【コラム】複数の Ethernet アダプターカードを使って、ST 2110 -30 の Audio 伝送実験をおこなってみました。
1.はじめに
近年、放送・制作業界では、従来の SDI に代わり、IP ベースのメディア伝送技術が急速に普及しています。
その中心となる規格が SMPTE® ST 2110 であり、映像、音声、メタデータなど、様々なメディアを IP ネットワーク上で効率的に伝送することを可能にします。
弊社製品には、オンプレミスやクラウド環境で ST 2110 -20 / -30 / -40 等を利用できるソフトウェア開発キット M2S SDK(Macnica Media Streaming SDK)*1 があります。
本コラムでは、その中でオーディオ伝送の規格である ST 2110 -30 の弊社における伝送実験について述べさせていただきます。なお、ST 2110 -30 は、映像伝送と比較して要求されるネットワーク帯域幅が狭いものの、オーディオミキサー、ルーター、スイッチャーなど、さまざまな機器での利用が期待され始めています。
弊社の M2S SDK は、ST 2110 -20 / -30 / -40 のパケット処理をおこなうために利用する高性能な FPGA 搭載(ハードウェアオフロード対応)の専用ネットワークインターフェースカードだけでなく、ST 2110 -30 のみパケット処理をソフトウェアとの組み合わせでおこなうために利用する、より安価な汎用品の Ethernet アダプターカードにも対応しております。
M2S SDKはお客様の実現されたい機能・性能に応じて、様々なアダプターカードとの組み合わせで利用することができ、また、異なるハードウェア構成でも設計済みのソフトウェア資産をそのまま再利用することができます。
本コラムでは、マクニカ製品である M2S SDK を利用して、オーディオ伝送の規格 ST2110 -30 の伝送実験の概要をご紹介いたします。
*1. M2S SDK(Macnica Media Streaming SDK):オンプレ/クラウド環境で利用する SMPTE ST 2110 対応のソフトウェア開発キット。汎用 Ethernet 対応のため、用途に応じて幅広い利用方法が可能な所、API ベースで容易に開発可能な点が製品の特徴。
2.実験構成
同じ製品・スペックの汎用 PC を 2台用意し、1台目の PC(以下、PC-A)には 1 G の RJ45(LANコネクター) が 2 ポートある汎用Ethernetアダプターカード(以下、汎用Ethernet)を搭載し、2 台目の PC(以下、PC-B)には 10 G の SFP が 2 ポートある NVIDIA® ConnectX® NIC *2(以下、ConnectX)を搭載しました。
また、PC-B はデータストリーミングを最適化できる NVIDIA Rivermax® SDK *3(以下、Rivermax SDK)を利用するのと同時に、簡易的な PTP Grandmaster としての役割を果たすようにする機能を搭載しました。
詳しい PC & NIC 構成内容に関しては、表1 に示します。
表1: PC & NIC 構成概要表
分類 | 項目 | PC-A | PC-B |
PC |
OS |
Ubuntu 22.04 |
|
CPU |
Intel® Core™ i9 13900H |
||
RAM |
32GB(DDR5) |
||
ROM |
1TB(M.2 SSD) |
||
NIC |
搭載 NIC |
汎用 Ethernet |
ConnectX |
速度 |
1 G |
10 G |
|
コネクター |
RJ45 |
SFP |
|
ポート数 |
2 |
2 |
|
パケット送信方法 |
OS 利用 |
Rivermax SDK 利用 |
|
備考 |
|
簡易版 PTP Grandmaster 機能を利用 |
汎用 Ethernet は、価格が手頃で多様な製品ラインナップが販売されているため、コストを抑えつつ、用途に応じた最適な構成を容易に実現できます。
一方で、ConnectX と Rivermax SDK を組み合わせることで、厳密なタイミングおよびトラフィックフローの要件に沿った構成を実現できます。
*2. NVIDIA® ConnectX® NIC:高度なハードウェアオフロードと高速化を実現する NIC
*3. NVIDIA Rivermax® SDK:ネットワーク経由での高帯域幅、低遅延のデータストリーミングを最適化するソフトウェア開発キット
3.実験構成(全体構成)
今回は汎用 Ethernet 搭載の Linux PC 【PC-A】 で Encap をおこなった場合と、NVIDIA 社の ConnectX 搭載の Linux PC 【PC-B】 で ST 2110 -30 の Encap をおこなった場合の比較をおこなっています。
音源は PC で自動生成した音声波形、チャネル数は 16 チャネル、送出パケット間隔は 0.125 ms としました。
また、音声がネットワーク上で正しく伝送されているかを確認するため、SDI で音声を伝送し、SDI 波形モニターに接続されたスピーカーで実際の音も確認しています。
構成全体図を図1、実際の構成図を図2, 3 に示します。

