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この記事では、Arm® Cortex®-M85の特長や魅力をわかりやすく解説し、初心者でも簡単に開発をはじめられるセットアップ手順を紹介します。

画像制作者:ルネサスエレクトロニクス株式会社様、制作方法:Microsoft 365 Copilot によるAI作成画像

なぜCortex-M85なのか?

IoTやエッジAIの普及により、マイコンにも従来以上の高性能な演算能力が求められる時代になっています。センサーやカメラから取得した膨大なデータをリアルタイムで処理し、AI推論まで行うには、単なる制御用MCUでは性能が不足します。
従来のCortex-M7などでは、AIや高度なDSP処理を実装する際に限界があり、より高性能なMPUを使う必要がありました。しかし、MPUは消費電力やコストの面で不利な場合が多く、組込み機器への適用には課題が残ります。

こうした背景から、ArmMCUの低消費電力性を維持しつつ、AIや信号処理を高速化できる新しいアーキテクチャーとしてCortex-M85を投入しました。

Cortex-M85とは?

Arm® Cortex®-M85は、Armv8.1-Mアーキテクチャーを採用した高性能マイコンコアです。最大の特長は以下の通りです。

 

 ・業界最高レベルの性能6.39 CoreMark/MHzを達成。Cortex-M7比でML性能4倍、DSP性能3倍。

 ・Helium™ MVE対応:Mプロファイル・ベクトル拡張機能(MVE: M-Profile Vector Extension)により、DSPや機械学習(ML)タスクを高速化。

 ・高度なセキュリティTrustZone®PACBTIによる安全なシステム分離と攻撃防御。

 ・低消費電力設計MCUならではの省電力性を維持しつつ、MPU並みの処理能力を実現。

 

これにより、従来MPUが必要だった画像認識や音声処理などのAIアプリケーションを、低コスト・低消費電力のMCUで実現できます。
 
以下に、Cortex-MシリーズのコアであるCortex-M7Cortex-M55Cortex-M85の比較を示します。

Cortex-M7 / M55 / M85 の比較

Cortex-M7

Cortex-M55

Cortex-M85

アーキテクチャー Arm v7-M Arm v8.1-M Arm v8.1-M
セキュリティ PACBTI
非特権デバッグ拡張 非特権デバッグ拡張
スタック制限チェック スタック制限チェック
TrustZone TrustZone
MPU (PMSAv7) MPU(PMSAv8) MPU (PMSAv8)
パイプライン 6段階の超スカラおよび分岐予測 4段階(主整数パイプライン用) 7段階スカラーパイプラインおよび9~10段階ベクトルおよび浮動小数点パイプライン
Helium(MVE) サポートされていない サポートされている サポートされている
FPU fp32, fp64 fp16, fp32, fp64 fp16, fp32, fp64
FPv5 FPv5 FPv5
MACs per cycle 1 32bx32b 8 8bx8b 8 8bx8b
4 16bx16b 4 16bx16b
2 32bx32b 2 32bx32b
CoreMarks/MHz 5.29 4.4 6.28
DMIPS/MHz 2.31/3.23/6.78 1.69/2.16/5.32 3.13/4.52/8.76

図1. CM85 vs CM7およびCM55のベンチマーク[データソース:Arm]

Helium(MVE)の魅力

Helium(MVE)は、一度の命令でたくさんの計算をまとめて処理できる仕組みです。

従来の演算方法は、「一人で、一つのデータを順番に処理していく」というイメージでしたが、HeliumMVE)による演算では「4人のチームが、一斉に同じ作業を行う」というイメージになります。

以下の図は、従来の演算方式とHeliumMVE)による演算方式の違いを示しています。従来の演算は、スカラ処理で、1つずつ順番に演算を実行しますが、この方式では処理に時間がかかります。HeliumMVE)では、SIMD方式を採用することで、1命令で複数データを並列処理します。よって短時間で演算が完了し、処理効率が大幅に向上します。

