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NVIDIA 金融AI Meet-Up with Macnica

2026年4月17日、マクニカは金融業界のお客様を対象とした「金融Meet Up」を開催しました。本イベントは、NVIDIAおよび三菱地所との共催により実施され、急速に進化するAI技術やデータ活用を背景に、金融サービスの高度化・効率化をテーマとして、業界の最前線における取り組みや今後の可能性について議論を行いました。

当日は、各社の知見をもとに金融領域におけるAI活用のユースケースが紹介されるとともに、会場内では金融業界向けの最新ソリューションを体感できるデモ展示も実施されました。これにより、参加者は講演だけでなく、具体的な技術や活用イメージをより実践的に理解する機会となりました。

また、本Meet Upは単なる情報提供の場にとどまらず、金融業界における課題共有や今後の方向性を考える“共創の場”として設計されており、業界横断での知見交換が可能な構成となりました。会の後半にはネットワーキングの時間も設け、参加者同士の交流が生まれるなど、活発なコミュニケーションが行われました。

本ページでは、イベントレポートの形で各社の講演内容のサマリーを紹介いたします。

各社の講演概要

AIが形づくる金融サービスの未来

タイトル:How AI is Shaping the Future of Financial Services 

登壇者:NVIDIA Global Head of Banking Strategy Aser Blanco氏

冒頭でブランコ氏は、「AI 活用は単なる進化ではなく、本当の意味での革命です」と述べたうえで、まず、NVIDIA の本質を説明しました。「NVIDIA は単なるチップ メーカーではありません。確かに我々は優れたチップを設計しています。しかし、NVIDIA の本質は、AI革命を支えるプラットフォームなのです」。チップ、インフラ、モデル、アプリケーションに至るまでを、統合された一つのスタックとして設計、提供していることこそが、あらゆる AI 企業が NVIDIA を必要とする理由です。

もう一つ重要な点はオープンソースへの強いコミットメントです。NVIDIA はモデルだけでなく、学習データ、学習済みの重みまで含めて公開しており、利用者は新しいビジネスを作ることができます。「AI イノベーションはオープンソースモデルの上で起きます。金融業界においても、自らコントロールできるインテリジェンスの構築が不可欠です」

では、なぜ金融業界にとって AI が重要なのでしょうか。金融サービスは年間約 1.2 兆ドルの利益を生み出す世界最大の利益産業です。AI を活用したプロセス改善だけで、2,000 〜3,400 億ドルの追加利益が生まれると試算されています。これは年間利益が最大約 20% 増加することに相当しますが、この数字は、実際の可能性を過小評価しているかもしれません。例えば、詐欺被害だけでも年間 5,000 億ドル超の損失が発生しており、その額は毎年10% 以上のペースで増加しています。AI による詐欺検出の改善は、数千億ドル規模の価値を生み出す可能性があります。
NVIDIA の調査レポートでは、金融業界がAIを大規模に導入しつつあることを裏付けています。99% が AI 投資を継続または拡大すると回答し、89% が既にAIによる収益増、コスト削減を実感しています。また 84% がオープンソースの重要性を認識しています。
銀行業では、1961 年にバークレイズがメインフレームを導入した後、本質は長らく同じでした。しかし構造は大きく変わり始めています。「未来の銀行はデータセットではなくインテリジェンスで動きます。2025 年には複数の大手銀行が AI ファクトリーを導入しました。これは 60 年代のメインフレーム導入に相当する転換点です」

では、AI 中心の銀行は、どのように設計すべきでしょうか。それは、独自の自社データとオープンソース モデルを組み合わせることで実現できます。例えば大阪における商業用不動産融資の判断基準、日本および米国地域におけるリスクに対する考え方、気象リスクの評価などは、他の誰も持ち得ない固有の資産です。このデータとオープンソース モデルを組み合わせることで、各銀行独自のインテリジェンスが生まれます。「銀行の中核となるインテリジェンスは、自分たちで構築すべきです」とブランコ氏は強調しました。
重要なのは、モデルの事前トレーニング、ファインチューニングと蒸留です。これには、モデルの学習、必要なタスクに合わせた調整、そして求められるサイズへの縮小が含まれます。これにより、安い、速い、正確という 3 つの実利も得られます。未来の銀行では、与信審査に特化したモデル、商品や価格知識に特化したモデル、顧客行動をよりよく理解するトランザクション モデルなど、各タスクに最適化された複数の専用モデルを持つことになるでしょう。

