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製品開発に役立つモーターの基礎知識:種類・制御方式・選び方のポイント

はじめに:なぜモーターの理解が製品開発に必要なのか?

私たちの身の回りには、目に見えないところで多くのモーターが働いています。家電製品、産業機器、医療機器、自動車、ロボットなど、あらゆる製品において、モーターは「動き」を生み出す中核的な要素です。製品開発においてモーターを選定する場面では、次のような疑問に直面することがよくあります。

「どんな種類のモーターがあるのか?」
「それぞれのモーターはどうやって動くのか?」
「どのモーターが自分たちの製品に適しているのか?」
「モーターを動かすにはどんな制御が必要なのか?」

これらの疑問に答えるには、モーターの種類や構造、制御方式についての基本的な理解が欠かせません。特に、近年はモーターの高効率化や高精度制御が求められる場面が増えており、単に「動けばよい」では済まされないケースも多くなっています。

本記事では、モーター制御に関わる初心者の方が、製品開発の現場で「どのモーターを使うべきか」「どんな制御が必要か」を判断できるようになることを目的に、以下の内容をやさしく解説していきます。
 ・モーターの基本構造と動作原理
 ・主なモーターの種類とその特徴
 ・モーターの制御方式の違い
 ・製品開発におけるモーター選定の考え方

まずは「モーターとは何か?」という基本から、一緒に理解を深めていきましょう。

モーターとは?基本構造と動作原理

モーターとは、電気エネルギーを回転運動に変換する装置です。製品に「動き」を与えるための中核的な部品であり、ファンを回す、アームを動かす、車輪を回転させるなど、さまざまな動作を担っています。

モーターの基本構造

モーターの種類によって細かな構造は異なりますが、基本的な構成要素は共通しています。

構成要素 役割
ステーター(固定子) モーターの外側にあり、電磁石やコイルを備える。磁界を発生させる。
ローター(回転子) モーターの中心にあり、回転する部分。永久磁石や導体を持つ。
シャフト ローターと一体になって回転し、外部に動力を伝える軸。
ベアリング シャフトの回転を滑らかにし、摩擦を減らす。

※モーターは「磁界」と「電流」の相互作用によって回転力(トルク)を生み出します。

回転の仕組み:電磁力による運動

モーターの回転は、電磁力(ローレンツ力※)によって生まれます。簡単に言えば、コイルに電流を流すと磁界が発生し、その磁界がローターに働いて回転を引き起こします。

※ローレンツ力:電流が流れる導体に磁界が加わると、導体に力が働く現象。この力がモーターの回転を生み出す原理の一つ。


例:DC モーターの基本動作

 1. ステーターに固定された磁石が磁界を作る。
 2. ローターのコイルに電流を流すと、磁界との相互作用で力が発生。
 3. この力によってローターが回転する。
 4. 回転に応じて電流の向きを切り替えることで、連続的な回転が可能になる。

モーターの動作に必要な要素

モーターを動かすには、以下の3つの要素が必要です。

 1. 電源:直流 (DC) または交流 (AC)
 2. 制御回路:電流の流れを制御し、回転速度や方向を調整
 3. 負荷:モーターが駆動する対象(ファン、車輪、アームなど)

モーターの主な種類と特徴

モーターにはさまざまな種類があり、それぞれ構造や動作原理、制御方法、得意な用途が異なります。製品開発においては、目的に応じて最適なモーターを選定することが重要です。ここでは、代表的なモーター5種類について、特徴と用途の違いをわかりやすく整理します。

DCモーター(ブラシ付き)

■ 特徴
 ・電源をつなぐだけで回転するシンプルな構造
 ・回転速度は電圧で制御可能
 ・ブラシ※ と整流子によって電流の向きを切り替える

  ※ブラシ:モーター内部で回転する部分(ローター)に電流を流すための接点部品。摩耗するため定期的な交換が必要。


■ メリット

 ・制御が簡単で安価
 ・小型機器に適している

■ デメリット
 ・ブラシの摩耗による寿命制限
 ・ノイズや火花が発生しやすい

■ 主な用途
 ・玩具、電動工具、小型ファン、簡易な駆動装置

ブラシレス DC モーター (BLDC)

