近年、自動車の電動化が進む中、モーターやシャフトの位置・角度を正確に検出する「角度センサー」の重要性が高まっています。特に、電動パワーステアリング(EPS)やSteer-by-Wire、電動メカニカルブレーキ(EMB)など、「曲がる」「止まる」といった車両の重要機能を担うシステムでは、高精度な角度検出だけでなく、万が一故障が発生した場合にも安全性を確保するための機能安全への対応が求められます。
こうした要求に応える製品が、インフィニオン社のXENSIV™ TMR角度センサーの「TLE5502D」です。
TLE5502Dは、TMR(Tunnel Magnetoresistance:トンネル磁気抵抗)技術による高精度な360°角度検出に加え、デュアルダイ構成による高い冗長性を備えています。さらに、ISO 26262に準拠したSafety Element out of Context(SEooC)として、ASIL-Dまでの機能安全要求に対応します。
本記事では、TLE5502Dの仕組みや特長とともに、車載システムに採用することでどのようなメリットが得られるのかを解説します。
TMR角度センサーとは?
TLE5502Dを理解するうえで、まず知っておきたいのが「TMR」です。
インフィニオン社では、Hall効果、AMR(異方性磁気抵抗効果)、GMR(巨大磁気抵抗効果)、TMR(トンネル磁気抵抗効果)を用いた角度センサーのラインナップがあります。今回ご紹介するTLE5502DはTMR方式の角度センサーであり、磁界の変化によって素子の抵抗値が変化する現象を利用しています。
TLE5502Dでは、センサーの近くに配置した磁石が回転すると、それに伴ってセンサーに加わる磁界の方向が変化します。この磁界方向をTMR素子によって検出し、角度に応じたSin(正弦)信号とCos(余弦)信号として出力します。
マイコンではSin/Cos信号から、一般的にatan2演算などを用いて角度を求めることができます。これにより、TLE5502Dは360°の絶対角度を検出できます。
また、インフィニオン社では、独自の「Vortex TMR」構造を採用しており、安定した磁化状態を形成することで、広い磁界範囲、高いリニアリティ、クロスフィールドに対する低い感度、安定した出力特性などを実現しています。
TLE5502Dとは?
TLE5502Dは360°の角度検出に対応しており、EPSやEMB、BLDCモーターなどのローター位置検出をはじめ、高精度な角度情報が必要となるさまざまなアプリケーションに使用できます。
主な仕様は次の通りです。
| 項目 | 仕様 |
| センサー方式 | TMR |
| 角度検出範囲 | 360° |
| 出力方式 | 差動Sin/Cosアナログ出力 |
| 内部構成 | デュアルダイ |
| 機能安全 | ISO 26262 SEooC、ASIL-Dまで対応 |
| 出力電圧 | Typ. 270 mV/V |
| 磁界範囲 | 20~130 mT |
| 動作温度範囲 | -40~150℃ |
| 車載認定 | AEC-Q100 Grade 0 |
| パッケージ | PG-VQFN-16 |
| パッケージサイズ | 3×3 mm |
TLE5502Dの大きなポイントは、単に「角度を高精度に測定できるセンサー」ではないことです。高精度、冗長性、機能安全、シンプルなマイコン接続、小型化を組み合わせていることが、TLE5502Dの大きな特長です。
以降でそれぞれ詳しく説明していきます。
TLE5502Dの4つの特長
特長① TMRによる高精度な360°角度検出
TLE5502Dは、TMR素子を使用して磁界方向を検出し、360°の角度情報を取得します。磁石が回転すると、TLE5502Dからは角度に応じたSin/Cosのアナログ信号が出力されます。この2つの信号をマイコンで処理することで、ローターやシャフトなどの角度を算出できます。なお、角度精度は0.9°未満のため高精度な検出が可能となります。
また、高精度なローター位置情報を取得できる点は、特にモーター制御において大きなメリットとなります。正確な位置情報を利用してモーターを制御することで、より正確で安全なモーター制御に加え、モーターのコミュテーションノイズ低減や効率向上にもつながります。
特長② デュアルダイ構成により高い冗長性を実現
デュアルダイ構成では、1つのパッケージ内に2つのセンサーダイを搭載しているため、冗長化された角度検出系を構成できます。それぞれの独立したセンサーダイが角度情報を取得し、マイコンにてそれぞれの情報を比較することで、センサー系の異常を検出するための安全コンセプトを構築することができます。
また、TLE5502DはISO 26262に準拠して開発されたSEooCで、ASIL-Dまでの機能安全要求をサポートします。さらにデュアルダイ構成によって、フェイルオペレーショナル(故障発生時にも機能継続)が求められるシステムへの適用を想定しています。これは、Steer-by-WireやEPS、EMBなどの安全性が重要となるアプリケーションで大きなメリットになります。