図1:実験構成の全体図

図2:実際の構成画像 ①

図3:実際の構成画像 ②
4.実験の内容
実験①
実験① では、汎用 Ethernet 搭載 PC 【PC-A】 で ST 2110 -30 の Encap をおこないます。(図4 の ① 部分)
Encap された ST 2110 -30 は、ConnectX 搭載 PC 【PC-B】 、SDI / IP Gateway、PRISM の 3 機種それぞれで Decap をおこないます。(図4 の ②-a, -b, -c 部分)
実験① の内容を図4 に示します。

図4:実験 ① の内容
実験② では、ConnectX 搭載 PC 【PC-B】 で ST 2110 -30 の Encap をおこないます。(図5 の ① 部分)
Encap された ST 2110 -30 は、汎用 Ethernet 搭載 PC 【PC-A】 、SDI / IP Gateway、PRISM の 3 機種それぞれで Decap をおこないます。(図5 の ②-a, -b, -c 部分)
実験② の内容を図5 に示します。

図5:実験 ② の内容
5.検証結果
【聴感上の確認】
実際にスピーカーで音を聞いてみましたが、単に音を聞いたレベルでは、実験 ① と ② に差分は認められませんでした。
【パケット間隔の確認】
汎用 Ethernet 搭載 PC 【PC-A】 と ConnectX 搭載 PC 【PC-B】 の違いについて、パケット間隔に着目し、PRISM を用いてパケット間隔を実際に確認しました。
実験① の結果を図6 に示します。
実験① の汎用 Ethernet 搭載 PC 【PC-A】 で Encap されたパケット間隔の平均値は、0.125 ms と正確な値になっています。
しかし、パケット間隔のグラフや最大/最小値を確認すると、約 2.9 μs ~ 19.5 ms の範囲のゆらぎが発生しています。
今回利用した汎用 Ethernet は PTP 対応ですが、OS の機能を利用してパケットを送信しています。
OS の機能では、OS や他のアプリケーションによる負荷と割り込み処理のタイミング等の影響により、パケットの送信タイミングで上述のようなばらつきが発生したと考えています。
そのため、今後はパケットの送信タイミングをより正確におこなえるように、アルゴリズムの最適化をおこなっていきます。

図6:実験① の結果
一方で、実験 ② の結果を図7 に示します。
一方で、実験 ② の ConnectX 側から Encap されたパケット間隔は、平均値が 0.125 ms、値の範囲も約 0.121 ~ 0.129 ms という値になっています。
そのため、最大誤差が約 40 μs でパケットが送信されていました。
ConnectX の場合は、正確な時刻でパケットを送信する機能がある Rivermax SDK を利用できるため、正確な時刻でパケット送信をおこなうことができます。

図7:実験② の結果
6.おわりに
今回は汎用 Ethernet 搭載 PC で ST 2110 -30 の Encap をおこなった場合と、NVIDIA 社の ConnectX 搭載 PC で Encap をおこなった場合で比較してみました。
汎用 Ethernet の場合は、パケット送信の際に約 2.9 μs ~ 19.5 ms の範囲のゆらぎが発生し、正確なタイミングでパケットを送ることができない課題が見受けられました。
汎用 Ethernet のパケット送信は OS の機能を利用していますが、OS や他のアプリケーションによる負荷と割り込み処理のタイミング等の影響により、パケット送信を正確なタイミングで送ることができなかったと考えられます。
今後はパケットの送信タイミングをより正確におこなえるように、アルゴリズムの最適化をおこなっていきます。
ConnectX の場合は、正確な時刻でパケットを送信する機能がある Rivermax SDK を利用できるため、正確な時刻でパケット送信をおこなうことができます。
そのため、パケットの送信タイミングの正確性が厳密に要求されないシステムや、コストを抑えつつ、用途に応じた最適な構成でシステムを構築したい場合は、汎用 Ethernet のご利用が1つの選択肢になり得ると考えております。
一方で、厳密なタイミングおよびトラフィックフローの要件が求められる場合は、ConnectX と Rivermax SDK を組み合わせてシステムを構築されることが、より適切な選択肢と考えております。
なお、マクニカでは、今回ご紹介した M2S SDK 製品以外にも、Media Over IP ソリューションを数多く取り揃えております。
ST 2110 -22(JPEG XS)をはじめ、主要な SMPTE 規格や NMOS 規格対応の100 G SmartNIC の MEP100 があります。
こちらの MEP100 の最大の特徴として、FPGA 内で ST 2110 プロトコル処理をおこなう機能や、DMA コントローラをハードウェアで実装しているため、パケット処理や JPEG XS 変換処理は CPU や GPU 内での処理をおこなうことなく、実現することができます。
そのため、CPU や GPU のリソースは、お客様のアプリケーションに多く割り当てることができます。
Media Over IP にご興味がある方や、相談したいことがある方は、お気軽にお問い合わせください。
追記
2025年4月5~9日にアメリカのラスベガスでおこなわれた NAB Show 2025 にて、弊社 MEP100 が Product of the Year に選出されました!
MEP100 は ST 2110 対応の 100 G Smart NIC で、国内外のデータセンターや放送局をはじめ、多くのお客様にご興味をいただいております。