■ 特徴
 ・ブラシを使わず、電子回路で電流の切り替えをうおこなう
 ・高効率・長寿命・低ノイズ

■ メリット
 ・メンテナンスフリー
 ・高速回転や高精度制御に対応

■ デメリット
 ・制御回路が複雑(センサーやマイコンが必要)

■ 主な用途
 ・ドローン、家電(エアコン・冷蔵庫)、電動自転車、EV

ステッピングモーター

■ 特徴
 ・一定角度ずつ「カクカク」と回転する
 ・パルス信号で位置を制御できる

■ メリット
 ・オープンループ制御が可能(センサー不要)
 ・高精度な位置決めが得意

■ デメリット
 ・トルクが弱く、脱調※ のリスクあり
 ・高速回転には不向き

  ※脱調:ステッピングモーターが指示された位置まで正しく動かず、動作がズレてしまう現象。


■ 主な用途

 ・プリンター、3Dプリンター、医療機器、計測機器

AC 誘導モーター(インダクションモーター)

■ 特徴
 ・商用 AC 電源で動作する堅牢なモーター
 ・ローターに電流を誘導※ して回転する

  ※誘導:ステーターの磁界によってローターに電流が自然に流れる仕組み。接触なしで電流を発生させる。


■ メリット

 ・構造がシンプルで信頼性が高い
 ・大電力・長時間運転に向いている

■ デメリット
 ・起動トルクや速度制御に工夫が必要
 ・高精度制御には不向き

■ 主な用途
 ・ポンプ、ファン、コンプレッサー、工場設備

サーボモーター

■ 特徴
 ・位置・速度・トルクを高精度に制御できる
 ・フィードバック機構(エンコーダー※など)を内蔵

  ※エンコーダー:モーターの回転位置や速度を検出するセンサー。制御回路にフィードバックを与える役割を持つ。


■ メリット

 ・高速・高精度な動作が可能
 ・ロボットや自動化装置に最適

■ デメリット
 ・高価で制御が複雑
 ・専用ドライバーや制御回路が必要

■ 主な用途
 ・産業用ロボット、CNC 機械、FA 装置、医療ロボット

モーターの種類と特徴を一覧で確認しよう

モーター種類

制御のしやすさ

精度

コスト

主な用途

DCモーター

◎(簡単)

◎(安価)

小型機器、玩具

BLDCモーター

○(要制御回路)

家電、EV、ドローン

ステッピングモーター

○(簡易制御)

位置決め機器

AC誘導モーター

△(要工夫)

工場設備、ポンプ

サーボモーター

△(複雑)

△(高価)

ロボット、FA 機器

モーターの制御方式の違い

モーターは、電源をつなぐだけで回るものもありますが、製品開発では目的に応じた制御が必要になります。たとえば「回転速度を調整したい」「位置を正確に止めたい」「トルクを一定に保ちたい」など、製品の仕様に合わせて制御方式を選ぶことが重要です。ここでは、代表的な制御方式を初心者向けにわかりやすく整理します。

電圧制御・PWM 制御

電圧制御は、モーターに加える電圧を変えることで、回転速度を調整する方法です。特にDCモーターでは、電圧が高いほど速く回転し、低いほど遅くなります。PWM 制御 (Pulse Width Modulation) ※ は、電圧を直接変えるのではなく、電源の ON/OFF を高速で繰り返すことで平均電圧を調整する方法です。

※PWM:電源の ON 時間と OFF 時間の割合(デューティ比)を変えることで、モーターの回転速度を調整する技術。


特徴としては以下があります。
 ・シンプルで安価な制御方式
 ・小型モーターやファンなどに広く使われる

オープンループ制御とクローズドループ制御

オープンループ制御は、モーターに指令を出すだけで、実際の動作を確認せずに動かす方式です。ステッピングモーターなどでよく使われます。クローズドループ制御は、センサー(エンコーダーなど)でモーターの動きを検出し、指令と実際の動作を比較して補正する方式です。サーボモーターや高精度制御が必要な場面で使われます。