モデルの活用先として、まず既存プロセスの改善が挙げられます。たとえばトランザクション モデルを構築すれば顧客の行動を高精度に予測できます。これは不正検知や次の商品提案など多くの用途に活用可能です。
モデルの活用は、従業員の生産性向上にも貢献します。分析や調査などにかけている時間を短縮できれば、顧客と向き合う時間を増やすことができます。グローバル投資銀行である RBC Capital Markets ではアナリストが 40 時間かけていた分析時間を 15 分に短縮し、カバー銘柄数が1,500 銘柄から 2,500 銘柄へと増加しました。
ブランコ氏は、以前は一晩に何時間もかかっていたリスク分析や価格算定に関する高負荷な計算について、GPUを活用することで1時間未満に短縮された事例も紹介しました。これにより新たな時間が生まれ、新しい分析や発見、そして機会の創出につながりました。つまり、インテリジェンス モデルを強化するためのより多くのインプットが得られるようになったのです。

最後にブランコ氏は、こう締め括りました。「AI は進化ではなく革命です。金融業はデータ産業であり、AI はデータをインテリジェンスに変換します。AI ファクトリーは、この機会をスケールさせるための基盤です。これはもはや技術の課題ではありません。技術はすでに存在し、機能しているのです。課題はビジネス側にあり、ビジネスの観点から、どのように AI に投資し、活用すべきかを考える必要があります。どの銀行も、『銀行とは何か』を再定義する必要があります。今後 10 年はイノベーションの連続になるでしょう」

 

楽天が語る「金融AIを実務で成功させる条件」

タイトル:ファインチューニングによる金融領域に特化したVertical LLMの実現

登壇者:楽天グループ株式会社 Vice General Manager, AI & Data Consulting Department Manager, Fintech Product Group,Rakuten Institute of Technology 柴田 祥 氏


金融領域における生成AI活用の実践をテーマに、楽天グループ株式会社 AI & Data Consulting Department ManagerRakuten Institute of Technologyの柴田 祥氏による講演が行われました。本セッションでは、ファインチューニングを用いた金融特化型LLMVertical LLM)の検証結果と、実務でAIを成功させるための本質的なポイントが共有されました。

 

講演の冒頭で柴田氏は、ファインチューニング検証を通じて改めて明確になった点として「データの重要性」を挙げました。金融タスク(株価予測など)を対象に、汎用的な基盤モデルと金融特化モデルを比較評価した結果、特定の指標では基盤モデルが優位なケースも見られたものの、総合的には金融領域に特化したモデルの有効性が確認されました。そして、その性能差を左右する最大要因はモデルそのものではなく、データ品質であることが明らかになったといいます。

 

金融向けLLMを実務で成功させるためには、単なるAI技術の知識だけでは不十分です。柴田氏は、成功の鍵として「LLMAIのエンジニアリング知識」と「金融ドメイン(業務・制度・文脈)への深い理解」の両立を挙げました。特に、データの選定・収集・作成といったプロセスには最も手間と価値が集中しており、金融ドメインを正しく理解したうえでデータを扱うことが不可欠だと強調されました。

また、R&Dとして成立するかどうかと、実ビジネスで使えるかどうかは別の次元の話である点も重要な論点です。実運用を見据えると、「どの業務で最もビジネス効果が出るか」という観点でのユースケース選定や、継続的な改善・再学習を前提とした設計が求められます。AIは“作って終わり”ではなく、MLOpsLLMOpsを含めた運用設計を初期段階から組み込むことが成功の前提条件となります。

 

柴田氏は最後に、金融機関におけるAI活用の本質として、「AIをただ使う」のではなく、「自社で所有し、育てる」姿勢の重要性を示しました。データとモデルを蓄積・改善し続けることでこそ、金融機関は持続的な競争優位を築くことができます。

