超低消費電力の実現
Semtech社LTE Cat-M1モジュール:HL7800では、Altair Semiconductor社ALT1250 Chipsetを採用しており、競合モジュールと比較して最大で約1/10の消費電力(※1)を実現します。
今回は実網での消費電流測定とeDRX時消費電流波形の分析をおこないます。
(※1):eDRX cycle=20.48[sec]実行時におけるTypical値で比較
eDRXとは

eDRX(extended Dicontinuous Reception)は、IoT通信規格LPWAにおける通信技術の1種で、LTE Category-M1やLTE NB-IoTにて動作します。
従来、省電力化を図るために3gpp Release-8でPDDCHの信号を間欠受信するDRX(Discontinuous Reception)という技術が規定され、これにより受信していない期間ではRF機能を停止させてスリープ状態にすることで消費電力を抑えることが可能になります。DRX Cycleは従来最大2.56sでしたが、eDRXではこれが拡張され、RRC_CONNECTEDでは最大10.24[sec]、RRC_IDLEではCat.M1: 最大43.96分、NB-IoT: 175分まで伸ばすことが可能で、受信以外の無通信期間を拡張することにより従来のスタンバイ状態における消費電力を格段に抑えることが可能です。
昨今増加するIoT機器は、一般的にスマートフォンのような『いつでも』『大容量』『無制限』というユースケースは少なく、1日1回のセンシングやKeep Aliveといった形で、通信頻度は比較的少ない傾向に有ります。その一方で、Cellular通信に伴うバッテリー増加が課題となっておりました。
今回のeDRX技術はこのようなIoT機器に対し効果的となり、小容量のデータ通信であればバッテリー○○年駆動可能とうたわれております。
測定環境

下記環境で消費電流測定を実施いたします。
*HL7800 Development Kit ※弊社より御紹介可能です。
*安定化電源兼電流計:OTII
*キャリア:Docomo網
*動作環境:弊社オフィス(20℃/60%)
【手順】
①:近隣基地局とのNetwork Attachを確認
②:eDRX=81.92[sec]を端末側で設定
③:パラメータ②が基地局側で受理されていることを確認
④:端末をeDRX/Hibernateモードに遷移
⑤:波形観測実施
測定結果


eDRX動作時・消費電流測定結果を示します。
今回は最も低消費状態となりますeDRX/Hibernate Cycle=81.92[sec](現時点でのキャリア設定可能最大DRX周期)で確認をおこない、eDRX 10-Cycle分の平均値を比較します。
結果、左図HL7800: Hardware仕様書記載規定値に対し、規定値よりも低い消費電流値となりました。
電流波形分析

eDRX時における端末動作について、測定した消費電流波形を基に分析します。
今回は【A】ブロック、【B】ブロックにおける各挙動を参照します。
【A】ブロック

上記はeDRX ON~約15分後までの消費電流波形を示します。
各タイミングにおける処理を、HL7800ー基地局間通信パケットlogを用いて紹介します。
[a]:
近隣基地局とのNetwork Attachです。端末側との認証完了や位置情報登録などをおこないますが、eDRX各種パラメーター(T3412、extended-DRX valueなど)もこの処理で通知/登録をおこないます。
- T3412:位置登録情報エリアの更新Timer。Expire時にTAU(Tracking Area Update)が実施
- extended-DRX value:DRX Paging周期。図の場合、81.92[sec]で登録
[b]:
eDRXモードに遷移後、無通信状態がある一定期間を超えると『RRC Connection Release』が実施されます。RRC Connection Releaseまでの期間はキャリア側で制定され、[a]同様にNetwork Attach時に端末側へ通知されます。
RRC Connection Release後、Network側でeDRX処理をおこなうためのInitializeが実施されます。キャリアにもよりますがInitialize処理期間は約10分間となり、この間[a]で通知されたextended-DRX valueとは異なる周期でPaging処理が不定期に実施されますが、eDRX安定動作に必要な処理ですので、継続してNetwork Attach状態を保持します。
[c]:
eDRX Initialize後、[a]で設定したeDRX周期でPagingが開始され、端末側は低消費電力状態に遷移します。
【B】ブロック

左図はTracking Area Update処理の約5分前までの消費電流波形を示します。
[d]:
Tracking Area Updateが実施され再度端末側の位置情報登録を通知します。
[e]:
Tracking Area Update実施後、再びeDRX Initialize処理が開始し、その後安定動作を繰り返す挙動となります。
まとめ
本記事では、Semtech社LTE Cat-M1モジュール:HL7800のeDRX時の消費電力測定を実施しました。その結果、実網環境下においてHardware仕様書以下の消費電力を再現することを確認いたしました。合わせてeDRX時における端末側制御を波形からご紹介しました。
今後、eDRX周期については理論値レベルまでキャリア側で順次対応されていく予定となります。対応後はさらなる低消費化が期待され、あらためてご紹介させていただきます。
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