モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法 第1回: 4つの設計ステージ

モジュールを組合わせて構成する利点

DC-DC電源モジュールは、システム設計のプロセス全般を改善し、主に3つの利点をもたらします。

高性能 –  
厳しい負荷要件を持つ今日の電力システムでは、電力を高効率かつ確実に供給することが最重要事項であり、DC-DCモジュールはこれを可能にする実証済みのソリューションです。さまざまなクラスのDC-DCモジュールが利用でき、電力密度、集積度、効率面で多くの利点があります。

モジュールを組合わせることの本質 –  
モジュールを組合わせる設計は、ディスクリートによる設計とは異なり、自在なビルディングブロックを使って複雑な電力システムを構築できます。例えば、Vicor のFactorized Power Architecture™ や従来の中間バスアーキテクチャーなど、分散型電源システムの高度な電力供給アーキテクチャーを手軽に利用することができます。

また、一旦開発されたあとも容易に拡張でき、異なる要件や異なる電力レベルへの対応が可能です。さらに、システム設計の終盤に運用要件の変更が発生しても、計画が完全に狂うことがありません。システム要件の変更に伴い、別のモジュールに置き換えたり、増やしたりすることが可能なためです。

スピード –  
電源モジュールを用いて設計することで、技術的リスクを最小限に抑えながら、設計の構想から最終的な実装までの開発にかかる時間を短縮することができます。

4つの設計ステージ

ステージ 1: 基本システム要件

電源システム設計の第一段階は、システム要件を明らかにすることです。

以下の質問を見て、システムとそのオペレーションについて考えてみましょう。

・電力はどこから供給されるか?
・電力源はどのような特性か?
・給電する負荷のタイプは?
・システムの要件に最も適したアーキテクチャーは?

次に、システムの動作電圧、電流、および電力レベルを表にします。負荷をリストアップして、必要な出力電圧と負荷の電流要件を一覧にします。

また、特殊な機能が必要となる場合について検討するのもいいでしょう。
以下の例では、120Aの電流が必要な1.2Vの負荷があります。その負荷には厳しいレギュレーション要件があり、最大200Aのピーク電流が流れます。2番目の例は、2.2Vの負荷(例えばLEDドライバ)で、電流を制御する必要があります。

ステージ2: システムのアーキテクチャー

電力供給アーキテクチャーを検討し、必要な電源モジュールの選定、および最終決定をします。電源システムのブロック図を作成し、電力源から負荷までの、電力供給アーキテクチャを決定します。まず、システムの出力をリストアップします(図1の右端)。最大の負荷は48V、16Aです。市販の電源モジュールを調べると、どのクラスのモジュールが負荷を供給するのに適しているか決定する上で参考になります。

モジュール要件の確認のため、負荷と推定効率を利用した電源システムの基本的なアーキテクチャー

次に、システムの物理的な制約について考えます。実装に使えるスペースや、絶縁要件を満たすための設計、特殊な電力供給ネットワーク(PDN)のアーキテクチャーを利用できるかなどを検討します。この例では、48Vのバスを使用してPoLに給電するファクトライズド・パワー(Vicorによって生み出されたアーキテクチャー)を示しています。

負荷を配置し、PoLレギュレータと電源モジュールの位置が決まれば、負荷側から電力源に向かって逆に作業を進めていくことができます。各負荷に給電するコンバータのデータシートに記載されている推定効率を使い、前段のコンバータに必要な出力電流要件を算出します。PoLから48Vバスに向かって見ていくと、バスコンバーターから少なくとも9.5Aの電流を供給する必要があることが分かり、電源モジュールを選択する際の条件を効果的に決めることができます。

この設計には調整が必要になるかもしれません。例えば、2.2Vの負荷では、負荷仕様が変更され、必要な電流が2倍になる可能性があります。これはモジュールを組合わせる設計アプローチで簡単に解決できます。新しい設計要件を満たすには、電圧変換のモジュールを2つにするだけです。システム設計全体については、必要に応じて前段のバスコンバーターの推定効率と負荷要件を調整します。