本講演は、NVIDIAが示した「AIを作れる基盤」と、楽天が検証した「金融領域で実際に効くVertical LLM」という両輪がそろうことで、金融AIの勝ち筋が見えてくることを示唆する内容となりました。

会計・契約業務を変える「合成データ×SLM」という現実解

タイトル:Nemotron 及び NeMo Data Designerを用いた企業文書特化型言語モデル開発

登壇者:ファーストアカウンティング株式会社 共同創業者, 執行役員, FA Research チーフサイエンティスト 藤武 将人 氏

企業文書向け生成AIの実践をテーマに、ファーストアカウンティング株式会社 共同創業者・FA Research チーフサイエンティストの藤武将人氏による講演が行われました。本セッションでは、NemotronおよびNeMo Data Designerを活用した、企業文書特化型LLM開発の取り組みと、その技術的・実務的な示唆が共有されました。

ファーストアカウンティングは、会計業界に特化したAIスタートアップとしておよそ10年の実績を持ち、AI-OCRや仕分け、請求書処理、承認業務向けAIエージェントなどをB2B/APIで提供しています。会計・経理業務に深く根差したドメイン知識が、本取り組みの出発点となっています。

講演ではまず、契約書や経理文書といった「企業文書」が持つ特性が示されました。これらの文書は長文かつ専門用語が多く、書式や表現も複雑で、さらに機微情報を含むため外部学習が困難です。汎用LLMでは、借方・貸方や契約条件の誤読といった致命的な判断ミスが起きやすく、ドメイン特化モデルの必要性が明確だと藤武氏は指摘します。
具体的なビジネス課題として取り上げられたのが、2027年以降に適用される新リース会計基準です。これにより、多くのリース契約がオンバランス化され、ROAなどの経営指標に大きな影響を与えます。影響把握には大量の契約書を正確に読み解く必要があり、人手による確認には限界があります。
こうした背景から同社が採用したのが、巨大LLMではなくSmall Language Model(SLM)という選択です。超長文への対応、コスト・メモリ効率、オンプレミスや閉域環境での運用といった要件を踏まえると、業務特化・高効率なSLMが最適解であると説明されました。

最大の難所は学習データです。実データは持ち出し不可、利用許諾が困難で、アノテーションコストも高い。そこで中核となったのが、NeMo Data Designerを用いた合成データ生成です。契約書の雛形やルールをSeedとして、本文だけでなく要約、金額・日付抽出、判定ラベルまでを一貫して生成し、高速な改善サイクルを実現しました。
その結果、合成データのみでの学習にもかかわらず、情報抽出精度は大幅に向上し、契約書レビュー性能ではGPT系モデルと同等以上の成果を達成しました。一方で、OCR失敗や例外構文といった“現実の泥臭さ”への対応が今後の課題として挙げられました。

本講演の重要なメッセージは、「企業文書特化LLMではモデルより先にデータ設計が重要」という点です。LLMを単体で捉えるのではなく、業務パイプラインの一部として設計することこそが価値を生む——その実践例が示されたセッションとなりました。

金融規制対応における「特化型LLM」という実務最適解

タイトル:業界・タスク特化型LLMの効率的かつ高精度な構築手法:金融規制対応を題材に

登壇者:株式会社野村総合研究所 チーフエキスパート, AIソリューション推進部 岡田 智靖 氏

金融規制対応を題材に、生成AIの実務活用をテーマとした講演が、株式会社野村総合研究所(NRI) チーフエキスパート・岡田智靖氏により行われました。本セッションでは、金融業務において求められる精度・再現性・運用性を同時に満たすアプローチとして、「業界・タスク特化型LLM」の有効性が示されました。

岡田氏は結論として、金融規制対応のような業務では、フロンティアLLMをそのまま利用するのではなく、「中規模モデル × 業界特化 × タスク特化」という設計思想こそが最適解であると述べました。汎用APILLMは、バージョン変更による挙動変化や制御性の課題を抱えており、規制業務に求められる再現性や説明責任を担保しにくいという現実があります。一方、オンプレミス環境で動作する特化型モデルは、セキュリティ確保と挙動の固定化が可能であり、金融業務との相性が極めて高いと説明されました。

