日頃、オフィスや家庭内で何気なく使用しているPCや家電は、Ethernetでネットワークに接続され、膨大な情報のやり取りをしています。データ量の増加に伴い、通信の高速化・通信経路の効率化を図り、万が一衝突した場合も再送をする、そういった仕組みがあるからこそ、Ethernetは一般的に広まったといえます。
一方、ファクトリーオートメーションの現場では、ネットワークに接続される機器が膨大であること、情報の伝達が確実でリアルタイムであることなど、一般的なネットワークとは異なる条件が求められます。そんな条件を満たす産業用オープンネットワーク ”EtherCAT®”について、どのような規格なのか、Ethernetとはどこが違うのかなど、皆さんが疑問に思われる点を解説します。
EtherCAT®ってなに?
EtherCAT®とは、Ethernetと互換性のある産業用オープンフィールドネットワーク規格の一つで、ドイツの企業 ベッコフオートメーションが提唱しています。主な特徴は、高精度な同期制御を実現可能(機器間で1usの同期が可能)で、さらに二重化が可能(通信経路やスレーブ障害によるネットワーク全体のダウンを防止)です。
EtherCAT®が使用されるアプリケーション
実際にどのようなアプリケーションでEtherCAT®が使用されているのでしょうか。
FA(ファクトリーオートメーション)では、工場のラインに設置されているセンサーやカメラ、モーター、入出力(I/O)機器、それらを束ねるコントローラーなど、さまざまな機器が接続されています。その機器同士を接続し、産業用の条件を満たした通信をするのがEtherCAT®です。
EtherCAT®とEthernetの違い
一般に広く使われるEthernetとはどこが違うのでしょうか。実際に設計する際に考慮すべきいくつかのポイントを、表で比較してみます。
比較項目 |
Ethernet |
EtherCAT® |
物理層のハードウェア構成 | 同じ(MCU-EthernetPHY-Pulse Trans-RJ45) | |
物理層デバイス(Ethernet PHY)の産業用対応 | 不要 | 要耐環境性 高ESD保護、 高動作温度範囲 (-40℃~85℃) |
ネットワーク層より上位層 | TCP/IPプロトコル UDP/IPプロトコル | Industrial Ethernetプロトコル |
最大接続数 | 上限なし | 上限あり(65535台) |
EtherCAT®はFAでの使用が求められるため、物理層のPHYデバイスに耐環境性が問われますが、ハードウェア構成はEthernetと同じです。
通信におけるソフトウェア処理ではイーサネットフレームを使用しますが、TCP/IPプロトコル処理はせず、独自プロトコルにより高速な処理を行います。Industrial Ethernetプロトコルはハンドシェイクによる機器同士の送受信確認がなく、これにより高速応答性を実現しています。
EtherCAT®のシステム構成と実際の動作
EtherCAT®を使用する場合のシステム構成と通信の動作を見ていきましょう。
システムはMasterとSlaveで構成され、以下の各接続が可能です。
- デイジーチェーン
- スター型
- リング型
下図はデイジーチェーン接続を表しています。こちらで実際の動作をご紹介します。
- Masterから送信されたフレームが、各Slaveを通過
イーサネットフレームはMasterから送信され、順番に全てのSlaveを通過して再びMasterへ戻ってきます。 - 1 の際に、フレームに各ノードで送信データの書込み
EtherCAT®で使用されるイーサネットフレームのデータ部には、各Slave毎に出力/入力データビットが与えられています。また各Slaveは自分に与えられたビット位置・幅も把握しているので、そちらに送信データを書き込みます。 - 2 の後に、フレームから各ノードで受信データの読み込み
送信データの書き込みが完了したら、各Slaveは受信データを読み込みます。
このような通信方式で、高速性とリアルタイム性を実現しています。
耐環境性に優れたTexas Instruments社製品 Ethernet PHY DP83822
FAで使用されるPHYには、前述のとおり、耐環境(広範囲な温度)、耐性電気など(ESD保護)、堅牢さが求められます。これらを満たすTexas Instruments社(以下TI社)製品 Ethernet PHY DP83822の特徴をご紹介します。
Ethernet PHY DP83822の特徴
- 静電気放電(HBM):±16kV以上
- 静電気放電保護性能:±8kV以上(IEC61000-4-2準拠)
- 対応温度範囲:-40~125℃、-40~85℃
- リンクロスリアクション時間:10µs未満(CAT向け)/250us(Net向け) 各種設定が可能
- 小パッケージ:32pin VQFN(5.0mm x 5.0mm)
本製品を搭載した評価ボードや、EtherCAT®リファレンスボードをご用意しております。ぜひご活用ください。
DP83822シリーズ一覧
DP83822I ※対応温度範囲:-40~85℃
DP83822H ※対応温度範囲:-40~125℃
DP83822 EVM
DP83822搭載 EtherCAT® リファレンスボード
産業用プロトコル対応!Texas Instruments社製品 Sitaraシリーズ
