Texas Instruments社 (以下TI社) のマイコン、C2000シリーズから新製品「TMS320F2800137」が登場しました。C2000シリーズのマイコンは、モーター制御やデジタル電源などリアルタイム制御が重要なアプリケーションへ非常におすすめできるマイコンです。
今回は、C2000シリーズの大きな特長を3つご紹介します。
目次
・1.高速に演算ができるTI社CPUコア C28x
・2.高速で正確なセンシングを実現するADC
・3.柔軟性の高いePWM
・C2000シリーズ新製品
・お問い合わせ
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C2000シリーズの3つの特長
C2000シリーズの動作周波数は40-300 MHz程度で、TI社のC28xコアを搭載し、シングルコア/デュアルコアのラインナップがある、ミドルレンジのマイコンシリーズです。本記事ではC2000シリーズの最上位モデルTMS320F28388Dを例にとり、特長を解説していきます。
1. 高速に演算ができるTI社CPUコア C28x
TMS320F28388DはTI社の32ビットCPUのC28xが搭載されています。また、このC28xにはIEEE 754 倍精度・単精度浮動小数点演算ユニット (FPU64またはFPU32) や三角関数計算ユニット (TMU) などの拡張命令セットが搭載されています。

図1:TMS320F2838xの機能ブロック図
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager datasheet (Rev. D)
高速演算を可能にするTMU
TMS320F28388DのC28xコアにはTMU (Trigonometric Math Unit) という三角関数演算用の拡張命令セットが組み込まれています。FPUのレジスタを使用し、2πの乗算/除算や、sin/cos/sqrtなどの演算を少ない命令数で実行可能な拡張命令セットとなるため、少ないCPUサイクルでの演算が可能です。

表1:TMU拡張命令セットの例
引用:TMS320C28x Extended Instruction Sets Technical Reference Manual (Rev. C)
マルチコアでの演算を実現するCLA
TMS320F28388D ではCPUのC28x以外にCLA (Control Law Accelerator) と呼ばれる、独立した32ビット単精度浮動小数点演算コプロセッサーを搭載しております。CLAはC28xコアとは独立して制御ループの実装が可能で、下図の通り、CLA単体でADCやePWMなどのペリフェラルの制御が可能なコプロセッサーです。C28xコアとCLAで制御プログラムを分けることで、ホストコントロール用のCPUと制御用のCPUを1つのマイコン内に実装することが可能です。

図2:CLAブロック図
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager datasheet (Rev. D)
2.高速で正確なセンシングを実現するADC
C2000シリーズでは、モーター制御やデジタル電源に必須の高速ADCモジュールを搭載しています。
最速で12.5 MSPSの変換速度、12-16 Bitの分解能を持ち、最大4chでの同時サンプリングが可能です。
多くのピンをADC入力に設定可能なSOC
下記の図の通り各ADCモジュールには最大16 chのSOC (start-of-conversions) を搭載しており、各SOCにて入力chの設定が可能となり、多くのピンをADC入力ピンへの割り当てができます。また、各SOCでADC変換開始トリガー、サンプル時間の設定が行えるため、柔軟なADCのタイミング設定が可能になります。

図3:ADC 1モジュールあたりのSOC
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager TRM (Rev. D)
多彩な変換開始トリガー
ADCの変換開始トリガーにはePWMモジュール、CPUタイマー、GPIO、ソフトウェアなどより、選択することができます。
また、下図のようにレジスタを設定することにより、各SOCの変換開始トリガーを設定することができるため、それぞれの制御の合わせた柔軟なシステム設計が可能です。

表2:SOC0の変換開始トリガー設定レジスタ
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager TRM (Rev. D)
3.柔軟性の高いePWM
C2000シリーズには、多くの機能を持ったPWMモジュールであるePWM (Enhanced Pulse Width Modulator) を搭載しています。PWM信号を発生させる機能に加え、数種類のサブモジュールを搭載しており、様々な機能を実現します。搭載しているモジュールは非常に高性能で最大32ch、分解能16ビット (TMS320F2838xの場合) です。
多様な機能を実現するサブモジュール
下図の通りePWMモジュールには数種類のサブモジュールを搭載しており、それぞれのサブモジュールにいくつかの機能があります。ePWMモジュールでは、初めにTime-base (TB) にてePWMモジュールに供給されたクロックからPWM信号を出力し、それぞれのサブモジュールを通し、ePWMピンへと出力されます。
サブモジュールの機能の例として、Dead-Band (DB) では、PWM信号の立ち上がり/立ち下り遅延時間の設定などが可能です。Action-Qualifier (AQ) では他サブモジュールやコンパレーターなどからのイベント (割り込み) にてPWM信号ピンの出力状態をHi/Low/toggleなどに設定することが可能です。

図4:TMS320F2838xに搭載しているePWMサブモジュール
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager TRM (Rev. D)
同期信号でカウンターの同期
PWM信号を生成しているTime-Base (TB) サブモジュールでは、下図のように同期信号 (EPWMxSYNCI) にてPWMカウンター(Time-Baseカウンター)をあらかじめ設定しておいた値に同期し、PWMカウンターが設定したカウンター値 (CMPA,B) となった、カウンターが0になった等のイベントを発生 (Event-Trigger(ET)サブモジュールにイベントを送信) させる機能があります。
この機能により、例えば数chのPWM信号を一度に同期させ、別ePWMモジュールとの信号の同期などの制御が可能になります。

図5:PWM信号同期のタイミングチャート
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager TRM (Rev. D)
コンパレーターとの組み合わせで外付け部品を不要に
ePWMモジュール内Trip-Zone (TZ) サブモジュールの機能で、内蔵コンパレーターなどのイベントから、CPUでの処理を介さずに即座にPWM信号をシャットダウンするなどの処理が可能です。イベント発生からPWMシャットダウンまで非常に高速に行えるので、従来マイコン外部に必要であった、過電流などの異常検知用の部品点数の削減につながります。

図6:Trip-Zoneサブモジュールコントロールロジック
引用:TMS320F2838x Real-Time Microcontrollers With Connectivity Manager TRM (Rev. D)
C2000シリーズラインナップ
新製品以外にもC2000シリーズにはさまざまなラインナップがあります。Piccoloがシングルコアのシリーズ、Delfinoがデュアルコアとシングルコアのラインナップがある製品です。

図7:C2000シリーズラインナップ
C2000シリーズ新製品「TMS320F2800137」
C2000シリーズの新製品「TMS320F2800137」の特長は、非常にコストパフォーマンスが良いという点です。
最大動作周波数120 MHz、PWM出力最大14 ch、ADC分解能12 bit・4 MSPSと上位のモデルにも引けを取らない性能の製品で、他のシングルコア製品とピン互換、ソフト互換のパッケージのラインナップがあります。
本製品の詳細については、C2000製品ページ内の新製品欄をご覧ください。
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