 

NRIが提示した構築アプローチは、再現性の高い3段階パイプラインです。まず、高性能なOSSベースモデルを選定し、次に金融テキストを用いた継続事前学習によって「金融を理解するLLM」を構築します。さらに最後の段階で、証券・保険など特定業務に特化した合成教師データを用い、タスク単位での最適化を行います。この「ドメイン特化 → タスク特化」の2階建て構造により、高精度かつ効率的なモデル構築が可能になります。

 

本取り組みは、経済産業省のGENIACプログラムの一環として進められ、データパイプラインや金融データセットの公開も行われています。実証では、証券・保険領域の複数業務において、GPT-5.2と同等以上の精度を達成しました。

代表的なユースケースとして紹介されたのが、営業会話や商品資料のコンプライアンスチェックです。従来は人手で全体の一部しか確認できなかった業務が、AI導入によって100%チェック可能となり、作業時間は約3分の1、コストはAPILLM利用と比べ約90%削減できる見込みが示されました。

 

特化型LLMはもはや研究テーマではなく、実務における現実的な最適解となりつつあります。今後は対象業務の拡大やAIエージェント化を通じて、金融現場へのさらなる展開が期待されます。

生成AI成功の鍵は「技術」だけでなく「人と業務設計」

タイトル:オンプレミスで進める業務主導型生成AI活用
登壇者:株式会社リコー 経営企画本部 AIサービス事業部 AI事業開発センター  エキスパート 岡本 敏弘 氏

生成AI活用の実践をテーマに、株式会社リコー 経営企画本部 AIサービス事業部 AI事業開発センター エキスパートの岡本敏弘氏による講演が行われました。本セッションでは、オンプレミス環境における生成AI活用の価値と、導入を成功に導くための現実的なアプローチが紹介されました。

岡本氏が強調した最大のメッセージは、生成AI活用において技術は当然重要な前提である一方、その成否を最終的に左右するのは、立ち上げを担うキーパーソンと業務起点での設計であるという点です。特に、機密情報を扱い、業務に深く入り込むようなユースケースにおいては、オンプレミス型生成AIが真価を発揮すると述べました。

情報の機密性は、「公開情報」「社内限定情報」「企業の中核を成す重要情報」の3段階に分けられます。機密度が高くなるほど、また業務プロセスの深部に近づくほど、オンプレミスでの運用が合理的になります。「オープンLLM × オンプレミス」は、技術的な選択肢としてだけでなく、業務との密着度が高い領域において、その真価を発揮するという整理が示されました。

リコーの特徴は、単にモデルやインフラを提供するのではなく、導入教育、運用中の技術アップデート情報提供、問い合わせ対応までを含めた一体型支援を行っている点です。生成AIは導入して終わりではなく、現場で使われ続けることが重要であり、そのための伴走支援が不可欠だと説明されました。
業務アプリ開発基盤として紹介されたのが、ノーコード/ローコードで生成AIアプリを構築できる「Dify」です。ノードを組み合わせて処理フローを設計でき、軽量モデルと表現力の高いモデルを使い分けられる点が、オンプレLLMとの高い親和性を生んでいます。

デモでは、Nemotronを活用したメール文書のマスキングや、Kintoneとの連携による業務自動化が紹介されました。自然文で入力された情報を要約し、業務DBに自動登録・検索する仕組みは、「入力は自然文、管理は業務DB」という業務主導型AIの姿を体現しています。また、社内ストレージ上の画像を直接読み込み、OCRから意味理解、生成までをオンプレ環境で完結させるデモも披露されました。
さらに、リコーはマルチモーダルLLMの開発にも取り組んでおり、金融業務向けには事業性評価シート作成支援など、実務に直結したユースケースが示されました。

講演の締めくくりとして示された成功パターンは明快です。業務を理解し、ITにある程度明るい一人がまず触り、小さく成功させ、チームから組織へと展開していく。オンプレ生成AIはIT部門主導ではなく、「業務を知る一人」から始めることが、成功への近道であると強調されました。

