はじめにーHW-LLCが注目される理由
電源設計には小型化・高効率化・低コスト化といった多くの悩みが付き物です。しかし、設計や量産で無理はしたくありません。こうした開発現場の要求に対する選択肢として、いま注目されているのが「HW-LLC」です。
※HW(Half Wave:半波整流の意)
※LLC(コイル2つ+コンデンサー1つで構成される共振回路方式)
まだ誰もが当たり前に採用している方式ではないかもしれません。けれど、だからこそ面白い選択肢です。既存のやり方をそのまま延長するだけでは届きにくい領域に対して、もう一段、設計を前に進める余地があります。
また、HW-LLCが注目されているのは、単なる新しい回路方式だからではありません。
・広い入力/出力レンジを狙いやすい
・部品コストを抑えやすい
・エネルギーの流し方そのものを効率の良い方向に整えやすい
・スイッチや熱の扱いを楽にしやすい
これらの特長により、製品としてのまとまりを作りやすい点にあります。
RenesasのHW-LLCソリューション
Renesasが提供する主要デバイスは、以下の通りです。型番とIC種別を並べることで、ソリューション全体の役割分担が見えやすくなります。
・「RRW11011」:インターリーブPFC+HW-LLC対応の一次側デジタルコントローラー
・「RRW40120」:600V耐圧ハーフブリッジゲートドライバー
・「RRW43110」:同期整流(SR)コントローラー
・「RRW30120」:USB PD 3.2 EPRコントローラー
中核となるのはRRW11011です。ここにRRW40120、RRW43110、RRW30120が組み合わさることで、240WクラスのUSB PD EPRから500WクラスのAC-DC電源まで、かなり具体的な電源像が見えてきます。
図1左:240W USB PD 3.2 EPR評価ボードEBC10293 図1右:EBC10293 Evaluation Board
出典:https://www.renesas.com/ja/design-resources/boards-kits/ebc10293 出典:EBC10293 Evaluation Board Quick Start Guide P2
こちらは240W出力HW-LLCトポロジーの評価ボード「EBC10293」です。EBC10293は、RRW11011 を中核とする HW-LLC/PFCコンボ制御 を採用し、AC入力からUSB-C Power Delivery出力までを想定した240W級のHW-LLC USB PD 3.2評価ボード です。GaNベースのスイッチングデバイスとPD 3.2コントローラーを組み合わせることで、5V~48Vの可変出力 に対応し、EPRクラスのUSB-C®評価に向けたコンパクトで高出力のプラットフォームを提供します。
HW-LLCの特長
特長① 高効率だけではない“総合力”
電源設計では、単に「効率が高い」だけでは採用理由になりません。出力条件の幅、基板への収まり、熱、部品点数、開発工数、EMI、量産時の扱いやすさまで含めて、はじめて“強い設計”になります。
HW-LLCが面白いのは、その総合点で勝負しやすいところです。広い入力/出力条件に対応しやすく、ソフトスイッチングによりノイズも抑えやすいです。さらに、部品構成を軽くしやすいため、性能とコストのバランスも取りやすくなります。つまり、「性能が良いけれど製品にしにくい」でもなく、「部品は少ないけれど性能が物足りない」でもない、その中間を狙いやすい「バランスの良い方式」と言えます。
図2:左:Full-Wave LLC回路構成/右:Half-Wave LLC回路構成
設計者にとってこれはかなり大きい意味があります。なぜなら、後工程で苦しくなる設計は、最初の回路の段階ですでに種をまいていることが多いからです。HW-LLCは、その種を減らしやすい構成として見ることができます。
特長➁ 高効率のカギはエネルギーの”流し方”
HW-LLCの価値を一言で言えば、エネルギーの流し方が上手いことです。電力変換では、エネルギーそのものの量が多いから損失が増えるというより、不要な循環や、必要以上のピーク電流や実効電流を流してしまうことで損失が増えるケースが少なくありません。つまり、重要なのは「どれだけためるか」より、「どう流すか」です。
HW-LLCは、入力から出力へ比較的ダイレクトにエネルギーを伝えられる区間を持ちやすい構成として理解できます。そのため、いったん蓄えたエネルギーをただ往復させるのではなく、必要なタイミングでより素直に出力側へ渡しやすくなっています。その結果、一次側の無駄な循環や、二次側の不要なピーク/RMS電流を抑えやすくなります。
図3:スイッチングタイミングと各主要ノードの電圧と電流
この考え方は、設計者にとってはとても実務的です。高効率化の本質を「部品をもっと高性能にすること」ではなく、「エネルギーの通り道そのものを整えること」と捉え直せるからです。
特長➂ZVS/ZCSが設計を楽にする
3つ目の特長は、波形面でも安全側に寄せやすい点です。一次側では、ハイサイド/ローサイドの両スイッチでゼロ電圧ターンオン(ZVS)を狙いやすく、二次側の同期整流(SR)では、ゼロ電流ターンオフ(ZCS)に寄せやすい構成です。この特長は、単にスイッチング損失を減らすだけではなく、熱・ノイズ・ストレスといった全体像を整えやすいという意味を持ちます。
実際、ZVSやZCSが取りやすいと、発熱を抑えやすくなり、EMIも扱いやすくなります。さらに、デバイスのマージンも見やすくなります。つまり、「あとから苦しくなりにくい設計」に近づけることができます。