TIのSitaraプロセッサーファミリーに内部の”PRU-ICSS”にプロトコルスタックを導入することで、産業ネットワーク(EtherCAT, EthernetIP, Profinet など)に応じた機能を内蔵できるため、ソフトウェアの入れ替えによってさまざまな産業ネットワークのスレーブ機器に対応できます。そうすることで、外付けに専用のASICやFPGAを必要としないので部品点数削減に繋がります。また、システムコストの最適化や同じプラットフォームで複数のプロトコル対応をサポートすることができるため、開発コストも削減することが可能です。
Sitara製品ラインナップ
シリーズ名 | AM24x | AM64x | AM57x | AM437x | AM335x |
特長 | ギガビット産業通信対応 マイコン |
ギガビット産業通信対応 プロセッサー |
高性能マルチコア プロセッサー |
Video入力サポート プロセッサー |
最も汎用性の高い プロセッサー |
産業通信 (EtherCAT, EthernetIP, Profinet など) |
2つのプロトコルを同時処理 |
1つのプロトコルを処理 | |||
Processing | Cortex®-R5F@0.8GHz x4 (Max5120DMIPS) |
Cortex®-A53@1GHz x2 (Max6000DMIPS) Cortex®-R5F@0.8GHz x4 (Max5120DMIPS) |
Cortex®-A15@1.5GHzx2 (Max10500DMIPS) DSP(C66x@750MHz)x2 |
Cortex®-A9@1GHz (Max2500DMIPS) |
Cortex®-A8@1GHz (Max2000DMIPS) |
Graphics |
- |
- |
2xSGX5443D, GC3202D, IVAHDVideoAccelerator |
SGX530 | |
メモリー | DDR4/LPDDR4 | DDR3(L) | LPDDR2/DDR3(L) | LPDDR1/DDR2/DDR3(L) | |
ペリフェラル | USB3.0 10/100/1000EMACx2 OSPI, PCIe |
USB3.0 ディスプレイサブシステム (HDMI,3系統LCD出力) Video入出力 10/100/1000EMACx2 QSPI, SATA, PCIe |
USB2.0 ディスプレイサブシステム Video入力 10/100/1000EMACx2 QSPI |
USB2.0 LCDコントローラー 10/100/1000EMACx2 |
|
PMIC | LP87334D | TPS65220 | TPS659037 TPS65916 LP8732+LP8733 |
TPS65218 | TPS65910A/A3 TPS65217 TPS650250 TPS65218 |
産業ネットワークをすぐに試せる評価環境
TI社から提供されている評価ボードを使用することで、すぐに産業ネットワークを評価することが可能です
Sitara AM64x Arm® Cortex®-A53 プロセッサー・ファミリーの中で、特に産業用通信システム向けに設計された開発プラットフォームです。
最後に
EtherCAT®について概要をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。産業用ネットワークの開発が加速している中でEtherCAT®の存在感は益々増しています。ぜひご開発の参考にしてください。さらにファクトリー・オートメーションに関する情報を知りたい方は以下のページをご覧ください。
ファクトリー・オートメーション
http://www.tij.co.jp/ja-jp/applications/industrial/factory-automation/overview.html
掲載アプリケーション
自動機器 / フィールド・アクチュエーター / フィールド・トランスミッター / プログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC) / ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI) / 産業用ロボット / ロジスティクス・ロボット / マシン・ビジョン
お問い合わせはこちら
本記事でご紹介したEthernet PHY DP83822や、その他産業用ネットワークに関するTIの製品について詳細な情報をお求めの方は、是非こちらからお問い合わせください。
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DP83822 EVM
※以下はいずれも1個単位から購入できますが、フルリールの個数が異なるため別の型番となっています。
製品のスペックに差異はありません。
DP83822IRHBR 対応温度範囲:-40~85℃ (リール をすべて購入するには、3000 の倍数で注文してください)
DP83822IRHBT 対応温度範囲:-40~85℃ (リール をすべて購入するには、250 の倍数で注文してください)
DP83822HRHBR 対応温度範囲:-40~125℃ (リール をすべて購入するには、3000 の倍数で注文してください)
DP83822HRHBT 対応温度範囲:-40~125℃(リール をすべて購入するには、250 の倍数で注文してください)