金融業務を支える生成AI基盤はオンプレで成立するか

タイトル:オンプレGPU×NVIDIA NIMによる実環境検証
登壇者:株式会社大和総研 基盤技術第一部 副部長 及川 涼太 氏

生成AI基盤の実運用をテーマに、株式会社大和総研 基盤技術第一部 副部長の及川涼太氏による講演が行われました。本セッションは、一般的なPoC検証ではなく、本番運用を前提とした実環境検証として、「NVIDIA NIMはオンプレGPU環境で本当に使えるのか」を性能・安定性・運用性の観点から検証した点が大きな特徴です。
背景として、企業のAI活用が進む一方、クラウドAIにはコスト予測の難しさ、バージョン変更による挙動変化、データ統制や監査対応の負荷といった課題があります。特に金融業界では、自社管理、ガバナンス、性能の再現性が重視されるため、限られたGPUリソースを最大限活かす手段として、オンプレGPU環境でのNVIDIA NIM活用が検討されました。

検証は約4か月にわたり、大和証券、大和総研、CTC、NVIDIAの4社が連携して実施されました。単一企業によるPoCではなく、実際の運用を強く意識した体制で進められた点が特徴です。対象ユースケースには、証券営業員と顧客の通話音声を「音声認識 → 文字起こし → 要約」する実務そのものが選ばれました。既存のクラウド環境で行っている処理を、オンプレ環境で代替できるかどうかが検証の焦点となりました。
評価軸は、精度、費用、そして特に性能です。方言や早口、言い直しへの対応、金融用語・企業名の認識といった精度面に加え、オンプレGPUとクラウド利用料の損益分岐、推論速度や大規模並列処理時の性能、長時間稼働時の安定性が詳細に確認されました。推論基盤としては、NVIDIA NIMとvLLMが比較対象とされました。

最も注目すべき結果は、大規模並列処理におけるNIMの優位性です。並列度が高くなるほど、NIMはvLLMと比較して約半分の実行時間を示し、GPU使用率もほぼ100%に達しました。さらに、24時間連続稼働テストでは、約3,500並列リクエストにおいてもエラーやメモリリーク、性能劣化が発生せず、本番運用に耐える安定性が確認されました。

これらの結果から、NVIDIA NIMは試験的な用途に留まらず、オンプレGPU環境における実運用前提の推論基盤として選択可能であることが実証されました。今後は、音声認識にNVIDIA Parakeet、要約にNemotron、出力制御にNeMo Guardrailsを組み合わせ、NIMを中核とした一気通貫の処理基盤として、今夏頃の本番適用が予定されています。
本講演は、オンプレGPU環境でも実業務を支える生成AI基盤が十分に成立すること、そしてNVIDIA NIMがその中核を担える技術であることを、実環境・実業務を通じて明確に示した内容となりました。

生成AIの価値を決めるのは「賢さ」ではなく「情報品質」

タイトル:企業IR・投資家向け企業評価システムおよびローカルLLMを組み込んだ次世代ポートフォリオシステムについて
登壇者:京都大学経営管理大学院 特定准教授 南 正太郎 氏

金融・投資分野における生成AI活用の本質を問い直す講演として、京都大学経営管理大学院 特定准教授の南正太郎氏によるセッションが行われました。本講演では、生成AIが抱える根源的な限界と、それを突破するための「情報品質」を軸とした新しい設計思想が提示されました。


南氏の主張は明確です。金融・投資の世界における最大のボトルネックは、情報の量ではなく「情報の質」にあります。現在、金融機関は情報ベンダーや各種リサーチレポートなどに多額のコストを投じていますが、一次情報と二次情報、さらには誤情報やSNS由来のノイズが混在し、必ずしも効果的に活用されているとは言えません。結果として、「最もお金をかけている情報が、最も効率的に使われていない」状況が生まれていると指摘します。

