近年の電源設計は、単純な性能向上ではなく「複数要求の同時達成」が求められる領域へと変化しています。
具体的には、以下のような要求が同時に課されます。
・高効率化(エネルギー変換時の損失低減)
・小型化(部品点数・サイズ削減)
・低待機電力(スタンバイ時の消費電力抑制)
・EMI対策(電磁ノイズ規制への適合)
・熱設計(温度上昇の抑制)
これらは独立した要素ではなく、互いにトレードオフ(片方を良くすると他方が悪化)する関係にあります。そのため設計現場では、回路の複雑化や度重なる再評価が避けられず、「後工程での手戻り」が発生しやすくなっています。
こうした背景のなかで注目されているのが、単なる高性能デバイスではなく「設計全体を簡素化できる統合ソリューション」です。その代表例が、Renesas製GaN SiP製品群です。本稿では、このGaN SiPの技術的本質と、設計への具体的な価値について詳しく解説します。
Renesas製GaN SiP(RRW221xx/2111x)シリーズの技術的特長を、データシートをもとに掘り下げ、その本質的な価値を明らかにします。
下記がそのラインアップです。
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型番 |
出力 |
Rds(on) |
SW周波数 |
特長 |
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25 / 45 / 65W |
480 / 240 / 150mΩ |
~79kHz |
PSR(低コスト、省スペース) |
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45 / 65 / 100W |
480 / 240 / 150mΩ |
~270kHz |
SSR(標準) |
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45 / 65 / 100W |
480 / 240 / 150mΩ |
~270kHz |
基本同上 ASU機能有、CFGピン有 |
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45 / 65 / 100W |
480 / 240 / 150mΩ |
~270kHz |
基本同上 ASU機能有、ZSP対応 |
*ASU :Active Start Up
*ZSP:Zero Standby Power
*PSR:Primary Side Regulation(1次側制御)
*SSR:Secondary Side Regulation(2次側制御)
GaN SiPとは何か
GaN SiP(Gallium Nitride System in Package:窒化ガリウムを用いた複合パッケージ)は、以下を1パッケージに統合したデバイスです。
・GaN HEMT(窒化ガリウム電界効果トランジスタ:高速・低損失のスイッチング素子)
・ドライバー回路(スイッチを駆動する回路)
・デジタル制御IC(電源動作を制御する集積回路)
従来はこれらを個別に設計していましたが、SiPでは最適化された状態で1パッケージに統合されています。
これにより設計者は、「どう駆動するか」ではなく「どう使うか」に集中できます。
【図:GaN SiP(RRW221xx)内部構成ブロック図】
出典:https://www.renesas.com/ja/document/dst/rrw2211x-datasheet?r=25611341
マルチモード制御がもたらす価値
RRW221xシリーズの中核にあるのがMMC(Multi Mode Control)です。
PWM・PFM・Burstを統合的に制御することで、負荷状況に応じてスイッチング周波数と電流を最適化します。
これは単なる PWM/PFM/Burst等の動作モード 切り替えではなく、負荷と入出力条件に応じて最適モードへ自動遷移し、さらに共振時に発生するVdsの最下点でスイッチング(valley turn-on) を維持する制御です。
そのため、一般的な強制PWMのように軽負荷時の損失を引きずらず、単純なPFMのように可聴帯へ落ち込む問題も DPWM※ で回避しやすく、Burst 制御への依存を抑えることで軽負荷制御よりもノイズ・EMI・待機電力をバランス良く最適化できます。さらに RRW2211x ではこの制御が 次で説明する zero standby power 実現にもつながっています。
*Deep-PWM:軽負荷になり周波数が可聴域に近づくと約28kHzの固定周波数を維持して可聴ノイズを回避
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負荷状態 |
動作モード |
特長 |
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重負荷 |
PWM |
一定周波数・オン時間制御 |
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中負荷 |
PFM |
ピーク電流固定・周波数制御 |
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軽負荷(可聴域付近) |
Deep PWM (DPWM) |
周波数固定で可聴ノイズ回避 |
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極軽負荷 |
Burst Mode |
間欠動作で待機電力最小化 |