ステージ3: 実装

最終的なシステムの統合に必要なモジュール構成と外部回路が、このプロセスで確定します。単体のモジュールまたはモジュール群は、それ自体は完全な電源システムではありません。電力源から負荷までを繋ぐにあたって、様々な課題に対処することになります。

・EMI規格に準拠するためには、追加のフィルターが必要
・モジュールの保護機能は対象範囲が狭く、モジュール自体に限定されていることが多い
・電力源と負荷の特性により、デカップリングが必要になる
・信頼性の高いアプリケーションのための特殊な負荷や冗長構成
・システムコントローラーの接続と電源起動シーケンス

上記の課題への対処が決まれば、設計作業の大部分が完了したようなものです。まず周辺回路の理想的な例を検討することから始めます。単純化のため、周辺回路は単一のDC-DCモジュールの周りに示されています。

DC-DC電源モジュールを用いた完全なシステムを構築するために必要な周辺回路の例

電源モジュールから外側に向かって作業する場合、まず入力側と出力側にフィルタを付けてスイッチングコンバータのノイズ特性を減衰させる必要があります。

次に、システムの安定性を確保するために、電力源と配電線のインピーダンスを解析し、電源モジュール(レギュレータ)を電力源から適切にデカップリングします。動作環境によっては、安全要件を満たすために、サージやスパイクからシステムを保護する追加の回路が必要になるかもしれません。

最後に、特殊な負荷に関する懸念があれば対処法を検討します。

ステージ4: モジュールの制御と監視

設計プロセスの最終段階では、複数のモジュールを配置して動作とコントロール・モニターのためのインターフェイスを調整します。電源モジュールには、モジュールを操作するためのアナログ・インターフェースとデジタル・インターフェースなど、さまざまな信号と低電圧 I/O の機能があります。

一般的な電源モジュールのアナログ・インターフェースには、さまざまな制御機能があります。例えば、出力電圧のトリミングです。場合によっては、外部コントローラーに接続できるイネーブルピンや、フォルトフラグピンを使った基本的なモニタリング機能もあります。内部温度をモニタして温度に対応した電圧を出力する場合もあります。多くの電源モジュールは、デジタルインターフェースである PMBus® に対応しており、出力電圧のトリミング、イネーブル/ディスエーブル制御、その他と、モニタリングとコントロールが可能です。

電流制限のしきい値とフォルト保護の設定ができる場合もあり、アプリケーションのニーズに合わせてモジュールの動作を調整することが可能です。さらに、フォルト状態のフラグにより、低電圧、過電圧、過電流イベントなど、障害の原因を識別する優れた機能も備えたものもあります。レギュレータタイプのモジュールには多くの場合、リモートセンシング機能があり、配電線のインピーダンスによる電圧降下を補正することで、負荷の点で正確に電圧調整することが可能です。

リモートセンシングは、2つのセンス線を負荷端子にケルビン接続することで、負荷の電圧を直接モニタできるため、大電流配電システムで生ずる電圧降下を相殺することができます。

電源モジュールによるアナログおよびデジタルの制御信号

アナログまたはデジタル制御信号のいずれの場合においても、電力回路のグランドと小電力の制御信号用のグランドは、分けることが重要です。小電力の信号がモジュールの電力出力と同じグランドのリターンパスを共有している場合、モジュールのスイッチング動作により発生する高周波ノイズが、寄生成分によって制御信号に結合され、動作が不安定になる可能性があります。信号グランドに電源電流が流れることがないように、信号グランドと電源グランドは一点のみで接続します。

まとめ

今回は、DC-DC電源モジュールを用いたシステム設計の一般的な概要を述べました。

次回以降のチュートリアルシリーズでは、設計の第3ステージにおける主な検討事項をより詳しく説明します。