生成AIは強力な要約・生成能力を持つ一方で、入力された情報の質そのものを判断することはできません。決算短信とSNS投稿を同列に扱ってしまうなど、情報の重要性や信頼性を区別する仕組みが生成プロセスの外側に存在しない点が課題です。現状、情報品質の管理は人の経験則に依存しており、数学的に保証された手法はほとんど存在しません。
この課題に対する解決策として、南氏が提唱したのが「TAP(Tomography Asset Pricing)理論」に基づく情報品質フィルタです。情報の価値は「誰が得たか」「いつ得たか」「一次情報か誤情報か」によって変わり、これは信号理論のSNRとして数学的に表現できるといいます。このTAPフィルタを用いることで、ノイズを除去し、情報の質を定量的に担保した状態でAIに入力することが可能になります。


重要なのは、このフィルタをLLMそのものに依存させない点です。LLMの外側にTAPフィルタを配置する「Armored LLM」構成により、どのモデルにも後付けでき、モデル進化にも自動的に追従します。実証では、Nemotronを用いた日本語学習において、重要情報の劣化を抑えたまま金融・リーガル領域への特化が可能であることが示されました。 同時に、情報品質を担保した入力設計がモデル圧縮効率にも寄与するという論点も示されました。


講演の締めくくりで南氏は、生成AIの価値はモデルの賢さではなく、「どの情報を、どう通すか」という設計で決まると強調しました。情報品質を数学的に保証することで、意思決定の精度、モデル圧縮効率、システム全体の信頼性が同時に向上する。TAP理論は、金融×生成AIにおけるOSレベルの基盤技術となり得るアプローチとして、大きな示唆を与える内容でした。

業務特化モデル実現に向けた、〈みずほ〉の生成AI実装アプローチ

タイトル:金融特化LLMの構築と銀行実務テスト評価 〜業務特化モデル実現に向けて〜
登壇者:株式会社みずほフィナンシャルグループ デジタル戦略部 テクノロジー第二チーム ヴァイスプレジデント 皆川 拓 氏

金融業務における生成AI活用の最前線として、株式会社みずほフィナンシャルグループデジタル戦略部 テクノロジー第二チームの皆川拓氏による講演が行われました。本セッションでは、オープンウェイトモデルをベースとした金融特化LLMの構築と、銀行実務テストによる評価・改善を通じて高い精度を実現したアプローチが紹介されました。

皆川氏は、汎用LLMが急速に進化する中であえて独自LLMを開発する理由として、①顧客情報や審査ノウハウといったデータの機密性や地政学的リスクへの対応、②銀行法・金商法などの金融規制・法令対応をモデルレベルで担保する必要性、③行内ルールを踏まえた手続き参照や与信判断、稟議書作成など固有業務への適合、の3点を挙げました。これらを踏まえ、〈みずほ〉のデータとノウハウで鍛えた独自モデルこそが中長期的な競争力の源泉になると語りました。

みずほFGでは、グループCDTOのもとに銀行・信託・証券を横断してDX機能を集約し、約30名程度のエンジニアが所属する内製開発ラボが、現場のビジネスニーズを素早くPoC化し、検証・改善を高速に回しています。「作ること」ではなく「業務で安全に使えること」をゴールに据えた体制が前提にあります。

金融特化LLMの構築は3段階で構想されています。まず、オープンウェイトモデルをベースに法令・社内資料・金融専門知識を学習した金融特化コアLLMを構築。次に、与信判断や稟議書作成、商品提案など業務ごとに特化したLLMを作成します。将来的には、複数の特化モデルを連携させたエージェント型構成も視野に入れています。

特に重視したのが評価設計です。一般的なQAベンチマークではなく、行内の新入行員向け銀行実務テスト(外国為替、融資、預金為替など)をベンチマークに採用。「人間と同等以上、かつ業務で安全に使える水準」を目標に設定し、実験計画・学習・評価のサイクルを2週間のスプリントで高速回転させています。
その結果、ベースモデルで約70%だった正答率は、社内データを活用した改善により90%弱まで向上し、GPT-5.4と同等水準、あるいは一部で上回る精度を達成しました。精度向上の鍵は、テスト問題をパターン分けした上でのデータ品質の重視、最新研究を参考にした学習設定の細かなチューニング、実験管理の徹底にあります。