ハーフブリッジ構成によってスイッチの電圧・電流ストレスを下げやすい点、熱ストレスの偏りを抑えやすい点も含めると、HW-LLCは単に高効率なだけでなく、「きれいにまとめやすい方式」として捉えることができます。
特長➃比較すると分かるHW-LLCの魅力
HW-LLCの良さを直感的に理解するうえで、比較対象としてわかりやすいのがAHB-Flybackです。
Flyback系はシンプルでわかりやすく、長く使われてきた構成です。一方で、出力レンジや効率、小型化を強く求められる場面では、限界が見えやすい側面もあります。
その点、HW-LLCは
・低負荷から高負荷まで効率を取りやすい
・入力電流リップルを抑えやすい
・スイッチストレスを下げやすい
といった特長を持っています。
つまり、単体の電源効率だけではなく、「電源全体をきれいにまとめる力」で差が出やすい方式です。
図4:HW-LLCとAHB-Flyback 波形比較
出典:ルネサスエレクトロニクス「HIGH-POWER DENSITY AC/DC FOR 240W USB CHARGING」P14
図4はHW-LLCとAHB-Flybackの波形を比較した図です。横に並べてみると、どちらも非常に似た回路に見えますが、動作のコンセプトは異なります。
AHB-Flybackは、エネルギーを一旦蓄えてから出力側へ渡す、わかりやすい構成の方式です。一方、HW-LLCは入力側から出力側へ比較的ダイレクトにエネルギーが伝わる区間を持ちやすい構成です。その結果、回路内のピーク電流や不要な循環を抑えやすく、損失やEMIの低減に寄与しやすい構成として捉えられます。
設計者にとって本当に嬉しいのはここです。
・あとでEMIや熱で苦労しにくい
・デバイス選定が破綻しにくい
・入力条件の変化にも耐えやすい
こうした「設計の余裕」を持ちやすい点が、AHB-Flybackと比べたときのHW-LLCの魅力です。
特長⑤500W以下で真価を発揮
HW-LLCは、「500Wまで対応でき売る方式」という一言では片付きません。むしろ魅力なのは、低めの出力域でも中電力域でも、それぞれに異なる強みを出せることです。
140W以下のレンジでは、より小型・高効率な設計に向いた構成です。高密度化が効くアダプターや小型電源では、このメリットがそのまま製品価値に直結しやすいでしょう。
一方で、240WのUSB PD EPRから500Wクラスでは、広い出力レンジへの対応力と高電力密度の両立がポイントになります。ここでは「高出力を無理なくコンパクトにまとめる」ことがテーマとなります。
図5:HW-LLC評価ボード「EBC10293」
出典:ルネサスエレクトロニクス「RRW11011+RRW40120+RRW43110+RRW30120 FOR 240W PD3.2_EPR DESIGN EBC10293」P6
つまり、HW-LLCは一点突破型の方式ではありません。低出力では小型・高効率化の武器になり、中出力ではレンジ対応力と電力密度の武器になります。この二面性があるからこそ、HW-LLCの検討価値を高めています。
特長⑥開発を後押しするソリューション
どれほどトポロジーが魅力的でも、実際に使える部品が揃っていなければ開発には進めません。RenesasのHW-LLCソリューションは、そこをすでにカバーしています。
PFCとHW-LLCをまとめて扱えるコンボコントローラーを中心に、ハーフブリッジGaNゲートドライバー、同期整流コントローラー、USB PDコントローラーまでつながる構成が見えています。これにより、100Wクラスから500Wクラスまで、具体的電源像が見えてきます。
さらに、EPR対応、広い出力レンジ、高電力密度、高いピーク効率など、製品として刺さる数字まで見えてくることで、設計者の感覚は「面白そう」という段階から「一度本気で見てみよう」という状態に進みやすくなります。
新しい方式を評価するうえで重要なのは、アイデアの面白さだけではありません。「自分の設計に落とし込めるかどうか」です。Renesasのソリューションは、その入り口をかなり具体的に見せてくれます。ここは、開発意欲を引き出すうえで非常に大きいポイントです。
図6:ルネサスエレクトロニクス HW-LLC評価ボード 一覧
出典:ルネサスエレクトロニクス「RRW11011+RRW40120+RRW43110+RRW30120 FOR 240W PD3.2_EPR DESIGN EBC10293」P17
まとめ—HW-LLCは、次の開発テーマに値する現実的な選択肢
Half-Wave LLCは、もはや「珍しい方式」ではありません。
広い入力/出力レンジ、BoMを抑えやすい構成、効率の良いエネルギーの流し方、ZVS/ZCS、スイッチストレス低減、熱の扱いやすさなど、こうした要素が組み合わさることで、HW-LLCは「実用的に強い方式」として見えてきます。
さらに、低出力でも中電力でも、それぞれのレンジで意味のある価値を発揮します。だからこそ、これは単なる知識として知っておく技術ではなく、次の設計テーマとして本気で検討する価値があるトポロジーです。
もし、「もっと小型にしたい」「もっと高効率にしたい」しかし開発全体としては無理をしたくないと考えているなら、HW-LLCは一度しっかり検討する価値があります。そして、その入口としてRenesasのHW-LLCソリューションは、かなり魅力的です。
「やってみる価値がある」ではなく、「次にやる理由がある」―それが、いまのHW-LLCです。