図2. 従来の演算方法とHelium(MVE)による演算の比較イメージ

Helium(MVE)を活用することで、AIの学習や推論でよく使う掛け算や加算を高速化できるため、以下のメリットがあります。

 

 ・AI推論の高速化:画像分類や音声認識などのTinyMLタスクを効率化。

 ・DSP処理の強化:フィルタリングや信号処理を高速化。

 ・追加のDSP不要:MCU単体で高負荷演算が可能になり、システムコストを削減。

 

例えば、画像認識なら『ピクセルの値 × フィルター係数』、音声処理なら『信号 × フィルター係数』を同時に計算できるイメージです。

以下の図は、Arm Compiler AC6.16HeliumMVE)を使用した場合と使用しない場合のDSP処理性能を比較しています。
横軸は「正規化された性能」で、MVE未使用を基準(1.0)とし、MVEを使用した場合にどれだけ処理性能が速くなるかを示しています。結果として、CFFT-32では約57%、FIR-32では約64%の性能向上が確認できます。つまり、Heliumを使うことでFFTFIRなどの信号処理がより効率的になります。

図3. Helium(MVE)によるDSP処理の性能向上【データソース:Arm

RA8E1シリーズの概要

Renesas RA8E1は、Cortex-M85を搭載したエントリーモデルで、以下の特長を持ちます。

 ・動作周波数:最大360MHz

 ・メモリー構成:1MBフラッシュ、544KB SRAMTCM含む)

 ・主な周辺機能:EthernetCAN-FDUSB8ビットカメラインターフェース(CEU

 

RA8E1シリーズは、RA8ファミリの中で最もコストパフォーマンスに優れた製品です。評価ボードのFPB-RA8E1は手ごろな価格で提供されているため、はじめてCortex-M85を試したい方に最適です。

はじめてのセットアップ手順

はじめてでも簡単に始められるRA8E1開発の流れを紹介します。

ステップ1:評価ボードを入手

Renesas公式サイトからFPB-RA8E1評価ボードを購入します。USB電源で動作可能なので、家庭用環境でも安心です。

ステップ2:開発環境を準備

評価ボードを入手したら、PC側の開発環境を準備します。以下のインストーラから必要な開発環境はすべてダウンロードできます。

 ・FSPプラットフォームインストーラのダウンロードサイト:Flexible Software Package (FSP) | Renesas ルネサス 
 ※Renesas公式統合開発環境(IDE)の「e² studio」と、マイコンが動作するための各種ドライバーをまとめたソフトウェアパッケージ「Flexible Software PackageFSP)」を、同時にダウンロードできます。

ステップ3:アプリケーションノート「RA8E1 チュートリアル」を参考にBlinkyプロジェクトを動かす

このRA8E1 チュートリアルでは、プロジェクトの作成からコードの追加、ビルド、デバッグまでの流れを、はじめてRA8シリーズを使う方でも迷わず進められるように、順を追って説明しています。主に以下の手順が示されています。

 ・e² studioで新規プロジェクトを作成します。

 ・FSP Configuratorにてクロックや端子、タイマー機能の設定を行います。

 ・main プログラムと割り込み関数のコードを実装し、ビルド、デバッグを行います。

Cortex-M85でできることまとめ

Cortex-M85は、これまでのマイコンの常識を超える高性能と省電力を両立し、AIや高度な信号処理をエッジで実現できる頼もしい選択肢です。
RA8E1
グループは、はじめてでも扱いやすい開発環境と豊富なサンプルが用意されているので、『誰でもできる高性能マイコン開発』をより一層身近にしてくれます。

 

参考リンク:

 ・HeliumおよびARM® Cortex®-M85を活用した、マイクロコントローラーコアにおける前例のないDSPおよびAI性能 | Renesas ルネサス

 ・RA8E1 - HeliumおよびTrustZone搭載360 MHz Arm Cortex-M85ベースのエントリーラインマイクロコントローラ | Renesas ルネサス

 ・RA8E1 - HeliumおよびTrustZone搭載360 MHz Arm Cortex-M85ベースのエントリーラインマイクロコントローラ | Renesas ルネサス

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