特徴としては以下があります。
 ・クローズドループは高精度・高信頼性
 ・オープンループは構成が簡単でコストを抑えられる

ベクトル制御 (FOC:Field-Oriented Control)

モーター内部の磁界の向き(ベクトル)をリアルタイムで制御することで、効率よくトルクを発生させる高度な制御方式です。主にBLDCモーターやACモーターで使われます。

※FOC:モーターの磁界方向をベクトルとして捉え、電流を最適な方向に流すことで効率的な回転を実現する制御方式。


特徴とてしては以下があります。
 ・高効率・高精度なトルク制御が可能
 ・EV や産業機器など、性能が求められる製品に適している
 ・制御回路やマイコンに高度な処理能力が必要

制御方式の選び方は用途次第

制御方式

制御方式

コスト

主な用途

電圧制御・PWM

△(簡易)

◎(安価)

小型機器、ファン

オープンループ

○(中精度)

位置決め、簡易制御

クローズドループ

◎(高精度)

△(高価)

ロボット、FA 機器

ベクトル制御 (FOC)

◎(高効率)

△(高機能だが開発負荷あり)

EV、産業機器

製品開発におけるモーター選定の考え方

モーターの種類や制御方式を理解したら、次は「自分たちの製品にはどのモーターが適しているのか?」を考えるステップです。モーター選定は、製品の性能・コスト・信頼性に大きく影響するため、設計初期段階での判断が重要です。

用途に応じた選定ポイント

製品の目的や使用環境によって、求められるモーターの特性は異なります。以下は代表的な選定の視点です。

用途・目的

適したモーター

理由

位置を正確に制御したい

ステッピングモーター、サーボモーター

高精度な位置決めが可能

長時間・高負荷で動かしたい

AC 誘導モーター

堅牢で耐久性が高い

静音性や効率を重視したい

BLDC モーター

ノイズが少なく高効率

コストを抑えたい

DC モーター、AC 誘導モーター

構造がシンプルで安価

小型化・省スペースが必要

BLDC モーター、DC モーター

コンパクトな設計が可能

設計観点でのチェックポイント

モーター選定では、以下のような設計条件も考慮する必要があります。

・必要なトルクと回転速度
 → 製品がどれだけの力で、どれくらいの速さで動く必要があるか
・制御の複雑さ
 → オープンループで済むか、フィードバック制御が必要か
・電源環境
 → DC 電源か AC 電源か、電圧・電流の制約はあるか
・ノイズ・発熱・振動の許容度
 → 医療機器や静音性が求められる製品では重要な要素
・サイズ・重量の制約
 → 搭載スペースや製品全体の重量に影響する

モーター選定は“仕様と制御”のバランス

モーターは単体で選ぶのではなく、制御方式や周辺回路との組み合わせで最適化する必要があります。たとえば、BLDC モーターは高性能ですが、制御回路が複雑になるため、マイコンやドライバーの選定もセットで考える必要があります。

また、製品のライフサイクルやメンテナンス性も選定に影響します。「長寿命」「メンテナンスフリー」「交換のしやすさ」なども、製品の使われ方に応じて検討しましょう。モーター選定は、「どんな動きが必要か」「どんな環境で使うか」「どこまで制御したいか」など、製品の目的から逆算して考えることが重要です。モーターの種類や制御方式を理解したうえで、製品仕様・制御の複雑さ・コスト・信頼性などを総合的に判断することで、最適な選定につながります。

まとめ:まずはモーターを理解することが設計の第一歩

モーター制御の設計は、単に「動かす」だけではなく、製品の目的に合った動き・性能・信頼性を実現するための技術選定です。その第一歩として、モーターの種類や制御方式を理解することは、非常に重要な基礎になります。

本記事では、以下の流れでモーターの基本を整理してきました。
 ・モーターの構造と動作原理
 ・代表的なモーターの種類と特徴
 ・制御方式の違いと選び方
 ・製品開発におけるモーター選定の考え方

これらを理解することで、製品に最適なモーターを選び、必要な制御方式を見極める力が身につきます。特に初心者の方にとっては、「どんなモーターを使えばいいのか?」という疑問に対して、自信を持って判断できる土台ができたはずです。

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