ゼロスタンバイ技術ZSP(Zero Standby Power)の実装
RRW2211xでは、スタンバイ電力を5mW未満に抑える独自の制御が実装されています。
例としてUSB Power Deliveryのケーブルが抜かれ、負荷未接続時となった場合、二次側制御IC(iW780等)と連携し、ほぼ全ての機能ブロックを停止しながらスリープ状態へ移行します。
ただし完全停止ではなく、ごく低周波で監視を続けるため、負荷接続時の応答遅れを最小化しています。
これにより、待機消費電力の抑制を実現しているのです。
Active Startupについて
RRW2210xとRRW2211xにはASU(Active Start Up)ピンが存在します。
これは起動時と定常時の電源供給経路を分離する仕組みです。下記1次側制御回路例におけるVCCからHVラインの間にデプレッション型NFETを追加して実現します。デプレッション型のNFETとはVgs(ゲートソース間電圧)が0Vでもオン状態であるFETのことです。
動作は以下の通りです。
- 起動時:高電圧ラインから抵抗を介して電力供給、IC起動
- 定常時:デプレッションNFETをオフにして補助巻線から供給に切り替え
これにより、
・高速起動(FETに繋がる直列抵抗次第)
・定常時は低損失
という両立が可能になります。
【図:1次側回路図例】
V_SENSEによる多機能センシング
本シリーズの特長的な機能として、V_SENSEピンの高度な活用が挙げられます。
このピンは単なる出力電圧検出ではなく、補助巻線を通じて入力電圧や共振状態まで検出できます。
つまり1ピンで
・出力電圧検出
・バレー検出(スイッチング最適化)
・入力電圧推定(ブラウンアウト検出)
を実現しており、周辺回路削減にも貢献しています。
GaN特性を最大限引き出すゲートドライブ
GaNの特長は高速スイッチングですが、同時に課題も持ちます。
その課題は高速な電子移動度により電流・電圧変化が大きくなり、寄生成分によるノイズや誤動作を引き起こす可能性が出てくることです。
Renesas製GaN-SiP製品では、それらを解決するための設計がなされています。
・ゲートドライブ端子とゲート端子がIC外配線による外付け抵抗での微調整
(下記回路図上 DRV-GATEピン間にある抵抗で調整)
・CFGピンによる内部プルアップ抵抗調整(RRW2210xのみ)
これらはいずれも、GaN-FETのゲートをドライブするための電流値を調整しているということです。
ゲートに流す電流値を内部抵抗または外部抵抗で変更することで、ゲートに電荷が貯まる時間が変わり、結果としてスイッチングの立ち上がり・立ち下り時間を調整できます。
またRRW2210xに関しては下記回路図上CS/CFGピンにより内部抵抗を調整できることもできますが、自動で内部抵抗値を制御してくれる機能を付けることも可能です。
これらのゲートドライブ制御の柔軟性により、高速動作とEMI抑制を両立できるようにしています。
PSRとSSRの違い
Renesas製GaN-SiPでは2つの制御方式を提供します。
PSR(Primary Side Regulation:一次側制御)
・フォトカプラ、シャントレギュレーター不要
・シンプルな回路
SSR(Secondary Side Regulation:二次側制御)
・高精度制御
・高速応答
・PSRより高い周波数により小型高容量に対応
PSRは一次側の情報から出力を推定して制御する方式で、部品点数を抑えやすく、低コスト・小型化に向きます。一方で、出力を直接監視するSSRに比べると、精度や負荷変動への応答は限定的です。
そのためPSRは、家電、小型産業機器、IoT機器など、低容量でコストや実装面積を重視する用途に適しています。
一方、SSRは二次側で出力電圧・電流を直接監視して制御するため、高精度かつ高速応答が可能です。高周波動作により小型化や高容量化にも有利です。
そのためSSRは、TV、大型家電、急速充電器、通信機器など、高効率・小型化が求められる用途に適しています。
【図:PSR(左) vs SSR(右)構成比較図】
左図出典:PSR(左)EBC10298_RRW21111+IW673_65W Adapter Design V1.0.pdf
配布元:
EBC10298 - 65W、24V 一次側制御(PSR)方式 GaN SiP評価ボード | Renesas ルネサスのドキュメント「EBC10298 65W Adapter Design Files」
右図出展:SSR(右)EBC10320_RRW22101+RRW43010_100W 1124 Adapter Design V1.pdf
配布元:
EBC10320 - 100W、24V 二次側制御(SSR) GaN-SiP 評価ボード | Renesas ルネサスのドキュメント「EBC10320 100W Adapter Design Files」
まとめ:GaNは「性能」から「設計ツール」へ
GaN SiPの価値は単なる小型、高効率ではありません。
むしろ本質は、
設計プロセス全体の負担を減らすことです。
実際の設計現場視点では、特に以下のようなメリットが期待できます。
設計段階
・パラメーター調整が柔軟になる
・回路設計がシンプルになる
評価段階
・EMI試験の手戻りが減る
・温度評価が安定する
量産段階
・動作ばらつきが抑えられる
・品質トラブルが減る
これらが組み合わさることで、設計者はより本質的な検討に集中できます。これからの電源設計では、「GaNを使うべきか」ではなく「どのGaNなら設計が楽になるか」が重要な判断軸になります。
その有力な選択肢が、GaN SiPです。