も兼ね備えているのが特徴です。産業用に限らず、店舗内に設置して人の動きを画像認識するなど、商業や医療といった幅広い分野での利用が期待されます。
長野氏
「AI技術を応用した手洗い判定システムも弊社にて開発し、DX-U1100と一緒に提案しています。カメラは手や顔を撮影できるような場所に設置されますが、エッジAIコンピューターも、狭い場所や空調がない場所への設置も想定しています。場所を選ばず設置できるという利点が産業現場以外のユースケースでも活躍すると考えています。」
最後に今後の展望について長野氏はこのように語りました。
長野氏
「推論環境として現場へ設置する最適な製品となるのがDX-U1100ですが、推論モデルを開発する上で学習環境も必要となります。学習環境はクラウド上かコンシューマーPC上が多いですが、学習環境も現場近くにあるべきと考えます。現場においては、長期安定供給や高信頼性などが重要になりますのでそのニーズに応えるFAコンピューターとして学習環境向けのラインナップを今後拡充していく考えです。その際にはJetson NanoだけでなくよりハイパフォーマンスのNVIDIA GPU製品の搭載も検討しています。マクニカ様からは、これまで製品情報、技術情報の提供を受けているので、プロモーションなども含めて、これからも各方面でサポートいただきたいですし、NVIDIAの代理店としてだけでなく販売パートナーとしてもご支援頂きたいと考えています。」
マクニカはDX-U1100シリーズに学習済みAIアルゴリズムや、現在注目されているOTA(無線ネットワークを利用した、遠隔監視や遠隔ファームウェアアップデート)、並びに保守・運用サービスを追加し、ソリューションとして提案することにより、産業現場へのエッジ AIコンピューターの普及に貢献します。