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産業用 PC (IPC) を活用した製品セキュリティ設計:なぜ今、IEC 62443-4-2対応・準拠製品の採用が重要なのか

※本記事で扱う「産業用 PC (IPC)」は、現場にそのまま設置する完成品に限らず、Box PC や Embedded PC、CPU モジュールなど、製品に組み込まれる前提の産業向け PC プラットフォームも含みます。

近年、製品にセキュリティ機能を組み込むことは、特定の業界や用途に限られた話ではなくなっています。外部接続を前提とした製品構成が一般化する中で、「最低限のセキュリティ対策を講じたい」という段階を超え、設計初期からセキュリティ要件を前提にした製品づくりが求められるようになっています。一方で、EU Cyber Resilience Act (CRA) に代表されるように、法規制としてセキュリティへの対応が求められるケースもすでに現実のものとなっています。CRA は 2024年12月に発効しており、主な義務は 2027年12月から、脆弱性報告義務は 2026年9月から適用されます。このため、欧州市場を視野に入れるメーカーにとって、セキュリティ対応は「将来の課題」ではなく、いま設計・調達判断に織り込むべき前提条件になりつつあります。

このように現在の製品開発では、
 ・規制対応としてのセキュリティ
 ・製品品質・信頼性の一部としてのセキュリティ
に加えて、
 ・調達要件や顧客説明のためのセキュリティ
という視点も無視できなくなっています。とくに産業分野では、IEC 62443 シリーズへの対応状況や第三者認証の有無が、製品採用やサプライチェーン上の説明責任に影響する場面も増えていくことが考えられます。

製品にセキュリティを組み込む現実:CRA 対応から一般的なセキュリティまで

CRA や IEC62443 といった規格・法規制への対応が注目される一方で、セキュリティの重要性は「規制があるかどうか」だけで決まるものではありません。ただし CRA は、デジタル要素を持つ製品に対して、設計・開発・保守・脆弱性対応まで含めたサイバーセキュリティ要求を課す点で、機器メーカーにとって特に重要です。主な義務は 2027年12月から適用されますが、その時点で対応するのでは遅く、実際には設計・部材選定・評価の段階から準備しておく必要があります。製品ライフサイクル全体を通じた脆弱性対応や、調達コンポーネントを含む説明可能性まで見据えると、セキュリティ対応は個別機能の実装だけではなく、開発プロセス全体の設計課題として捉えるべきテーマになっています。

一方、直接的に CRA のような法規制への対応が求められない製品であっても、顧客・取引先・システムオーナーからの要求によって、セキュリティを無視できないケースは確実に増えています。暗号化、認証、セキュアブート、脆弱性対策といった要素を後付けで補うのではなく、設計段階からどのレイヤーで担保するかを決めておく必要があります。その判断基準として、コンポーネントに求められる技術的セキュリティ要件を整理した IEC62443-4-2 は、規制対応の有無を問わず有効な参照軸になります。

デバイス起点の設計から産業用 PC 起点へ

前述したように、デバイス選定を起点としてセキュリティ対応を積み上げていく設計では、一般的な製品であっても負荷が大きく、CRA 対応を見据えた場合にはその負担はさらに増していきます。
ここで検討すべきなのは、「セキュリティ対応をどう実装するか」ではなく、「どのレイヤーで担保するか」という設計の前提です。

もちろん、チップや SoC を起点にセキュリティ機能を実装していくアプローチ自体が問題だということではありません。製品特性に合わせた最適化や独自要件への対応がしやすく、自社で深く制御したい場合には有効な方法です。そこで有力な選択肢となるのが、産業用 PC を起点に製品セキュリティを考えるというアプローチです。産業用 PC は、SoC 単体ではなく、一定の機能や設計要件を満たした形で提供されるコンポーネントです。このレイヤーを起点にすることで、セキュリティ対応は「後から自前で積み上げるもの」ではなく、選定時の前提条件として扱うことができます。これは、チップベースの設計を否定するものではなく、要件・体制・開発スケジュールに応じて、より効率的に担保できるレイヤーを選ぶという考え方です。