例えばSteer-by-Wireでは、ドライバーのステアリング操作と車輪の操舵を機械的に接続せず、電気信号を利用して制御します。そのため、角度を正確に検出することはもちろんのこと、1つの測定系に異常が発生した場合にも安全な状態を維持できるよう、システム全体で冗長性を確保することが重要になります。
TLE5502Dは、こうした次世代の安全系アプリケーションを意識した角度センサーとして開発されました。
※実際にASIL Dを達成するためには、データシートやSafety Manualで規定された外部安全機構を含むシステムレベルでの安全設計が必要です。
特長③ 高い出力電圧によりマイコンへ直接接続可能
TLE5502Dのもうひとつのメリットが、高いアナログ出力です。TLE5502Dは標準で270 mV/Vという高い出力を備えており、外部アンプを使用せずにマイコンのADCへ直接接続することが可能です。
一般的に、センサーの出力信号が小さい場合には、マイコンで信号を処理する前にオペアンプなどを使用して信号を増幅する必要があります。
一方、TLE5502Dでは、TLE5502D → マイコン(ADC)というシンプルな信号経路を構成でき、外付けの増幅回路を削減できるため、
・ 外付け部品点数の削減
・ BOMコストの低減
・ PCB実装面積の削減
・ 回路設計の簡素化
といったメリットが期待できます。安全性が求められるシステムでは、部品点数が増えるほど考慮すべき故障モードも増加します。そういった意味でも、シンプルな信号経路を構成できる点が、TLE5502Dの重要なメリットとなります。
特長④ デュアルダイながら3×3mmの小型パッケージ
高い機能安全レベルを求められるアプリケーションで高い冗長性を確保しようとすると、「センサーを2個搭載すればよい」と考えることもできます。
しかし、実際の車載システムでは実装スペースが限られており、特にローター位置を検出する場合、センサーをモーター内部やシャフト周辺に配置するケースもあり、センサーの小型化は重要なポイントです。
TLE5502Dはデュアルダイ構成でありながら、3×3mmのPG-VQFN-16パッケージを採用しています。小型パッケージのためモーター内部にも配置しやすく、限られたスペースの中で高精度な角度検出と冗長化を両立できます。
TLE5502Dを採用するメリットとは?
ここまで紹介した特長を、実際のシステム設計という観点から整理してみると、TLE5502Dでは、
| TMRによる高精度な角度検出 | 正確なモーター/シャフト位置検出 |
| デュアルダイ構成 | センサー系の冗長化 |
| ISO 26262、ASIL-Dまで対応 | 高い機能安全要求への対応をサポート |
| 高いアナログ出力 | 外部アンプを使用せずマイコンへ直接接続可能 |
| 3×3mmの小型パッケージ | モーター内部など限られたスペースにも実装しやすい |
というメリットがあります。
つまり、TLE5502Dは単なる「高精度な角度センサー」ではなく、高精度な角度検出と機能安全、冗長化、小型化を1つのデバイスにまとめながら、周辺回路もシンプルにできる、という点が大きなメリットとなります。特に、車両制御の電動化・By-Wire化が進むにつれ、センサーには「正確に測れること」だけでなく、「故障を考慮したシステムを構築できること」がより重要になり、TLE5502Dはこうした要求を満たすために設計されています。
用途に合わせて選べるラインナップ
用途によって選択できるよう、TLE5502Dには、「S0002」と「S0003」の2つのバリエーションが用意されています。どちらもデュアルダイのTMR角度センサーですが、ブリッジ構成が異なります。
TLE5502D S0002
TLE5502D S0002ではP/Nブリッジをデカップリングした構成を採用しています。
P側とN側に独立したVDD/GNDを持たせることで、独立したブリッジ信号を生成できます。P/N信号を相互にチェックする高度な安全コンセプトを構築でき、高い診断カバレッジを必要とするシステムに適しています。
TLE5502D S0003
TLE5502D S0003ではSin/Cosブリッジ構成を採用しています。
SinブリッジとCosブリッジにそれぞれ電源を持ち、差動のSIN_P/SIN_NおよびCOS_P/COS_N信号を生成します。そのため、求められる安全コンセプトや回路構成に合わせて、S0002とS0003を選択できます。
まとめ
TLE5502Dは、インフィニオン社のTMR技術を採用した高精度360°角度センサーです。TMRによる高精度な角度検出に加えて、デュアルダイ構成による冗長性、ASIL-Dまでの機能安全対応、高いアナログ出力、3×3mmの小型パッケージといった特長を備えています。特に注目したいのが、「高精度」と「安全性」を両立しながら、システムをシンプルかつ小型に構成できるという点となります。
車両の電動化やBy-Wire化が進む中、角度センサーにも従来以上の精度、信頼性、機能安全が求められています。EPS、EMB、Steer-by-Wire、BLDCモーター制御など、高精度な角度検出と高い安全性が必要なシステムを検討されている場合は、是非、TLE5502Dを角度センサーの選択肢のひとつとしてご検討ください。
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