応用検証として紹介された営業スキル評価LLMでは、熟練者の評価観点を学習させ、評価の標準化を目指す仮説検証に着手しています。実データ特有のノイズやデータ不足という課題に対し、NeMo Curatorによる前処理・後処理、Nemotron-Personas-Japanによるペルソナ付与での多様性確保、NeMo Data Designerによる構造化データ生成と自動品質評価といったNVIDIAエコシステムの活用を試行し、初期的な合成データ生成の有効性を確認した段階です。

本講演は、金融LLMの性能はモデルそのものではなく、「評価設計と改善サイクル」で決まることを示す実践的な事例となりました。

金融AIを“使える状態”にするための基盤づくり

タイトル:MUFG-KDDI 協業2.0の裏側
登壇者:KDDI株式会社 エキスパート, Data&AIセンター 樋口 裕貴 氏

金融AI活用の現実解をテーマに、KDDI株式会社 Data&AIセンター エキスパートの樋口裕貴氏による講演が行われました。本セッションでは、MUFG–KDDI協業の進化形である「協業2.0」の全体像と、金融機関が生成AIを実務で使うために必要な基盤構造について語られました。

樋口氏が提示した結論は明快です。金融AI活用の本質的な壁は、モデル性能ではなく「データ制約」「専門性」「モデル固定性」の3点にあります。機密データを外部に出せない、業務や規制が極めてローカルである、さらにSaaS型AIの自動更新による挙動変化が説明責任・監査対応を難しくする──こうした制約は、グローバル生成AI単体では解決できません。そこでMUFG–KDDIは、「安心・安全なオンプレミス相当環境 × 金融特化自前モデル」を中核とした実務基盤の構築フェーズへと踏み出しています。

MUFG–KDDI協業の歴史は、2008年のauじぶん銀行やauカブコム証券(現・三菱UFJ eスマート証券)にさかのぼります。これをPhase 1と位置づけるならば、現在はAI・データ活用の高度化を背景に、より構造的で深い連携を行う「協業2.0」へと進化している段階です。
金融AIで共通して見えてきた制約の一つが、最も価値の高いデータほどAIに使えないというジレンマです。顧客情報や取引履歴など、業務価値の源泉となるデータこそが機密情報であり、クラウドAIに投入できないケースが多く存在します。加えて、日本特有の金融業務・規制・慣行への適応という専門性の壁、そしてモデル更新による挙動変化を許容できないという固定性の要請が、金融AI活用を難しくしています。
これに対しKDDIは、二つの柱で解決を図っています。一つ目は、KDDIデータセンターを活用した安心・安全なオンプレミス相当環境の提供です。機密データを外に出さず、NVIDIA GPU基盤上でAIを稼働させることで、金融機関が求めるガバナンスと性能を両立します。二つ目が、金融特化の自前AI活用です。単一の汎用モデルに依存せず、ELYZA社開発モデルやNemotron、ローカル配置したグローバルモデルなどを用途別に選択・育成するアプローチが取られています。

特徴的なのは、「守り」と「攻め」を分断しないガバナンス思想です。AI禁止や無秩序な実験に陥るのではなく、ELSIの観点でリスクを評価するプライバシーガバナンス・データの民主化を実現するための自律分散・中央統制型データガバナンスを一体で設計し、「どうすれば安全に使えるか」を考える文化が強調されました。
将来的には、2026年4月7日に閣議決定された個人情報保護法改正も追い風となり、データクリーンルームで培ったプライバシーテック(PETs)を活用した金融機関横断のAI学習も視野に入っています。協業2.0の最終像は、KDDIが囲い込む基盤ではなく、金融機関がユースケースを持ち寄り、成果を共有するエコシステムです。
本講演は、金融AIの勝負どころが「どのモデルを使うか」ではなく、「どこで、どう使えるか」にあることを明確に示す内容となりました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

マクニカでは、NVIDIAの一次代理店としての製品提供に留まらず、お客様の課題解決に向けて企画・設計・運用までをワンストップで支援しております。

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