つまり、メーカーはすべてをゼロから設計・検証するのではなく、どこまでを部材側で担保し、どこからを自社製品側で担うかを整理しやすくなります。結果として、開発コストや工数の削減、適合確認に要する時間の短縮、対外説明のしやすさにつながります。こうした観点から次では、IEC62443-4-2 に対応した産業用 PC や組込みモジュールが、どのような観点で位置づけられ、どのような対応状況にあるのかを整理します。また、その情報がなぜ、製品選定時の工数削減、Time to Market 短縮、信頼性向上に結びつくのかもあわせて見ていきます。

IEC62443-4-2 対応産業用 PC の位置づけと対応状況

セキュリティ対応製品情報

こちらは、産業用 PC が、IEC62443-4-2 に対してどのレベルまで対応しているかを整理したセキュリティ対応製品情報です。ベンダー別・製品カテゴリー別に、対応状況を一覧で確認できる形になっています。

IEC62443-4-2 は、制御システムに組み込まれるコンポーネントに対して、必要なセキュリティ機能要件を定義した国際標準であり、CRA 対応や調達要件と親和性の高い指標として扱われることが増えています。上図の製品情報では、IEC62443-4-2 への対応状況を、Certified(認証取得済み)、準拠・プロセス認証、Ready(準拠可能)、該当品なし・情報なしのステータスで整理しています。この区分を見ることで、どこまでを組込みモジュール側で担保できるか、どこからを自社設計で補う必要があるかを把握することができます。

また、SBC / COM、Box PC / Gateway、PLC、HMI など、複数の製品カテゴリーを俯瞰して確認できるため、設計初期段階から詳細設計、調達検討のフェーズに至るまで、検討ステージを問わず製品選定や判断の材料として活用できる情報となっています。

4-2 認証済み製品を採用する 3つのメリット

① 開発コストと工数の大幅な削減
自社でゼロからセキュリティ機能を設計し、検証し、必要なエビデンスを整備するには大きな負担がかかります。IEC62443-4-2 認証済み、または同等のセキュリティ機能を備えたデバイスを採用することで、その一部をコンポーネント側の実績や評価結果に依拠できるため、上位システム側の設計・検証負荷を抑えやすくなります。

② 市場投入までの期間 (Time to Market) を短縮
CRA などの法規制や顧客要求への適合確認には、専門知識だけでなく時間も必要です。すでに一定の要件を満たしているデバイスを採用しておくことで、後工程での確認や手戻りのリスクを減らし、スピーディーな製品立ち上げにつなげることができます。

③ グローバル市場での信頼性と競争力
IEC62443 は、産業用制御システムのセキュリティに関する国際的な参照軸です。認証済みデバイスを採用していることは、客観的な第三者評価に基づく安全性の裏付けとして、顧客説明や差別化に有効です。海外市場や大手顧客ほど、こうした説明可能性は競争力の一部になります。

まとめ:部品選定段階から考えるべき製品セキュリティ設計

製品にセキュリティを組み込むことは、CRA のような法規制への対応が求められる場合に限らず、現在の製品開発において避けて通れないテーマになっています。一方で、その担保の仕方は一つではありません。チップや SoC を起点に自社で丁寧に作り込む方法もあれば、一定の要件を満たした IPC や組込みモジュールを活用する方法もあります。重要なのは、どちらが絶対的に優れているかではなく、自社製品の要件、開発体制、説明責任、そして市場投入までの時間を踏まえて、どのレイヤーで担保するのが最も合理的かを見極めることです。

こうした背景を踏まえると、製品セキュリティを 「どう実装するか」ではなく、「どこで担保するか」という視点で捉え直すことが重要になります。IEC62443-4-2 対応状況が整理された産業用PC は、その判断をおこなうための一つの材料です。デバイス選定段階からこうした情報を確認しておくことで、後工程の工数や説明負荷を見据えた製品のセキュリティ設計を検討することができます。

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